青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第43回)

2011-06-20 09:36:58 | 野生アジサイ


野生アジサイ探索記(下2f)1石垣島・西表島【ヤエヤマコンテリギ】2011年5月2日~5月5日


これまでにも何度か説明したように、一言で沖縄(あるいは琉球・南西諸島)と言っても、沖縄本島以北と、先島諸島(宮古+八重山)は、生物地理学的な視点から見て、全く異なる地域です。




それぞれ地図の左下、台湾の右隣りが、石垣・西表島。

北琉球(屋久島・種子島・トカラ火山列島)の生物相は、九州などの日本本土に強い関連を持っています。中琉球(奄美大島・徳之島・沖縄本島)の生物相は、著しく特徴的で、あえて言えば中国大陸の奥地などに、(非常に古い時代の共通祖先を介しての)共通性が認められます。そしてどちらかと言えば、南回りでなく北(日本本土)回りで大陸と繋がっているのです。南琉球(宮古島・石垣島・西表島・与那国島)の生物相は、台湾や中国大陸南部と強い共通性を持ちます。

九州本土から沖縄本島にかけては、最長でも70㎞以内の間に、島々が連続して連なっています。しかし、沖縄本島と宮古島の間は250km以上も離れていて、しかも深さ1000mを超す海溝が切れ込んでいるのです。宮古島から先、台湾までは、再び可視距離の間に島々が連なります。

宮古島は、高い山のないなだらかな地形のため、島の成立後も度々水没を繰り返してきたためか、古い時代から遺存分布する生物は生育していません。一方、石垣島や西表島は、離島としては比較的標高が高く、多様性に富んだ地形と植生環境を有し、様々な(台湾や大陸南部に姉妹集団をもつ)固有種が生育しています。ということで、ここ(石垣島・西表島)にも、ガクウツギ群の野生アジサイ=ヤエヤマコンテリギ(トカラアジサイと同じ種に含めたり、台湾や中国大陸産のカラコンテリギと同じ種としたり、あるいは遺伝的に他とは全く異なる種とするなど、様々な見解があって、今のところまだ結論は出ていません)が分布しているのです。

僕は、20数年前から、石垣・西表両島固有種とされ、国指定の天然記念物でもあるアサヒナキマダラセセリを、10年ほど前からは、やはり石垣・西表両島固有種のイシガキヒグラシの、それぞれ系統的な分類を調べていて、この両島には深い縁があります。それらの調査の過程で、ヤエヤマコンテリギも両島で撮影をしてはいるのですが、片手間の撮影だったり、時期的に花の盛期が過ぎていたりして、思い通りの撮影や調査には至っていず、改めて開花盛期に訪れようと考えていたのです。

むろん今回、訪れる予定でいました。ところが、野口さんに沖縄行きを告げたところ、旧知のガンケオンム(内藤ひろむ)氏が沖縄に住んでいるので、ぜひ訪ねてほしい、との要請を受け、となれば時間と予算の関係から、石垣島・西表島に行く余裕が無くなってしまいます。当初内藤さんの住所が解らなかったのですけれど、野口さんと手分けして調べた結果、石垣島在住であることが判明しました。で、最初の予定通り石垣島・西表島に赴くことになったのです。

 
 
 
 
元ガンケオンムの内藤ひろむ氏と、御子息夫婦やお孫さん、それに近所の若夫婦一家。上段右は、僕の寝泊まりしたガンケ氏手作りの離れ、2段目右は、その玄関。一晩中鶏が玄関前で“コケコッコー”と鳴いていた。

石垣島では内藤氏のお宅(農場)に2日間お世話になりました。とても楽しかった。でも、同時に辛い思いもしました。何組もの家族の集いに招かれて、、、、連夜遅くまで酒盛りと相成ったのですが、、、、家族の団欒に加わるのは、帰るところのない一人身の僕には、切なすぎます。

僕も内藤氏も“旅人”。でもその立場は正反対です。

若い頃、遊び尽くして、永い放浪の後、日本の果ての離島の農場に定着して、やがて家庭を持ち、どこにも向かわない“旅の途上”にあるガンケ内藤氏。

若い頃は何一つ積極的な行動が出来ない“登校拒否児”。中年を過ぎてからの、一人ぼっちの、どこにも戻らない“旅の途上”にある僕。

基本的な思考は共通します。今の日本で、普通であること、常識と思われていること、それらを全く信用していない。 “空気”を乱さず、皆と同じであることを正義とし、楽で気持ちの良いことだけを安易に求めようとする時代の流れに組せずに、自分の生きる道を貫き通して、地球の将来のあり方を示したい。

