認知症の人の脳は5%くらいしか壊れていなくて、95%はまともなんだよね
関口祐加監督によるドキュメンタリー映画「毎日がアルツハイマー」(2012年)を観ました。
認知症になった自分の母親と共に暮らしながらその日々の生活にカメラを向けたドキュメンタリー。
シリーズ物で、2014年には続編「毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスヘ行く編」と、2018年、シリーズ最終章となる「毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル」が作られています。
大学卒業後、オーストラリアで30年近く暮らしていた関口監督。
映像の力に魅了されて、何本かのドキュメンタリー映画を手がけ、シングルマザーとして一人息子を育て活躍していた監督の元に、横浜で母親と暮らす妹さんから電話がかかってきます。
「母親が部屋に鍵をかけて出てこない」
それをきっかけに、認知症の症状が現れ始めた母親の介護をしようと決意し日本に帰国。
母親との日々の様子を映像に収め、YouTubeに投稿を始めたところ、100万再生を記録し注目を集めます。
それらをまとめたものが、この「毎日がアルツハイマー」です。
母と娘ですから、感情的なやりとりもあります。
何ヶ月も風呂に入らなかったり、言ったことをすぐ忘れたり、トイレットペーパーをパッド代わりにしたり、妄想、暴言、不安や焦り。
母親も自分がおかしくなっている自覚があって、「頭が狂っている」と書き記したり。
認知症になるとすべてがダメになると考えている方がみえるかもしれませんが、特に初期の段階では関口監督の母親のように、自分の変化に気がつき自覚症状のある方の方が多いです。
作品に登場する医師は言います。
認知症の人の脳は5%くらいしか壊れていなくて、95%はまともなんだよね。
その瞬間瞬間はまとも、ただ時間の連続性が途切れているからちぐはぐなことをしているように見えてしまう。
失敗してできなくて恥ずかしくて怒るのは当たり前のこと。それは認知症の症状ではない。
関口監督は自分の母親の行動をこう例えます。
ドラえもんの「どこでもドア」や「タイムマシーン」のようなもの。そこにいながら、彼女の頭の中ではどこにでも行けるし、いつの時代にも戻れる・・・
そうなんですよね、認知症の人の行動には、彼らなりの理由があって、それが認知症、特にアルツハイマーの場合、連続した時間の中の出来事として捉えられないだけ。
施設で働いていると、ついつい、徘徊や失禁、帰宅願望や不穏もすべて認知症のせいにしてしまいがちですが、それらはあくまで認知症の周辺症状。
認知症によって阻害されてしまったことへの、当たり前の、まともな反応なんですよね。
関口監督は「毎日がアルツハイマー2」で、母親が今どの時代のどの場所にいてしゃべっているのか、彼女がどういう景色を見ているのか、介護者は探偵のように観察し推理しなくちゃいけない、といっています(個人的解釈ですが)。そしてそれが楽しいのだと。
介護をなぜするのか?
その先には私たちの知らない幸せがあるかも知れない、認知症の人たちのまだ知らない幸せがあるのかも知れない。だからあきらめない。ネバーギブアップ。
親が認知症になったらどうしたらいいのか?
関口監督は地域包括支援センターにおもむき、ケアマネージャーに相談し、介護認定を受けます。
そうした流れを知ることができるものすっごく参考になりました。
家族だからできること(監督の姪っ子にあたる、よって母親にとっての孫が、とってもいい存在感を発揮しています!)、家族だからできないこと。
介護は60点でいい。あとは周りの人やプロに任せなさい・・・という認知症の専門家の意見に納得。
あれだけ外出を嫌がっていた母親が、イケメン介護士が登場すると急に素直になったり(笑)
認知症、介護、家族というテーマをあつかっていますが、全体に流れるユーモアは関口監督の個性なんでしょうね。
映画ファンとしてとても面白かったですし、介護従事者として、とても考えさせられる映画でした。
*「認知症」は病名ではなく、認識したり、記憶したり、判断したりする力が障害を受け、社会生活に支障をきたす「状態」のこと。現在日本では認知症を引き起こす原因のうち、もっとも割合の多い疾患で、6割以上がアルツハイマー病だと言われています。他の原因疾患には、血管性認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあり、これらの複合型もみられます。
アルツハイマー病では、脳の神経細胞が減少する、脳の中で記憶を司る「海馬」を中心に脳全体が萎縮する、脳に「老人斑」というシミが広がる、脳の神経細胞に糸くず状の「神経原線維変化」が見つかるといった変化が現れることがわかっています。
脳の中にβアミロイドと呼ばれるタンパク質がたまり出すことが原因の一つとされていて、βアミロイドが脳全体に蓄積することで健全な神経細胞を変化・脱落させて、脳の働きを低下させ、脳萎縮を進行させると言われています。
アルツハイマー病を発症すると、記憶障害の症状が見られ、進行にともなって場所や時間、人物などの認識ができなくなる「見当識障害」の症状が現れます。身体的機能も低下して動きが不自由になったりします。進行の度合いには個人差があり、わずか数年で寝たきりになってしまう人もいますが、10年経っても自立して穏やかに暮らしている人もいます。