『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  677

2015-12-15 05:38:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 売り場のスタッフ三人は、オロンテスの語りかけにうなずいた。
 『お前ら、明日一日、よ~く考えろ!明後日、君らの考えを聞いて方針を決める、いいな。明日は俺はいない』
 『判りました。よく考えます。客が喜ぶ、それは私たちにとってもうれしいことです。お客の喜ぶことを考えます』
 『おうそれでいい!考えをまとめるのだ。実行計画までにまとめるのだ。お前ら三人で考えればいい知恵が出てまとまる』
 『判りました』
 スタッフ連にとって、めずらしいことであった。オロンテスから、今回のような課題が提示されることは始めてである。彼らは少し戸惑いもした。彼らの日常業務にはこのような課題はなかった。
 スタッフの一人が口を開く。
 『おい!お前ら何を考えている!今は目の前の業務に徹しろ!今日の命題は、目の前のパンを売り切ることだろうが、今は、これに集中してパンを売り切ってしまおう』
 『おう!』『おう、判った!』と、彼らはその言い分に応じた。
 オロンテスはこのやり取り、光景を目にして、『こいつらも、なかなかだ、捨てたもんじゃないな』と心の中でつぶやいた。
 『おう、俺は、スダヌス浜頭の売り場に行ってくる。急用の時は呼びに来てくれ』彼は出かけた。
 パンの売り場には、午後の多忙時間が訪れる頃合いになろうとしていた。
 オロンテスが戻ってくる。終了時間が迫ってきていた。彼は売り場を見廻した。パンが売り尽きようとしている、オロンテスは安堵する。
 『おう、お前ら、よくやったな!気に掛けていたのだ、重畳重畳』と結果を褒めた。業務を終えるまでにパンの全量を売り切った。
 彼らにとって終わりは、明日の希望である。オロンテス以下一同の表情は明るかった。
 『おう、ご苦労であった。帰ろう!』
 一同は売り場をあとにする。帰途に就く彼らの足取りは軽やかであった。
 
 浜に帰って来たオロンテスは、オキテスとパリヌルスに価格決め会議と試乗会の予約について語り、会議の要請をした。
 彼らのこのあたりのフットワークは軽い、三人は連れ立って、イリオネスへの許へと歩を運び、明日の会議開催を決めた。
 イリオネスは三人を前にして言葉を改めた。
 『オロンテス。今日は朝早くからご苦労であった。セレストスから報告を聞いて、木札を受け取った。5日間の仕事にしては、多い木札の量であった。大変にご苦労であった』
 『おい!オロンテス、堅パンの売り上げはどれだけだったのだ?』
 『おう、木札、1650枚だ。テカリオンがいたからの仕事の結果だ。彼がいなかったら、なかった仕事だ。彼に感謝している。そして、我々に明日への展望をも開いてくれている。テカリオンに感謝だ』
 『おう、オロンテス、謙虚だな。謙虚が、『つき』を呼んでくれているといったところだな』
 イリオネスの言葉であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  676

