ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

「もういっぺん言ってみろ」

2020-04-16 00:00:05 | 日記

 
こないだからレビューしてる「超星神シリーズ」の脚本家について、私が異常なほど詳しいのは、彼のことを個人的によく知ってるからであり、別に彼のマニアとかストーカーをやってるワケじゃありません。

彼が東京=映像業界で働いたのはほんの数年間だけど、前回の記事に書いたような「幸せ」を味わったこともあれば、当然ながらイヤな思いをしたことも多々あったようです。人生すべてプラマイゼロ、帳尻が合うように出来てるんですよね。

メイキング撮影の仕事では悪魔みたいなプロデューサーに丸1年間休みなくこき使われ、身も心もボロボロにされてたし、当時政治家だった元プロレスラーの人が監督する映画で脚本を担当した時は、昼夜問わずドスの利いた声でかかって来る電話に怯え、神戸の友人宅に避難して書いてたそうですw

中でも一番心に深い傷を負わされた出来事は、彼が「人生で一番幸せだった時期」と言ってた筈の、まさに超星神シリーズの脚本を書いてる真っ最中に起きたんだそうです。

彼は大阪から単身で上京し、孤独と闘いながら頑張ってたワケだけど、同時期にやはり大阪から上京して映像業界で働く自主映画時代の仲間が何人かいて、良きライバルとして刺激も受け合いながら、心の支えにもなる大切な存在として、良い関係を築いて来たものと自分では思っていたんだそうです。

ところが! その内の何人かが、唐突に「ジャリ番」という呼称を使うようになった。ジャリ番っていうのは、特撮ヒーロー物やアニメなど子供向けに創られたテレビ番組のことを指す業界用語。明らかに「しょせんはガキ向け」という差別意識が込められた蔑称です。

頭の回転が速い人、頭に血が上り易い人なら、即座に「もういっぺん言ってみろ」という台詞を返したかも知れません。そうすれば相手は素直に謝ったかも知れないし、喧嘩になったとしても大した遺恨は残らなかったことでしょう。

だけど私がよく知る脚本家の彼は、いったん心に留め置いて考えちゃうタイプの人なんです。「今、もしかしてバカにされた?」「いや、別に悪気はなくて、覚えたての業界用語を使ってみたかっただけだろう」「そもそも俺が特撮ヒーロー物の脚本を書いてることを忘れてたのかも?」なんて、争いを避ける方向に思考が向いちゃうクセがついてる。

だけど後から考えれば考えるほど、相手は明らかに悪意を持って言った、わざと自分を傷つける為に言ったという結論に辿り着いちゃうワケです。

ああいう業界にいてライバルが今どんな仕事をしてるのか忘れてる筈がないし、ジャリ番という呼び方に嘲りの意味がこもってることを、いい大人が分からない筈もない。

そんな言葉をわざわざ、その仕事に全身全霊で打ち込んでる者の前で発するワケだから、「お前がやってる仕事はレベルが低いんだぞ」「調子に乗るなよ」っていうメッセージを暗に伝える意図が間違いなくあった。

彼はそれがとても悲しくて情けなく、そして腹立たしかったそうです。自分と同じ「ジャリ番」の仕事をしてる先輩から言われたなら「天狗になるなよ」っていう戒めとも受け取れるけど、そうじゃない相手から言われる筋合いは無いですから。

その話を聞いて、私も腹が立ちました。私がその件に関して腹が立つポイントは、主に3つ。

まず1つは、同じ志を持つ仲間だった筈の相手に対する、思いやりの無さ。もし百歩譲って悪気は無かったとしても、それを言ったら相手が傷つくことに思いが及ばないのはあまりに無神経です。

もう1つは、そもそも私は「業界用語」ってヤツが大嫌いであること。例えばその機材を「どかせろ」っていうのを「わらえ」って言ったり等、その業界に長くいる者にしか分からない言い方をわざわざする。それで新人スタッフが「えっ?」ってなっても教えてやらない。そんなことして一体何のメリットがあるのか、私にはサッパリ解らない。

たぶん、自分たちが特殊な世界にいることを誇示したい、選民意識が彼らにはあるんだろうと思います。その世界でしか通用しない言葉を使う自分がカッコいいと思い込んでる。外の世界から見るとただ滑稽でダサいだけなのに。

そしてもう1つ、何より腹立たしいのは、彼らが最も特撮ヒーロー物を夢中になって観た筈の世代だということ。ウルトラやライダー、宇宙刑事などのシリーズを毎週観て、学校で話題にし、オモチャを買い、ごっこ遊びをして、さんざん楽しませてもらった(言わば恩恵を受けてきた)世代の人間が、なぜそのジャンルを見下せるのか、私には本当に理解出来ません。

私は、刑事ドラマやヒーロー物のクリエイターたちに対しては本当に感謝の気持ちしかありません。ブログで辛辣なことを書いたとしても、愛あればこそです。バカにするような気持ちは微塵もありません。

全くの素人さんならともかく、映像作品を生み出すことにどれだけ大変な苦労が伴うか、誰よりも知ってる筈の業界人たちが、なぜジャリ番などと口に出来るのか本当に解らない。

脚本家だった彼は、映像業界という空間が、そこにいる人間の心を変えてしまうんじゃないかと思ってゾッとしたそうです。なにせ彼自身も、あの業界にいる時は自分が特別な人間になれたような錯覚をしてた。「ジャリ番」呼ばわりは、そのしっぺ返しだったのかも知れません。

あの世界には、そういう魔力が確かにある。

彼が映像業界に見切りをつけたのは、まぁ売れなかったのが一番の理由だけどw、あの世界にいると自分の人間性が腐ってしまいそうで怖かったっていうのも、理由の1つにあったみたいです。

業界人たちが多部未華子さんを絶賛する時、異口同音に「普通の女の子」であることを理由に挙げるんですよね。あの世界にいて性格が歪んでしまわない、いわゆる「業界に染まらない」ことが如何に難しいかを物語ってると思います。
 

コメント (6)
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