『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  192

2010-04-16 08:27:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 宴たけなわの場に無事帰着した50人が立った。宴席の皆も立ち上がった。どっと上がる大歓声、彼らを満場の皆が大歓声を持って、立ち上がって迎えた。感動の風景であった。
 アエネアス、イリオネス、アレテス、トリタスもいる、とにかく、皆が総立ちでの出迎えであった。彼らは宴席の各グループの席に散った。宴は、またもや沸きに沸いた。無事帰着の彼らの功績をたたえた。
 アエネアス、イリオネスらは、彼らの無事帰着を心から喜んでくれた。オキテス、ルドンらは、じ~んと心を突き上げる感激にむせんだ。
 トリタスの脇にいたサロマ集落のサレト浜頭が、目に涙を浮かべて、オキテス、ルドンに抱きつき心からの感謝を身体であらわし泣き崩れた。オキテスにとって、全員無事帰着が何よりもうれしいことであった。彼は、この感激を生涯忘れることのないように胸の奥に深く深く刻み込んだ。
 そのような感慨に浸って立っているオキテスの背後に、パリヌルスがたっていた。
 『オキテス、ご苦労であったな。まあ~、飲もう。』

第2章  トラキアへ  191

2010-04-15 07:26:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは驚いた。兵列を敷いて対峙した者たちもあっけにとられて、呆然とこの光景に見とれていた。
 『アミクス、タルトス、よくぞ帰ってきた。オキテスにルドン、他の者たちは、、、』
 『あれに見えます。皆元気です。ご安心ください』
 パリヌルスは、二人の足のつま先から頭のてっぺんにいたるまで、しげしげと眺めた。そうこうしている間に、オキテス、ルドンたちの乗っている船は浜に近づいて来ていた。浜にいる者たちは、満面に喜色をたたえて落陽に映える浜をにぎわせようとしていた。
 『よかった。誰か、統領にこのことを伝えろ!』
 『はい、私が行きます』
 見張りをともにしていたパリヌルスの部下が統領の許に走った。
 小型舟艇から降りた帰還した者たちと兵列を敷いていた者たちは肩を抱き合って互いに歓びあった。
 オキテス、ルドンらの船が到着した。皆、浅瀬の海に飛び込んで、海底の砂に足をとられながら駆けて来る。浜にあがってくる。
 パリヌルスは、両の手を力いっぱいにひろげて、オキテスとルドンをかき抱いた。三人に言葉はなかった。ただ、ひたむきに抱き合って、互いが生きていることを確かめあった。
 ここに、生きて喜び合える仲間がいた。

第2章  トラキアへ  190

2010-04-14 08:16:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 沖を見つめていた二人は、見たことのない三角帆の小型舟艇2隻を目にした。
 櫂座は8座、船の後尾にいる舵手が三角帆の操りと操舵を一人でやっている、船首の者が行き先を指示している。その小型舟艇の船足の速さは極めて速かった。
 『パリヌルス隊長、アレは何です』
 『うん、俺にもわからん。浜小屋にいる者たちを呼べ。武装して来いと言うのだ。急げ!』
 2隻の小型舟艇におくれて、見たことのある四角の横帆を目にした。オキテスらが帰ってきたらしい。この風景を見たパリヌルスは一瞬、安堵するのだが、彼らの姿を確かめるまでは安心できない。
 浜小屋の者たちが浜に並んで兵列を敷いた。
 小型舟艇は、浜の兵列をめがけて波を裂いて向かってくる。兵列は三歩さがって身構えた。2隻並んで全速で突っ込んできた。喫水の極めて浅い船である。浜に乗り上げてきた。
 兵列は、『わあ~っ!』 と鬨の声を上げて対峙した。
 パリヌルスはまさかと思った。息を呑むパリヌルス。彼は、『かかれっ!』の命令を発しないまま立っていた。
 2隻の船首にいた二人がとびおりてきて、パリヌルスの前に立った。
 『隊長、全員、無事の帰着です。』