2015-12-14 05:34:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『5日後だ』
 『判りました。日時に余裕がありますね』
 『そういうことだ』
 『心得ました』
 用件を伝えたオロンテスは、歩を返して去っていく、ギアスはその背中を見送った。
 オロンテスの頭の中は、新艇の価格の事であふれている。価格設定に何を条件とすべきかを脳漿を搾って考えている。思考が彷徨する、条件が浮かんでは消えていく。
 『条件の取捨選択か』成果の達成遂行が絶対とする価格設定でなければ意味がない。価格を決める。価格の決定がすんなりと決まるか、もめるにもめて決まるか、条件の設定が要である。
 オキテスにはオキテスが決める条件があるであろう。アヱネアスにも、イリオネスにも、パリヌルスにも彼らの条件があるであろう。条件設定の統一ありきと価格設定作業の手順を決めた。
 今は先が見えてはいない、作業を進めていく過程で順次明らかになるであろう。何としても譲れない条件設定と意思統一でこの作業と取り組むべきと心した。オロンテスは、心中にもやっとしている霧を吹き払った。
 売り場に戻り着くころには、思考の険しい雰囲気から己を解き放ち、日常の平静さを取り戻していた。彼は、忘れてはいかんとばかりに、木板と木炭を手にして思い浮かべた諸事を書き付け、安堵して、打ち合わせ会議の段取りを考えた。
 頭の中にすさぶ嵐、木板に書き付ける条件設定のリスト、何を利としての条件かを明確にするように心がけて、木炭を木板の上に走らせた。
 売り場は、昼直前の時間帯を迎えて、多忙状態である、オロンテスも売り場に立って客の応対ををする、無心で客に接するこの時間が好きであった。客と話す話題はいろいろである。オロンテスの話し上手に頷いている客、話の中に堅パンの話が出てくる、身構えるオロンテス、考えを語る、思いつくままを客に伝える、『いいでしょう。日頃の感謝に、試食会と特価提供をやりましょう。その節には、是非来てください』『おう、いいね!いつやる?』『3日後でどうです』『判った、必ず来る』と答えて客は去っていく、『お待ちしています』と背中に声をかけた。
 彼は、漠然とではあるが、堅パンの今後の方針を決めていた。堅パンのカタチと大きさ、そして、調味と食感について考え、決定の一歩手前に到達していたのである。
 多忙の時間帯が終わった。売り場に落ち着きが戻ってきていた。オロンテスの売り場チエックタイムである。彼は売りさばけたパンの個数をチエックした。スタッフ連に声をかける。
 『今日はちょっと残数が多いな。午後の客対応はススメ上手で客に接すること、いいな!』
 『判りました』
 『我々も昼としよう』
 一同は昼食タイムとした。
 『おう、お前たちも考えてくれ。堅パンの事だ。テカリオンに納品した残りがある。お客様に感謝デイと行こう。その催しについて考えてくれ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  675 

2015-12-12 05:59:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ニューキドニアに帰って来たセレストスは、イリオネス軍団長に事の次第を報告し、オロンテスから預かって来た木札を渡して、プロジエクト始終を終えた。
 『おう、セレストス、ご苦労であった。お前ら奮闘したな、大変だったろう。一言半句のねぎらいだが、統領と俺の感謝の気持ちの大きさを察してくれ。本当にご苦労であった。この木札を見れば、やった仕事の大きさが察しられる』
 セレストスは軍団長の感謝の意を受け取った。
 
 パン売り場に戻ったオロンテスは、堅パンプロジエクトの終了感に浸っていた。想い描いていたゴールを難なく突き切って決着した。安堵感を抱いた。
 彼は担いでいた肩の荷を下ろした。疲労感はない、自分の立ち位置が自覚できた。自分を突き動かす意識であり、その認識であった。
 『ネクスト!それは?』であった。『次は新艇5艇の完売か。これはちと手に余るな』首をかしげる、知恵か、度胸か、売る技倆か、我々が持っていない何かがある、彼は、それがなんであるかを思案した。
 『その何かをスダヌスが持っている。ハニタスが持っている。そして、この集散所が持っている』彼はその解析の必要を痛切に感じた。それは、今の我々ではどうにもならないことであることは自覚できた。
 これを避けて、事の成就は出来ないのではと、スタートラインに立った彼の考えの及ぶところであった。
 売り場にハニタスが姿を見せた。
 『お~お、オロンテス殿』
 『あ~っ!ハニタス殿』
 『いかがされていますかな?』
 『何か?私に用事でも』
 『オロンテス殿、価格決め会議の日を決めました』
 『ほう、いつでしょう?』
 『明後日、昼からと決めました』
 『判りました。オキテスにもそのことを私から伝えます』
 『お願いします。スダヌス浜頭にも連絡してきます』
 『お世話様です』
 『あっ!そうそう、試乗会の申し込みがありました。伝えておきます。5日後ですケラマキの漁業関係者たちです。いいですかな』
 『いいですとも、喜んで、準備して待ちます』
 『宜しく願います』と言い残して、ハニタスは、スダヌスの売り場へと足を運んでいった。
 一事を終えて、次の仕事へのスタートラインに立ったオロンテスにキックオフの時が訪れた。彼は立ちあがる、売り場を見廻す、スタッフ連の客対応、動きを見る、組織の中の己のポジションを意識する、蹴る!蹴るものは、それは考えられる諸々の事案である。 彼は蹴るものとその方向を決めた。心の中のトリガーに指をかけた、引いた。
 彼は、売り場のスタッフの一人に声をかけた。
 『おう、船だまりまで出かけてくる』オロンテスは歩き始めた。
 船だまりの埠頭に立った。テカリオンの船の姿はない、思わず沖に目をやる、船影を探す、身当たるはずのないものを探し求めた。
 係留している船に目を移した。ヘルメスに目を止める、彼に呼びかける声を耳にした。声のする方向に目をやる。
 『おう、ギアス、試乗会の予約が入った』
 『ほう、それは、いつです?』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  674  