野口さんの生き方とも共通するはずです。でも、terranovaの方向性とは、微妙に異なるような気が。この間のイベントのパンフなどをお見せして、そのうちにガンケさんも講師として参加なさったら?と話題を向けたところ、猛烈な批判的返事が返って来ました。絶対に嫌だそうです。感覚的に相容れないのでしょう。早川さんやジョンさんと、ガンケさん、その生活スタイルやビジョンは、一見似てはいるのですが、似て非なるもののような気がします。

本当の意味での“リアル”の追求が、いかに苦しく困難なものか、汗を流し、血を流し、身を持って示しているのです。貧乏(金持ちになること自体、“悪”であるというのが、僕とガンケさんの共通認識)を覚悟し、一般社会からはドロップアウトし、従って(早川さんのように)若い世代から持て囃されたりすることもありません。定年親父や都会の若者のファッションめいた“田舎暮らし”ブームなどとは、対極の存在なのです。

時たま勘違いで、若い女性が訪ねて来ることがあるそうです。ガンケ氏曰く、僕はモテるのです、と。何度か言い寄られたこともあるそうです。ガンケ氏のほうも、まんざらではないようで、その気おおアリなんだそう。今までは何にも起こらなかったらしいのですが、次にチャンスが訪れた際には、真剣に考えてみたいと。でも、浮気は嫌、むろん離婚も絶対に嫌、沖縄出身の奥さんと、3人の御子息を深く愛していらっしゃるのです。

その上で、若い女の娘とも、一緒に暮らせたらと(いわば第二夫人ですね)真剣に夢見ておられる。問題は、奥さんや息子さん達が、絶対に認めてくれそうもないということ(そりゃあそうだ)。何か良い方策はないものでしょうかと、のたまっておられました。

2日目はオモト岳(沖縄県最高峰526m)へ。ところが、登山口に市の職員が待ち受けていて通せんぼ!途中、道が決壊していて危ないので、登山禁止にしているのだと。無視をして先を進みます(別に大した決壊ではなかった)。途中、知らせを受けた責任者と思しき人が駆けつけてきた。たまたまその方(トンボのアマチュア研究者、直接の面識はなし)が僕のことを知っていて、“市の職員には会わなかったことにしておいて下さい”ということで一件落着。“登山禁止”は早い話が責任逃れなんだよね。いかにも八重山の人がとりそうな安易極まりない方針だと思います。

先島諸島を、宮古諸島と八重山諸島に分けるのは、意味があるのだそうです。ガンケ氏曰く、八重山(石垣)は実に嫌な所だ、変にクールで人間味が全くない。閉鎖的で一種のエリート意識があり、部外者が溶け込むのは困難。中央(東京)の悪い所をそのまま引き継いだようで、鼻もちならない。その点、(ぐうたらで、いい加減で、大酒のみで、沖縄本島や八重山の人々からは嫌われ馬鹿にされているけれど)宮古島の人々は、開けっぴろげで、人間味たっぷりで、僕は好きなのです、と。石垣島でも、ガンケ氏の住む「吉原」地域は、宮古島の開拓集落なのだそうです。




上左:コンロンカ、上右:クチナシ、下左:ギョクシンカ(いずれもアカネ科キナノキ亜科)。
下右:サキシマヤマツツジ(ツツジ科、奄美・沖縄のケラマツツジや、屋久島のヤクシマヤマツツジに近縁)。




浦内川河口付近(左)とカンピレーの滝(右)。カンピレーの滝は、滝と言ってもナメリの連続。20年ほど前、岩上に座っていた時、西表島沖群発地震があって、岩ごと大きく揺れた。今までで一番怖かった地震体験です。10年ほど前、ヒグラシの声の録音(日没後と夜明け前にしか鳴かない)に訪れた時には、テントの布と支柱の組み合わせを間違えて持って来て、仕方なく直接地べたに寝て情けない思いをしたことを思いだします。


八重山3日目は、フェリーで西表島へ。一泊の予定だったのですが、連夜の酒盛りで極度の寝不足。カンピレーの滝の探索行を簡単に切り上げ、最終バス(何と午後3時!幾らなんでも早すぎます)で島の南の大原に向かい、2日間滞在することにしました。

何しろ、ゴールデンウイークの真っ最中です。観光的には無名の伊平屋島と違って、西表島は超有名観光地です。会う人会う人、若いアベックか、出なければ子連れのヤングファミリー。気が滅入ります。当初、2日目もカンピレーの滝周辺を探索する予定でいたのですが、観光客に合わない所に行くことにしました。

