☆第398話『名残り雪』(1980.3.14.OA/脚本=小川 英&古内一成/監督=木下 亮)
ある夜、不動産会社に強盗が押し入り、通報を受けて駆けつけたスニーカー(山下真司)の目の前で後輩巡査が射殺されてしまいます。
すぐに関口(西岡徳馬)という前科者に容疑が絞られ、検挙に燃えるスニーカーは1ヶ月前まで関口の恋人だったらしい美容師=佐知子(友里千賀子)を徹底マーク。
佐知子はサブリナよろしくパリで美容師修行すべく、1週間後に現在勤めてる店をすっぱり辞めて渡仏する予定。それはまとまった金が手に入らないとなかなか出来ないこと=関口に強盗をそそのかした可能性が高いってことで、スニーカーは頭から佐知子を疑ってかかります。
ところが、彼女の日常を見れば見るほど、その朗らかで優しい性格に、スニーカーは惹かれていっちゃいます。
2年前に佐知子が結婚詐欺の被害に遭ってたことも判り、単純なスニーカーは「彼女はきっと関口にも騙されて付き合ってたんです!」「関口は彼女にフラれてヤケになって強盗をやったんです!」と息巻き、一緒に張り込む長さん(下川辰平)に「ああ、そうかも知れないな」「それも有り得るな」と聞き流されますw
で、佐知子のマークは「張り込み」じゃなくて「ボディーガード」なんだと自分に言い聞かせたスニーカーは、彼女に絡んで来たチンピラ2人組をフルボッコにして日頃のストレスを発散するのでしたw いいぞ、もっとやれ!ww そんなスニーカーをもっと早い時期に見たかった!www
いやホントに、これまでのスニーカーが(登場編を除いて)大人しすぎたんです。同じことをロッキー(木之元 亮)がやったら気が狂ったようにしか見えないけどw、スニーカーならまだ許される。こういう場面が1つあるだけでドラマが弾むんだから、どんどんやるべきなんです。
で、すっかり仲良くなって一緒に帰って来たスニーカーと佐知子を見て、長さんが呆れ返るという黄金パターンw それでいいんです!ww ロッキーの寒いジョークを聞かされるより百万倍いい!www
「あ、雪だ」
「ほんと……名残り雪ね」
「名残り雪?」
「私の田舎では、みんな雪が降るとホッとするんです」
「どうして?」
「春を告げる雪だから……ほら、淡い雪だからすぐ溶けちゃうでしょ?」
「ほんとだ」
いいシーンなんだけど、小道具の雪だから実際はぜんぜん溶けてないのが残念ですw でも、バックに流れるボンのテーマのバラードバージョンが切なくてホントにいい!
今回はテーマ曲もブリッジ曲もかなり控えめで、ボンのテーマだけが効果的に使われてます。スニーカーは今は亡きボン(宮内 淳)との交流がきっかけで刑事になった人だから、BGMが単なるBGMだけで終わらないワケです。
もちろん、ほっこりすれば次に危機が訪れるのも刑事ドラマのお約束。無事に送り届けたはずの彼女のマンションから銃声と悲鳴が聞こえ、すぐに駆けつけたスニーカーは関口と鉢合わせするんだけど逃げられちゃいます。
佐知子は撃たれたけど幸い軽傷で済みました。経過観察のため入院となった彼女は、付き添うスニーカーの前で涙を流します。
「刑事さん。人に嫌われるのが怖いって気持ち、お解りになりますか……小さい時から私、ひとりで……人に嫌われるってことは、生きていけないってことでした。いくら……いくら騙されても!」
幼少期に両親を亡くした佐知子は、知人を頼りながら何とか独りで生きてきた中で、男には何度も騙された。だから仕事で独立したい気持ちが人一倍強く、明後日に迫るパリ行きも延期する気はまったく無いようです。
「私、生まれ変わりたいんです。こんなこと、早く忘れてしまいたいんです。でないと、私には春が来ない……そんな気がするんです」
「なに言ってるんですか。あなたみたいな人に、春が来ないはずが無いですよ!」
ますます佐知子に肩入れしたスニーカーは、彼女が無事に旅立つまで守り抜く決意を新たにします。
ところが! なぜ関口が佐知子をわざわざ殺しに来る必要があったのか、なぜ張り込みの盲点を突いて彼女のマンションに侵入することが出来たのか、不自然な点が多いことから先輩刑事たちは彼女に疑惑の眼を向けてました。
「もういいですよ! オレは彼女をガードします! 関口が襲って来たら、必ず捕まえて真相を明かしますから!」
怒り心頭のスニーカーはひとりで突っ走りますが、さらに佐知子への疑惑を深める事件が起きてしまいます。逃走中の関口が路上で通りすがりのサラリーマンを襲い、2万円弱を奪ったのでした。先の強盗で約8千万円を手にした筈の関口が、なぜ?