2015-12-10 06:28:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは浜へ駆けおりた。パン工房の者たちが集まり始めている、彼は心強さを感じた。
 『おう、よかろう!我らは力に満ちている。お前ら、朝行事を済ませたのか?俺は朝行事を済ませる』
 『おはようございます、隊長!』
 『おう、ギアスか。朝行事を済まそう。しながら話す』
 『はいっ!』
 『昨日、言ったように舟艇の方はセレストスが乗る。ヘルメスに積むのは、羊乳蜂蜜の方の61箱だ、いいな。舟艇の方には、ウス塩の方の61箱とミックスの31箱だ』
 『判りました』
 『もう、セレストスが来る。荷積みの開始には、彼の指示を受けてくれ』
 『判りました』
 セレストスが堅パンの箱の山を背にして立っている。ギアスは、二言三言打ち合わせて、荷積みに適当な場所にヘルメスをつけた。
 荷積みは手送り手法でやる、工房の者たちが堅パンの場所からヘルメスのところまで相対して並ぶ、掛け声が飛ぶ、箱の手送りが開始された。みるみる堅パンの箱が積み込まれていく、セレストスの指示によって舟艇の方も荷積みが始まった。
 二艇の荷積み作業が終わる。朝陽が水平線を離れて高みを目指し始める。荷積みを終えた二艇が波を割って浜を離れていく、工房の者たちがこれを見送った。一同とともにアヱネアスら四人の姿もあった。
 二艇が無事にキドニアの船だまりに着く、直ちに荷渡しが開始される。作業が順調に進み、荷渡しが終わった。
 各堅パン1箱づつがオロンテスからテカリオンに手渡された。
 『これはは何だ?』
 『これは、私たちの気持ちです。お受け取り下さい』
 『ほう、おまけということか、もらう、ありがとう』
 テカリオンが緊張をほぐして受け取った。
 『オロンテス殿、約束通り、キドニア集散所の木札、1650枚を渡す、納めてくれ』
 『ありがとうございます。テカリオン殿、ありがたく受領いたします』
 木札の入った袋を6袋を受け取った。
 『オロンテス殿、これに署名してくれ。木札1650枚を受け取った署名だ。ありがとう』
 『おう、テカリオン殿、ありがとう』
 二人は互いの手を握り合った。仕事が終わった。
 荷下ろしを終え、オロンテスから木札を預かり、セレストスは帰途に就いた。作業の完了をした満足感を抱いて波を割った。
 彼は振り返っている、日常業務の半月分を五日でこなした満足感であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  673

