自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

地域ミュージアムで考える(14)

2016-06-30 | 随想

これからのミュージアムは,どこまでも市民の目に立ってそのあり方を問い直し,問い続けなくてはなりません。ちいさな取組でも安易な内容のもので,血税の無駄遣いにつながることは許されません。市民が収める税がじゅうぶんな吟味を経ずに使われているとすれば,大問題です。逆に,ちいさな取組でも,市民を含めて来館者のこころをくっきり刺激できるものは,積極的に取り入れていかなくてはなりません。この点は市民も納得できるでしょう。市民参加・地域おこしにつながる試みは交流の場づくりに役立つわけですから,益々たいせつにしていく必要があるはず。

ミュージアムに身を置く者として,あらゆる仕掛け,つまり施設の活用方法を検討し,吟味したうえで実行できるものは大胆に実行に移していきたいと思います。そうしないと時代に乗り遅れるでしょう。ミュージアムとしての感度も鈍るでしょう。運営センスもガタ落ちしていくことでしょう。運営に腐心すべき者が旧態依然の構えしか持てなかったとしたら,もう朽ちてゆくほかありません。

ずいぶん偉そうな書き方をしてしまいましたが,人口減少と施設の老朽化(維持費の増大)という大課題に直面するなかで,のほほんと仕事をしていればそういう成り行きになって当たり前です。施設のこれからは,人のこころの勢いが左右します。必要性を感じるか,思い入れがあるかどうかにかかっています。この場合の人とは,スタッフであり,市民一人ひとりです。

わたしがミュージアムで仕事をできるのは,そうしたわたしの思いが運営母体のなかで理解をしていただいているからだと思っています。できる,できない,は別にして,さまざまな仕掛けを投げかけ合い,議論を深めたいと思います。

今,いちばん大きな仕掛けだと思い,検討を続けているのが“プラネタおはなし会”です。ミュージアムの目玉施設であるプラネタリウムを市民に提供し,絵本の読み語りに活用してはどうかというものです。


先日,図書館職員及び図書館ボランティアの皆さんとの打ち合わせとリハーサルを行いました。本実施に向けては,著作権上の問題など解決しなくてはならない課題がいくつかありますが,皆さん,やる気満々です。エネルギーが満ちていました。わたしとしてはありがたいばかりです。


無理をせず,市民参加の工夫を軌道に乗せていきたいと思っています。チャレンジできることで新しい何かが湧き起こります。わくわくしています。 

 


クモを狩るササグモ

2016-06-29 | 生物

キンカンの木のあちこちに,クモがいます。いくつかの種類がいます。そこを訪れる昆虫が多いからです。葉の色に近い色でもしていれば,昆虫の目に付きにくいはず。油断している隙に,パッと襲いかかるともう逃げられません。

昆虫が襲われるのは自然の摂理なのですが,なかにはクモが捕らえられる例があります。そうそう目にするわけではありませんが,珍しい光景なので印象に残りました。わたしが葉を手に持って写しても,クモは平気でした。あくまで ここにいるぞと決意表明しているかのよう。状況を考えると,下の白いものが卵の入った卵のうなのでしょうか。そうだとすれば,卵を守る母親の意志が現れていることになります。

 
長い脚が,長い脚に完全にとらわれています。でも,ほんとうはこの母が脱皮して捨てようとしている殻なのかもしれません。でも,成体が脱皮するのかなあ。殻の脚にある棘が,葉はそっくりで気になるのです。もしそうなら,今回のわたしの解釈はまちがっていることになります。

 
大きいのが勝つに決まっているような場面です。


翌日見ると,同じところでじっとしていました。指をからだに触れても動じる気配はありません。これも子のため。堂々たる母の姿です。それで,口の辺りに持っている物体は前日の獲物の一部のようです。いったい,なぜ?


