今回はいつもと趣向が全然違ってミステリー物。主人公が探りを入れようとすると命の危険に晒されたり、緊迫感が漂う展開。
前回、前々回あたりと比べると、ちょっと暗い話かもしれない。お絹のいた長屋の雰囲気がジメジメしててね。みんなある種の諦めの念を抱いていて。差配人曰く、「貧乏人が何を言っても世間に通用しないことを身にしみて知っている」らしい。
だからお絹も、恋人の死を悲しんでも、殺した男に怒りを向けない。「怒り」は生きるエネルギーにもなりうるけど、完全に気力を失っている人間にはそういう感情もなくなるのかもしれない。
単なるノスタルジーじゃなくて、社会の理不尽さも描いているんだね。そう言えば、第六話の主人公・塚次にも第七話の主人公・お民にも壮絶な過去があったし、第五話には病気の母親のために身売りをした女も出てきた。割と一貫して、苦しんでる庶民の姿が描かれいたんだ。それが話のメインになることはなかったけど。
最終的に無実の女の命は助かり、真犯人も捕まるが、それでめでたしめでたし、とはならない。やっと真相がつかめた、と思ったときにお絹が初めて語った本音が悲しい。
お絹は働き詰めで疲れ果てて、生きる気力を失っていた。牢獄での束の間の休息と、そしてやがて訪れる死すらも「救い」と感じていた。もとの生活に戻ることは死ぬより辛いことだった。
ブラック企業で働いて、疲弊して自殺する人もこういう心境なんだろうな。主人公の奔走はお絹にしてみれば「余計なこと」だったということだ。
お絹を救うつもりだったが、却って苦しめる結果になったんじゃないかと悩んでいる主人公に「お前は正しいことをしたのだ」って言って励ましたのが嫌味な同僚、高木新左衛門だったってところが面白い。根は悪い人じゃなかったんだね。
この人、いい味出してたな。ネチネチ演技が面白かった。