福島イノベーションコースト構想を福島県は次のように説明する。
福島イノベーション・コースト構想は、東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指すものです。廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産等の分野におけるプロジェクトの具体化を進めるとともに、産業集積や人材育成、交流人口の拡大等に取り組んでいます。
福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想
具体的には、廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙の6つの分野を挙げ、それぞれの具体的な取り組みを掲げたものとなっている。
例えば、農林水産業の分野を見れば、イチゴの温室栽培やサツマイモ、花卉の栽培などが取り組まれており、本市においては、水産海洋研究センターが整備され、「県産水産物の高鮮度化や加工技術の開発、放射性物質対策等の試験研究」が取り組まれており、震災・原発事故後の福島県の第一次産業を考えるにあたり、必要な取り組みが進められていると思う。
一方、「ふくしま医療機器開発支援センター」のように、赤字が続き、県が補填しなければならないような環境にあった事業もあり、その一つ一つの事業については精査が必要な状況はあると思うが、それはあくまでも個別の事業についての判断ということになる。
ちなみに同センターの赤字問題については、新聞でも報道されている。以下、福島民友新聞の社説を引用。
【福島民友新聞】 医療機器センター/黒字への道筋と手だて示せ
2018年2月8日 福島民友新聞
いつまで赤字が続くのか。立て直しに向けた道筋と手だてをはっきり示す必要がある。
県が郡山市に整備した「ふくしま医療機器開発支援センター」の2018年度の運営費が約5億4600万円不足する見通しとなった。県は18年度一般会計当初予算案に赤字分を計上、補てんする。
同センターは16年11月に開所し、本年度から活動が本格化した。しかし、収入が当初見込みを大きく下回ったことから約6億円の赤字に陥り、県が本年度補正予算で不足分を補った経緯がある。
18年度予算案からも、センターの経営状況が引き続き厳しいことが分かる。県は、国からの補助金を原資とする「原子力災害等復興基金」と、県の一般財源で赤字分を補う考えだ。
この金額は、東京五輪に向けてあづま球場を改修するために予算案に盛り込んだ事業額を上回る。センターが赤字でなければ、別の復興事業に回せたはずだ。
県は、センターの運営について21年度以降のなるべく早い段階での黒字転換を目指すとするが、赤字が何年にもわたって積み重なるようでは、県財政の圧迫が避けられない。センターの利用増による収入拡大を図り、黒字への転換を急がなければならない。
県は現在、経営改善に向けた計画を作成中だ。センターは、医療機器の開発から事業化までを一体的に支援できる国内初の施設で、国内外の医療機器メーカーや医療機関などの幅広いニーズに応えることができる。これらの強みを生かすことができるような改善計画と戦略が求められる。
中でも営業部門の強化が大きな課題となっている。営業担当者がメーカーなどに直接出向いたり、海外向けPRに力を入れたりするなど、あらゆる手法を講じてセンターの利用を働き掛けていかなければならない。
県は、センターが優れた試験施設であることを証明する国際規格「GLP」を18年度中に取得したい考えだ。センターの信頼性を高め、利用者増に結びつけるためにも確実に取得すべきだ。
医療機器産業は成長分野で、市場規模は今後も拡大が予想されている。県は、医療機器産業をロボットや再生可能エネルギーと並ぶ産業復興の柱と位置づけ、集積を進めている。
その中でセンターは、県内の企業が医療機器分野に新規参入したり、県外から企業を誘致したりするための核としての役割を担う。「宝の持ち腐れ」とならぬよう経営を軌道に乗せなければならない。
――引用終わり。
同センターの運営の収支が、現在どのようになっているかは分からないのだが、2019年度の「事業報告及び決算報告書」を見ると、特に収益部門で目標に比べ苦戦をしている状況が見えるので、大変な状況は変わっていないのだろう。
一方、赤字となるとしても、取り組むべき事業もあるだろうから、事業の収支だけで、それぞれの事業を評価できないという点はもちろんである。
この福島イノベーション構想で気にかかっていたのは、水素の活用に関する事業だった。無条件にイノベ反対といえば、この事業にも反対ということになるが、それでいいのだろうか。
この事業は、東芝エネルギーシステム株式会社が浪江町で展開する事業だ。風力や太陽光などの再生可能エネルギーを活用して水素を生成し、燃料やエネルギー原料等に利用しようとする事業となっている。