第2章  トラキアへ  189

2010-04-13 07:56:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 暦で言えば、夏至が数日後である。
 日足の長い日々である。エノスの浜、界隈の人々が総出の競技大会は沸き沸いて熱狂で終えた。このあと、皆が待ちに待っている期待の宴である。宴の肴にする魚釣り競技の優勝チームはエノスの浜衆チームであった。浜の各所には肴を調理する焚き火が炊かれている。食材豊かなこの時期、この土地、皆が総出の宴の準備、人々の表情は楽しみに溢れていた。焚き火の箇所は40余りもあり、焚き火を囲む衆は30人余り、子供たちの夕陽と焚き火に映える顔は、愛くるしい微笑みに輝いていた。老若男女たちも焚き火と焚き火の炎に焼く肴との格闘に忙しかった。
 各所に立っている世話役たちが一瞬し~んとした。
 トリタスが宴会スタートの掛け声をかけた。
 『皆の衆、今日は楽しい一日を過ごした。さあ~、皆で語ろう。楽しかった今日のこと、さあ~、飲んで食べよう。』
 大歓声が上がった。世話役たちが、各グループに酒を注いで廻った。。宴が一挙に盛り上がった。
 アエネアスもイリオネスもアレテスも各グループに袖を引かれて、一箇所にとどまってはいられなかった。しかし、三人の心は落ち着きを欠いていた。海賊討伐に出かけているオキテスのことが気にかかっていたのである。
 パリヌルスは、見張りの者と西に傾いている夕陽を全身に浴びて海を見つめていた。

第2章  トラキアへ  188

2010-04-12 08:18:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ルドンの掛け声で船は、船首を北に転じた。
 太陽は真上にあり、この季節特有の南風が来た。帆は満帆に風をはらみ、船は波を割って快調に進んだ。
 『隊長。この風です、帰りは帆走でいけそうですね。少々お休みください。何か変事の折には直ちに連絡します』
 『おう、ありがとう。お前もアミクス、タルトスと話し合って、身体を休めろ』 彼らは互いにいたわりあった。
 オキテスは、船倉に下りて身体を横たえた。船倉には、闘いの血の匂いが残っていた。櫂座の覗き窓から入る風は少ないが、疲れた身体を癒した。
 肩の荷を降ろしたオキテスのまどろみの中に海賊との死闘の思いが渦巻いていた。臆病さに根ざした用心深さが、乗り組んだ者たち全員の生命を守り、オキテス自身の身をも守った。この感謝の念を誰かに告げたい思いに駆られた。それともうひとつ、彼の頭の中を駆け抜ける思いがあった。『生かされている』といった感覚であった。しかし、その思いはとどまらなかった。瞬時に頭の中を駆け抜けて消えた。
 船は、航跡を残して、一路エノスへと向かっていた。

第2章  トラキアへ  187

2010-04-09 13:35:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らがいたればこそ、この戦いに勝利した。心にふつふつと感謝の念がこみ上げた。
 オキテスは、皆が手にしている杯に、自らの手で酒を注いで廻った。心からの感謝の念をこめた酒を注いで廻った。
 『ルドン、俺に注いでくれ。』
 ルドンはオキテスの杯に並々と酒を注いだ。開口一番、オキテスは、闘いを制したことの労をねぎらった。
 『皆っ!ご苦労であった。では、乾杯っ!』 と声を上げて一斉に杯をあげ、一気に飲みほした。
 船は波に任せて海上を漂っている。各自持ち場を離れ、帆を下ろし船を波に任せた。頭の上からは夏の陽が容赦なく照り付けている。勝利の酒はうまかった。
 『皆、聞いてくれ。本当にご苦労であった。しばし、身体を休めて、帰途につく、エノスに向かう、それにしても戦利が船2隻、だが、もっと大きい戦利は、皆がこれで無事にエノスに帰れることだと俺は思っている。皆、本当にありがとう!』
 『おうっ!』『おうっ!』『おうっ!』
 皆から歓声があがった。

