自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

根拠のない理は危ない(再び)

2014-06-30 | ジャガイモ

新聞記事でも,真偽のほどが怪しい例がときにはあります。以前,ある全国紙の記事に『イモはなぜ種まきしない?』というのがありました。記述展開は,主人公と先生の対話で進んで行く体裁をとっています。

その記事中,先生の次のことばは問題です(原文のまま)。

◆先生 ジャガイモの場合,代表的な品種の男爵薯やメークインは,花は咲くけど実はならないの。実がなる品種もあって,ジャガイモはトマトの仲間なので,ミニトマトを小粒にしたような実よ。熟すと黄緑色になり,1個から100~200個の種がとれるわ。

なにが問題かというと,「男爵薯やメークインは,花は咲くけど実はならない」「実がなる品種もあって」という箇所です。

研究者の話では,これらの品種には実が生りにくく,生っても極めて稀だということです。“稀” というのは,確率は低いけれども,生るには生る(生る場合もある)ということなのです。わたしは,これまでに何度もこの品種の実を探し回って,何度も見てきました。今年も,我が家の隣家の畑に,メークインの実が生りました(下写真)。


記事中の先生のことばとしては,「花は咲くけど実はほとんどならないそうよ」程度にとどめておくのがいいでしょう。

「実がなる品種もあって」という表現も間違いではないにしても,原産地でない我が国の実態からみて「(比較的)実がなりやすい品種もあって」ぐらいが適当でしょう。家畜飼料用のある種のジャガイモでは,ずいぶん実が生るという話です。どのくらいの高率で結実するのか,興味が湧いてきます。

以上が真相です。なのに,「実はならない」「実がなる品種もある」と一括りにする言い切り方はいかがなものでしょうか。

ジャガイモを研究している(してきた)人の文を読むと,男爵・メークインに生った実から種子を取り出して播種しても,不稔性なので発芽しないのだそうです。この点は,研究者の指摘を信じるほかありません。

わたしが今実験観察を続けているジャガイモは,北海こがね(ホッカイコガネ)から得た種子を発芽させたもの。これは確実に発芽するのだそうで,それを信じて植えたわけです。結果はバッチリでした。

上の新聞記事を書いた方は科学部の記者氏です。この方は,結局,限られた情報によって理だけで判断し,断定するという失敗を犯したことになります。机上で考えるだけでは,事実はなかなか見えてきません。新聞の情報は広く共有されることを前提にしていますから,記者氏の社会的責任もまた発生します。執筆には細心の配慮をお願いしたいものです。

ついでながら,実一つに最大200個の種子が詰まっているというのは役立つ情報ですが,充実した実だとそれ以上あるかもしれません。近く,我が家の畑で実った実で確認してみたいと思っています。

 


飛び込んできたサキグロムシヒキ

2014-06-29 | 昆虫

アブの季節がやって来ました。水田の周りや,イネの葉にとまっているのをよく見かけます。たいていはシオヤアブであり,アオメアブです。しかし,この種のアブはムシヒキアブ科の一種であって,まだほかのアブもいます。

先日,我が家にサキグロムシヒキと思われるアブが入ってきました。ガラス窓を開けていたので,飛び込んできたのです。この仲間はいかにもハンターというスタイルをしていていて,その勇ましい姿がなんともスゴミを感じさせます。それで,外に放つ前に写真に収めることにしました。

からだはさほど大きくはありません。腹部は褐色。脚は完全な黒褐色。脚の棘は,ハンターとしての威力を誇示しているようです。ガのような大きな獲物を好んで狩りの対象にするとか。


体液を吸いとる口吻もまことに立派。 


腹端(交尾器)は真っ黒。 


複眼辺りを接写しました。頭部の剛毛が際立っています。威嚇の意味があるのでしょうか,それとも頭部を保護するためのものでしょうか。 


ムシヒキアブ科のからだつきは,いつ見ても大したものです。このアブ,窓から放ってやると,羽音を立てて飛び去っていきました。 

 


