『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1213

2018-01-31 14:07:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 風を帆いっぱいにはらんでの快走である、やや北寄りから吹いてくる東風である、沿岸に吹きやられる危険度のある航走である。
 ギアスもゴッカスも操舵席に張り付いて操船に努める。半刻をかけて航走する距離をまたたく間に駆け抜けた感じで半島岬の西の端に到った。
 二艇は、南西方向に進行方向を転じる、風は真後ろからの順風として帆にはらむ。二艇は快心の走りをしてニューキドニアの浜に向かって海上を駆ける。
 イリオネスが驚いている、艇上の一同が未体験の船速を体感している、艇がふり飛ばすしぶきに濡れている。
 ギアスにとっては、艇の走りを観測するいい機会である。
 先に進む戦闘艇は、落ち着いた航走状態で波を割っている、ギアスが乗っている新艇はやや波に弄されている感じの航走である。ギアスは後方にいて二艇の航走状態を比較検討する。
 『これは艇重と衝角構造体のあるなしであろうか?』と考えた。
 艇の船速が速くなったとき、航走状態と波立ち、波浪の大きさ等海上の諸状況に対する船体の順応性であろうかと思考して課題とした。
 艇の船足が速くなってきている。戦闘艇はと目線を移すと落ち着きのある走りをしている。
 このような目線で海上を航走する艇を眺めると改良すべき点が見えてくる、ギアスは航走状態を真剣に見つめる。
 艇体の深さが浅いように見受けられる。戦闘艇に関しては如何なる海上条件であっても、それに対処できる仕様であることが望ましい、帰ったら意見の具申をしようと心に決める。
 ギアスは我に返る。海上状況と艇の走りをチエックする。操船に集中すべき状態である。
 風速は変わっていない、海上状態にも変化がない、船速が少しではあるが速くなっている。彼は幾度かの航走を振り返って思い出す、対処を考える。
 地点はと見廻す、右手に小島が見えてきている、浜が近づいてきている、ギアスは操船指示を出す。
 『帆を下ろせ!帆を下ろすのだ!漕ぎかた櫂操作で艇速を制御せよ!』
 ギアスとゴッカスの目が合う、手振りでサインを送る、了解のサインが返る。
 ゴッカスが大声で指示を出している、
 『帆を下ろせ!漕ぎかた!櫂を使って船速を制御せよ!急げ!浜が近づいている!急げ!』
 二艇の船速が遅速し適正速度となる、静かに浜に接近していく、碇石を海に沈め、艇が動きを止めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1212

2018-01-31 08:54:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、オキテス隊長、浜小屋のほうへ行きましょう』
 『浜頭、オキテスと呼び捨てにして隊長も殿もつけないで声をかけてほしい』
 『解った。ちょっとだが失礼と感じることもある。まあ~、いいか、そのようにする。ところで今日、キドニアに行くについてだが、歩きで行く、歩いていけば半刻少々時間がかかるといったところだ。船で行けば二刻余り、その4分の1の時間で行くわけだ』
 『解った了解した。朝めしを終えたら出発しよう』
 『了解!』と元気な声が返る。
 二人の朝めしは、焼きたてのパンにしぼりたてのヤギ乳である。たっぷり飲む。オキテスにとっては、珍しい飲み物である。
 『ヤギ乳とは、このようなものなのか。結構うまくていけるな、重畳!』
 二人は、足元を整えてキドニアに向けて歩き出す。道程は山越えならぬ、丘越えである。疲れを感じることもなく、キドニアの街区を通り集散所に着いた。
 『おう、オキテス、ご苦労、ご苦労!ではな!』
 『集散所の詰め所のほうへ出向くとき、浜頭、呼びに来る』
 『おう!』と返事を返すスダヌス。
 オキテスは早速パン売り場へと歩を運ぶ、オロンテスが売り場を整えている、オキテスが声をかける。
 『オロンテス、元気であったか?俺だ!帰ったぞ!』
 その呼びかけに驚き、振り向くオロンテス。
 『なにっ!オキテス。どうした?船ではないのか』
 『おう、船ではない。昨夕は、スダヌスの浜で一行は宿営したのだが、俺だけ船を下りて、集散所に報告しておこうと思ってな。浜頭と歩きで丘越えをしてきたというわけだ。船の連中は、今頃、半島岬の手前だと思う』
 『そうか、スオダの浜は、陸路をたどればそんなに遠くはないのか。まあ~、ご苦労であったな。休んでくれ』
 『おう、ありがとう。集散所方へ報告するにしても、慌てることはない。タイミングを見計らって一緒に行こう。それより、お前が焼いたパンを一時も早く食べたい!ひとつくれ』
 『おうっ!』
 オロンテスから受け取ったパンの香りを鼻で嗅ぐ
 『おう、おう、いい匂いだ!これこそパンだ!』
 パンを口に運ぶ、口中に味が広がる、味が懐かしい、胃中に落とし込む、帰ってきたという感情がこみあげてくる、心が落ち着いた。

 朝、スオダの浜を出航した二艇は、入り江口で進行方向を北へと転じて北進する、一刻余りののち、アクロリテー半島岬の東端に到る、西へと方向を転じて波を割る。
 風が来ている、風方向に懸念があるものの利する具合を考える、北東からの風である、凪終りの海風も相まって吹いている。
 ゴッカスが帆張りを決断する。後続のギアスが操船するテムノス方の新艇に目を移す。
 ギアスも帆張り作業をやっている、ゴッカスが指示を飛ばす、半島岬の北岸に沿って二艇が櫂をあげて帆走する、艇速が加速していった。