水素の活用で頭に浮かぶの燃料電池車の燃料としての活用である。ネットで論評を探ってみたところ、各国の自動車メーカーが電気自動車の開発に力を入れている中で、燃料電池車が世界標準となるることは困難だという論評をいくつか読んだ。すると水素の活用の軸を燃料電池車の燃料の分野に据えることは難しいかもしれない。
しかし、私は電池の代わりに利用できるととらえていた。
つまり、再生可能エネルギーの生産は気象条件等に左右され、必要量を安定して生産することが困難な状況にある。これを平準化していく技術開発が再生可能エネルギーの普及に欠かせないと何かで読んだ。再生可能エネルギーを水素に変えて保管し、電力が不足しそうなときには水素で発電する、つまり水素を電池として利用して平準化を図ると考えれば、再生可能エネルギーの普及に大いに貢献しそうだ。だから、この事業は推進すべきととらえていたのだ。
恥ずかしながら本稿を書くにあたって、福島イノベーションコースト構想について初めて調べてみた。これまでは、市議会が直接関わる問題とはなっていなかったので、調べることもせずに過ごしてきたのだが、猛反省が必要だ。私が考えるようなことは、すでに事業構想の中に盛り込まれていたのだ。
同社の福島エネルギーフィールドの構想の説明を見ると、水素を「つくる」「ためる」「つかう」という概念のもと、再エネを活用して作った水素を、
水素ステーションで燃料電池車に供給、
貯蔵をして電気の原料に、
また、燃料電池ガス混焼発電としてコジェネレーションに活用、
さらに、産業用として化学原料に利用することが盛り込まれている。まあ、私が考えつくようなことだから、その道のプロ達がすでに考えていても、何らおかしくはない。
実際、最近の報道でも、水素活用の可能性が実用段階で探られている状況を見ることができる。
一つは、みやぎ生協が行う、水素サプライチェーンの事業化に向けて浪江町で行う調査が始まることだ。
みやぎ生協は、すでに宮城県富谷市で株式会社日立製作所と共同で、水素活用の実証実験を進めていたという。水素を水素吸着金属に吸着させた燃料を製造し、各家庭に届け、それぞれの家庭のコジェネレーションを使って発電し電気を活用する事業だという。水素吸着金属の吸着量は3%程度にとどまり、また、金属であることから燃料自身の重量があり、運送面でコストがかかるという問題があるようだが、この実証実験を踏まえて、燃料の共同購入や宅配を事業化するためのの検討を始めようとしているというのだ。
さらにこんな報道もされている。
エアバス社が、二酸化炭素の排出をゼロにする旅客機「ZEROe」を2035年までに実用化する構想を打ち出したのだ。改良したガスタービンで水素を燃焼させて推進力を確保し、3,700km以上の航続距離を確保しようというのだ。航空機業界でも気候変動問題に対応することが求められており、環境対応への機体の投入を急ぐのだという。
こうした問題を考えるならば、水素の製造・利活用の道を探ることには大きな意義があり、イノベ関連だとバッサリ切り捨てることに理があるとは思えない。
事故が起こった際の重大な影響や、核燃料の最終処分の問題を考えると、日本が、原子力発電に頼るエネルギー政策から一刻も早く抜け出して、再生可能エネルギーを中心としたエネルギー政策に、抜本的に切り替えていくことが求められている。
その際に克服しなければならないのが、電気エネルギーを需要に応じて必要量を確保するという問題だ。再生可能エネルギーには、この面での難がある聞いている。気象条件が良ければ、必要以上に発電をし続けるのだ。電気の供給が余剰になると、大規模停電につながりかねない。このため、再生可能エネルギーの買い取り制度は、必要な場合には買い取りを中断できる仕組みに切り替えられた。つまり、中断している間に発電した電気は、無駄に捨てられるということになるということだろう。もったいない話だ。
その余剰電力を、次に不足する時の備えに活用することができれば、原子力発電を続けようとする人たちの理由がなくなるし、化石燃料を活用した火力発電の抑制も可能になってくるだろう。先だっての報道で、世界の太陽光や風力発電の総量は、原子力発電を超えたと読んだ記憶がある。その発電能力を有効に活用するための一つとして、水素を蓄電池の代わりに活用することができると考えれば、そのためのシステムを磨き、能力を向上させていくことが、今後の我が国に恩恵をもたらすことになる。
最近、是々非々の姿勢が大切というご指摘をいただく機会が増えた。この間の水素活用の広がりを示す記事を読むにつけ、機械的に問題に対応するのではなく、その内容に応じて、個別に考え結論を出すことの重要性をあらためて自覚している。
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