第２章 トラキアへ １６７

　今日は葬儀を行う日である。
　ポリメストルとその軍団、そして、アガメムノンからの派遣軍との激しい戦いを交わした草原である。その一隅、海よりのところに小高い山のような塚が築かれ、その周りには木の枝や幹がうずたかく積まれていた。また、その地点より南東方向に少しはなれたところには、自然石で小さな墓が作られていた。
　太陽は、まだ朝の高みにある。その一帯に人の姿がちらりほらりと目にとまるようになって来た。三々五々人々が集まってくる、そうこうしているうちに人の波が群れで現れるようになってきた。エノスの浜より小舟を仕立てて海より来る者、イリオネス、アレテスの姿もある。アエネアスは、小さな箱を小脇に抱えた浜頭のトリタスと連れ立って姿を見せる、オロンテスも市民たちを引き連れていた。浜衆や村人の顔も見えた。
　『軍団長、皆集まってきました。少々早いが始めますか。』
　『うん、いいだろう、始めよう。アレテス、お前、気持ちが競技大会に向いているな。』
　『判りますか、私は、嘘をつけないたちのようですね』
　イリオネスは、アエネアスに言葉をかけて、葬儀を始める旨を伝えた。
　イリオネスは、大きな石を見つけて、その上に立った。