’80年代の「女子大生ブーム」を牽引する存在だった川島なお美さんが、女子大生を登場させるのが大好きなこの番組に呼ばれたのは、そりゃもう必然でしょう。
オールナイトニッポン、お笑いマンガ道場、ヘアヌード写真集、世良公則さんとの不倫報道(これは知らんかった)、そして連ドラ版『失楽園』の全裸ラブシーン等、多彩な活躍で常に話題を提供し続けてくれた川島さん。
本作が放映された1989年にも、7年間レギュラーを務めた『お笑いマンガ道場』の卒業と同時にロケバスの転落事故に巻き込まれて骨折したり…… そして最後は癌を患い、54歳という若さで他界されました。
世間一般から見たイメージはどうだか知らないけど、なんかこう悲劇的というか被虐的というか、中森明菜さん等に通じる暗さが川島さんにもあったような気がします。
今回の役がまた、そんな川島さんのいじめられっ子イメージを存分に活かした感じで、まさにこれは彼女のために用意されたようなエピソードです。
☆第14話『特急さざなみ21号・女刑事にあてた遺書』(1989.1.25.OA/脚本=香取俊介/監督=天野利彦)
品田というテニス倶楽部のイケメン・インストラクターが、特急“さざなみ”の座席で遺体となって発見されます。当時のJRはニューヨークの地下鉄よりも恐ろしい!(最近はL.A.の方が物騒でしたっけ?)
で、品田の死因は青酸カリウムによる毒死(またかよ!)なんだけど、彼が鉄道警察隊の花井刑事(若村麻由美)に宛てた遺書を持ってたもんだから高杉警部(宇津井 健)が折り目正しく驚いた!
「キ、キミはあんな軽薄そうな男とチョメチョメを!?」
「私が誰とチョメチョメですって!?」
遺書を見て一番驚いたのは花井自身。確かに友人と何度かテニス倶楽部へ行き、インストラクターと知り合いにはなったけど、チョメチョメした覚えはまったく無い。そもそも遺書とチョメチョメは関係ない。
単なる自殺じゃないことは明白で、品田の周辺を調べてみたところ浮かんで来たのが、彼と結婚間近だった社長令嬢の相沢ユミ(川島なお美)。
だけどユミに婚約者を殺す動機は見当たらず、その次に浮上した容疑者が、ユミの父親が経営する会社の従業員で、かねてから彼女に想いを寄せてた中西(新井康弘)という若者。
案の定、中西は行方をくらませ、なぜかわざわざ房総半島の館山(特急“さざなみ”で行けます)くんだりまでユミを呼び出して、彼女を尾けてきた花井刑事らに身柄を確保されるのでした。
余談ですが、今回はゲストの川島なお美さんも、花井刑事役の若村麻由美さんも、そしてリーゼント刑事(三浦洋一)の妹=恵里役の相川恵里さんも、それぞれ茶色のジャケットを着用するシーンあり。
同じ場面で被らないようには配慮されてるけど、3人の女優さんが演出意図もなく同じ色を着るのはレアかも知れません。当時の流行りだったのか、スタイリストさんがよっぽど好きな色だったのか?
ファッションにはまるで興味ナッシングな私ゆえ普通に観たら気づかないけど、こうしてレビューする為に画面撮りしてると思わぬ発見があって面白いです。
さて、正直言ってどーでもいい真犯人の正体は中西じゃなく、大事な一人娘がチャラいモテ男の品田に嫁いで行くのがどうしても許せなかった、ユミの父親=相沢社長(内藤武敏)でした。
エピソード後半は自家用モーターボートを使ったセレブならではのアリバイ工作を、リーゼント刑事たちが崩していく凡庸な展開となりました。
自分の父親が、自分の婚約者を殺害した罪により、眼の前で逮捕されちゃうという究極の悲劇。いじめられっ子キャラの本領発揮です。
そして父親の股間に顔を埋めて泣きじゃくるユミを、ただ黙って見つめるしかない花井刑事。
殺された品田が花井宛ての遺書を持ってたのは、もちろん相沢社長による偽装。
品田のマンションに忍び込んだ際、スケコマシの習性で眼をつけたナオン(女性のこと。死語?)たちのデータを記したメモがあり、その中に彼女の名前と住所があり、まさか刑事とは思わず宛名に利用しただけ。
かなり強引かつ安易な話だし、主役の刑事がただの傍観者で終わってるのが何よりつまんない。
だから、宇津井健さんが大いに笑わせてくれる次のラストシーンが無ければ、私はレビューする気になれなかったと思います。
「背筋が伸びてる」のを通り越して「反り返ってる」ようにさえ見える、あまりに折り目正しい高杉警部の立ち姿だけで私は笑っちゃうw
「親というものは、余計な心配をするもんです。話し合えば何でもないことでも、なかなかそれが出来ない」
警部もつい最近、東京駅で恩師を見送りに来た我が娘を見かけて「あんな歳の離れた男とチョメチョメを!」って早とちりし、恥をかいたばかりなのでした。
「……私、父とお互い納得できるまで話し合うべきでした。私だけの気持ちで……父のこと少しも考えてなかった。今さら、もう遅いですね」
「遅くなんかないよ。キミはまだまだ若い。お父さんが罪を償って出てくるまで、しっかりと生きることだ」
で、私を大いに笑わせたというかズッコケさせたのが、ここからの展開。
ずっとユミに片想いしてた中西は、可愛がってくれた相沢社長への恩義もあって、その罪を被るためにわざと彼女を(はるばる房総半島まで)呼び出し、密会した。
あまりにストイックで義理堅く、スケコマシとは対極にいるようなナイスガイの中西。それだけでも「んなヤツはおらんやろ〜」って私は思うのに、高杉警部はこう仰るワケです。
「今のユミさんにとって、一番必要な人じゃないのかな?」
「…………」
えええぇ〜っ? いやいやいやいや! 夕景の美しさで何となく誤魔化されそうだけど、成立せんでしょそれは?
あんな絵に描いたような遊び人と(父親の反対を押しきって)結婚するつもりだった社長令嬢が、こんな実直にも程があるヒラ社員と結ばれて、満足できるワケがない!と私は思うんだけど……
しかも、権力を傘に着た警察官たちによる押しつけで! あんたら責任とる覚悟はあるんかい!?って話です。
品田は確かに女たらしだったけど、ユミを裏切るような事をする前に殺されちゃった。つまり彼女の中じゃステキな想い出のままで、それを父親に奪われたトラウマは一生もんですよね。
社長令嬢とヒラ社員みたいな格差婚は無くもないにせよ、この2人にとっては地獄にしかならんと私は思う。
こんなのちっとも美談じゃない。女性に対して甘い幻想を抱いてた若い頃ならともかく、何度も痛く切ない思いをしてきた今の私には、舞台上の役者たちが一斉にズッコケる喜劇にしか見えません。だからホントにこれは、気軽にレビューできる番組なんですw
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