2015-12-09 04:56:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ミックス堅パンの箱が運ばれ始めた。荷運びは一人が2箱を持って運んでくる。最終の運び人が来る、セレストスが最終のチエックをした。
 『おう、32箱だな。この1箱は持ち帰ってくれ』
 『判りました』
 羊乳蜂蜜堅パンの総数確認をする。
 彼は2人の者に荷運びの受け取りを手伝わせていた。その一人にウス塩堅パンの総数を、もう一人には、ミックス堅パンの総数を確認させた。
 確認を終えたセレストスが余分の1箱をもって来る、二人から報告を受ける。
 『ウス塩堅パンの総数61箱、間違いありません』
 『ミックス堅パンの総数31箱、間違いありません』
 『了解!ご苦労1引きあげる』
 3人は形よく積み上げた堅パンの山を見返し、仕事完了の残心を抱いて場を去った。
 工房へ帰って来たセレストスは、見渡す、工房の一同は、多忙の4日間の仕事を終えて、くつろぎの雰囲気の中に身をおいている。
 『おう、お前ら、ご苦労であった。堅パン製造の仕事は終わった。このあと、棟梁から話がある。広場の方に集まってくれ。判ったな』
 念押し言葉をかけて彼は、小屋の方へ堅パンの残数の確認に足を向けた。残数を把握して工房へ戻る、オロンテス棟梁の姿を探した。工房の一同は広場の方に集まっている、棟梁の姿はその中にあった。
 セレストスは、堅パンの残数の報告をして、今日の仕事の句読点とした。
 オロンテスは、企画から5日間に及んだ堅パンプロジエクトの終了を告げると同時に、この堅パンの展望について語った。そして、明朝の荷積みを一同に指示して散会した。
 オロンテスは、堅パンプロジエクトの製造のプロセスを振り返ってみていた。彼は反省していた。
 できたから造った、この感覚である。それを見たテカリオンが、それを買った。それが金のとれる品物であるか吟味したであろうか、何となく、怪我の功名に過ぎない品物ではなかろうかと反省に及んだ。
 『これは反省ものだな』これが偽らざる述懐である、背筋に冷たいものが流れた。
 『しかし、仕事があと一歩で完結する。これはこれだ。あくまでも仕事の完結を目指す!明日、代価の受け取りまで、そのこと以外に考えない!』とした。
 彼は、思いつきだけで仕事をやってのけたことの完結のみに集中した。

 朝が来た。オロンテスは床をけった。自分をけしかけた。
 『完結させる!行けっ!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  672

2015-12-08 05:34:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ニューキドニアの浜に向かうヘルメス、そよっと吹く風が東からきている。順風とはいかない、追い風はありがたい。漕ぎかたは力むことなく櫂操作して航走していく、帰って来た。
 浜に降り立ったオロンテスは、忙しく采配しているセレストスの姿を目にする。近寄っていくオロンテス。
 『おう、セレストス、ご苦労!』
 オロンテスはセレストスの背中に声をかけた。振り返るセレストス。
 『あっ!棟梁。お帰りなさい』
 『仕事の具合はどうだ?』
 『え~え、順調に流れています。焼き上げた堅パンの状態もよく、もう、箱詰めが終わるころです。浜への荷運びも見られるように7割方終わっています』
 『おっ!そうか。仕事が終わったら一同を工房前の広場に集めてくれ。それから、堅パンの出来あがりの総数の事だが、予定した数通りに仕上がっているか?』
 『はい!それについては、荷運びを終えた時点で確認するということにしています。予定数に不足するということはありません。いくらか余分があるはずです』
 『よし!それをしかと確認してくれ。ここに荷積みするのは、各堅パンの予定数に1箱づつ増やして、羊乳蜂蜜61箱、ウス塩61箱、ミックス31箱、合計153箱に整えてくれ』
 『解りました。間違いなく数量を整えます』
 『明朝は、総出で荷積みを手伝ってくれ。キドニア行は、ヘルメスと舟艇の2艇に荷を積んで行く。舟艇の方の担当は、セレストス、お前だ、いいな』
 『解りました』
 『羊乳蜂蜜堅パンはヘルメスに積む。ウス塩堅パンとミックス堅パンは舟艇に積む。いいな、質問は?打ち合わせを終わる』
 『解りました。質問はありません』
 セレストスは仕事に戻った。彼は、仕事の推移を見守りながら、目を空にやる、今宵から明朝にかけての空模様を探る、傍らの者に声をかけた。
 『おい!どう思う?今宵から明朝にかけて雨が来ると思うか?』
 『あ~、班長、その心配ですか、それは無用です。雨の心配はありません。凪の後はそよ風です。夜露の心配もせずとも朝が来ます』
 『そうか、その心配は無用か、それは助かる』
 荷積みの者から報告が来る。
 『班長、羊乳蜂蜜の方は、62箱です。ウス塩の方もそろそろ荷運び完了の予定です。終わり次第、数の確認をします』
 『お~い、ウス塩の方は61箱で終わりだぞ、余分は持って帰らせてくれ。いいな』
 『判りました』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  671

