自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

「コットン紙,できませんか」(7)

2021-05-02 | 野草紙

細かくなった(と思われる)コットンの繊維を水に入れ,そこにネリを加えて撹拌。とにかく十分に。しかし,太めの繊維束が残りました。これはコットン繊維の性質が関係しており,今のところわたしの手では改善方法が見つかりません。

 

それでも漉けばその繊維束が均一に散らばるので,そんなに問題はないのかもしれないと思い,漉くことに。

市販のコットン紙は厚みがあって,腰がしっかりしているもののふわっとした感触をしています。温かみがある,といった印象です。印刷すると,印字部分が表面に食い込んでそれなりに凹凸が現れます。それを思うと,紙料を多めに流し込んである程度厚みのある紙にするのがよさそうです。

その紙質を求めて,わたしは次のようにして漉くことにしました。

 ① 両面から圧を加えてしっかり水切りをする。➡ふわっと感を抑制し,腰を強くするためにドウサ液を塗る。➡アイロンで一気に乾かす。

 ② これまでどおり,ステンレス網にのせて自然乾燥をする(途中,ドウサ液を塗る)。

①②を比べることで,良質な紙をつくる手がかりが得られるかもしれません。①のアイロン法では乾きムラが出やすいので,乾燥による影響を最小限に抑えるために葉書サイズの紙を漉くことにしました。要するに紙サイズの如何にかかわりなく効果を見定められたらよいのですから。

①の工程のあらましを書きとどめます。

■ 溜め漉きをする

 

■ 木枠を外して圧を加えて水切りをする

■ 新聞紙で水気をとる

■ ドウサ液を塗る

■ アイロンで乾かす

 

 

乾かし終わったばかりのコットン紙。

 

■ できた紙を本に挟んで平らにする

平らになった紙を透かしてみると,コットン繊維の粗密が目立ちません。加えて乾きムラもなし! 8割方うまくいったのでは? 長い道のりでした。やっと,やっと! やれやれ。ほっ!

 

なお,②の自然乾燥でつくった紙もまた実用性から見ると,なんとか耐えられるものとなりました。コットンの場合は,水切りを自然任せにするより,水切り工程でできるだけ圧を加えて水気を減らしておくのがより望ましいとわかりました。

 

今回の試みではっきりしてきたのは「離解・打解・叩解工程では,ネリを加えてからミキサーで撹拌すると繊維の塊り(ダマ)が減る」「繊維の塊りがほどほどに残っていたとしても,それらが均一に散らばる結果,紙質がそんなに落ちることはない」という点です。遠回りしてきた分,大きな発見に思えます。

ところで,プロの職人さんに会ったときこうお尋ねしたいです。「大量のコットン繊維をどうやって離解するのですか」「紙料をつくったとき,繊維はほんとうに一本一本がばらけているのですか」「腰の強いコットン紙を漉くコツはなんですか」「……」。問題意識を持ち続けようと思います。

 


「コットン紙,できませんか」(6)

2021-05-01 | 野草紙

糸の塊り(ダマ・ネップ)ができないようにするには,短めの繊維にネリをしっかり加えて混ぜる手がまず浮かぶ案です。

手元にある繊維を1cmより短く切りました。考えてみると,繊維は縦横に絡み合っているので,1cmに切ったとしてもそれより長いものがたくさんあることになります。わざわざ長めの繊維を混ぜなくてもうまくいくはず。

というわけで,切ったのが下写真のもの。

 

これをミキサーに入れ,粘剤を加えてスイッチ! 単なる撹拌でなく,離解・打解・叩解を合わせた工程になります。粘剤の入った水は少量。繊維共で容量の三分の一以内。それが躍るような動きになるのが,ミキサーの回転力を生かす目安です。

 

これを取り出して水洗い。洗っていて,やはりダマ状の筋が無数にあります。もうこれ以上はわたしの手には負えません。実のところ,職人さんが手漉きされた直後の写真では,繊維がどろどろ状態に見えます。スゴイ!

わたしの手でできたものが下写真の繊維です。繊維自体は細かくなった感じがします。ひとことでいえば,“ふわっと感”ですね。でも,どろどろ状態には程遠い!

