大正から昭和にかけて発行された北陸富山の詩誌「日本海詩人」の主宰者は「大村正次」である。
正次の妻キクは家庭人ながら教師でもあった。また、詩誌「日本海詩人」に「大原菊子」のペンネームで詩を発表している。
この時期にしては進歩的な女性だったに違いない。
摂津国の怪人
ゼラニューム
(少女達におくる)
大原菊子
そのまろやかな緑葉のむらがりに
繊細な一條の花軸が伸び
やがて咲きいづるであらう薄紅い
幾房の蕾をささげ
ひたすらに柔和なくびをたれてゐる。
あなたはゼラニューム。
あはたゞしく咲きみだれた燎乱の花園に
あなたは素直なたしかなあしどりで
ひとつひとつの眞紅の純情を
あなたのほそい運命の糸の上に
静かに美しく開花するであらう
あなたはゼラニューム。