2015-12-07 05:12:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『解りました。そのように伝えます』
 『価格を決める、このクレタの市場と言いますか、商品のやり取り、取引きの環境、条件等を列挙、解析して事に当たっています』
 『解りました。いい新艇を届ける、買い主がいい買い物をしたと感謝するような値決めをやりたいものです』
 『そうですね。言われる通りです。オロンテス殿、価格決めのスタンスが決まりましたね。宜しくお願いします』
 二人の打ち合わせが終わった。
 『では、オロンテス殿、そういうことでーーー』
 『解りました』
 二人はそれぞれの持ち場へと戻っていく。
 『おう、ギアス。ど~っと、疲れが来た。売り場に帰って、しばし、休憩だ』
 二人は売り場に戻って来た。二人は落ち着いて言葉を交わした。
 『オロンテス隊長、ご苦労様でした。試乗会の事ですが、あれでよかったのでしょうか?』
 『おう、あれで十分だ。お前はよくやった。我々が真剣に考えてカタチにした新しい技術だ。誇りを持って相手に正しく伝える。それでいい。その技術を伝えるのに虚飾は必要としない。事実を正しく伝える、それでいいのだ。過剰な期待を抱かせるのはよくない。俺はそのように努めている』
 『解りました。勉強になりました。今日より明日、進歩に努力します』
 『お前、いいこと言うじゃないか、それでいい』
 二人は微笑を交わした。
 『おい、ギアス。こんな話を二人で交わすと疲れを忘れる』
 ギアスは、オロンテスに声をかけて船だまりへとパン売り場をあとにした。
 パン売り場には、客が絶え間なく訪れている、パンを渡す、常連の客が売り場のスタッフに親しみを込めた言葉をかけて去っていく、ほほえましい風景がそこにあった。
 オロンテスは、明日の堅パンを引き渡す手順を思い描いた。
 手ぬかりはない、段取りは出来ている、その風景がまぶたの裏に浮かぶ、150箱に及ぶ堅パンの箱の山、艇への荷積み、道中の無事、テカリオンの船に荷渡す風景、双方の満足、受け取る代価、用事次第を終えて手を握り合う、耳朶に響く交わす言葉までもが鮮明にイメージできた。オロンテスの表情が明るく輝く、しばしの瞑目に描いた明日の光景であった。
 彼は、売り場を見廻した。今日の終わりが来ていた。スタッフの報告を受ける、立ちあがる、一同の前に立つ、仕事の終了を告げた。
 『今日は何かと多忙であった。一同、よくやってくれた。礼を言うぞ!ありがとう。明日も忙しい、テカリオン方に堅パン150箱の納品を行う。よろしく頼む。以上だ』
 『うお~っ!』
 一声叫んで一同は、帰途に就いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  670

