出勤前の慌しい時間帯のこと。偶然,葉からぶら下がっている幼虫を見かけました。生まれてから日が経っていません。体長はほんの5mmほど。宙ぶらりんになって,クネクネ曲がっています。風が吹いて,揺れています。今にも落ちそうなのです。
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からだを支えているのは命綱。綱役の絹糸は細すぎて,わたしの肉眼では見えません。しかし,ぶら下がる糸があるから,落下せずにこの位置にいることができる筈,と理解できます。
わたしは,これまでに何度かこういう格好になった幼虫を見ました。自然界でも見ました。それらはそれぞれもっと大きな幼虫期にある個体でした。今回は一齢幼虫なので,印象がまた違っていました。「こんな幼虫もちゃんと糸を出して,いのちを守っているのか」と感慨のようなものを感じたのです。
それで,翌日試しに家の中に植木鉢を持ち込んで,意図的に同じ状況をつくりだしてみました。爪楊枝の先で軽く押し下げるだけでよいのです。すると,すぐに葉から2,3cm離れます。何度繰り返しても,うまくいきます。一齢幼虫のときから,いざという場合に備えて絹糸をちゃんと出しているのでしょう。
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ぶら下がった幼虫は,時間はかかりますが,クネクネしながら元にちゃんと戻っていきます。そう簡単に息が絶えるなんてことはないわけです。
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どうやら,糸を肢で抱えているように見えます。もじゃもじゃっとしている塊りです。これも,授かった知恵なのでしょう。
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自然の中で生きようと思えば,外敵だけでなく気象条件に災いされることもあるでしょう。小さなときは,吹けば飛ぶような存在です。一瞬の風や,たたきつける雨粒に,飛ばされないとも限りません。そうした災難を最小にとどめるためのしくみが,絹糸です。あっぱれです。