屯田物語

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「そして、春」 柊 明日香歌集

2018年07月09日 | 西勝洋一

ここに掲載した短歌はすべて柊 明日香さんの作品です。

想い出をたどりいるのか母の手にほどかれてゆく吾のセーター
夫と来て古びし母の鏡台を明るき方へ少し押しやる

補聴器をつけて話せる母の声やさしくなりて夏は来たりぬ
父の恋母の恋など聞きし夜はわが裡ふかく水の溢るる

ちちははの余生に積りしごとき雪朝の光にしんと耀う
山へゆけぬ母に見せむと摘みて来しわさびの白い花を飾れり

寄り添いてりんごを選ぶ老夫婦に里のちちははふいに浮かび来
母の手をかたく握って降りんとすエスカレーターの流れに乗りて


柊 明日香さんから歌集「そして、春」を戴いた。
ご家族を詠んだ歌が多く、ご両親にたいするやさしさとおもいやりをひしひしと感じた。
昨夜、カナダにいる姪とラインで長話し、自分の娘と会話しているようで楽しかった。
うちは息子ふたり、娘とちがってラインごときでくどくどと親に付き合ってくれるわけではないが、年を取ればそれが物足りない。
柊さんの歌に接しているとき、ふとそんな詮無いことを考えてしまう老人となる。

そして、この歌・・

 太陽の匂いは母の匂いするわっと抱きて布団取り込む

母を慕う気持ちがストレートで大らかに表現されていて、かえって爽快な味わいとなった。
いい歌って一度読めば憶えられる。そんな歌である、

 真実は常にやさしき顔にあらず「千望の丘」の風に吹かれる

千望の丘は留萌の千望台だろうね。
わたしにとっても懐かしい場所、そこでの凛とした一首が印象的であった。



柊さんは増毛町でお生まれになったそうだ。
わたしは昭和44年~45年ころ留萌に住んでいたので、留萌線には何度か乗ったことがあるはずだ。廃線になるというニュースをきいて、廃線直前に増毛から留萌までの短い旅を楽しんできた。

 群来という栄華を載せし鉄路なり留萌ー増毛間廃線となる    柊 明日香