ささやかな幸せ

SUPER EIGHT、本、美術鑑賞、俳句、お茶が好き!
毎日小さな幸せを見つけて暮らしたい。

『病魔という悪の物語』『汚れた手をそこで拭かない』

2021-06-15 07:28:46 | 
『病魔という悪の物語 チフスのメアリー』 金森修 ちくまプリマー新書
 料理人として働いていたメアリーは、37歳になったあるとき、突然、自分自身には身に覚えもないことで、公衆衛生学にとっての注目の的になり、その後の人生が大きく変わっていく。突然、自由を奪われ、病院に収容されるのだ。腸チフスの無症候性キャリアとして、本人に自覚のないまま雇い主の家族ら50人近くに病を伝染させた―。20世紀初め、毒を撤き散らす悪女として「毒婦」「無垢の殺人者」として恐れられた一人の女性の数奇な生涯に迫る。
 メアリーの人生というよりは、メアリーの人生を簡単に善悪の二分法で評価してよいのかと疑問を投げかける。数多くいた無症状キャリアの中で、メアリーだけ女性、移民、貧困という社会的文化的因子で過剰反応され、長期間拘束される。このやりすぎは、差別ではないのか。「人間といういものは、自分より弱い立場に貶められた人を見つけるとその人をもっと貶めて喜ぶところがあるらしい」人間の本質をついているようで怖い。
 コロナ禍に田舎に帰省したことで誹謗中傷を受けた。病院に勤めているというだけで白い眼で見られた。というコロナ禍の現在。2006年出版のこの本は、冷静に物事を見ようと呼びかけているようにも思える。


『汚れた手をそこで拭かない』
 芦沢央 文藝春秋
 平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、認知症の妻を傷つけたくない夫。元不倫相手を見返したい料理研究家…始まりは、ささやかな秘密。気付かぬうちにじわりじわりと「お金」の魔の手はやってきて、見逃したはずの小さな綻びは、彼ら自身を絡め取り、蝕んでいく。
 罪をないことにしようと、あれこれ画策するうちに破綻していくという短編集。私は「埋め合わせ」が一番おもしろかった。でも、ひたひたと忍び寄る恐ろしさは感じなかった。そこまでかな。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『彼らは世界にはなればなれ... | トップ | 「グランマ・モーゼス展」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事