根拠のない理は危ない

2014-06-29 | ジャガイモ

わたしは,「事実は強し」だと思っています。どんな屁理屈も理屈も先入見も,事実そのものが真実を語りますから,押し倒すことができます。事実を前にしたら,ともかく間違った見方・考え方・感じ方はギャフンです。吹っ飛んでしまいます。

近頃も,ジャガイモの実生についてそんな記事を見かけました。いかにもほんとうのように見えて,事実からは程遠いことが書かれた記事です。筆者には申し訳ないので,名を伏せて記事の部分引用のみにしておきます。

タイトル『ジャガイモの話』中の『花と実のヒミツ』の項で,次の記述があります。

この実は、漿果(しょうか)と呼ばれ、直径2cm前後の球形をしています。まさに「うす緑色のミニトマト」ってところですね。ちなみにこの漿果、ミニトマトのようにしっかりと中に種がありますので、植えると発芽してきます。翌年この種から発芽すると、根元に数mmの小さなジャガイモもきちんとできるんですよ。

おしまいの文は誤解に基づいた記述です。実際に見たことのない方の書かれた内容と思われます。

事実は,数mmどころか,数cmのものがごくふつうにできます。ゴロゴロと。たとえば,わたしのこれまでの実験でもそれを教えてくれています。下写真の茎はまだ成長段階ですが,すでに30cmを越しています。この地中に数mmのイモしかできていないなんて,想像できません。もしそうなら世界で真正種子による栽培が行われるはずがありません。手間隙かけて,汗を流して育てて,たった数mmなんてことがあるでしょうか。あなたがもし,この記事を信じて他の人に情報を提供する側に立ったら,たいへんたいへん。


小さな事柄なので誤解が生じても大事には至りませんが,そうではない状況下で大事が生じることはよくあるもの。

筆者はたぶん,種子を植えてどのくらいの大きさに育つのか,直接観察せず想像だけで「きちんとできるんですよ」と言い切ってしまわれたのでしょう。スゴク自信があり気ですが,自信の裏返しはコワイです。もし伝聞でこうした話に触れるのなら「きちんとできるらしいです」あるいは「きちんとできるという話です」ぐらいに,軽く書いておくのが自然なスタイルです。

余談で文体論の話に及びますが,文末に「ですね」「ですよ」なんてことばを多用するのは,親しさを装いながら巧妙に説得を試みる手法の典型です。会話なら理解できますが,きちんと整えるべき文体ではこうした安易な姿勢は控えた方がいいでしょう。わたしはほんのときどき,そうした表現を使う場合がありますが,それは流れの中でその方が理解が進むと感じてのことで,めったにありません。

文というものは,とくに情報を得る手がかり程度にとどめておいて,鵜呑みにしないことです。「人が書いていたから」「人がいっていたから」なんてことで物事を判断していたら,事実を自分の目で確かめる習慣を失ってしまいます。自分思考を停止させちゃいけません。根拠をドッカと据えながら,事実に即して感じ,考え,思うように心掛けたいものです。 

 


畑のジャガイモ,肥えた腋芽

2014-06-28 | ジャガイモ

今年のジャガイモの出来は予想外に多くて,作り甲斐を感じています。地上茎が鬱そうと茂っていて,「これは大きなイモが入っていそうだな」と思っていたら,そのとおりなのですから。まだ全部を掘ってはいませんので,全体としてどうなのかは不明です。

それに,うれしいおまけまで付いてきました。なにかといえば,空中イモの付いた株がいくつもあること。空中にあるイモというと,肥大した腋芽しかありません。それがジャガイモの小さなイモの風体を成しているのですから,問題意識を持ってジャガイモ栽培を試みているわたしとしてはうれしくってたまりません。

今現在,肥大腋芽を確認できている品種はアンデスレッドのみです。緑の茎に,赤いイモがたくさん付いています。第2節にも,第3節にも,さらにはその上の節にも! その様子を写真でご紹介しましょう。

茎に赤いイモが見えます。

 


部分を見ていきましょう。肥大腋芽の先から出芽しているのがわかります。まだ成長しようとする意志のようなものがみえます。 


別の茎を見ると,大きめの腋芽が付いています。 

 
第2節から上にも,ずいぶんたくさんのイモが!


