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自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

ススキ紙&オオエノコログサ紙づくり(3)

2018-11-04 | 野草紙

紙に張りを与え,滲みを抑えたい場合は表面処理をします。市販の洋紙はすべてサイズ剤を用いて,滲みを防止しています。サイズ剤にはかつては膠(にかわ)や松脂(ロジン)などが使われていましたが,一定の紙質を保つ,酸性度を抑える,生産コストを抑えるなどの必要から,今では材料はずいぶん変わってきています。

和紙や,野草紙を含めた非木材紙を手漉きする場合は,大量生産ではないため,膠液やドウサ液を使います。市販品を購入して適量,4,5倍に薄めます。それを平刷毛で塗布します。

塗るタイミングは乾燥中で,かなり乾いた頃がよいでしょう。予め紙料液に混ぜておいてから漉くとか,乾燥させてから塗布することも考えられますが,液を効率的に使い,浸透をよくするにはやはりこの段階が最適です。

 

ススキ紙が乾燥しました。

 

右端の紙は下写真のとおりです。

 

オオエノコログサ紙も乾きました。

 

下写真は右端の紙です。

 

質感はパリッとしています。

 


ススキ紙&オオエノコログサ紙づくり(2)

2018-11-02 | 野草紙

さて,叩解・離解工程です。ここでは手作業も採用。もっとも基本的な道具として石臼と杵を使います。この作業で得られる繊維は,長さも太さも均一ではありません。長さが異なると,ち密さには欠けますが,強さが出てきます。引っ張りに強さを発揮します。繊維一本当たりの絡まりが増すためです。結果,好みにもよりますが紙質に味わいが生まれます。

まず煮た草を水洗いします。

 

 

これを石臼に入れ,杵でこつこつ叩いていきます。

 

やがて,繊維がばらばらになって,全体としてしなやかさが出て来ます。セルロース繊維が現れたのです。

 

これを水洗いします。紙料の出来上がりです(下写真)。これでも紙が漉けますが,まだ繊維が荒いので一部をミキサーでさらに細かくします。今回は半分程度を細かくしました。それを混ぜてブレンドするのです。こうすることで,繊維間の隙間を埋めることになります。

 

次にオオエノコログサを,上の工程と同じようにして処理しました。下写真は臼・杵で手作業をしたあとの繊維です。

 

水洗いをすると,こんなふうになりました(下写真)。ススキと違って,もともとうんと細長い茎なので当然細い繊維が取り出せることになります。この繊維についてもブレンド作戦をとりました。

 

二つの資料を溜漉きで漉きました。そして金網の上でそのまま水切りして,乾かしました。乾燥にちょうど一日かかりました。夏と比べて大違いです。これで紙の完成です。

 


ススキ紙&オオエノコログサ紙づくり(1)

2018-10-31 | 野草紙

隣県にある小学校から,紙づくりの話をしてほしい,できれば子どもたちと一緒に紙を作ってほしいとの出前依頼が舞い込みました。

お引き受けする以上は,インパクトのある中身を準備したいと思案。せっかくなので,今の季節にふさわしい材料を使って紙を漉き,それを持ち込んでみようと思い立ちました。“ふさわしい材料”でパッと浮かんだのが,ススキとエノコログサ。さっそく採集しました。ススキは穂の下辺りの茎,エノコログサはオオエノコログサの茎に決めました。どちらも葉付きです。

はじめにススキから煮ました。使ったアルカリ剤は,今回はセスキ炭酸ソーダ。重曹よりも多少アルカリ度が強いので,煮沸時間は短くて済みました。それでも4時間です。

煮始めの様子。

 

煮ている途中,何回かセスキ炭酸ソーダを少量追加投入。

 

4時間後の様子。

 

煮終わったあと,団子状に丸めると……。

 

煮汁を捨てるのはもったいないので,翌日これを使ってオオエノコログサを煮ました。

 