生まれたり,食べたり,卵を守ったり,……,そんないのちのドラマがゆたかに,途切れることなく続いてゆきます。いつも「ほほーっ!」とこころを揺さぶられます。

 


紙づくりと粘剤(3)

2016-06-29 | 野草紙

サネカズラは山野のあちこちに自生しているツル植物です。百人一首にも出てくるので,ご存知の方も多いはず。竹藪や林にでも行けば,竹や木を支えにして上の方に伸びている光景を目の当たりにできます。このサネカズラ,一年中緑の葉を付けているので,利用期間がずいぶん長いといえます。もちろん,成長の旺盛な夏期が最適なのはいうまでもありません。


子どもの頃,わたしは“石鹸の木”という別名で教えてもらった記憶があります。葉を揉み潰すと粘っとした液が出てくるので,以来強い印象を持ち続けています。その液がいかにも石鹸に似通っているように思った人があったのでしょう。秋になる実も,付き方がにたいへん特徴があり,赤くて優雅に見えます。この実を見るたびに「ああ,サネカズラに実が生る頃を迎えたなあ」と今でも思います。

別名「ビナンカズラ(美男葛)」と呼ばれるほど人の生活と結び付いた側面を持っています。これから取り出された粘液を髪に付けて,整髪料として利用したのだそうです。それもずいぶん長い間使われてきたようで,知る人ぞ知る身近な植物です。

粘液を取り出す材料としては,わたしの一押し植物です。サネカズラのからだのどの部分を使ってもOKです。

今回は葉と茎を別々に使って,粘液を取り出しました。

まず葉を木槌で叩いて潰してから,そのまま一晩水に漬けておきました。もちろん,初めから布でくるんで水に漬けておいてもよいのです。


茎を叩き潰して水に浸けていたら,しばらくしてもう粘液がたくさん出て来ました。一晩,このまま水に浸けておきました。

  


紙づくりと粘剤(2)

2016-06-28 | 野草紙

粘剤(“ねり”)を身近な材料から得るには,粘液成分を体内にもった植物を利用すればよいでしょう。

納豆は大量になくては,適量の粘液を得ることができないのでひとまず候補外。それ以外で頭に浮かんでくるものといえば,オクラ,モロヘイヤ,ツルムラサキ,オオマツヨイグサ,サネカズラなどがあります。実際にそれらを使って粘液を取り出し,紙づくりに使いました。その経験談をお伝えしましょう。

もっとも手に入りやすいのがオクラでしょう。使うのはオクラの実。5,6個もあれば大丈夫。

 
近くに栽培農家があれば,葉,葉柄をわけてもらうのも名案。実にこだわることはありません。からだ中に粘液成分を持っているからです。このことは他の植物でも同じです。


木槌で叩き潰してから,薄い布生地かメリヤス生地で包んで水にしばらく浸けて馴染ませておきます。粘液をたくさん取り出したい場合は,一晩浸けておくのがよいでしょう。

 

 
水に馴染んできたら,何度も揉んで,硬く絞ります。すると,粘液が出て来ます。緑色の粘液です。揉む➡水に浸す➡揉む➡水に浸す,この繰り返しをします。

 
夏だと,野外でオオマツヨイグサが採集できます。ここでは,花だけを使って粘液を取り出しました。

 
要領はどの材料でも同じです。

 
絞ると……。粘液が尾を引くようにしてゆっくり落ちて行きます。黄色の花なので,液もそれに近い色をしています。

 
オクラ粘液とオオマユヨイグサ粘液をコップに入れて,比べてみましょう。左がオクラ,右がオオマツヨイグサです。


この粘液を紙料に加えて漉いても,色はほとんど気になりません。同じようにして,モロヘイヤもツルムラサキも利用できます。こうして自然の材料を使うことで,素材としての植物と,いわば対話することになります。これが“経験知”にもなるのです。安易に合成糊を使うことでは得られない“知”です。

次回は,もっと成長期間,利用期間が長い植物であるサネカズラをご紹介します。 

 


キタキチョウの成長(1)

2016-06-28 | 昆虫

6月19日(日)。雨。幼虫が雨に濡れてじっとしていました。体長6mm。2齢かと思われます。体色と若枝と,見分けがつきにくい! 所在を見失ってはいけないので,幼虫のいる小枝を切りとって水に挿しました。


すっかり枝に溶け込んだよう。 

 

6月22日(水)。体長16mm。ぐっと育ちました。

 
律義な食べ方で,一枝の葉を無駄なく食べ切っています。枝を挿した容器の周りには細かな糞がいっぱい散らばっています。

 


 


紙づくりと粘剤(1)

2016-06-27 | 野草紙

「紙づくりに必要な材料はなにか」と尋ねると,返って来る答えのなかに必ずといってよいほど「糊!」が入ります。それも,自信満々に。理由を尋ねると,「繊維と繊維をくっ付けるため」という答えが返ってきます。「洗濯用の液体糊を入れるのを見たことがある」「実際にそれを入れて漉いた経験がある」なんていう声も出てきたり。

