近所の森の蝶 3(中)
タテハチョウ科 Nymphalidae (つづき)
アサギマダラ Parantica sita 大绢斑蝶
東京都青梅市霞丘陵 2021.11.13
美麗な大型種。渡りをする蝶として有名。各地でマーキングされた個体の“リリース&リキャッチ”により、数多くの長距離移動例が報告されている。南から北への記録もあるが、北(東)から南(西)への移動例が圧倒的に多い。北への移動は散発・断続的、南への移動は集中的に為されていると思われる。東京周辺では、夏の後半以降に移動途上の個体が訪花に訪れ、キク科のヒヨドリバナ類が特に好まれる。アザミやコウヤボウキにも訪れる。樹液には来ない。意外なことに、ほぼ日本の固有分類群(亜種または種)。国外で継続して記録があるのは台湾の一部地域。ほかに上海、香港などで移動後の個体が捕獲されている。中国内陸部(北部を除き南部沿海山地を含む)産は日本産とは異なる分類群に所属する。雄は後翅下方に濃色部がある。食草はガガイモ科各種。(一応)幼虫越冬。フィールド日記9.28/10.3/11.13。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
ツマグロヒョウモン Argynnis hyperbius 斐豹蛱蝶
東京都青梅市霞丘陵 2021.9.19 メス
現在東京の市街地で最もポピュラーな蝶は、小型種ではヤマトシジミ、比較的大型の種ではツマグロヒョウモン(属を細分したときはArgyreus)ではないだろうか?ヒメアカタテハ、ウラナミシジミ、イチモンジセセリなど同様に個体数が年の後半に極端に偏るが、本種の場合は、一応年間を通して姿は見られる。都市部での急速な増加といえば帰化種のアカボシゴマダラだが、まだまだ本種には及ばない。東京で増えだしたのは20年ほど前頃から、50年ほど前までは関西でも稀であった。大きめの中型種で、蝶としては珍しく雌が鮮やか。外観が似た(相互擬態?)別グループの種に、カバマダラとスジグロカバマダラ、メスアカムラサキ雌、ハレギチョウなどがいるが、いずれもツマグロヒョウモン同様の熱帯アジア広域分布種であるに関わらず、日本本土には進出していない。食草はスミレ属各種(卵は地表や他植物などに産付)。フィールド日記4.23/5.1/7.18/9.10/9.19/9.20/9.28/9.29/10.2/10.11/10.20/10.24/10.28/11.11/11.12/11.25。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
クモガタヒョウモン Argynnis anadyomene 云豹蛱蝶
東京都青梅市霞丘陵 2021.5.14 オス
いわゆる「大型ヒョウモンチョウ類」の一員。都市近郊でも見られる大型ヒョウモンは7種で、霞丘陵に於いては、前頁で紹介した暖地性のツマグロヒョウモンを除く6種のうち最初に出会ったのがクモガタヒョウモンである。しかし余り普遍的な種ではないようで、そのとき一度切りしか出会えていない。大きめの中型種。後翅裏面の斑紋が他の大型ヒョウモンチョウ類各種よりもぼんやりしていて、前縁部に生じる白斑が目立つ程度、全体が曖昧なウグイス色に覆われている。和名の「雲形」も、そのイメージに因る。写真の個体は雄で、前翅表に一条の黒い性標を持つ。雌は翅表の地色がやや黒ずむ。北海道~九州に分布。一種で独立属Nepharginnisとされることもある。年一化、5月に出現し、他の大型ヒョウモンチョウ類同様に(夏眠期を挟んで)秋口まで生きていることが多い(一齢幼虫越冬)。食草はスミレ属。成蝶は主に花を訪れる。フィールド日記5.14。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
ミドリヒョウモン Argynnis paphia 绿豹蛱蝶
東京都青梅市霞丘陵 2021.9.8 メス
「大型ヒョウモンチョウ類」は、日本に9種(近年のDNA解析に因れば更に多くの種に分けられている)が分布し、通常7つの属に分割されるが、本書ではArgynnis一属に纏めておく。