煮ている途中の様子。

 

煮終わったあと,団子状に丸めると……。

 

これをミキサーで離解・叩解するだけではもったいないので,今回はミキサーに加え,石臼を使って手作業で長めの繊維を取り出すことに。できれば書道用半紙かコピー用紙が漉けるとおもしろいのですが。 

 


Q「野草紙づくり,乾燥でうまくいかないのですが……」(続)

2017-08-12 | 野草紙

Kさん親子(父子)がはるばる隣りの県から漉き枠や失敗作を手にして来館。お子さんは4年生。親子で野草紙作りをテーマにして,自由研究に熱心に取り組んでいらっしゃる様子が窺えました。

紙漉き用具は,わたしが雑誌で紹介したものを参考にしてきちんと作っておられました。親子合作という話でしたから,紙作りの第一歩から親子共同の足跡が見え見事だと感じました。

下写真ははじめに見せていただいたツユクサの紙です。板で乾かしたので,腰がしっかりした紙になっています。上の方が剥がれかけていることを気にしていらっしゃいましたが,「誰がやってもなりがちなので,仕方ないことです」とお答えしました。板と紙の結合力よりも,紙繊維同士の結合力の方がはるかに強いので,繊維同士がしっかり引っ張り合った結果です。

もし無理に,ガムテープを使ってでも固定しようものなら,紙にひびが入るでしょう。それは,ツユクサの繊維が短いために,繊維の結合が破られるからです。あるいは,他の箇所で剥がれ始めるでしょう。

 

 

次に見せていただいたのは,今回の訪問のテーマどおりの失敗作(?)。タンポポの葉を材料にした紙です。海草のようになっています。

葉だけから紙を作るという発想は立派。紙繊維が短すぎて,繊維が互いに引っ張り合いながら乾いたことがわかります。板との結合力の方がはるかに頼りなかったのです。これを防ぐには,繊維がある程度長いものを集める必要があります。そうすると,繊維の同士の重なりが増えるために変形しにくくなります。

長い繊維を集めるには,葉の根元の丈夫な繊維を集め,アルカリ剤を少なめに,煮る時間も短くします。弱い繊維はやさしく扱うことにします。

 

3つ目はオオバコの葉を材料にしたもの。

タンポポのように極端な縮み方をしていないのは,オオバコの繊維の性質によるのかもしれません。長めの繊維を残すようにして紙繊維を取り出すとうまくいくはず。

 

これらの紙は,アイロンで乾燥させてもまずできません。弱々しいほどに頼りない繊維では,上からの圧に耐えられないでしょう。薄手の紙は自然乾燥でしか作れないのです。

Kさん親子は再び挑戦したいとのこと。きっとすてきな親子対話につながるでしょう。すてきな夏休みになるでしょう。

失敗はたくさんの知恵につながります。失敗から学ぼうとする積極的姿勢を応援したいですね。 

 


Q「野草紙づくり,乾燥でうまくいかないのですが……」

2017-08-10 | 野草紙

つい先日,遠方から次のような電話をいただきました。お子さんの自由研究で野草紙づくりを進めているなかで,どうしてもうまくいかないところがあるということでした。

質問事項は,「漉いた湿紙を板に載せて天日で乾かしていたら,周りから剥がれてきて丸まってしまった。何度試みてもうまくいかない。どうしてか。そうならない対策を教えてほしい」というもの。

同じような事態はよく起こります。わたしもそうした経験を何度かしてきました(今だって,時にはその事態に直面することがあります)。その結果,事の訳がわかり始めたのです。じつは湿紙は周りから乾き始めます。そのとき,中ほどの部分は湿ったままです。この様子を乾きムラということばでいい表すことができます。

乾きムラができかけると,紙と板との結合力がセルロース繊維同士の結合力より弱いために,紙は板面から引き離されるようにして剥がれかけるのです。直観で「きっと直射日光を当てて一気に乾かそうとされたのだろう」と推測。それをお聞きすると,そのとおりでした。