肥大した腋芽からはやはり出芽しています。 

 
ここも。


土を掘って観察してみましょう。土寄せをして地中に埋もれた第2節と,地上の第3節とを比べると,はっきりちがっています。後者では,出芽の様子がはっきりしています。 

 
まだ収穫作業が続きます。さらに新たな事実が見えてくるかもしれません。 

 


卵に異変!(続)

2014-06-28 | アゲハ(ナミアゲハ)

観察を続けていて孵化をたのしみしているのに,異変が生じて孵化に至らない,という事態はなんとも残念なものです。

卵期にこんなに天敵にやられるのかとつい思ってしまうほど,卵に穴が開いている例が目立ちます。下写真もそうです。 

 
中には,二つも穴が開いている卵があります。その形からは,どうもハチが出て行ったとしか思えません。


卵の直径が0.9mm弱。その表面から出た寄生バチって,やっぱり想像もできないほどの小ささです。一度でも見てみたいなあと思うのですが。 

 


アゲハ一世代の成長(1)

2014-06-27 | アゲハ(ナミアゲハ)

今の時期に,アガハは産卵から羽化までどれくらい期間がかかるのか,それを確認してみようと思います。偶然,産卵場面を見て卵を採集したものですから,もし,きちんと観察を続けることができれば正確に把握できるでしょう。途中でトラブルがあって見失うとか,死ぬといったことがないよう願いながら,始めることにします。

6月23日(月),午後1時。目の前のキンカンの葉の裏に産卵。すぐに卵を確認して,枝ごと水入りコップに挿しました。白いきれいな色をしています。

6月24日(火)。卵の表面は黄を帯びています。なお,写真の視野幅(左右)は1cmです。


6月26日(木),
午後4時30分。黄色が濃くなってきました。かなり成長が進んできているとみえ,卵の中にモヤモヤッとした模様が観察できます。空間ができていることがよくわかります。

 

6月27日(金),午前6時。見ると,もう誕生間近の様子。こんなに早いのかと,一瞬びっくり。殻をとおして幼虫の頭やからだが見えます。


午前9時30分,誕生。産卵時からほぼ3日と20時間が経過。初齢幼虫は,殻から出るとそれを跡形もなく食べてしまいました。

 


ジャガイモの真正種子栽培,本実験(その17)

2014-06-27 | ジャガイモ

素焼きの植木鉢に移植したポット苗のその後について報告しましょう。

根元の土と,第1節のストロンを徹底して取り去った茎です。もちろん,成長予想としては,ポット植えのものと同じようになるだろうと思われました。ただ,第2節より上の節でどんな変化が現れるか,茎を敢えて四方に倒して広げたことがどんな結果をもたらすか,興味を持って待っているところです。

6月23日(月)に確認できた点は以下のとおりです。

① 第1節を中心にして,第2節にも,塊茎が形成されるが,圧倒的に第1節が多い。ここから導き出せるきまりは「イモは地面にいちばん近い節から優先的に形成される」ということ。

② 塊茎の頂芽が伸びて,葉が成長している。ここから導き出せるきまりは「イモの先には頂芽が出る箇所があり,日が当たれば出芽する」ということ。


③ 塊茎から別の塊茎が形成され,コブ状になっている。いわゆる“だるまイモ”で,この場合は二次生長の結果だと思われる。なんらかの理由で成長がいったん止まり,再びイモができている状態である。ここから導き出せるきまりは「養分が不規則にイモに貯えらる場合,ダルマ形のイモができる場合がある」ということ。

③ 色は赤紫をしている。放置しておくと,茎の緑に近づいていく。ここから導き出せるきまりは「地表に出たイモは光の影響で変色する」ということ。

それぞれの塊茎から頂芽が伸びてきています。さて,塊茎そのものはどう変化するか,気にして観察していきます。 

 


ジャガイモの真正種子栽培,本実験(その16)

2014-06-26 | ジャガイモ

根元の第1節ストロンを切除したポット植えジャガイモについて報告しましょう。

6月20日(金)。地上部が大きく育って,ポットが小さく見えます。窮屈な環境で成長しているのでしょう,葉で作られたデンプンは成長に回されるより貯蔵される方が多くなり,イモが形成されています。


