『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  28

2011-12-14 07:50:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 別れの酒宴は少しの間続いて、アエネアスらが辞するときが訪れた。アエネアスは座から離れることが出来なかった。彼の心のうちに、もうひとりのアエネアスが住んでいるのではなかろうかと感じられた。『このような時を失いたくはない』という自分がいるように感じられた。後ろ髪が引かれるという優しい力ではない、もっと強い力が自分を椅子に押さえつけているという感覚の中にいた。
 彼は『これは何なんだ。この力を撥ね退ける!』と思案した一瞬のときである。彼の全身にエネルギーが満ちてきた。積水が決するときの怒涛のエネルギーである。
 『アエネアスっ!』
 エノゼリアスが大声で呼んだ。その声がアエネアスを打った。アエネアスのエネルギーのダムを破壊した。心身の駆動エネルギーが堰をきって目指す目標にほとばしった。アエネアスは勢いよく座から立ち上がった。
 『エノゼリアス領主っ!』
 二人は強く、互いの肩を抱いた。生涯で、もう二度とこのようなときが訪れることのない信じあえるもの同士の肩であった。
 『お~っ!お前、なかなか力があるな』
 『領主っ!あなたも』
 二人は、涙を浮かべて互いの顔を見つめあった。瞬きを繰り返して見つめ合った。