近々,遠路ご家族でミュージアムにお越しいただくことにしました。直接お出会いしてポイントをアドバイスできたら,と思ってお誘いしたのです。貴重な自由研究ですから,親子でぜひ完成させていただきたいですね。

乾燥工程では,一般的にはアイロンを使う例がほとんど。すると,かならず紙は多少なりとも波打ちます。これはアイロンを使うと乾きムラができるためです。これを防ぐ対策はありません。アイロンの底面にすっぽり入るなら一様に乾きますが,ふつうそんな大きなアイロンはないので根本的な対策はありません。

もしどうしても一気に乾かしたいのなら,とても旧式ですが写真印画紙の乾燥機を使うことです。

 

そうでない場合は,ゆっくり乾かすほかありません。それには次の2つの方法が考えられます。

  1. 板に貼って乾燥する場合,板の表面をしっかり湿らせておく。そして初めは天日で素早く。あとは風通しのよい日陰でゆっくり乾かすのが原則。(なお,板面には油質成分が付着していますから,きれいに洗ってから使用することがたいせつです。表面に出ているセルロース断面が大きな働きを果たします。経験的には古い板の方が使い勝手がよかった印象があります)  
  2. ステンレス網に貼って乾かす場合,終始天日に当ててもよいが,強すぎる天日は剥がれの誘因になりやすい。途中から陰干しにすると100%うまくいく。

 

わたしが今使っているのは,2つ目の方法です。

紙漉き職人が天日を利用して乾かすのは,主に冬季です。冬の日差し程度が紙の白さを引き出すのに,とてもよいといわれています。直射日光を利用して徐々に乾かすにも,冬の日差しはほどほどなのです。さらに,トロロアオイなどの天然粘剤が腐敗しにくいのもこの季節。冬は紙を漉くのに理にかなった季節であることがよくわかります。

失敗から学べることはたくさんあります。あきらめないで試みていくうちに,光明が差し込んでくるものです。

 


竹紙づくり(5)

2017-02-16 | 野草紙

漉いてから5日目です。紙が乾き,やっとステンレス網から紙をはがせる段階になりました。実際の作業は,後日仕事が休みの日に行いました。作業は慎重に慎重に。


こうして見本紙ができました。

 


できたものの,まだ繊維間に隙間があって緻密さに欠けるので,プレスして繊維密度を高めます。使う道具はガラス瓶。それをローラー代わりにして,硬い板の上においた紙を圧縮していきます。何度も何度も瓶を回転させて,できるだけ紙の厚みを薄くするのです。

 


こんなふうに手作業を繰り返して出来上がったのが下写真の紙です。

 


この見本紙と,これまでに漉いてストックしていた竹紙を数枚合わせてMさんに手渡すことにしています。 お気に召していただけるか,ちょっと心配しているのですが……。

 


竹紙づくり(4)

2017-02-05 | 野草紙

かなり乾いたなあと感じるまでに4日を要しました。たとえるなら,洗濯物を絞らずに干すのと同じですから。冬場での自然乾燥なので止むを得ません。

このままでも使えるのですが,張りのある丈夫な紙質にするために,ニカワ液を塗布します。原液を4,5倍に薄めて塗るのです。表面加工処理ですから,サイジングと言い換えてもよいでしょう。書道をやっている人はこういう場合ふつうドウサ液を塗ります。ニカワ液にミョウバンが溶かし込んであるものです。この作業で強度が増し,滲みを抑えることができます。

紙に多少の湿り気がある方がニカワ液のしみ込みがよいので,“かなり乾いた” と判断した時点での作業となります。


平刷毛でさっさと塗っていきます。たくさん塗る必要はありません。


終われば,立てかけて乾燥させます。冬の日差しなら直接当てても大丈夫。


漉き終わったときの水分の量と比べるとはるかに水分が少ないので,晴れた日なら乾くまでにせいぜい1日程度でしょう。こちらは洗濯物を固く絞って干すのとそっくりです。

これで見本紙が出来上がります。 

 


