山本周五郎のシリーズを第八話まで見てきたけど、この第六話が一番好きだ。特に主人公は断トツで好き。ものすごくいまさらだけど、ついこの間二回目を見たので感想をば。
地味な普通の人が主役ってところがすごく私好みだった。強くもなく、働き者ではあるけど特別仕事ができるというわけでも(多分)なく、男前ですらない。多分普通の時代劇なら、腕っ節の強い主人公に助けられるゲストキャラにしかならないタイプ。
豆腐作りの過程を割と丁寧に描いているところも、絵面の地味さに拍車を掛けていていい感じ。塚次の腕が上がってきたことを表すのにお犬様を使っているのが面白い演出だと思った。最初は見向きもしてくれなかったのが、一年経ったら喜んで食べてくれるようになっていたりして。
塚次のこういう普通さ、素朴さに親近感がわくし、応援したくなる。でも、この人は腕っ節は強くないけど芯はとても強いんだよね。大切なものを守るのに一生懸命な姿がいいんだ。これまでの主人公の中で一番真っ当でいい人だと思う。真面目で働き者で優しくて。
「まだおすぎさんのこと忘れられないの?」って訊かれたときの答えにもジーンときた。豆腐屋の夫婦のことをあんなに心配してたのか、なんていい人なんだ、って。あれは惚れる。
とてもいい人なのに、妻にはグズ次なんて呼ばれて馬鹿にされまくった挙句結婚二日目で逃げられるわ、やくざに殴られるわでろくな目に遭わない塚次。この人に幸せになってほしい、報われてほしいと心底思いながら見ていたので、ラストの幸せそうな笑顔を見たときはホッとした。おとっつぁんが死んじゃったことだけが残念。
豆腐屋の夫婦(特におとっつぁん)との血の繋がらない親子の絆やおすぎの悪女っぷりも良かった。
おすぎ役の大西礼芳は大人しめな役でしか見たことなかったから、今回の悪役ぶりには驚いた。二回目の視聴ではおすぎに注目して見てみたけど、面白い。塚次を相手にしているときと長二郎を相手にしているときで声色が全然違っていたり、長二郎が父親に刃物を突きつけたときちょっと動揺していたり。岡っ引きに連れ去られるとき、一瞬だけ無言で振り返るんだけど、その表情もいい。
悪役だけど、自分の意思とは関係なく好きでもない男と結婚させられたことについてだけは気の毒に思う。当時はよくあったことなんだろうけどね。
そして、一つだけいいこともしたかな。おすぎが止めてくれたおかげで塚次は人殺しにならずに済んだ。そのせいで大ピンチになったけど、ちょうどいいタイミングで助けが入ったので結果オーライ。
本筋と全く関係ないのに妙に気になってしまったのが、おすぎと一度は恋仲になったことがあるという女形? の役者。そこそこ台詞もあったし存在感もあったのに、番組HPの出演者一覧にも載っていなかった。
有名人みたいで、塚次と話してるときに周りの女性たちがメッチャ見ていて、塚次から離れたらみんなに追いかけられたりしてたな。こういう人気者と恋仲になるってことは、おすぎってかなりモテる女なのかもしれない。
女性の格好で女性のような喋り方だけどヘテロセクシャルなんだな、いやそれともバイセクシャルなのかな、とか、おすぎって長二郎のような男くさいタイプだけじゃなくてこういう人も守備範囲内なんだ、とかつまらんことをいろいろ考えてしまった。この二人がどういう経緯で恋仲になったのかって話、すごく見てみたい。