2015-12-04 18:14:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスは改めてエドモン浜頭に挨拶した。
 『今日は大変失礼しました。あの場では丁寧なあいさつができなかったこと深くお詫びいたします。改めてごあいさつ申し上げます』
 『スダヌスの、そんなに改まらなくてもいい。お前と俺の仲ではないか』
 『それではエドモン浜頭に対しての私ではなくなります』
 スダヌスは、姿勢を正した。
 『エドモン浜頭殿、今日はようこそ、このキドニアへお見えいただきました。久しぶりです。ご壮健の様子何よりです。喜ばしい限りです。時の過ぎるのも早いものです。あの時からもう少しで1年になろうとしています。その折りには大変お世話になりました。何卒、今日はこの地でゆっくりお過ごしください。今晩は私の浜でゆっくりお過ごしいただきたく、家族一同で歓待申し上げる次第です。私も急いで用件を済ませます』
 エドモン浜頭は二人の浜頭と簡単に打ち合わせてスダヌスに話しかけた。
 『スダヌス浜頭、判った。スオダの浜も久しぶりだ。今晩はゆっくりさせてもらう、いいかな。うまい魚を食わせろよ』
 『おう、判っている。まあ~、俺の魚売り場を見てくれ』彼らはスダヌスの魚売り場を見て廻った。彼らは魚の塩干加工品の多さに目を見張った。
 『おう、スダヌスの、魚の塩干加工品の取り扱いが多いのではーーー』
 『あ~、それか、それには事情がある。詳しい話はあとからする』
 『おう、それはそれとして、息子たちはどうしている、皆、元気か?』
 『あそこにいるのは下の息子だ。上の息子は出かけているらしい。中の奴は、浜頭も知っているイリオネス軍団長のところだ』
 『そうか、みんな、元気にでっかくなったということか。お前は大安心というところか。それはいい、お前は幸せな奴だな』
 スダヌスは、末の息子のイデオスを手で招きよせた。
 『おい、判るな。イラクリオンのエドモン浜頭だ』
 『あつ!、お久しぶりです』
 『どれっ!』と言って、イデオスの肩を抱いた。
 『おう、立派になった。もう、親父を放り出してもいいぞ!』
 イデオスは、エドモン浜頭の言葉に照れた。
 スダヌスは、イデオスと打ち合わせを済ませた。
 『俺は、これで帰る。皆さんの今晩は、俺のところで過ごされる。あとはよろしくな、頼む』
 『エドモン浜頭、行きましょう。貴方の船に俺を乗せてください』
 『おう、行こうか』
 四人は船だまりに向かった。
  
 昼食会を終えて新艇試乗の浜頭連と別れたハニタスは、オロンテスを呼び止めていた。ギアスが傍らにいる。
 『価格会議の事前打ち合わせの事だが、スダヌスはあの通りだ。オロンテス殿、スダヌス抜きで簡単に打ち合わせしておこう。まあ~、腰を下ろしてくれ』
 オロンテスが腰を下ろす、ハニタスも腰を下ろす、二人は目を合わせた。
 『オロンテス殿、ガリダのところとの用材の価格の件、これは決着した。今、テミトスを中心に新艇の価格決めを懸命にやっている。クレタで取引される価格の調査についてもやっている。いろいろな条件を考えて価格を決めなければなりません。価格を決めたは売れないではいけません。と言って、価格を変える、その様な愚かなこともできるわけがない。慎重に検討して決めたいその一心です。そのようなわけで第1回会議は検討会議、第2回会議は決定会議と2回に分けてやろうと考えている。その旨をオキテス殿に伝えてください』
 『承知いたしました』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  669