それらは,糊が接着役を担っているという先入観にもとづいています。ただ,“先入観”はあくまで思い込みです。紙を漉くのに,糊の類いを入れる必要はちっともありません。水の中で繊維をかき混ぜて均一に近くバラけさせておき,それを使えばいいのです。紙材料として要るのは,植物繊維,そして水だけ。

                 私家版『野草和紙作り入門(Ⅰ)』


これはずっと以前に取り上げた話題でもあります。簡単にいえば,水が接着役を果たしているからなのです。ミクロの世界の話になりますが,水分子が繊維と繊維とをくっ付ける役を果たして,それが蒸発すれば繊維同士はなかよく手をつないでいるというわけなのです。これを化学用語で“水素結合”と呼んでいます。

ちなみに,水以外の液体のなかで漉くと紙はできません。たとえば,身近で扱いやすいものにアルコールや石油があります。このなかに植物繊維を入れて漉いても,乾いたあと繊維を触ると,もろくもボロボロッと崩れてしまいます。植物繊維なのに紙にならないのです。

話をもとに戻しましょう。先に,この水に紙料を入れてかき混ぜると説明しましたが,実際に漉くとなると,均一な紙にはなかなかなりません。漉いた直後に湿紙を透かしてみればわかりますが,繊維があちこちで綴ったようにかたまっているところ,繊維がすくないなあと感じるところが入り乱れています。

わたしたちが日常使っているふつうの紙も,透かして繊維を見ると,濃淡があることがわかります。別の言い方をすれば,まだら模様に見えるでしょう。それも繊維の微妙な多さ。少なさを物語っています。繊維が多いのは繊維同士が密着しているからです。濃淡がはっきり確認できる紙ほど,紙質としてはよくありません。

この濃淡を防ぐ方法が“粘剤“を入れる手なのです。粘剤は“ネリ”とも呼ばれています。“ノリ”ではありません。この点が重要です。粘剤は文字通り,粘りのある液です。たとえば,オクラを食べるときの粘り気,納豆を食べるときの糸を引っ張るような感触を想起してみてください。

これを水に加えて,紙料とともに万遍なく手で撹拌します。すると,はじめ指に絡みついていた紙料が指の間からスルスルッともれ落ちて,指に残らなくℬなります。これは,繊維一本一本が粘剤にくるまれて,繊維同士が密着しなくなるからなのです。この状態で紙を漉けば,繊維が均一に散らばった紙がつくれます。

粘剤を入れる効果はもう一点あります。漉き枠から水がしたたり落ちるのに,時間がある程度かかるという点です。粘剤が入っていなければ,水はあっという間に落ちてしまいます。ゆっくり水が落ちる場合,漉き枠を前後左右に軽く揺すって,紙の暑さを均一に整えることができるのです。

わたしの知る職人さんは,粘剤の材料としてトロロアオイの根から取り出す粘液を利用されています。自宅近くにあって,卒業証書を毎年手漉きしている小学校でも同じです。

トロロアオイはアオイ科の栽培です。からだの至るところに粘性物質が含まれています。根にはとくべつたくさんあります。それを木槌で叩いて,木綿生地で包んで水に浸しておくのです。木綿袋を持ち上げると,粘液がしたたり落ちるようになります。この液は生物性なので,夏期は腐りやすく,できるだけ早く使わなくてはなりません。保存は,防腐剤をつけた根を冷蔵庫に入れておきます。

この粘液には接着効果はありません。生物性ということばを使いましたが,粘液のまま外で放置していると,夏だと一週間で粘性がなくなります。はじめネバネバ,一週間でサラサラ,という感じなのです。要するに,漉くときだけにその性質を活かしているわけで,先人がこれを発見したスゴサを感じずにはおれません。

学校で紙をつくるとき,合成洗剤を入れる例があるようですが,以上のことを踏まえて,敢えて粘財として活用しようということでしょうか。繊維同士を接着しようということでしょうか。ちょっと気になります。

では,わたしたちが少量の紙を漉く場合,どうすればいいかという話になりそうです。この続きは次回に。

 


アカツメグサに産付されたモンキチョウの卵(後)

2016-06-27 | 昆虫

未明にふしぎにも目が覚めました。「そうだ,卵の確認をしておこう。遅すぎでなければよいのだが……」と思い,卵のところへ。

見ると,これもふしぎ! まだ孵っていないものの,殻に穴が開けられつつあるところでした。「間に合ったー!」。“虫の知らせ”なることば,ほとんど信じていませんが,ほんとうに虫が知らせてくれたかのような,偶然の一致。 


