メタエンジニアの眼(173)
TITLE: エクセレント・カンパニー
書籍名; エクセレント・カンパニー[1983]
著者; T.J.ピーターズ、R.H.ウオ-タマン
発行所;講談社 発行日;1983.7.18
初回作成日;R2.2.29
このシリーズは企業の進化のプロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。
『』内は,著書からの引用部分です。
1980年代から現在まで、夥しい数の経営指南書が発行された。しかし、この本程有名になった本はめったにない。翻訳者の大前研一が、『アメリカの130万人以上のビジネスマンがむさぼるようにこの本を読んだ・・・。』(pp.541)と書いている。
今から読むには古すぎるのだが、20年後に同様に有名になった『ビジョナリー・カンパニー』 [1995]
(著者;ジェームズ・コリンズ、ジェリー・ポラス、日経BP出版センター発行)の「おわりに」の次の文章が気になって、読んでみることにした。
『この本は、「エクセレント・カンパニー」などのほかの経営書とどういう関係にあるのか 。
トム・ピーターズとロバート・ウォータマンの『エクセレント・カンパニー』は過去二十年間に出版された経営書のなかで際立っており、それだけの価値がある本だ。必読書と言える。わたしたちは、本書と共通する点をいくつも見つけ出している。しかし、基本的な違いもいくつかある。』(pp.385) として、先ず調査の方法の違いを挙げている。さらに、調査結果のまとめ方についても、個々の事例を紹介するのではなく、「、基本的な考え方の枠組みにまで煮詰めた」としている。
しかし、エクセレント・カンパニーの八つの基本的特質のうち、「価値観に基づく実践の重視」、「自主性と企業家精神」、「行動の重視」、「厳しさと穏やかさの両面を同時に持つ」の四つは共通していると述べている。
ここで、「八つの基本的特質」とは、この書の第4部「基本にもどる」のサブタイトルになっている言葉そのもので、実際には9項目ある。残りの5つは、「曖昧さと矛盾を扱う」、「顧客に密着する」、「“ひと”を通じての生産性向上」、「基軸から離れない」、「単純な組織、小さな本社」になっている。
実はここに、二つの著書の差異が出ている。「エクセレント・カンパニー」では、全体にわたって、従業員個人との面接や経験談になっている。即ち、従業員のあり方に焦点を当てている。この場合には、型にはめずに個々の具体例をそのまま描くのが正しい。一方で、「ビジョナリー・カンパニー」が挙げた四つの共通項目は、会社としてのあり方が挙げられている。
現代では、世の中は組織の時代から、個人の時代へのシフトが始まっているので、この書の価値は、改めて高まることだろう。
この書の「序」は、彼らのニューヨークのホテルでの経験談から始まる。仕事が長引いて、開店1周年のフォー・シーズンに急遽泊まることになり、予約なしに訪れた。するとフロント係が「お久しぶりです」といった。つまり、このフロント係はかつての客の顔を覚えていたことになる。これが、彼らの言う「エクセレント・カンパニー」の基本条件だった。フォー・シーズン・ホテルは、私も宿泊の経験があるが、豪華ばかりで、このような従業員がいるようには見えなかった。常連客風のビジネスマンに対する常套句だったのかもしれない。
しかし、ロンドン中心にある小さな老舗のホテルでは、同様な経験があった。日本では、オリンピックのゴルフが開催予定の霞が関カントリー・クラブが同じだった。ロッカー係はビジターでも顔を覚えており、ロッカーのカギはない。だから、この事例は、やっぱり正しい。
つまりは、こういうことなのだ。
『一見どうということのない普通の従業員が、ほかでは絶対に見られないようなひたむきな努力をしている姿の中に、私たちは超優良企業の謎を解くひとつの大きな鍵を見出すようになっていた。 そして、