第2章  トラキアへ  186

2010-04-08 07:48:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 海賊船に戻ろうとした数名の海賊は、為すすべもなく、弓矢に射られて落命していった。
 サモトラケ北の海海戦は終わった。押し寄せた海賊は全滅した。島に生き残った海賊は、取るに足らない数であろうと想像された。
 オキテスは、ルドン、アミクス、タルトスを呼び寄せ闘いの後始末を指示した。
 『ルドン、これでよかったかな。思ったより時間がかからなかった。ところで我が方の損害は」どれほどだ。』
 『はい。負傷者2名のみです。隊長ご苦労様でした。』
 『ルドン、甲板及び船倉の掃除が終わったら皆の労をねぎらおうと思う。全員甲板に集合だ。手配を頼む。ところで酒はあるか。肴はどうだ。』
 『酒はあります。肴はありません。』
 『よしっ、判った。酒だけで結構だ。手配を頼む。それにしても腹も減ったな。』
 船の清掃は終わった。
 全員、甲板に集まった。負傷した二人の顔も見える。
 オキテスは、ともに闘った兵たちの汗と返り血をを浴びた顔を見つめた。

第2章  トラキアへ  185

2010-04-07 07:40:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 甲板に上がってきた海賊は、ことごとく、船上で命を断たれた。
 船倉のアミクスらも忙しかった。櫂座の窓から船倉に入り込もうとする海賊を槍で突き落とした。その数8人を数えた。奴らと渡り合っている隙をついて、船尾の窓から乗り込んできた海賊には、アミクスが対峙した。二人はにらみ合った。海賊は剣を構えている、アミクスは、長槍を剣に持ち替えた。対峙の数十秒が数分の長きに感じられる。敵は静かに上段の構えをとっていく。アミクスは、左サイド下段に剣を引いた。じりっと、間合いをつめる両者、敵は満身の力をこめて剣を振り下ろしてきた。がきっ、音をたてて天井の梁に食い込む剣、敵は、そのしくじりに気づくことなく、アミクスの剣に左胴を割られて、断末の叫びをあげて、その場にくず折れた。
 綱を使って、オキテスらの船に取り付こうとした奴らは、船に取り付く前に命を断たれて、サモトラケの海に斬りおとされた。

第2章  トラキアへ  184

2010-04-06 07:36:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、幾度となく自分自身に言い聞かせた海賊殲滅の意識に覚醒していた。生きる手立ては、それの実行しかないのである。
 ルドンの指示で兵たちは、両舷の船べりの戦闘位置についていた。
 海賊船から、十字型の鉤をつけた綱が両舷に向かって同時に投げかけられた。鉤が船べりにくいこむ、そのうちの数本は、海賊船に結びついている。海賊の奴らが一斉にその綱に取りついて、オキテスらの船に乗り移ろうとしている。船の構造も関係して、綱は思ったより短く、奴らは、オキテスらの船にとりつくのに手間隙をかけずに来るのだが、彼らは、大きな思い違いをしていた。オキテスらの船に乗っているのが、荷主や交易商人の非戦闘員ではなく、兵士たちであったことである。
 オキテスらは、群がって取り付いてくる海賊を薙ぎ払い、海へ突き落とした。彼らは断末魔の叫びを尾引かせて海中に没していった。甲板にまで上がってきた海賊は、船尾から上がってきた海賊の5人だけであった。彼らは甲板上で刃を交えた。だが、オキテスらの敵にはなりえなかった。彼らは、胴を割られる者、頭を割られる者、深々と剣の柄元まで刺し貫かれて命果てる者、甲板を鮮血に染めた。

第2章  トラキアへ  183

2010-04-05 07:24:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、操舵手に命令を発した。
 『船首を左に振れ!』
 オキテスは、衝角を海賊船に突き当てようと命令したのだ。オキテスはしくじった。
 海賊船は、衝角が自船に突き刺さるのを、間一髪で避けて、オキテスらの船の右舷方向に走り抜けた。奴らは直ちに回頭して向かってくる。片や左舷に接してきた海賊船は、オキテスらの船に並走している。右舷の海賊船も並走してきた。
 オキテスは、船倉の中に向けて声を上げた。
 『アミクス、兵10人を甲板に上げろ。そして、櫂座の覗き窓に気をつけろ!敵の姿を見つけたら、槍で突き落とせ!突き落とすのだ。いいな!』
 アミクスは、この指示を聞いて、兵5人に自らも加わって船倉内の布陣を敷いた。闘具は、兵に海戦用の長槍を持たせて身構えた。