竹紙づくり(3)

2017-02-03 | 野草紙

紙漉きの工程に入りました。溜め漉き法で漉いていきます。

まず漉き舟に水を張って……。  


漉き枠に繊維を流し込んで……。4つの繊維のうち,黒色繊維から始めました。下写真は漉き舟の水を流したあとの様子です。ふつうは水に浸かった漉き枠を両手で持ってそっと引き上げます。 

木枠を外して乾かします。


2つめの繊維は褐色でいちばん荒いもの。 


3つめは,繊維の長さが中間のもの。 


4つめは,いちばん細かな繊維。 


時間が経って写したものが下写真です。夏だと半日で乾くところですが,冬はさっぱり。 

 

 
乾くまで辛抱強く待つほかありません。

 


竹紙づくり(2)

2017-01-30 | 野草紙

繊維の長さ,太さ,それに色にメリハリを付けて紙をつくると,いろんな表情が見えてきておもしろくなります。一律同じような繊維だけでつくった紙には,均質感はあるのですが,手漉きのおもしろさ,素朴さが損なわれる場合があるように思います。

せっかくの機会なので,いくつかの試みをして,Mさんがどのように解釈なさるか,それをたのしみにしておこうと思い立ちました。この試みは次のとおりです。

  ① 繊維の色を見て,2種類に区分けする。

     ⇩  

  ② 量の多い褐色繊維については打解・叩解工程で3種類の紙料をつくる。

    量の少ない黒色繊維は1種類のままとする。

     ⇩

  ③ 試作紙をMさんに吟味してもらってから,必要な紙を漉く。

こうすることで,紙質に多様な表情が現れます。

下写真は色で分けた繊維です。褐色と黒とはっきり違いがわかります。黒い繊維は黒色腐朽菌が関係してできたものでしょう。


打解・叩解工程で使用した道具はミキサーです。今回は石臼を使った手作業はしませんでした。


得られた紙料はしたのものです。①~③褐色繊維で,細かな繊維から順に並べています。④は黒い繊維です。


次はいよいよ漉く工程になります。作業の実際については次回に取り上げます。 

 


竹紙づくり(1)

2017-01-25 | 野草紙

友人のMさんは押し花絵の作家。今春,グループ展をするので作品用に竹紙(ちくし)を漉いてほしいという依頼がありました。竹紙を作品に活かして,どんな効果が現れるのか確かめてみたいということでした。

そういう提案には喜んで乗っかっていきたいとわたしは常々思っています。とはいえ,勤めの身。冬の今,晴れ間にタイミングよく漉くのはたいへん。それに乾燥も一日では到底無理です。そんななか,正月明けに紙づくりに取りかかりました。

使った竹繊維はストックしていたもの。倒木がやがて朽ちるように,竹も倒れて腐朽菌や小動物によって分解されます。分解が進んでいた竹から繊維を集めておいたのです。それを寸胴に入れて煮ました。手でつかむと,ごわごわっとした感触です。さすがに強い繊維だなあと思うほどです。


アルカリ剤はセスキ炭酸ソーダを使用しました。量は経験からみた適量で,ときどき少量追加しました。煮熟時間は5時間。思っていたより時間がかかりました。理由は量が多かったためと思われます。

 


これだけ煮ると,強靭な繊維でもかなり柔らかくなります。とはいえ,まだまだ手強い!

 


揉み洗いをしながら内皮(下写真)をていねいに取り除き,繊維だけにします。内皮は竹筒の内側にあって,主に繊維を揃える役目を果たしているもので,紙の成分としては不必要です。


冬の水は冷たく,作業は短時間でも厳しいものです。


こうして,紙にできる繊維が準備できました。

 

                                       (つづく)