詩集「四季の風」夕愁白嶺<大和路> 2022年03月18日 | 四季の風 <大和路> 奈良から京都へ 朝もやの立込める大和路は 深閑と肌に冷たき 白壁作りの家を横切り 古びた寺院を横目に 朽ちこぼれし土壁に沿いて 大和路はさびさびと続きぬ 果てしなき流転の運命に 刻一刻と衰滅の大和の 堪難き息吹きを受けて 心ならずも眉をひそめぬ 新生の生命なき処 この路もまたかくて等しき 行く旅人の心も知らず 大和路はひたすら侘しきのみ
詩集「四季の風」夕愁白嶺<中宮寺> 2022年03月15日 | 四季の風 <中宮寺> 法隆寺夢殿の横手に 慎ましき中宮寺あり 中宮寺の弥勒菩薩は 母なりや 唯 唯 暖かき 微笑はその頬に 指先に いみじき優雅の香となりて ほのぼのと慈愛に煙立つ 現世の流転の人生に 破るる者 打勝つ者 尋ねきて憩はば 変らじきその眼差 青白き悩みに 赤熱の野心に 嘆き 驚きつつも 幾百星霜朝な夕な 弥勤菩薩は首傾げ 何人にも 唯 唯 暖かき
詩集「四季の風」夕愁白嶺<つばくらめ> 2022年03月13日 | 四季の風 <つばくらめ> 南の便り つばくらめ 軒をひさしを掠れとび 春の噂も南の国の おお つばくらめ 嬉しきや 待ぶものは何も彼も 告げ来る小さき嘴に 浮立つ心息吹きして 春を迎うも気忙しき 南の国のあなたの便り 春の薫りの懐かしく 持ち来てよ つばくらめ 遠い彼方のあなたの文を おお 春愉し心なぐ 生きとし生ける何も彼も 一度にもえて 満々て 春の便りに生き出づる
詩集「四季の風」夕愁白嶺<雪柳> 2022年03月12日 | 四季の風 <雪柳> 昨日の憂いを踏み越えて 弥生来にけり雪柳 枯れ枯れと色なす川ほとり 五弁の花の目に痛し 残雪か 雪柳の花びらを 千切りては浮舟の戯れ 故無くも知らず喜びに 川ほとりを走りけり 湧き出づる春のゆらめき 忍び来る緑の若さ 麗となぐ微風に 水面の明り暖かき 唄うなり 細流の音 唄えよや 童と乙女 浮舟の花びらに沿いて そよそよ風に吹かれて 春遅き北国の子等え 春が来たよと歌を添え 雪柳の白い花びらを 千切りてはその浮舟を 流そうよ 北国の子等え <雪柳>は夕愁白嶺の詩集「四季の風」の巻頭の作品です。 言葉にリズムがあって楽しい詩だとおもいました。 百合が原公園を散歩中。 うちに帰ったら珈琲を飲みたいなって思いながら歩いてました。
詩集「四季の風」夕愁白嶺 作品第二弾 2022年03月10日 | 四季の風 <<前進するのに躊躇はいらない たとい その変貌が極端であったにしろ 妥協せぬ存在に後悔はない>> 「四季の風」は「琴しぐれ」に次ぐ夕愁白嶺による第二弾の詩集である。 「琴しぐれ」は二十歳以前の作品であるが、「四季の風」はそれ以降近作までの作品が選ばれている。