ささやかな幸せ

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『彼らは世界にはなればなれに立っている』おススメ

2021-06-14 14:51:10 | 
『彼らは世界にはなればなれに立っている』 太田愛 KADOKAWA
 「この町はとっくにひっくり返っている。みんなが気づいていないだけでな」 〈はじまりの町〉の初等科に通う少年・トゥーレ。ドレスの仕立てを仕事にする母は、「羽虫」と呼ばれる存在だ。誇り高い町の住人たちは、他所から来た人々を羽虫と蔑み、公然と差別している。町に20年ぶりに客船がやってきた日、歓迎の祭りに浮き立つ夜にそれは起こった。トゥーレ一家に向けて浴びせられた悪意。やがてトゥーレの母は誰にも告げずに姿を消した。
 作者は、ドラマ「相棒」の人気脚本家らしい。知らずに読んだが、よかった。この半年で読んだ本の中でナンバー1。なのに、アマゾンの書評は散々だ。なぜだ!?
 提示された様々な謎が4人の語り手で徐々に明らかにされていく。えっ、そうなんだという感じでページをめくる手が止まらなかった。伏線がきれいに回収されていき、気持ちがよい。『侍女の物語』に似た感じの世界だ。
 作者は、私たちに問いかける。差別とは?自分たちと違う姿形、自分たちと違う出自、ほんの小さな差異で人はこんなにも残酷になってしまうのか。持つ者が持たざる者からさらに収奪することに慄然とする。特権意識は、無意識なだけに怖い。
 政府による選挙の廃止、図書館本の入替え、学校の教育内容の変更、日報への介入。知らず知らず忍び込む変更に、人々は自ら考えることをやめ、周りに合わせようと自主規制して戦争へとなだれ込む。これは、現在の私たちへの警鐘なのだろうか?
 最後は、透明な悲しみに包まれるが、一筋の希望に救われる。
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