■題詞は「蘭[=藤袴]をよめる」。本歌は例によって、掛詞と暗喩が交錯する。現代
詠はご覧のイマージュ。賛否両論があろうかと思う。
【略注】○ふじばかま=藤袴。菊科多年草、1m。「全体に佳香がある」(広辞苑)。
秋、淡紫に開花。秋の七草の一つ。
○主=この場合の読みは「ぬし」。
○こぼれてにほふ=表は「露の抱えた香がこぼれる時に匂うこと。」(岩波版)
だが、裏は「その持ち主が袴に焚き込めた薫香(小学版。岩波版は「薫物[た
きもの]の芳香」)が漂う」の意。新古今の僧たちも、なかなかなまめかしく歌
い上げる。
○公猷(こうゆう)=藤原姓から出家した園城寺(通称三井寺[みいでら])の
僧。権律師。父は寂蓮(百人一首「村雨の露もまだ」の作者)。僧位は時代や
宗派によって変わるが、おおむね上から僧正・僧都・律師で、権がつくと副・
従ぐらいの感じ。
【補説1】小学版に、次の本歌を紹介。
「主[ぬし]知らぬ香こをにほへれ秋の野に
たがぬぎかけしふぢばかまぞも」(古今・秋上・素性)
さらに新潮版が合わせて紹介するのは、次の歌。
「脱ぎかけし主はたれとも知らねども
人野に立てるふぢばかまかな」(大江匡房[まさふさ])
【補説2】園城寺の読み。「おんじょうじ」以外には読まない。広辞苑にもない。ところ
が、いまこうして使用中のMS-XPのワープロでは、「おんじょうじ」と入れる
と、「御常時」となり園城寺はない。ためしに「えんじょうじ」とタイプすると「円
城寺」「園城寺」と変換する。
私がこれにこだわるのは、ある裁判で、これを正しく読めるかどうかが、争点
の一つになったからだ。原告が直接私にこの話をしてくれたときから、強烈
に大脳の皺に刻み込まれて、いつまでも消えない。
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