鳩山政権誕生から16日で1カ月になる。公約実現に向けて動きを活発化させる新政権を、有権者はどう見ているのか。都会の「限界集落」と呼ばれ、衆院選期間中に足を運んだ東京都新宿区の都営戸山団地で再びお年寄りの声を聞いた。【森禎行、長野宏美】
高齢化率が5割を超え、住民の4人に1人が75歳以上という戸山団地。選挙中に聞こえたセミ時雨は消え、花壇のヒマワリはコスモスに変わっていた。
◇もって2年
秋晴れとなった15日の昼下がり。緑の葉が黄色く色づき始めた中庭の木を囲んで、団地に住む男性の高齢者ら3人がベンチに腰かけていた。新政権の話題を向けると、魚嶋良雄さん(71)が「まだ国会も開いてない。これからが本番」と切り出した。
だが、年金暮らしの男性(65)は「もって2年だと思う」と手厳しい。「生活が苦しく1日2食しか食べていない。生活保護より年金が少ないのは矛盾している」と訴えた。
民主党が掲げる「月額7万円の最低保障年金」に期待したいが「財源の問題もあってマニフェスト通りにはいかないと思う」とあきらめ気味に話す。それでも、「政権交代を果たしたこと自体が民主党の最大の功績。自民党も目を覚ますのではないか」と、一緒にいた52歳の男性も含め3人の意見は一致した。
◇天下りなくして
週3回やってくる出張八百屋には、秋になっても大勢のお年寄りが列を作る。買い物をしにきた女性(79)は、「区立の介護施設は値段が手ごろだけど満員。民間は高いから入れない。国の解決策が伝わってこない」とこぼした。その一方、別の女性(76)は「あれもこれもできなくても、天下りの廃止だけでも良いと思う。なくなれば財源が生まれて私たちの暮らしも少しは楽になる」と期待を込める。
◇国債はだめ
1人暮らしの国崎八千代さん(86)は買い物を終えた後、少しだけ遠回りして団地横の花壇をのぞいた。1年前に95歳で亡くなった夫がアジサイを大切に育てていた場所だ。
「政治は良くなってきているようだが、景気が回復しないと結果が出るにはまだ時間がかかる」と見守るつもりだ。「ぜいたくはいらないし、国の世話にならないように努力しないとね」と付け加えた。孫の世代に借金を残したくない。「消費税を上げてもいいから国債は増やさないで」と望んでいる。
外出先から帰ってきた年金暮らしの女性(65)は「人に温かい政治を」と切実に願う。今年8月、別の区に住んでいたシングルマザーの次女が38歳で急死し、中学3年の孫娘が1人残された。一緒に暮らしたいが、1DKの団地では狭すぎて引き取ることもできず、親族が交代で世話を続ける。次女が亡くなり、児童扶養手当がもらえなくなったことには驚いた。
来年度から子ども手当が支給されても、来春中学を出る孫娘は対象外になる。「困った人を救える制度を整えて」。それが望みだ。
◇新政権をどう見るか…お年寄りの声◇
神崎正敏さん(65)=民主党の大臣は自分の言葉で話していて官僚のいいなりになっていない。国民は天下りと年金問題に一番怒っていた
山本美智代さん(67)=長年自民党政権だったので、すぐ変わらなくて当然。マニフェスト通りいかなくても約束違反とは思わない
本庄有由さん(71)=高齢者の政策が放置されている。政権が交代しても、団地の暮らしは変わらないので、自分たちで努力するしかない
畠山ちよいさん(76)=何も変わらないとあきらめていたが新政権に期待している。後期高齢者医療制度や介護保険の保険料を国民年金から出すのはきつい
浅見鶴枝さん(77)=新政権には弱い人の味方をしてほしい。だけど、日本は大臣がよく代わるし、自分たちの生活を変えてくれるとまでは期待できない
戎田孝好さん(80)=財源がない中、いっぺんに新しい政策はできない。官僚主導から変わっており、これからに期待している。
横井邦雄さん(80)=生活保護の母子加算を復活させるというが、老齢加算の復活にも取り組んでほしい。我々には切実な問題だ
大沼さかえさん(82)=子ども手当のように子育て政策には力を入れているが、高齢者の対策が見えてこない。今のままでは国に期待を持てなくなる
佐々木剛さん(86)=年金暮らしでは、生活が変わったと実感できない。だから評価は分からない。ただ後期高齢者医療制度の行方は関心を持っている
荒尾康就さん(92)=政権公約を強引に実行しようとしている印象がある。子ども手当を親に現金で支給しても子どものために使われない可能性も考えて