こういう出来事がひとつだけでなく、いくつも積み重ねられていくうちに、ひとつのきわだった特徴がはっきりと浮かびあがってきた。そればかりでなく、こうした企業では、従業員のたえまない努力にまさるとも劣らず、企業業績の方も長年にわたってきわめて優秀な結果を出している、という一種の相関を見出したのである。』(pp.12)
詳細は、すべて飛ばして巻末の「優良企業に国境はない」に移る。大前研一が9ページにわたって、当時の日米の状況を記している。この表題の意味は二つあるように思う。一つは、「エクセレント・カンパニー」の9つの基本条件には、国境がなく、各国共通ということ。当時衰退期にあったアメリカ企業向けには、多くの戦略的経営計画が用いられたが、それらでは日本と西ドイツには勝てなかった。
そこに飛び込んできたのが、この「あまりに無邪気な本」で、「理論らしい理論もなく、分析らしい分析もない。」(pp.544)
そこに示されたのは、「たとえば、・・・と言い始めて10社もの該当例を羅列する」、「あまりにも多くの足で稼いだ事例と、面談の引用が出てくる」(pp.544)だけであった。
最後に、大前は次の言葉で締めている。
『日本の経営経験も、そうしたことを米国の超大企業と共通土壌で考えられる程度に大規模かつ国際 的になり、また複雑化してきている。また、日本の優秀と言われている企業でさえも、いまの時点でこのような観点から自分自身の足元を見直しておく必然性もある。戦後のいわゆる「日本経営」なるものを支えていた大前提のほとんどすべてが、行きつくところまできてしまっている。今後数年間で、日本の大企業が、アメリカ企業が七〇年代に陥ったのと同じ風土病にいっせいにかからないとは、誰にも断言できないであろう。』(pp.549)
これまさに、「企業に国境はない」のもう一つの意味と感じられた。
余談;「序」の中に、終戦直後のBoeingのふたりの技術者の話が出てくる。それは、Boeing機がレシプロからジェットエンジンへの転換期の秘話になっている。ジェットエンジンの設計技術者としては、興味深い話であった。
TITLE: エクセレント・カンパニー
書籍名; エクセレント・カンパニー[1983]
著者; T.J.ピーターズ、R.H.ウオ-タマン
発行所;講談社 発行日;1983.7.18
初回作成日;R2.2.29
このシリーズは企業の進化のプロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。
『』内は,著書からの引用部分です。
1980年代から現在まで、夥しい数の経営指南書が発行された。しかし、この本程有名になった本はめったにない。翻訳者の大前研一が、『アメリカの130万人以上のビジネスマンがむさぼるようにこの本を読んだ・・・。』(pp.541)と書いている。
今から読むには古すぎるのだが、20年後に同様に有名になった『ビジョナリー・カンパニー』 [1995]
(著者;ジェームズ・コリンズ、ジェリー・ポラス、日経BP出版センター発行)の「おわりに」の次の文章が気になって、読んでみることにした。
『この本は、「エクセレント・カンパニー」などのほかの経営書とどういう関係にあるのか 。
トム・ピーターズとロバート・ウォータマンの『エクセレント・カンパニー』は過去二十年間に出版された経営書のなかで際立っており、それだけの価値がある本だ。必読書と言える。わたしたちは、本書と共通する点をいくつも見つけ出している。しかし、基本的な違いもいくつかある。』(pp.385) として、先ず調査の方法の違いを挙げている。さらに、調査結果のまとめ方についても、個々の事例を紹介するのではなく、「、基本的な考え方の枠組みにまで煮詰めた」としている。
しかし、エクセレント・カンパニーの八つの基本的特質のうち、「価値観に基づく実践の重視」、「自主性と企業家精神」、「行動の重視」、「厳しさと穏やかさの両面を同時に持つ」の四つは共通していると述べている。
ここで、「八つの基本的特質」とは、この書の第4部「基本にもどる」のサブタイトルになっている言葉そのもので、実際には9項目ある。残りの5つは、「曖昧さと矛盾を扱う」、「顧客に密着する」、「“ひと”を通じての生産性向上」、「基軸から離れない」、「単純な組織、小さな本社」になっている。
