第２章 トラキアへ １６２

　また、多島の海域では、自領の海岸線の岩礁の多さに着目して、海岸近くの絶壁の上に狼煙を上げて交易船に限らず軍船をも岩礁地帯に誘い込み難破させ、戦利品や積荷を略奪した。この件では、エボイアの領主ナオプリオスの所業が伝えられている。
　次は、多島海の南端のクレタ島のミノス王の所業である。彼は、この海域に巣食う海賊の多さに着目した。彼は、軍船を建造し船隊を充実して、この海域の海賊を一掃することを計ったのである。彼が海賊を一掃した海域では、船の安全航行が確保されて、クレタ島のクノッソスを中心に交易が盛んになり人々の生活は安定した。ミノス王は、ミノア文明を残したのである。海賊業は、農業、交易に加えて領国経営の国家事業の一翼を担った。そのうえに戦争を加えて、エーゲ海及び地中海の沿岸に存在する都市国家為政者の国富論でもあったのではなかろうかと考えられる。
　古い時代の物語を書いています。いろいろと相反する意見や考証が出てきます。それはやむをえないことだと思いながら筆を進めています。