ミドリヒョウモンは狭義のArgynnisに属し、その模式種である。北海道~九州のほか、ヨーロッパに至るユーラシア大陸に広く分布している。年一化、初夏に現れ、夏眠後、秋に再活動する(一齢幼虫越冬)。霞丘陵では秋口から見られ、ツマグロヒョウモンを除く大型ヒョウモンチョウ類の中では最も個体数が多いように思われる。大きめの中型種。雄は翅脈に沿った3本の黒い横条を成す性標を持つ。雌は翅表地色が黒ずみ、赤味が欠けてやや深緑色を帯びる。後翅裏面の地色は、ぼんやりした鶯色、縦に3本の太い白条が走る。食草はスミレ属各種。樹木の太い幹の上部の樹皮に卵を散付する。成蝶は各種の花で吸蜜する。フィールド日記9.8/9.10/9.19/9.21/9.28/9.29/10.2/10.3/10.6/10.20/10.28。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
メスグロヒョウモン Argynnis sagana 青豹蛱蝶
東京都青梅市霞丘陵 2021.9.19 メス
本書ではArgynnis属として1属に纏めた「大型ヒョウモンチョウ類」各種は、通常それぞれ1~数種ごとに固有の属に分割され、その見解に従えば本種も1種でDamora属となる。その根拠は雄交尾器の特徴が(狭義の)属ごとに顕著であることに因るが、ヒョウモンチョウ類の雄交尾器の末端形質は地域集団ごとの変化が著しく(本種も日本産と中国大陸産で安定的な差異を示す)、大型ヒョウモンチョウ類に限っては本質的な分類指標にはならないと筆者は考えている。雌は雄とは全く異なる外観で、一見イチモンジチョウ類に似る。雄は他の大型ヒョウモンチョウ類に類似し、特に(狭義の)ウラギンスジヒョウモン属2種に似るが、裏面の地色がやや赤味を帯び、縦の細い褐色条線が下方で繋がることで区別できる。大きめの中型種。年1化、初夏出現し、夏眠後秋口に活動する(一齢幼虫越冬)。食草はスミレ科。成蝶は花を訪れる。北海道~九州に分布。フィールド日記9.19/9.20/9.28/9.29/10.2/10.20。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
ウラギンヒョウモン Argynnis adippe 灿福蛱蝶
東京都青梅市霞丘陵 2021.9.28
暖地性の多化性種ツマグロヒョウモンと、5月に出会って以来その後姿を現さないでいるクモガタヒョウモン以外の大型ヒョウモン類は、夏の間一種も出現しないでいた。しかし、秋口になってミドリヒョウモンが登場して以来、次々と姿を現し、ことに9月の下旬には、メスグロヒョウモン、ウラギンヒョウモン、オオウラギンスジヒョウモンが、日替わりで同じアザミの花を訪れたのである。いずれも汚損した個体、夏の間は一体どこに潜んでいたのだろうか。霞丘陵でウラギンヒョウモンを見たのはこのときだけ。近年、従来のウラギンヒョウモンは3種に分割されることになったが、著者は「種」の定義の概念に異論をもっていることもあり、従来通り1種として纏めておく。大きめの中型種。分布域、出現期、食草なども他の大型ヒョウモン類と概ね同じ。近縁種オオウラギンヒョウモン(ウラギンヒョウモンと共に狭義にはFabriciana属とされる)ほどではなくても、本種も明らかに減少しているようである。フィールド日記9.28/10.2。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
オオウラギンスジヒョウモン Argynnis ruslana 红老豹蛱蝶
東京都青梅市霞丘陵 2021.9.29