頭をぬっと出すと,一休みすることもなく……。 

 
身を乗り出して……。


緩やかにでも動くものをシャープにとらえるのはむずかしいこと。暗い中でのピンと合わせともなるとなかなかです。第一歩を大地(?)に着けました。 

振り返ると,すぐに卵殻に取り付きました。 


そうして貪り食い続けました。見る見る間に殻が小さくなっていきました。 

 
モンキチョウの孵化については,かなりその進み具合が見えてきました。これも生態に近づく手掛かりになります。うれしいことです。 

 


アカツメグサに産付されたモンキチョウの卵(前)

2016-06-26 | 昆虫

河川敷に行ったとき,モンキチョウが舞っていました。目で後を追っていると,そこらに生えた葉にとまったり,シロツメクサの花で蜜を吸ったり。産卵行動には至りませんでした。

ふと,「それなら,卵を産み付けた葉があるかもしれない」と思い,アカツメグサを見て行くことに。シロツメクサならわたしの経験の範囲ではそう珍しくはありませんが,アカツメグサはそうでもありません。見て行くうちに,うれしいことに1つ目にとまりました。赤みがかった卵です。


葉を採集して持ち帰ることに。そうして撮ったのが下写真です。


トリミングすると……。すっくと立っている姿が美しい,この一言に尽きます。それにしても,自然の接着剤の威力,大したもの。全体が赤色でああるものの,濃淡がはっきり感じとれます。孵化が近づいているのです。

 
24時間後。色の濃淡がもっとはっきりしてきました。下部にその変化が現れています。

 
それから10時間が経ちました。日付が変わる時間帯です。上の方には頭部が黒く見えています。胸脚らしいものが3本確認できます。いよいよ孵化が近づいてきたようです。しかし,すぐには始まらないとみて,一旦就寝。数時間後に起きればだいじょうぶ,との見通しを持ちました。

 


シロツメクサにヒラタアブの囲蛹(2)

2016-06-25 | ヒラタアブ

6月17日(金)。翡翠のような透き通った緑は変わらず。孵化までにはまだ日がありそうです。

 
6月20日(月)。大変化! 緑色が失せて,透明感が一層増しました。結果,空気の泡のようなもの,脚のような真っ白なものが見えています。初めて見る光景,興味深い光景です。

 
6月21日(火)。見ると,なんと蓋部分がパカッと開いていて,すでに成虫が飛び去ったあとでした。またもや,肩透かしです。


それにしても,こんなに早く羽化してしまうとは!


偶然すぐ近くにヒメヒラタアブがいて,タンポポの花で花粉を舐めたり,葉にとまったりしていました。殻の大きさからみると,たぶん,ヒメヒラタアブが出て来た気がしますが,どうでしょうか。このシリーズ,もっと続く見込みだったのがこれで終了です。
 

 


ノイバラの木にナナフシ

2016-06-24 | 昆虫

ミュージアムで飼育中のナナフシは順調に育って,ずいぶん大きくなりました。


さて,休みの日のこと。自宅近くの河川敷の竹藪に行きました。藪に入ったすぐのところに,ノイバラの木が生えていました。この木はあちこち,ほんとうにたくさん自生しています。

木にナナフシがいないかなと思って,探し始めた途端! そこにナナフシが1匹! なんと運のよい出合いでしょう。木漏れ日を浴びて,からだがきらきら。写真に写っている葉はヤブガラシ。それが木にからんで伸びているのです。


ミュージアムのナナフシを見て,ある親子がこうお尋ねになりました。「イバラの葉を探したら,ナナフシは見つかるのでしょうか」と。わたしは「そんなに見つかるとは思われませんが,根気強く探せば見つかるかもしれませんよ。イバラの葉が大好きですから」とお答えしました。実際,探してもいつもいつも見つかるわけではありません。


その会話が気になっていて,ノイバラを見るたびにナナフシはいないか確かめる習慣がついていました。それで,竹藪でナナフシを見たとき,あのときの会話がよみがえってきたのです。

今度,もしリピーターでお越しになったとき,「いかがでしたか」と尋ねたいなあ。そして,わたしが出合ったナナフシのことをお伝えしたいと思うのです。

ちょっとこころにとめて自然に浸っていけば,思いがけないいのちとすてき対面ができるってことです。感謝。