 

おしまいに,容器に入れて水と粘剤を加え,手で撹拌。太めの筋が均等に散らばっています。均等なら,紙料を流し込んだとき,均一に散在することになるため,紙質としては大きな問題にならないのかもしれません。

 

次回は,コットン紙の紙漉き作業について触れます。

 


「コットン紙,できませんか」(5)

2021-04-30 | 野草紙

今回のコットン紙はできたものの,期待したほどの成果は上がりませんでした。

それで,問題を整理して今後のわたしの願いを実現するために,専門家の知恵をお借りすることにしました。

まず,わたしの知人の和紙職人に尋ねてみることに。彼がいうには,「以前に自分もある企業から相談を受けて試作したが,普通のやり方ではできず,やむなくコウゾを混ぜたものをつくって届けた。普通ではまず無理だと思う」との返事でした。

次に,コットン紙の情報を集めました。100%コットンを使い,他に何も混ぜていない紙をコットン紙ということがはっきり書かれています。なかには,純度についていい加減な表現もありますが,とにかく純粋コットン紙がヨーロッパを中心に漉かれてきたのです。

最大の問題は,わたしが思っていたとおり叩解工程にあることがわかりました。繊維の長さもさることながら繊維をどう叩き砕いて,細かくするかというところに絞られています。コットン繊維は細いので繊維の塊“ダマ”ができて当たり前,それを防ぐのが叩くという工程だと明記されていました。わたしは思いました,「やっぱりな」。

下写真は今回,わたしの普通のやり方で取り出した紙料です。一本のように見える繊維は何本もの繊維の束です。精一杯に取り組んだ結果がこうなのです。

 

それで,できるかどうかわからないし,自信はありませんが,とにかくさらに繊維を細かく泥状・粘状にしてみて,そこに長めの繊維を加えるという手を採用することにしました。繊維を細かくするには,5mm程度に切って,ミキサーでとことん潰します(もちろん,時間を掛けて手作業で叩いてもよい!  でもたいへん!)。

この壁が乗り越えられれば,素人にも純粋コットン紙がつくれることになります。さて。

 


「コットン紙,できませんか」(4)

2021-04-29 | 野草紙

難度の極めて高いコットン紙づくりなのですが,ここでストップしてはなんだか悲しい話。とりあえず試作できたものですから,今度は十割コットン紙を漉くことを念頭にさらに工夫してみようと思いました。改良点は次の3点です。

  1. できるだけダマを少なくするため,繊維を短く切る。
  2. できた紙料が均一に散らばるように粘剤を入れてからミキサーにかける。

さっそく知人に連絡してコットンを持って来ていただきました。前と同じようにアルカリ剤(セスキ炭酸ソーダ)を加えて煮ます。

ここでちょっと付け加え話。わたしの紙づくり法なのですが,強アルカリ(水酸化ナトリウム)は絶対に使いません。理由は簡単です。だれでもが,安全に紙づくりをたのしめることが主眼だからです。この点,ゴーグルで目を保護し,ゴム手袋をつけて行う紙づくりは推奨できません。

煮終わったあと,離解・叩解工程ではミキサーに頼らざるを得ません(手作業でやらない限り!)。叩解のはじめから粘剤を加えて処理します。これはできるだけダマの数を減らすためです。繊維をいったんきれいに水洗いしたのち,再び粘剤を加えミキサーにかけます。前回は手でかき混ぜるだけでした。改良点1で「できるだけダマを少なくする」と書きました。その手だてとして,手に代えてミキサーで撹拌するのです。おまけに粘剤を徹底して使います。

コットンの色が茶色なのは和綿の特徴です。

 

結果,すこしはダマが目立たなくなった感じがしますが,期待したほどの効果は得られません。困ったなあと感じながら,とにかく最後までやってみることにしました。

でき上がった紙料を容器に移し替え,さら粘剤を加えて手でかき回しました。下写真がこのときの繊維の様子です。やはり繊維の細かな塊が散在しています。

 

この紙料についてはこれ以上の改良策は見当たらず,漉くことにしました。

 

結局,良質のコットン紙をつくるには最小単位の繊維を最大に分離するほかはありません。いってみれば,繊維がどろどろ状態になって,それより長めの繊維が適当に散らばっているというイメージです。長いものがないと紙の強度が保てません。

そう考えると,繊維をさらに短めに切る,具体的には5mm程度に切っておくとそれに近い紙料が得られるのかもしれません。高水準の粘状処理といってもよいでしょう。

さらなる試みが続きます。

 


「コットン紙,できませんか」(3)

