お父ちゃんの口の臭いが好きじゃった。
亡き母が、高校生の私に言った言葉でした。
良く言うなと思ったものでした。
母が小さい姉を連れて、肥えたご担いで女の家に乗り込んで
玄関にぶちまけた。と姉から聞いた。
小金を持った父は、夜な夜なその頃珍しい自転車に乗って
通っておったとか。お前に似た男の子がおるらしい。とも。
やはり多感な高校生の頃の話である。
母は、父が死ぬ間際まで身体を拭いてやっていたのである。
父が亡くなったあと、家に帰った母は、突然居間の柱を切りだしたとか。
子供を連れて、実家にお世話になっていたかみさんから聴いた話である。
ようやく元の明るい母になったのは約半年後のことであった。
若い時に習った三味線を始め、カラオケに通い友達の輪の中に
入って行った。
八畳と隣の六畳の間いっぱいに習字の手習いを広げて、
どれがええじゃろかと問われた。
デイケアで、母が作った作品を私はたくさんもらいました。
脳の血管が切れて6年生きてくれた。
さすってあげる手は節くれだっていた。
縛られた紐をはずそうとする腕の力は強かった。
母は、生涯父を愛したと思う。
子どもの私にとって、どうして父が好きなのか分からなかった。
男と女のラブソング。
二人だけにしか分からないのである。
私は、この両親の前で、人をちゃんと愛することができたのか。
胸を張って、そうです。と言えるまでもう少しかかりそうです。
水を撒き 花を振りまき 折れた母
2015年4月9日