本書では大型ヒョウモン類を全てArgynnis1属に纏めたが、必ずしもその処遇が妥当と言うわけではない。その理由の一つは、本種とウラギンスジヒョウモンが属する狭義のArgironomeは、雄交尾器の形状などが(通常大型ヒョウモンに含めない)ヒョウモンチョウ属Brenthisと共通する部分もあり、1属に纏める場合はその帰属も(ひいてはいわゆる小型ヒョウモン類との類縁上の関係も)考慮しなくてはならぬからである。狭義のウラギンスジヒョウモン属は本種とウラギンスジヒョウモンの2種からなり、本種のほうがより大型で、前翅端が突出し、その部分の裏面が濃色、前翅基半の地色は一様に茶褐色で、その部分には白斑が出現しない。写真の個体は雌だが、前翅表1~2脈に沿って、雄の性標とほぼ同位置に黒条が出現する。雌は前翅端近くに白斑を備え、地色の赤味を欠くことなど、他の大型ヒョウモン類と共通。分布域、出現期、食草なども他の大型ヒョウモン類と概ね同じ。フィールド日記9.29/10.2。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
≪参考≫ウラギンスジヒョウモン Argynnis laodice 老豹蛱蝶
日本産の「大型ヒョウモン」中、高標高地に棲息するギンボシヒョウモンと、ごく限られた山地草原にのみ分布するオオウラギンヒョウモンを除く7種(8~9種とする意見もある)は、低地帯にも広く分布しているはずだが、本種には一度も出会えなかった。どうやら東京西郊の低地帯には分布を欠くらしい(正確なところは未詳)。生態そのほかは他の大型ヒョウ
東京都青梅市霞丘陵 2021.4.27
タテハチョウ科のなかで、最も普遍的に見られる種のひとつ。静止時には名の通り、白斑が完全な横三筋になる。横長の翅を持つやや小さめの中型種。中室の白条が2つに分かれるのが特徴。ミスジチョウ属やイチモンジチョウ属など、イチモンジチョウ亜科の各種は、上下の羽ばたきと水兵滑空を交互に繰り返す、独特の飛び方をする。コミスジはヨーロッパに至るユーラシア大陸全土に分布し、英名では、その水兵の制服のような模様から「セイラ―」と呼ばれている。日本では北海道から屋久島まで分布、奄美大島以南では酷似する別種リュウキュウミスジNeptis hylasに置き換わる。年4~5回発生し、春~秋を通して均等に姿が見られる(終齢幼虫越冬)。雌雄差は僅少、雌は黒色部がやや淡い。食草はマメ科の各種で、ハギ類やフジ、クズなど、主に灌木や背の高い草本。成蝶は花を訪れるほか、鳥糞などを好んで吸汁する。フィールド日記4.22/4.23/4.27/5.25/5.29/6.8/8.19/9.7/9.10/9.19/9.20/9.21/10.5。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
ミスジチョウ Neptis philyra 啡环蛱蝶
東京都青梅市青梅丘陵 2021.6.10
筆者は数十年ぶりに日本の都市近郊の蝶の撮影を再開したのだが、よく見る蝶のメンバーが以前とは少し異なっているように感じた。コムラサキやゴマダラチョウなど、一度も観察できなかった種がある一方、かなりの希少種と思っていた幾つかの種が案外数多く見られたりもした。後者の例の一つが、(写真に写していない霞丘陵での目撃例を含む)周辺の丘陵地で度々出会ったミスジチョウ。横長の翅を持つ大きめの中型種で、中室の白紋条はコミスジとは異なり2分割されない。雌雄差は僅少で、雌はやや白色帯が幅広い。北海道~九州に分布。年一化、初夏に出現(幼虫越冬)。食草はカエデ科。成蝶は吸水性が顕著で、鳥糞などでも吸汁する。樹木の葉上に静止することが多く、花には余り訪れないように思われる。フィールド日記6.10/6.15。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
≪参考≫ホシミスジ Neptis pryeri 链环蛱蝶
ミスジチョウ属の中でフタスジチョウと共に一群を形成する。フタスジチョウがユーラシア大陸に広く分布(日本では本州中部以北の寒冷地)するのに対し、ホシミスジ(種群)は東アジアにのみ分布、複数種に分割される。関東では山の蝶で都市部には見られないが、関西では都市近郊で比較的普通。小さめの中型種。年1~数化。後翅裏面基部に黒点群がある(フタスジチョウは後翅外縁寄りの白帯列を欠く)。食草はバラ科シモツケ属。近年関西からユキヤナギと共に移入したと考えられる集団が東京都心部でも発生中。
イチモンジチョウ Limenitis camilla 隐线蛱蝶
東京都青梅市霞丘陵 2021.6.8 メス