ポット毎に茎が間隔を保たれているため,日当たりが比較的よくなっています。それで,イモははっきりした赤紫あるいは緑っぽい色を呈しています。なかには,第一節からストロンをたくさん出そうとしている例もあります。それらを写真で見ていきましょう。

第1節にイモがたくさんできています。地表に出ているので,貯蔵庫になるだけでなく,頂芽から葉が出てさらに伸びようとする気配があります。


大きなイモが作られています。右の茎はストロンが伸びて地上茎になったもの。途中で別のストロンが形成さて,イモが作られつつあります。 


第1節からは2本のストロンが地上茎となって伸びています。同じ節に直接イモが付いています。第3節でしょうか,腋芽が膨らみイモになりかけています。 

 
第1節にできたイモが肥大化の兆候を見せています。


第1,第2,第3節にもイモが形成されています。しかし,やはり地面にいちばん近い第1節がもっとも望ましいイモ形成位置だとみえ,びっくりするほどの数です。それぞれから頂芽が出ている様子から,まだまだ成長したいという願望のようなものが伝わってきます。 今,イモを1個だけ残して他を取り去れば,たぶん,残った1個は肥大するはず。あるいは,頂芽が勢いよく伸びるでしょう。いずれかの株でそんな実験をしてみましょう。

 
茎にイモができ,イモの先から芽が出て伸びようとするすがたは,サツマイモと大いに違っています。イモの色が緑っぽい感じなのも,サツマイモとの相違点です。

ジャガイモの真の姿がどんどん見えてきます。真実に迫るのはじつにたのしいことです。

 


ジャガイモの真正種子栽培,本実験(その15)

2014-06-25 | ジャガイモ

6月19日(木)。平床育苗箱のジャガイモはずいぶん成長して,イモがコインより大きくなったものがいくつか。


これまで肥料をまったく与えず,なるがまま,葉が茂るがままにしておきました。それで,根元付近は直射日光が当たらず,暗い感じです。この環境が地中にすこし似ているのでしょう,イモは第1節に直接付いて膨らんでいます。ストロンを伸ばすエネルギーを消費していかなくても,その方が効率的と判断したと思われます。

イモの表面は,地中にあるイモのような薄褐色でなく,緑に近い色です。これは明らかに真っ暗でなく,すこしばかり光を感じる環境下にあることによるのでしょう。

光が感じられるとはいえ比較的暗い環境にあるためか,イモが形成される節は第2,第3にも及んでいます。これは予想どおりです。その例を以下,写真でご紹介しましょう。

 


第2節にイモがある株が複数。

 


第1節にはたくさんのイモが。そこからあふれた養分が第2,第3節にも運ばれていきます。

 


蕾が付いていないので,まだ成長していくでしょう。どこまで大きくなるか,見守っておきましょう。

 


ジャガイモ,株ごとおもしろ実験(続)

2014-06-24 | ジャガイモ

以下は,6月7日付け記事『ジャガイモ,株ごとおもしろ実験』の続き話です。

地上部の節をダンボール箱や植木鉢で覆う実験を進めていますが,よくよく考えると,じつに単純な道筋に沿った試みだと思い始めました。

つまり,花が咲く前の成長期にあるジャガイモなら,茎に土を寄せるのと同じ話だということなのです。畑でジャガイモを栽培する場合,土寄せという作業が欠かせません。それは,主茎近くに,より早く,より充実したイモができるように手助けすることであり,必要なストロンがしっかり伸びるのを手伝う作業なのです。そうすれば,第2節,第3節辺りが土に埋もれて,そこにイモが形成され,さらにストロンも出てくるはず。

もう時期が遅いかもしれないと思いつつ,まだ花が咲いていない株を選んで,茎を倒し,そこに土をかけてみました。これによって,節が地中に埋まりました。 

掘り上げたときに,節に小さくてもイモらしい塊りができてれば,「やっぱり!」と合点がゆきます。というわけで,下写真は6月22日(日)の様子です。


 

当たり前であっても,ほんとうにそうなるか確かめることができれば,「事実は強し」が実感できます。