「金は、ヤツの手元には無いのかも知れん」
そう、その8千万円を佐知子が隠し持ってるとすれば、全ての辻褄が合ってしまう。しかしボス(石原裕次郎)は、その事実をスニーカーには伝えないよう刑事たちに指示します。
「ヤツは今、デカというより立原佐知子のボーイフレンドだ。心の動揺は彼女に筒抜けになる」
つまり、予定通りに佐知子を空港へ向かわせ、関口を誘き出すオトリ作戦。案の定、このままパリへなんか行かせてたまるか!とばかりに襲撃して来た関口は、何も知らないスニーカーからフルボッコの刑を食らいます。
「関口、キサマ! 金はどこに隠したんだっ?!」
「し、知らない! 金はあいつが持ってるんだ! あの女が持ってるんだっ!!」
「なんだと、いい加減なこと言うなっ!!」
「嘘じゃない! 金を欲しがったのはあいつだ! あいつは金を巻き上げた上に、オレをマンションまで呼び出して殺そうとしやがった!」
「この野郎ーっ!!」
なおも体罰を続けようとするスニーカーを、ゴリさん(竜 雷太)が冷静に食い止めます。
「あの女ならやりかねん」
「ゴリさん?!」
そう、佐知子が手引きしたからこそ関口はすんなりマンションに侵入できた。先に撃とうとしたのは佐知子の方で、関口は命からがら拳銃を奪い返し、撃ち返したワケです。
「なぜだ……なぜそんなことを?」
「……何度も男に騙されたんです。一度ぐらい、騙してもいいと思ったんです。そうすれば、私にも春が来る……そんな気がしたんです」
「………………」
二人で名残り雪を眺めた時の、あの朗らかで優しい笑顔からは想像もつかない、佐知子の壮絶な裏の顔。
「人間って……分からないもんですね、ボス」
七曲署の屋上でそう呟くスニーカーに、ボスは言います。
「当たり前だ。そう簡単に割り切れたら、法律や警察は要らなくなる」
「…………」
「しかしな、スニーカー。いい陽気になったな。もう春だ。立原佐知子にも、春が来るよ。いつか必ずな」
なんだか、久々に『太陽にほえろ!』らしい『太陽にほえろ!』を観た気がします。スニーカー登場以降はあえてそういうのを制作側が避けてたのかも知れません。
マカロニ編の#035『愛するものの叫び』とテキサス&ボン編の#187『愛』をミックスしたような、定番と言えば定番のプロットだけど、やっぱり良いから定番になるんですよね。ロッキーにはどうしても似合わないけど、スニーカーなら何とかサマになります。
友里千賀子さん(当時22歳)が薄幸の女を演じるには無理があるって意見も出そうだけど、今回はそのギャップこそが肝ですから野暮なクレームはよしましょう。
実際、友里さんは'78年の朝ドラ『おていちゃん』のヒロイン役で注目されて以降、爽やかイメージが定着して犯人役はおろかキャリアウーマン役も今回が初めて。かなり意気込んでこの役にチャレンジしてくれたそうで、その情熱が画面から伝わって来ます。
この年の秋には神戸を舞台にしたフジテレビ系列の刑事ドラマ『ゆるしません!』に主演、そして'87~'88年には『太陽~』の後番組『ジャングル』&『NEWジャングル』で溝口刑事(勝野 洋)の天真爛漫な妻=明美を演じられるなど、我々にも馴染みの深い女優さん。
刑事ドラマは他に『87分署シリーズ・裸の街』『特捜最前線』『はぐれ刑事純情派』『さすらい刑事旅情編』『ララバイ刑事』『Gメン'75』復活スペシャル等にゲスト出演。緒形拳さんが迷宮課刑事「おみやさん」に扮したシリーズの第2弾『六本木ダンディーおみやさん』('87) では六本木署の藤崎巡査長役でレギュラー出演されてます。