イチモンジチョウ亜科は、ミスジチョウ類とイチモンジチョウ類に大別できる。ともに「黒地に白帯」ということは共通するが、名前の通り、ミスジチョウは帯が横3列、イチモンジチョウは縦一本、と分かり易い。翅型も前者は横長で後者は縦長。日本本土産に関しては、ミスジチョウ類の5種も、イチモンジチョウ類の3種も、それに当て嵌まる(ミスジチョウ類のうちフタスジチョウは2列)。ただし、日本本土やヨーロッパ(イチモンジチョウとコミスジはユーラシア大陸に広く分布)に於いてという前提で、種数の多い中国大陸や熱帯アジアでは当て嵌まらない種も多い(八重山諸島にも分布するヤエヤマイチモンジは雌がミスジ型、シロミスジは雌雄ともにミスジ型)。食草はスイカズラ科スイカズラ属。年数化(幼虫越冬)。中型種。ミスジチョウ類と同様に滑空とはばたきを交互に繰り返し、飛翔時には意外にコミスジと紛らわしい。フィールド日記5.25/6.8/6.9/6.15/6.17/6.18/9.20/9.21。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
アサマイチモンジ Limenitis glorifica 日本线蛱蝶
日本の本州固有種。イチモンジチョウに酷似するが、血縁上はやや離れていて、日本海の対岸地域に分布するデリースイチモンジLimenitis doerriesi、台湾~中国大陸(北部を除く)に分布するタイワンホシミスジLimenitis sulpitiaなどにより近縁と考えられる。霞丘陵では未見だが、首都圏をはじめとした都市近郊の低地帯にも分布していると思われる。中型種。年数化(初夏~秋)。食草はスイカズラ科スイカズラ属。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
アサマイチモンジとイチモンジチョウの区別点≪『里の蝶基本50』青山潤三(森林書房1988)から転載≫
翅表:斑紋1と2を結んだ線はイチモンジ(雄は時に1を欠く)では3の内側、アサマイチモンジでは外側へ。翅裏:Aの白斑は上下の斑とあまり差がない(イチモンジでは際立って目立つ)。Bの黒斑は下半分の基部も点状(イチモンジは下半分4個が線状に並行)。Ⅽの複眼は無毛(イチモンジは毛で覆われる)。
〈挿図:省略〉
オオムラサキ Sasakia charonda 大紫蛱蝶
東京都青梅市霞丘陵 2021.8.20 メス
このフィールドガイドブックは、一般の人たちを対象に、より広く読んで貰えればという想いで 企画した。その為には人目を惹く鮮やかな蝶の写真も加えたい。まず思いつくのがオオムラサキだ。しかし著者は霞丘陵にオオムラサキがいるかどうかは知らない。そこで、インターネットで調べたり人に聞いたりして、近隣のポイントを何か所か訪ね歩いた。結果は惨敗。どの場所でも撮影出来なかった。出現期を過ぎ撮影を諦めた8月下旬、いつも行き帰りに通る丘陵入口のコナラの樹に、突然雌が飛来した。あちこち探し歩かずに最初からここで待っていればよかったのである。残念ながら雌は派手な色彩はしていない。それでも独特の色合いと雄を上回る大きさは風格に満ちている(雄は以前山梨で撮影した写真を使用)。大型種。年一化。幼虫越冬。食樹はニレ科エノキ属。樹液を吸汁し、湿地で吸水する。北海道~九州に分布。日本の「国蝶」とされている(台湾や中国大陸などにも分布)。フィールド日記7.20/7.21/8.20。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
アカボシゴマダラ Hestina assimilis 黑脉蛱蝶
東京都青梅市霞丘陵 2021.8.11 夏型