カンピレーの滝は、島の南に抜ける滝から先の “横断登山道”が魅力的なのですが、このコースを行くには、許可が必要です。許可が下りる最低条件は“2人連れ(実質アベック)”であるということ。お一人様は、ここでも差別の対象です。知識・経験の豊富なプロのアドヴェンチャーの単独行より、山道を歩いたこともないアベックの2人連れのほうが、(手続き上)優先的に信頼されるのです。もちろん、責任逃れの、お役所感覚の処遇であることは言うまでも有りません。
ということで、西表島に来た登山愛好家や自然愛好家は、暗黙の了解で、“単独登山禁止”の有名コースの何十倍・何百倍も困難で危険な、地図に道も載っていないような、ヴァリエーションルートを目指します。遭難の確率は、“単独登山禁止コース”よりも遥かに高いわけですが、万が一遭難しても、“禁止コース”ではないので、誰も責任を取らなくて済むのです。遭難を防ぐのが目的なのではなく、責任逃れが真の目的、という構図です。

西表島最高峰の東部の古見岳(460m)や、第2峰の北部のテドゥ山(447m)も、一般の地図には登山ルートが示されていません。たまたま宿に、昨日テドゥ山に登ったという関西からの単独旅行者が泊まっていたので、彼に道を聞いて、2日目はテドゥ山に登ることにしました。山頂にリュウキュウチクの群落があるとのことで、アサヒナキマダラセセリを撮影出来るかも、と期待していましたが、悪天候のためか、久しぶりの再会は叶いませんでした。




一時間余歩いてそろそろ山頂?と思ったら、「あと2時間半」の道標。今回最もハードな山行でした。山頂は展望なし。




左:途中、目的のヤエヤマコンテリギが現れます。右:山頂に生えていたシダの一種のヤブレガサモドキ。



 
下山は午後6時過ぎ。最終バスは3時に出ていたので、南へ行く車をヒッチ。ヤギの餌を積んだ荷台に寝転がって。

夜、宿舎近くの食堂で、前日カンピレーの滝で出会った九大の昆虫学教室の学生3人組と偶然再会、うち一人が、ナガサキアゲハのDNA解析による系統考察に取り組んでいるとのこと。夜遅くまで、ナガサキアゲハ談義。30年ほど前、僕が最も力を注いでいたのが、♂♀外部生殖器の構造比較によるナガサキアゲハグループの系統分類なのです。完成に至らないまま保留の状態が続いていたのですが、30ぶりに封印を解いて、再開しようと、新たな決意をした次第であります。




マサキウラナミジャノメ(上段右は産卵中の♀)とヒメジャノメ(リュウキュウヒメジャノメ=右下)。マサキウラナミジャノメも八重山固有種ですが、体の基本構造は、日本や台湾のウラナミジャノメやエサキウラナミジャノメと同じです。




リュウキュウウラボシシジミ カラスアゲハ(ヤエヤマカラスアゲハ)

翌5日、船の時間までの間、宿の近くにある新しく出来たばかりの瀟洒なレストランで昼食。どんぶりを注文したら、なんとニガナ(ホソバワダン)がたっぷりと添えられています。どうやらここでは完全な野菜扱いのようです。ついでにアキノノゲシの事を尋ねたら(写真を見せました)これも食べると、意外な答え。ウサギノミミの名で、そこいらに生えているのを、昔から食べているのだそうです。次回訪れた際には、用意して料理してくれるとのこと。アキノノゲシを人間の食用としているという確実な情報は、中国南部の麦菜に次いで、始めてのことです。

ためしに石垣の空港の売店でも、アキノノゲシについて尋ねてみました。ここでは売ってはいないけれど、確かに食べている、とのこと。那覇に戻り、中川嬢を伴って沖縄タイムスを表敬訪問した帰りに、スーパーの野菜売り場を覗いてみました。ニガナ(ホソバワダン)が野菜の棚に堂々と。野生のものよりは大きめのようにも思えますが、といってたいして変わらないようにも思えます。栽培しているのでしょうか? 苦菜・麦菜、ますます面白くなってきそうです。




ドンブリの中にニガナ(ホソバワダン)が。野生のものよりずっと大きいようです。栽培しているのかも知れません。




那覇の高級スーパーにて。陳列棚にニガナを見つけました。中川嬢が携帯で写し始めたので僕も。生でも食べられます。





石垣島にて(背景はオモト岳)。畑の畔にトウのたったアキノノゲシが。勝手に生えているのか、それとも一応栽培しているのでしょうか?





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