実はここに、二つの著書の差異が出ている。「エクセレント・カンパニー」では、全体にわたって、従業員個人との面接や経験談になっている。即ち、従業員のあり方に焦点を当てている。この場合には、型にはめずに個々の具体例をそのまま描くのが正しい。一方で、「ビジョナリー・カンパニー」が挙げた四つの共通項目は、会社としてのあり方が挙げられている。
現代では、世の中は組織の時代から、個人の時代へのシフトが始まっているので、この書の価値は、改めて高まることだろう。
この書の「序」は、彼らのニューヨークのホテルでの経験談から始まる。仕事が長引いて、開店1周年のフォー・シーズンに急遽泊まることになり、予約なしに訪れた。するとフロント係が「お久しぶりです」といった。つまり、このフロント係はかつての客の顔を覚えていたことになる。これが、彼らの言う「エクセレント・カンパニー」の基本条件だった。フォー・シーズン・ホテルは、私も宿泊の経験があるが、豪華ばかりで、このような従業員がいるようには見えなかった。常連客風のビジネスマンに対する常套句だったのかもしれない。
しかし、ロンドン中心にある小さな老舗のホテルでは、同様な経験があった。日本では、オリンピックのゴルフが開催予定の霞が関カントリー・クラブが同じだった。ロッカー係はビジターでも顔を覚えており、ロッカーのカギはない。だから、この事例は、やっぱり正しい。
つまりは、こういうことなのだ。
『一見どうということのない普通の従業員が、ほかでは絶対に見られないようなひたむきな努力をしている姿の中に、私たちは超優良企業の謎を解くひとつの大きな鍵を見出すようになっていた。 そして、
こういう出来事がひとつだけでなく、いくつも積み重ねられていくうちに、ひとつのきわだった特徴がはっきりと浮かびあがってきた。そればかりでなく、こうした企業では、従業員のたえまない努力にまさるとも劣らず、企業業績の方も長年にわたってきわめて優秀な結果を出している、という一種の相関を見出したのである。』(pp.12)
詳細は、すべて飛ばして巻末の「優良企業に国境はない」に移る。大前研一が9ページにわたって、当時の日米の状況を記している。この表題の意味は二つあるように思う。一つは、「エクセレント・カンパニー」の9つの基本条件には、国境がなく、各国共通ということ。当時衰退期にあったアメリカ企業向けには、多くの戦略的経営計画が用いられたが、それらでは日本と西ドイツには勝てなかった。
そこに飛び込んできたのが、この「あまりに無邪気な本」で、「理論らしい理論もなく、分析らしい分析もない。」(pp.544)
そこに示されたのは、「たとえば、・・・と言い始めて10社もの該当例を羅列する」、「あまりにも多くの足で稼いだ事例と、面談の引用が出てくる」(pp.544)だけであった。
最後に、大前は次の言葉で締めている。
『日本の経営経験も、そうしたことを米国の超大企業と共通土壌で考えられる程度に大規模かつ国際 的になり、また複雑化してきている。また、日本の優秀と言われている企業でさえも、いまの時点でこのような観点から自分自身の足元を見直しておく必然性もある。戦後のいわゆる「日本経営」なるものを支えていた大前提のほとんどすべてが、行きつくところまできてしまっている。今後数年間で、日本の大企業が、アメリカ企業が七〇年代に陥ったのと同じ風土病にいっせいにかからないとは、誰にも断言できないであろう。』(pp.549)
これまさに、「企業に国境はない」のもう一つの意味と感じられた。
余談;「序」の中に、終戦直後のBoeingのふたりの技術者の話が出てくる。それは、Boeing機がレシプロからジェットエンジンへの転換期の秘話になっている。ジェットエンジンの設計技術者としては、興味深い話であった。
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