著者は永らく中国を拠点としていたので、日本の都市近郊の蝶に接する機会が無かった。帰国時、アパートと最寄り駅の途上で、何度か(日本の蝶としては)著者の頭にインプットされていない白い蝶に出会った。スジグロチョウにしては大きすぎる。やがてアカボシゴマダラであることに気が付いた。近年移入帰化しているとは聞いていたが、これほど増えているとは思いもしなかった。以前は日本での分布は奄美群島のみ(奄美大島産の分類上の位置づけについては著者の「中国のチョウ」に詳細記述)。しかし朝鮮半島や台湾や中国大陸などには広く分布し、上海や香港の都心部でも普通に見られることから、日本本土にいなかった事がむしろ不思議である。年数化。春型と夏型で色調が著しく異なる。大きめの中型(夏型)~小さめの大型(春型)。食樹はニレ科エノキ属。幼虫越冬。樹液に訪れる。下写真個体は住宅街の生垣のエノキに発生、上写真は前頁のコナラと同じ木の樹液。フィールド日記7.18/8.11/8.20/9.29。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
ゴマダラチョウ Hestina persimilis 拟斑脉蛱蝶
埼玉浦和市 1981.6.30 エノキの枝に産卵
日本産のコムラサキ亜科は4種。本来は奄美にしかいなかったアカボシゴマダラを除く3種(ことにゴマダラチョウとコムラサキ)は都市近郊にも普通に見ることが出来た蝶である。それが、いつの間にか情勢が変わってしまっていた。見かけるのは新参者のアカボシゴマダラばかりである。ゴマダラチョウとコムラサキには一度も出会えなかった。ゴマダラチョウの食樹はオオムラサキやアカボシゴマダラと同じニレ科エノキ属。同じように樹液に訪れるはずなのだが、本種は減少しつつあるのだろうか。オオムラサキのような卵塊は作らず、一卵ずつ卵を産み付ける(ちなみに中国産オオムラサキも卵塊を作らない)。大きめの中型種。年2化。幼虫越冬。春型は白味が強く、雌は雄よりやや大きい。北海道~九州に分布。朝鮮半島産や中国大陸産は日本産とは斑紋パターンなどがやや異なる。西(西北限はヒマラヤ地方)に向かうほど白色部が多く翅型が横長となり、日本産をそれらから分けてHestina japonicaとすることもある。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
コムラサキ Apatura metis 细带闪蛱蝶
長野県上高地 1986.7.26 オス
コムラサキも今回出会えなかった蝶のひとつだ。ただし、丘陵探索時に知り合った地元の蝶愛好家氏の話では、筆者がいつもその手前で引き返してしまう民家の庭によく来ていた、とのこと(発生シーズンを終えた秋になって知った)。食草はヤナギ科。そのヤナギ類をはじめとした樹木の樹液を訪れ、腐果で吸汁、湿地で吸水する。翅型が丸味を帯びる他の同亜科3種と違って、アカタテハなどに似た凹凸部を持つ。雄の翅表は構造色で、鮮やかな紫色に煌めく。しかし角度によっては紫鱗が目立たず、雌同様の暗褐色となる。翅表に明色の帯状斑があり、通常はその部分が明黄褐色だが、地域によっては白色になる個体も出現する。大きめの中型種。北海道~九州に分布。年2~3化。幼虫越冬。ヨーロッパなどには近縁種のチョウセンコムラサキApatura irisを産し、英名を“パープル・エンペラー(紫の皇帝)”と呼ぶ。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。
スミナガシ Dichorragia nesimachus 电蛱蝶
神奈川県津久井町1979.6.2(左はサトキマダラヒカゲ)
特に珍しい種と言うわけではないが、といって簡単に出会えるわけでもない、という蝶のひとつ。食樹のアワブキが付近にあれば、出会えるチャンスはある。実は筆者も、今回の探索行では(いることは確認したのだが)写真は写せていない。大きめの中型種で、名前通りの深い味わいのある翅の色合いに加え、体全体がずっしりとした重みを感じる。何よりも、ストローが鮮紅色であることが、他の蝶にない特徴。タテハチョウ科の中で、他の各種と異なる独自の位置づけにある。幼虫が食草の葉に複雑な形の食痕を作ることでも知られる。年2化(蛹越冬)。樹林の周辺に棲息し、樹液や果汁で吸汁する。撮影中、汗を吸いに来ることも多い。本州以南に分布し、南西諸島産を複数の亜種に分割することもある。フィールド日記7.21。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。