2015-12-03 06:34:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一行は試乗会を終えて集散所に戻ってくる、昼食の準備が整っている、オロンテスも気を配る、スダヌスとも言い交わして、食卓にスペッシャルパンを供し、エドモン浜頭の船の者たちにもパンを届けた。
 一同が会食の席に着く、ハニタスが口上を述べる、エドモン浜頭が礼を言う、乾杯する、食事を始めた。スダヌスもオロンテスも席についている、ギアスも席についていた。
 クレデアス浜頭が話し始める。
 『いやあ~、感じ入りましたな。大胆な発想の帆張りで船を走らせる、驚きでした』
 二人の浜頭がうなずく、エドモン浜頭が話を継ぐ。
 『四角帆を展げてての走りと比べて、うまくは言えないが、船としての走りに安定性を感じましたな』
 ブラナオス浜頭も感想を述べる。
 『あの三角ともいえる台形の帆と四角帆を比べて、風ハラミの位置が違う。そのことが船の走りにどんなふうに効いているか、その理屈は解らない、だがだ、安心感のある走りでしたな』
 一拍の間をおいて、言葉を継いだ。
 『あ~あ、それから、使っている櫂の事だが、細やかな工夫がしてありましたな。あれは、ちょっと気の利いた細工ですな。少々長めであり、櫂の漕船の効率もいいのではないかと感じた次第です』
 彼らの指摘は鋭かった。新艇の持つ長所についての決め言葉はないが、何となく言い当てていた。ギアスは、彼らの観察眼、体感の確かさを耳にした。
 また、彼らにとって初めて口にしたオロンテスのスペッシャルパンを褒めた。オロンテスは土産としても準備していた。
 昼食会が終わる。ハニタスらは遠路の客を迎えての試乗会を終える、一行の来訪に丁重に礼を述べる、彼らは礼を交わした。
 『ハニタス殿、ありがとう。厚く礼を言います。ハニタス殿が期待される返答を言えるかどうかは解りません。後日、この件について申し入れた時には何卒宜しく願います。今日はありがとう。礼を言います』
 『エドモン浜頭、そして、お二方、遠くへのお越し、本当にありがとうございました。何卒、検討いただければ幸いです。宜しく願います。私ども意を尽くして事に当たること約束いたします』
 『丁寧な言葉、ありがとう。また、いずれの日にかです』
 別れの言葉を交わした。
 『ハニタス殿、私らは、スダヌス浜頭の魚売り場を見に行きます。では、この場にて、ありがとうございました』
 彼らは、スダヌスの案内で場を離れた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  668

2015-12-02 05:49:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼ら来訪者五人は、艇の走りを敏感に感じ取っているようであった。五人が話を交わしている、話が風に飛ぶ、首をタテに振る、ヨコにも振る、うなずきもすれば否定もする、ギアスの耳には届いてこない、ギアスはスダヌス浜頭に声をかけた。
 『スダヌス浜頭、操艇に関する要望があるか聞いてみてくれませんか』
 『おうっ!』
 彼は、エドモン浜頭に声をかける。
 『中央の帆だけでの帆走をしてほしいのだが』
 スダヌスがギアスに取り次ぐ、直ちに艇尾の帆が降ろされる、中央の帆のみの航走にうつる、艇の航走に変化が見られない。艇尾の帆の役割は、進行方向への艇の姿勢維持であり、操舵で目的の姿勢維持ができそうであることが確かめられた。
 エドモン浜頭から、ありがとうのサインがとどく、ギアスはうなずいて、艇尾の展帆をした。操舵が少しばかり楽になった気がした。ギアスは、艇尾の展帆効果を理解した。彼にとっても未体験の体験であった。
 ヘルメスの航走は続く。来訪者一行の試乗による詮索は、帆の操作の簡単さ、四角帆と比べての帆の面積効果、風向対応性に関心を寄せていると感じられた。
 ギアスは、スダヌス浜頭を通じて、航走を続けるかどうかを尋ねた。返事が来る。
 『ギアス、それはもう充分だそうだ。あとは、こちらの予定でいいそうだ』
 『判りました。帰港の途に就きます』
 ギアスは、方向転換をして、櫂操作による漕走で船だまりを目指した。
 彼らは、櫂操作による走りにも鋭い意識で観察していることがうかがわれた。
 試乗が終わった。
 『ハニタス殿、ありがとうございました。充分に試乗いたしました。航走感は、よかったですね!新型の帆は操作が楽そうですね。それと風方向に対する順応、これには感じ入りました』
 『そうですか、只今の言葉、褒め言葉と受け取ってもよろしいでしょうかな?』
 『いいですとも!私どもの賛辞です』
 『展帆については、三角帆と四角帆の二方式を装備することにしています。従来の四角帆も捨てがたい、その様な意向で建造しています』
 『そうですか、それはいいですね。中央帆柱に四角帆の横げたがない、大胆でいい発想だと感じています』
 イラクリオンからの客を迎えての試乗会を終えた。