2019-12-11 | 野草紙

こうしてそれぞれの紙が乾燥しました。なんとかフラットな紙が完成。写真中の紙のサイズはA4です。

 

これが十割コットン紙です。右はプレス後のもので仕上がっています。左はプレス前のものです。 まだ腰が弱いので,表面処理が必要です。まあなんとかコットン紙ができるかもしれないという段階です。絵なら描けるのではないでしょうか。

 

一方これが八割コットン紙。重なりのところを見ると,透けて見えています。このことからかなり薄く漉いてもだいじょうぶなことがわかります。

 

相談者にお渡ししたところ,びっくりされていました。これからなんとか仕上がっていけばよいのですが,さてどうなることやら。

 


「コットン紙,できませんか」(2)

2019-12-09 | 野草紙

今回は試行なので,とりあえずこの素材を使って漉くことにしました。

わたしの紙漉き法は一貫して溜め漉きです。粘財が効いていて,細かなダマがありながらも全体としては均質感があります。

 

 

このまま水から上げ,水切り。そして壁に立てて乾燥していきます。

 

 

このあと,ガンピ繊維を煮沸します。

 

 

ガンピは和紙三大材料の一つ。強力な助っ人になります。

下写真は,風通しのよい日陰で乾燥させているところです。今回漉いた紙の一部です。

 

 


「コットン紙,できませんか」(1)

2019-12-06 | 野草紙

わたしの住むまちは織物生産で成り立ってきたといわれるほど織物で生計を立てる家庭が多かったところです。今では斜陽産業になって散々なすがたなのですが,その面影はいくらでも見ることができます。

ところで,まちおこしの一環としてなんとかコットンの意義を伝承しようと各種のコットンを栽培してるグループがあります。試行錯誤を重ねて,都市交流も続けているグループです。その中心メンバーの方から「コットン紙がつくれないだろうか」と相談を持ち掛けられました。もしできるならインパクトがあるのだが,との話です。

わたしの返事は,「絵画用のコットン紙がありますが,あれだけ丈夫なものを素人がつくるのはまず無理でしょう。わたしも以前にデニム紙を漉いたり,織物製造で出て来た綿埃で紙をつくろうとしたりした経験があります。なんとかできましたが,それはとても困難な作業でした」というもの。

紙をつくるには植物繊維を水の中で絡ませればよいだけなのですが,コットンの繊維は長さ・太さは問題なくても,いわゆる"腰"が弱すぎます。いってみれば,コットンを手にすればわかるとおりふわふわなのです。これでは漉いて乾かしてもふわふわに近くなります。素人が表面処理(サイジング)をして多少腰を強くしても,コットン紙と銘打つほどの質には至りません。職人が手漉きでつくるコットン紙はわたしには夢のような質を備えた紙です。

わたしは即座に「やりましょう」とはいえませんでした。しばらく思案。そうして躊躇しつつも,まちおこしという提案を貴重な相談と受けとめ,改めて試みることを決意しました。ただ,やり方として次の内容を提案しました。

  • コットンの混合率を変えてみる。蕎麦(十割蕎麦,二八蕎麦)と同じように十割コットン,八割コットンというように。
  • コットンに混ぜる他の繊維をガンピ(雁皮)にする。

ガンピは和紙の材料で,地元の山林にも自生しています。ただ,これを混ぜすぎるとガンピ紙ではないかと指摘されるでしょう。混ぜるガンピは少ない程よいでしょう。

さて,後日,コットンとガンピが持ち込まれました。コットンの種子はすでに相談者の手で取り除かれていました。ガンピは生木です。その靭皮繊維はわたしが取り出しました。樹皮をはぎ取ればよいだけなのでとても簡単です。それをアルカリ剤で煮沸します。

コットンは繊維そのものなので煮る必要はないようなものの,多少なりともセルロース繊維以外の成分,たとえば油脂成分などが含まれていれば除去しておかなくてはなりません。そうでないと繊維同士の結合が弱まる恐れがあります。脱脂綿はそうしたうえで漂白されたもの。ここでは漂白しないものの脱脂綿に近い素材にしておくのです。コットンもガンピ同様煮ます。

 

 

次は叩解工程です。この工程ではコットン繊維をさらに適当に短くするのです。当初石臼・杵を使って搗こうと思っていました。こうすることで,繊維の長さがばらばらのものが混ざり,千切れた断面が引き千切ったようになるはずと単純に考えていました。ところが実際にやってみると,ほとんど変化が見られないことがわかりました。おまけにかなり時間をかけたために疲れました。これでは誰もがいつでも再現するというのは無理です。

