☆第279話『愛と怒り』(1977.12.2.OA/脚本=長野 洋&小川 英/監督=木下 亮)
ボン(宮内 淳)は、通勤バスで毎朝見かける清楚なOL(立枝 歩)に恋をします。声を掛けようとするんだけど、あまりに好きすぎて言葉が出て来ません。
そんなある日、ボンが降りた後にそのバスが爆発し、多数の死傷者が出ます。ボンが好きだったOLも救急病院に運ばれますが、手術の甲斐なく死亡。遺された定期入れを見て、ボンは初めて彼女の名前が「立花冴子」だったことを知るのでした。
怒りの捜査を開始するボンですが、やがて意外な事実が判明します。時限爆弾が隠されてた座席に座ってた男が、冴子に席を譲ろうとしたという目撃証言が出たのでした。その男が犯人だとすれば、これは無差別殺人ではなく、冴子の命を狙った犯行なのかも知れない!
そんなことがあるワケない!とボンは反論しますが、ボス(石原裕次郎)は冴子の身辺調査を指示。その結果、彼女が天涯孤独の身であること、夜はバーでホステスの仕事をしてたこと、そして「金の亡者」と言われ評判がすこぶる悪かったこと等、残念な事実が次々と浮かび上がり、ボンをとことん凹ませます。
実際、冴子の銀行口座には本職とホステスの給料を足しても釣り合わない多額の預金があり、どうやら上客の弱みを握ってユスリを繰り返していた形跡がある。それで恨みを買ったか、あるいは口封じのために殺されたと見れば、全ての辻褄が合ってしまう……
やがて、事件前後から急に羽振りの良くなった城所という男が容疑者として浮かびますが、冴子との接点は不明。それを確かめようと躍起になるボンを、ゴリさん(竜 雷太)がたしなめます。
「確証も無いのにお前、彼女の仇でも取るつもりか? 立花冴子の正体が判っても、まだ冷静になれんのか?」
「……ゴリさん。立花冴子を殺したから、そいつが憎いんじゃありませんよ。むしろ彼女は、犯人の1人と言っていいくらいです。彼女が汚い金を貯め込んだりしなければ、バスの乗客が何人も死んだり傷ついたりすることは無かったんですから」
「ボン、お前……」
「俺、立花冴子が死んだとき、物凄く犯人を憎みました。でも、彼女の正体が判ったとき、気がついたんです。彼女の他にも、巻き添えで2人の人間が死んでいる……その事でも同じように犯人を憎めなきゃ、俺は刑事じゃない。そう思ったんです」
「…………」
この時、ゴリさんの表情には安堵と同時に、なんとなく寂しさがあるようにも見えます。すっかり成長しやがって、もう俺が教えてやれることが無いじゃないか、みたいな。
スコッチ転勤後から急激な成長ぶりを見せて来たボンだけど、殊にロッキー(木之元 亮)加入後はまるで別人のよう。それはボンが成長しただけの事じゃなくて、ドラマ上のポジションが「新米」から「先輩」にシフトした結果なんでしょう。
ポジションが変われば、自ずとキャラクターも変わって来る。ゴリさんもまた「先輩」からそろそろ「ベテラン」に移行し、キャラが変わりつつありますからね。
さて、ボンは競馬場で城所を発見しますが、城所は車で撥ね飛ばされちゃいます。ボンはカーチェイスの末に運転手を逮捕。その男は安田(田口 計)というヤクザで、冴子が勤めていたバーの上客=坂口(神田 隆)と繋がっていた!
坂口は汚職で安田と結託しており、それをネタに冴子にユスられ、城所を使ってバスを爆破。さらに城所の口をも封じようとしたワケです。
ボンは海外逃亡寸前に坂口を逮捕しますが、その時も「あの女が悪いんだ、殺されても仕方がない悪女なんだ!」と罵る坂口に、掴みかかるも殴るには至らず、最後は冷静に手錠を掛けるのでした。
刑事が悪党を射殺したりフルボッコにしたりする姿を、高みの見物するのが私の趣味ですからw、ボンには正直もっと暴れて欲しかったです。
けど、もしボンが怒りに任せて暴走してたら、このエピソードは単なる刑事の失恋話だけで終わっちゃう。それはそれで悪くはないけど、ボンの成長ぶりを見せる事こそが作品のテーマだとしたら、やっぱりこれで正解なんでしょう。
本来ならボンは翌年の夏か秋に殉職する予定で、そろそろ「死亡フラグ」として成長ぶりを見せておく必要があった。これは多分、そんな役割を担ったエピソードなんでしょう。(結局ボンはさらに1年延命しますから、落ち着くのはちょっと早すぎたかも知れません)
ところでラストシーンは恒例・ボスと主役刑事のツーショットですが、今回は通勤バスでボンが無意識に冴子の姿を探してたら、代わりにボスが乗り込んで来ちゃうというシチュエーション。乗り合いバスがこれほど似合わない男が他にいるでしょうか?w
なお、山さん(露口 茂)の独自捜査により、冴子は不況で倒産した町工場の娘で、一家心中の生き残りだったことが判りました。貧しさのせいで家族を失った凄惨な過去が、彼女を金の亡者に変えてしまった。切ない話です。
そんな暗い背景といいハードな展開といい、またBGMも普段より控えめで、本作は番組初期(マカロニ、ジーパン)のエピソードを彷彿させます。カタルシスは無いけど、ボンの代表作の1本と言って良い作品かと思います。
冴子に扮した立枝歩さんは、当時19歳。今回は短い出番で台詞らしい台詞も無かったけど、しっかりした演技をされる方で、'70年代後半から'80年代にかけてドラマ出演多数。中でも『太陽にほえろ!』は通算8回という最多ゲスト出演数を記録。その次が『特捜最前線』の6回で、この方も刑事ドラマのミューズ的存在と言えましょう。
最近も『やすらぎの郷』に出演されるなど、地味ながら息長く活躍されてます。清楚かつ可憐なルックスで、そんな女性が実は金の亡者というギャップ。確信犯的キャスティングです。
だけど冴子の裏の顔はあえて見せず、ボンの主観による清楚な姿しか映像にしなかった演出が、我々をさらに切ない気持ちにされてくれます。これは名作ですね。
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