昆虫に対するわたしの好奇心のことで,ブログに関心を持ってくださっている方がこんなことをおっしゃいました。
「冬に昆虫が活動しているんですね。知らなかったです!」
これは,わたしが冬開花する植物に目を向け,そこを訪れる虫を追い続けていることを知っておっしゃったことばです。ふつう,人は,昆虫たちはこの時期冬眠していると思い込んでいます。わたしもまた,以前はそうでした。それで,たまたま真冬に訪花・吸蜜中の虫に出会うと,たいへん意外な思いがしていたものです。
しかし,近頃はそんな思いがすっかり消えています。それで,この方にこうお答えしたのです。
「色が付いた花が咲くのは,花が『ここに咲いているよ!』って虫たちにメッセージを出しているからですよ。匂いがするのもメッセージ。花が毎年同じ時期に咲くのは,虫の訪問を当てにしているからですね。ということは,花が咲いていれば必ず虫がやって来ているとみるのが順当な受けとめ方です。冬,比較的暖かな日には虫が観察できます。冬に咲く花は開花期間が長いですね。時間をかけて虫を待っているのではないでしょうか」
冬活動している昆虫は,絶対数は多くありません。それは花の種類・数を思えば理解できます。しかし,すくない中でその個体に出会えるのは大いなるたのしみでもあります。
今,オオイヌノフグリが道端に咲いています。数はかなり多いです。
ホトケノザも花を付けています。これらの花にも時としては,訪れる昆虫がいるかもしれませんが,たいせつなお客であるヒラタアブはほとんどが蛹越冬中です。わたしが昆虫をずっと待っていても,まず,観察できないと思われます。こういう事情ですから,オオイヌノフグリが訪花昆虫を当てにしていても受粉が叶いません。叶わないと,無駄花になってしまいます。
そんな無駄なことを,この植物がわざわざ進んでするわけがありません。じつは,昆虫の働きがなくても結実に至る見事なしくみを整えているのです。一言でいえば,自家受粉(近親結婚)という戦略です。言い換えると,保険金をかけているようなものです。
ところが,その戦略だけに頼っているととんでもない事態に対応できない恐れがあります。遺伝子の多様性が確保できないため,種として環境の変化に応じていけないかもです。たとえば気候やウィルスによるダメージは,種を絶滅へと導きます。
絶滅というとんでもない事態を想定しておくために,昆虫の活動期には他家受粉によって種子を生産する戦略に移行します。まことにうまくできています。
そんな話をしていると,その方は「なんとスゴイ世界なのでしょう。わたしの目ではちっともわからないことです。大好きなオオイヌノフグリに,大きな秘密があるんですね」とおっしゃいました。