これまでオタクを主人公にしたドラマや映画は結構あったけど、だいたいにおいては極端なキャラクターに描いて茶化すか、ダークに描いて悪者にするか、あるいは美化するか、つまり「オタクをそのままリアルに描いても商売にならない」っていう姿勢、オタク作家の自虐も含めた蔑視の本音が透けて見えたもんです。
ところが、この『トクサツガガガ』はオタクのありのままを等身大に描き、それをオタクじゃない視聴者でも楽しめるエンターテイメントに仕上げてみせた、極めて画期的な作品でした。
その「等身大」と「ありのまま」が今は何より重要で、昨年のサプライズ・ヒット映画『ボヘミアン・ラプソディー』を絶賛する人たちは皆、異口同音に「ありのままを貫くフレディに共感した」みたいなことを仰ってました。『アナと雪の女王』も「♪ありのままの姿見せるのよ~」って唄ってますからね。
私自身はあえて「孤独」の道を邁進することで「ありのまま」を死守してますけど、多くの人はこの「孤独」が怖くて「ありのまま」でいられないんでしょう。だから「ありのまま」を貫き、なおかつ孤独じゃない「成功」や「愛」を手に入れた人のストーリーに、皆が強く惹かれるんだろうと思います。
この『トクサツガガガ』でも、特ヲタ女子の主人公=仲村さん(小芝風花)が特撮嫌いのお母ちゃん(松下由樹)に「ありのまま」を受け入れてもらえるか否かが最大のテーマとして描かれてました。
これもまた普遍的で、私自身含め多くの人にとって「ラスボス」は母親だったりするんですよね。だから特撮オタクでなくとも決して他人事じゃない。
しかも、仲村さんのお母ちゃん自身にも、自分の親に「女の子らしいもの」を否定され続けたトラウマがあり、それで「女の子らしくない」特撮ヒーローをことさら否定するという「負の連鎖」に囚われてる。
これは年々深刻化する幼児虐待の問題にも似てますよね。仲村さんのお母ちゃんは「娘には自分と同じ思いをさせたくないから」やってるつもりが、知らず知らず娘の嗜好を完全否定する結果になっちゃってる。虐待の本質もそんなもんかも知れません。
で、ついに仲村さんが怒りを爆発させ、絶縁宣言しちゃうまで関係は悪化するんだけど、そこで彼女は気づくんですよね。自分自身もまた、お母ちゃんが大好きな「女の子らしいもの」を否定して、知らず知らず彼女を傷つけて来た事に。
お母ちゃんが好きそうな「女の子らしい」可愛い人形を、仲村さんがプレゼントする最終回ラストシーン。いつまでもトラウマに囚われて成長できない母親を乗り越えて、娘である仲村さんが先に大人になった瞬間と言えるんじゃないでしょうか?
それでもやっぱり解り合えないかも知れないけど、相手に「認めて欲しい」って求めてるだけじゃ何も解決しない。自分の「ありのまま」を受け入れてもらいたいなら、まず自分が相手の「ありのまま」を受け入れる事から始めるべきじゃないか? 例え相手が歳上で、自分を生んだ親であったとしても。
コメディとしても一級品だし、特撮場面のクオリティーや小道具の作り込みも素晴らしかったけど、それらを最大限に活かせたのは根本に誰もが共感し、考えさせられる成長ドラマがあったから。
そして何より嬉しかったのは、何かをずっと好きでい続けることを思いっきり肯定してくれたこと。世の偏見や蔑みと闘う我々を全力で応援してくれたこと。本気で肯定し、心底から応援する気持ちが無ければ生まれ得ない作品でした。
私が特にリアルだと感じたのは、仲村さんが高校卒業の日まで、特撮ヒーロー番組はとっくに卒業したと自分で思い込んでたこと。私自身も、刑事物の自主映画を創った時に刑事ドラマは卒業したつもりでいたのに、今はこの有り様ですw 同じように、結構いいトシになってから何かのきっかけでマニア熱が再燃しちゃった人は、けっこう沢山おられるだろうと思います。
映画好きが高じて小さなビデオショップを営んでるオジサンが、屈託のない顔で「好きって、そんな無くなっちゃうもんなのかな?」って言った台詞と、劇中テレビ番組の特撮ヒーロー「エマージェーソン」が最終回で言った台詞がシンクロした瞬間、滝の涙を流した視聴者は私だけじゃない筈ですw
他にもグッと来るシーンが満載だったこのドラマ、早くも年間ベストワンに決まりかねないほどハマりました。
ラストのラストに登場した本屋さんの店長って、宮内 洋さんですよね? より知名度の高い藤岡 弘さんじゃなく、仮面ライダー以外にも沢山の特撮ヒーローを演じられた宮内さんをチョイスする辺りも、本当に「愛」を持った人たちが創ったドラマなんだと実感させてくれました。
NHKさんがここまで気持ちを込めて作品を創られてるのに、民放各局はいったい何やってんの?って思わずにいられません。
本当に幸せな時間を有難うって、NHKさんには感謝の気持ちでいっぱいです。
ムーミン
ウルトラシリーズのマニアは沢山いても、足の裏マニアはまだまだ未知数なので、是非その道を究めて頂きたいと願っております。
相手かれ不当に扱われていたのに、自分から相手に歩み寄るという究極のヒーロー番組でもありました。
主人公が信念が揺らいで困っている老人を見てみぬふりをしたり、ダミアンくんの悩みに正面から向き合えないところはサムライミ監督のスパイダーマン2やスーパーマン2を彷彿とさせ、序盤の展開としては素晴らしい演出でした。
諦めない心を取り戻し、ダミアンくんに言葉をかけたときに公園に現れたジュウショウワンのシーンで涙腺決壊でした!
本当に素晴らしい!
主人公が母親に対してどういう決着をつけるのかと思ったら、攻撃的に自分の思いを正当化するのではなく、やさしく自分から相手を傷つけないように歩みよった場面は、主人公の人間としての成長がものすごく伝わって最高でした!
真のヒーローは、自分が否定され傷つけられても、相手よっては相手の感情もちゃんと考慮して自分からやさしく歩み寄れる人なんだなーと思いました。
ヒーロースーツのデキも、メッセージも素晴らしい番組でした!
オタクとかオタクじゃないとかに関係なく!
自分とは、人間関係とは、親子関係とはを描いたドラマとして、もっともっと評価されて注目されて語り継がれてほしいです!
逆に言えば、平凡なOLにも起こり得るピンチや葛藤をスーパーヒーロー物に取り入れ、見事に我々と一体化させてくれた上記2本がいかに神映画だったか!って事ですよね。
ただ、結局は暴力で解決せざるを得ないアメリカ映画と違って、相手に歩み寄る道を選択した主人公は、まさに日本の特撮ヒーロー番組の申し子。国民性の違いと言ってしまえばその通りかも知れないけど、日本人はもっと自国の文化としての特撮ヒーロー物を誇りに思うべきですね。