新聞記事でも,真偽のほどが怪しい例がときにはあります。以前,ある全国紙の記事に『イモはなぜ種まきしない?』というのがありました。記述展開は,主人公と先生の対話で進んで行く体裁をとっています。
その記事中,先生の次のことばは問題です(原文のまま)。
◆先生 ジャガイモの場合,代表的な品種の男爵薯やメークインは,花は咲くけど実はならないの。実がなる品種もあって,ジャガイモはトマトの仲間なので,ミニトマトを小粒にしたような実よ。熟すと黄緑色になり,1個から100~200個の種がとれるわ。
なにが問題かというと,「男爵薯やメークインは,花は咲くけど実はならない」「実がなる品種もあって」という箇所です。
研究者の話では,これらの品種には実が生りにくく,生っても極めて稀だということです。“稀” というのは,確率は低いけれども,生るには生る(生る場合もある)ということなのです。わたしは,これまでに何度もこの品種の実を探し回って,何度も見てきました。今年も,我が家の隣家の畑に,メークインの実が生りました(下写真)。
記事中の先生のことばとしては,「花は咲くけど実はほとんどならないそうよ」程度にとどめておくのがいいでしょう。
「実がなる品種もあって」という表現も間違いではないにしても,原産地でない我が国の実態からみて「(比較的)実がなりやすい品種もあって」ぐらいが適当でしょう。家畜飼料用のある種のジャガイモでは,ずいぶん実が生るという話です。どのくらいの高率で結実するのか,興味が湧いてきます。
以上が真相です。なのに,「実はならない」「実がなる品種もある」と一括りにする言い切り方はいかがなものでしょうか。
ジャガイモを研究している(してきた)人の文を読むと,男爵・メークインに生った実から種子を取り出して播種しても,不稔性なので発芽しないのだそうです。この点は,研究者の指摘を信じるほかありません。
わたしが今実験観察を続けているジャガイモは,北海こがね(ホッカイコガネ)から得た種子を発芽させたもの。これは確実に発芽するのだそうで,それを信じて植えたわけです。結果はバッチリでした。
上の新聞記事を書いた方は科学部の記者氏です。この方は,結局,限られた情報によって理だけで判断し,断定するという失敗を犯したことになります。机上で考えるだけでは,事実はなかなか見えてきません。新聞の情報は広く共有されることを前提にしていますから,記者氏の社会的責任もまた発生します。執筆には細心の配慮をお願いしたいものです。
ついでながら,実一つに最大200個の種子が詰まっているというのは役立つ情報ですが,充実した実だとそれ以上あるかもしれません。近く,我が家の畑で実った実で確認してみたいと思っています。