ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『ぼくは麻理のなか』2018

2024-07-09 19:39:07 | 探偵・青春・アクションドラマ

復刻シリーズのトリを飾るのは、2018年冬シーズンに関西テレビの金曜深夜枠で放映された30分の連ドラ (全8話) で、元はその前年FODで配信されたインターネットテレビの作品。

原作は押見修造さんの人気コミックで若い男女の「入れ替わり」がネタになってるけど、連載スタートは2012年だからアニメ映画『君の名は。』(’16) の大ヒットとは無関係。(ただしドラマ化の後押しにはなったかも?)

地方から東京の大学に進学したものの周囲に馴染めず、孤独をこじらせてアパートに引きこもりがちな青年=功(吉沢 亮)が、毎晩決まった時間にコンビニで見かける女子高生=麻理(池田エライザ)を尾行してたらw、彼女と眼が合い、そこで意識が途切れてしまう(ように見せてるけど、実はミスリード)。



で、目覚めたら功は「麻理のなか」にいて、大いに戸惑いながらも仕方なく彼女になりすまし、女子高生として日々を過ごす……と、ここまでなら(フィクションの世界じゃ)よくある話。

ところが、功が住んでるアパートを訪ねてみたら、功は功のままそこにいるもんだから驚いた! じゃあ、麻理の心は一体どこへ行ってしまったのか? 麻理の身体の中にいる自分は功じゃないのか?

つまり、正確には「入れ替わり」の話じゃないんです。さすがは押見修造さん、一筋縄じゃいきません。

私が初めて読んだ押見さんの漫画は、ちんこが見たくて見たくて仕方ない女子高生が主人公の『アバンギャルド夢子』(全1巻)。ただのエロギャグ漫画ではなく、ちんこ探求を通して自我に目覚めていく青春ストーリーで、意外と比喩に富んだ深いお話でとても面白かった!



その後『漂流ネットカフェ』や『惡の華』『スイートプールサイド』等の作品がドラマに、アニメに、映画にと映像化され、早くから押見さんに目をつけた自分を誇らしく思ったもんです。(単純に女子高生+ちんこの話に興味を引かれただけですが)

こうなったら是非『アバンギャルド夢子』も映像化して欲しいけど、さすがに無理ですねw



で、今回ドラマ化された『ぼくは麻理のなか』。以下、ネタバレになります。

功は麻理の中にいる筈なのに、功は功としてちゃんと存在してたもんだから、私はてっきりパラレルワールドの話かと思ったんだけど、それも違いました。やっぱり押見さんは、もっと人間の深い部分に斬り込む作家さんでした。

麻理の中にいる功は、実は麻理が創り出した彼女自身の別人格だった!



どうやら麻理は自殺を考えるくらい自分の置かれた状況に疲弊し、追い詰められ、いつも独りで自由そうな功に理想の生き方を見いだし、無意識に精神が分裂しちゃった。

ありがちな“男女入れ替わりもの”かと思いきや、実は解離性同一性障害(多重人格者)の話だったワケです。

麻理が孤独なボンクラ男の功を自身に憑依させた原因は、母親(西田尚美)の精神的虐待にありました。

本来、麻理は違う名前だったんだけど、それは父方の祖母による命名で、姑嫁間で確執のあった母親が、祖母の死後、本来つけたかった名前である「麻理」に無理やり改名させたことを発端に、麻理は自身のアイデンティティを見失ったのでした。



まぁしかし、それはあくまで「設定」に過ぎず、押見さんが描きたかったのは思春期に誰もが経験する「自我の目覚め」なんだろうと思います。

母親に勝手な理想を押しつけられ、学校ではいわゆる「リア充」と呼ばれる(スクールカーストの上層にいる)連中と無理してつき合い、心が疲弊してしまった麻理。

だから、孤独すなわち自由を謳歌してるように見えた功を羨ましく思い、無意識のうち彼になりきって……という流れ。つまり「麻理のなか」にいる功はホンモノの功じゃない。

孤独になりたいワケじゃないけど、とにかく今の自分とは全く違う人間になりたかったんでしょう。それを麻理自身も認識してないし、ましてやホンモノの功は何も知らずにノホホンと生きてる。



さらに麻理は、カーストの底辺にいたクラスメート・依(中村ゆりか)と交流することで、本当の自分を見つけていく。なかにいる功の正体が判ったとき、麻理は自分がどう生きて、どんな友達とつき合えば「自分らしい」のかを理解する。

依は依で、麻理のなかにいる功(それも麻理なんだけど)と心を通わせることで成長していく。麻理が自分を取り戻せば、麻理のなかにいる功は消えてしまうワケで、切ない別れを経験することにもなる。ああややこしい!



で、本来の自分に戻った麻理と依はあらためて友達になるんだけど、高校卒業と同時にそれぞれ別の道へと進んでいく。「またね」と言って別れたけど、たぶん再会はしなさそう。二人とも、それだけ強くなったってことでしょう。

一方、ホンモノの功はまったく蚊帳の外w それでも、麻理に惚れたことで少しは変わっていこうと努力する。彼も彼なりに成長したんですよね。

かように根っこはオーソドックスな青春ストーリーで、もっとSF的な展開やどんでん返しを期待する視聴者には肩透かしだったかも知れません。

けれど私は、こういう普遍的な、しかもどちらかと言えば日陰側にいる人たちの苦悩に、とてもとても共感します。人格が分裂しちゃった経験は無い(と思う)けど、麻理や依が感じてきた息苦しさはよく解るつもり。

連ドラとしてのクオリティーも高かった! 映像が美しく、とても丁寧に演出されてるし、池田エライザさん&中村ゆりかさんの熱演もまた素晴らしい!

特に、レズやオナニー等のエロ描写にも果敢に挑まれたエライザさんに拍手を贈りたいです。(ファッションモデル出身のエライザさんだけど女優として劇場版『みんな!エスパーだよ!』や『貞子』にも主演した上、司会業、歌手、映画監督、グラビアカメラマンなどマルチな才能を発揮。おまけに脱いだらこの有り様で手がつけられません!)


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