この前後、寂然の詠草が多い。題詞に「不偸盗戒」(ふちゅうとうかい。盗むなかれ。)とある。自然現象に見せて、実は犯罪防止を訴えた巧みさに、感応させられる。
ひらかなy165:しらなみよ まぎれてとるな うきくさの
いそにかくれた ひとはなりとも
ひらかなs1963:うきくさの ひとはなりとも いそがくれ
おもひなかけそ おきつしらなみ
【略注】○磯隠れ=「磯に隠れて」。終止形「磯隠る(いそがくる)」という動詞
の、れっきとした連用形である。活用については複雑なので、古語辞
典で確認されたし。次項も同じ。
○思ひなかけそ=「思って(考えて)くれるなよ」。「AなBそ」は万葉以
来、禁止の標準形のひとつ。古語辞典には、「思ひ懸く」の第一の意
味として、「心にかける。また、恋い慕う。懸想する」が載る(旺文社版)。
○白波(しらなみ)=文字通りの「白い泡の波」の裏に、『後漢書』由来
の「白波(はくは)賊」(白波谷にこもった盗賊集団)を掛ける。(小学版)
○寂然=悠 164(02月25日条)既出。
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