『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  264

2010-07-28 07:46:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 間一髪の危機から、辛うじて逃れたギアス。タイミングを間違えば熊の鋭い爪と腕力で取り返しのつかない重症を負うところであったのである。
 ギアスは右の肩甲骨の辺りから腕の上部に痛みを感じた。傷の具合を確かめている暇はない。右手には弓の矢を逆手に持って、ようやくにして立ち上がった。
 熊が倒れている箇所から歩数6~7歩の距離である。熊は四肢を細かく痙攣させて、草の上に転がっていた。ギアスの剣は、熊の左胸上部より深々と急所を刺し貫いていた。獰猛な熊との対峙を辛うじて制していたのである。
 ギアスに疲れがどうっ~と押し寄せてきた。彼は、身の安全を知って、我に返り、しりを草の上に落とした。同時に、感じる上腕部の痛みに思いが至った。傷は三筋の引っかき傷であるが少々深い傷で血が噴出していた。
 この騒ぎを遠くに聞きつけたトリタス隊の面々が駆けつけてきた。彼らが最初に見つけたものは、熊の巨体であり、鍔元で折れた剣の握り手であった。
 『おいっ、ギアスっ!大丈夫か』
 トリタスが大声をあげて、ギアスの肩に手を置いた。