題詞は「不邪婬(淫)戒」(ふじゃいんかい。不倫するな)。当時、僧侶の妻帯は、表向きは禁止されていた。のちに親鸞がこれを公然化させて、仏教界を震撼させたことは、よく知られている。男の僧侶への警告。
男女の機微にわたる作品を、みそひと文字に映すのは、とりわけ難しい。現代詠で、「妻」「外」が重ねてあるのは、原作者の雰囲気の轍を踏んだつもりだが、気づかれたかどうか。
なお現代詠は、170を終詠と決めたので、本集からの採歌間隔が短くなる。
ひらかなy166:つまにさえ よとぎはこころと おもうのに
ましてやほかの つまなどろんがい
ひらかなs1964:さらぬだに おもきがうへに さよごろも
わがつまならぬ つまなかさねそ
【略注】○さらぬだに重き=「そうでなくても(不倫は罪深い、罪が)重い(のに)」。
○小夜衣=「夜着。寝巻き」。女性はとくに、今とは比較にならないくら
い、重ね着、厚着だった。だから重い。住宅構造も要因にある。
○わがつまならぬつま=「私の妻ではない妻(に褄を)」。「褄」は小夜衣
の暗喩。前歌に続けて、「AなBそ」再出。
○寂然=悠 164(02月25日条)既出。