 

 

そこでやむなくミキサーを使うことにしました。結果,繊維は短くなりました。この繊維を洗って水に入れ,かき混ぜてみました。すると,繊維のもつれ,つまりダマがじつにたくさんできいます。均等にばらける状態ではありません。粘財を入れて混ぜてみました。ダマはなかなかなくなってくれません。繊維同士の強い絡まりができていて,粘財がその中に分け入って分散させるまでには至らないのです。いくら強くかき混ぜても,粘財を多めに加えても無理。

 

 


野草紙の年賀状

2019-01-17 | 野草紙

ゆかいな年賀状を一通いただきました。差出人は小学校の子ども。昨年11月に紙づくりの学習で手助けをした,隣県の子どもたちです。

なにがゆかいなのかというと,材質とかたちです。耳付きの定形外葉書。それで切手は82円。耳を生かしてあるのがとても気に入りました。素材はイネ科植物であるのは見た目ではっきりしていますが,植物名は同定できません。ちょっと惜しいところ。

 

裏面には,簡潔なことばがしたためてあります。そしてすっきりと絵が。 

 

総合的な活動の時間は,人とのふれ合いを学ぶよい機会です。こうしたかたちで報告してもらうと,その後学びが進展していることが窺えます。手づくり葉書一枚で,人とのつながりを大事にする意味を子は学びます。指導者はそこまで考えていらっしゃるということです。

これまでわたしはいろんなタイプの学級から紙づくりについての相談や質問を受けて来ました。先方の取組のあり方にはいろんなかたちが見えました。それは当たり前であって,それぞれでよいわけです。ただ印象からいえば,相手(ここでは”わたし”)に対する敬意の払い方にはすてきな学級からトンデモ学級までさまざま。今回は,まちがいなくすてきな学級です。ルンルン気分に浸れたこころ遣いに感謝。 

 


ススキ紙&オオエノコログサ紙づくり(5)

2018-11-06 | 野草紙

紙を漉く場合,とても大切な点はどんなねらいでつくろうとしているのかということです。ただ紙を漉くというのでなく,漉いた紙をなにに使うのか,事前にこの点を考えておかなくてはなりません。

今回,わたしはコピー紙,書道紙,そして折紙づくりに絞りました。ねらいが決まれば,そのためにどんな工夫をするのかが決まります。大きさ,厚み,強度,そういう尺度を考慮するのです。

以下,折紙について書きます。これは薄手に漉きます。といっても,長い繊維が入っているので,市販の色紙には紙質が到底及びません。薄く漉いても,普通の目から見ると「厚いなあ」「これでほんとうに折紙になるのかなあ」という印象がどうしても残ります。それは止むを得ないことです。

折鶴をつくることをねらいにしました。それで,紙サイズを一辺10cmの正方形にします。

 

これを折鶴をつくる要領で折っていきます。

 

折り目をしっかり付けなくてはシャープな折り目になりません。

 

紙が重なるとどうしても厚みが出て来て,扱いにくくなります。

 

それでも,引っ張りに強い資質に仕上がっているので破れたり穴が開いたりはしません。

 

「よしよし」。

 

ここまで来れば大丈夫。

 

ほぼできました。

 

これで完成です。

 

秋の野に生えるススキが折鶴に変身したのです。このままずっと置いておけば,和紙と同じように千年は保存できるでしょう。この鶴は訪問先の学級への贈り物です。

 


ススキ紙&オオエノコログサ紙づくり(4)

2018-11-05 | 野草紙

乾いた紙を金網からはがします。縁にカッターナイフをそっと入れて,すこしずつ浮かしていきます。

 

手でピンと引っ張るようにしながら,ゆっくりゆっくりはがします。

 

これではがせました(下写真はススキ紙)。

 

おしまいは圧を加えて厚みを整えます。乾燥したとき,紙の表側にはデコボコ感があります。この凹凸をできるだけ少なくするのです。使う道具はガラス瓶。長机のような硬い面に紙を置き,瓶を何度も転がして紙繊維ができるだけ密になるようにしていきます。表側ができたら,ひっくり返して裏側にも同じように圧を加えます。

 

これができると,紙が完成!

片手で紙を垂れ下げ,反対の手の指で弾いてみます。紙らしい軽快な音が響きます。