昨年、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律、いわゆる「医療・介護総合法」が成立し、この4月から新しい介護保険制度がスタートしています。
ただこの制度には例外規定があって、条例で決めるならば実施時期を2年間延長できることになっており、いわき市は先の2月定例会で条例を可決し、実施を2年後の2017(平成27)年4月とすることにしています。
この機会に執行部の担当から、介護保険制度がどのように変わり、いわき市の準備状況はどうなっているのか聞き取り調査をしました。
新制度は介護サービス削減と負担の増加
介護保険制度は、4月5日の朝刊折り込みで市民に配布した「日本共産党市議会だより」で「介護サービスが増えれば保険郎負担も増え続ける」と紹介したように、高齢人口が増えて介護需要が高まれば高まるほど、保険料が値上がりするという制度的な問題を持つ制度です。こうした仕組みになったのは、介護保険制度が国の社会保障削減路線の延長の上に作られた制度であるという点に問題があったからだと思います。
保険料の負担を減らそうとすれば、介護サービスの水準を削減するか、国や自治体の負担を増やすことしか考えられません。ところが国は、介護サービス(給付)を減らし、負担は増やす方向で制度の改革を図ろうとした――それが今度の制度改革だということが、説明を受けてあらためて鮮明になったという思いです。
そして、こうした制度改編の中で、国と住民の板挟みになる地方自治体、そして最前線の現場である介護事業所の苦労はいかばかりのものかと、心を痛めるばかりです。
介護サービスを介護予防などに切り替えるけれど・・
その制度改定の内容を見てみましょう。
今回の改定のポイントは
「地域包括ケアシステムの構築」と
「介護保険制度の持続可能性の確保」
にあります。
地域包括ケアシステムは、2025年をめどに重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを継続できるよう、医療や介護、予防、住居、生活支援を一体的に提供できる体制のことで、国は「日常生活圏域(具体的には中学校区)」ごとに整備することを想定しています。
いわき市の場合は、旧市町村単位、すなわち13の圏域を設け、圏域ごとに地域包括ケアシステムの整備を目指すことになっています。
この圏域ごとに、在宅医療と介護連携の推進や認知症対策、生活支援サービスの充実・強化が図られますが、一方では、訪問介護や通所介護(デイ・ケア)を介護の予防給付からはずし、「介護予防・日常生活支援総合事業」に回すなど介護給付の見直しが図られます。
また、特別養護老人ホームへの入所対象者をこの4月から要介護3以上に限定します。
要介護2に認定された介護が必要な方(要介護者)の身体の状況は、身の回りの世話や移動に何らかの支援が必要だったり、あるいは、少し問題行動や理解の低下がみられることがある、というような状態に加え、「排泄や食事に何らかの介助を必要とするような状態」となっています。
こうした方には、条件があれば地域で暮らしながらの介護が良い場合もあるでしょう。しかし、家族の問題などで介護が十分でない方が、この方針に沿って介護から取り残されないのか懸念が残る措置です。特養ホーム以外での生活が著しく困難と認められる場合の「特例入所」が認められています。しかし、その機能が利用者にとって有利というか正しく運用されるかの懸念がどうしても残ってしまいます。
充実が言われる中身なども含め大雑把に概観すると、施設入所者を絞り込み、在宅介護への切り替えを推し進めようという狙いがくっきり見えています。それだけの地域(圏域)の受け皿づくりが可能なのかが問われます。ボランティア・ポイント制度の導入などで、地域住民の支援活動への参加を促すことも検討課題となっているようですが、そもそも中山間地で、その人材を確保できるのかも疑問符がつくところです。
最近も、介護に関連した見られる不幸な事件が起きています。介護保険制度の導入のきっかけとなった介護の社会化という理念が活かされなければ改革とは言えない、そう思います。
大きく生んで小さく育てろの懸念
また、介護保険制度の持続可能性の確保では負担の強化がその内容です。
断っておくと負担の軽減策もあります。
低所得の場合は、65歳以上の加入者(第1号被保険者)の保険料の軽減額を拡大する措置です。消費税増税に対応したものでしたが、今年度から生活保護受給者などが対象になる第1段階で一部実施され、次の消費税引き上げ時に第2段として全面的に実施されます。
具体的に対象となるのは、世帯全員が市民税非課税でかつ本人の年金等が120万円を超える世帯(保険料の段階設定で第3段階)以下の第1段階から第3段階までの世帯で、
第1段階の基準額の5割負担が3割負担に、
第2段階が同じく7割5分負担が5割負担に、
第3段階で同じく7割5分負担が7割負担に、
それぞれ軽減されることになっています。
しかし、一方で、一定所得者の利用料を2割にしたり、補足給付の判定基準に預貯金を加えるなど、負担の強化が含まれているのです。
利用料が2割負担になる所得基準は、合計所得金額(収入から必要な控除をした後の金額)が160万円以上の方(年金収入が280万円以上の方)になる見込みです。
また、補足給付の問題です。
この給付は、施設に入所する際の食費及び居住費に対するものです。在宅で介護していれば当然かかるはずの居住費用や食費を保険で負担することは在宅の介護と比べたときに公平性を欠くという理屈で導入が強行されたものです。この食費や居住費部分、いわゆるホテルコストの負担の軽減を図るのが補足給付です。
具体的には住民税が非課税の世帯の入居者は申請にもとづき補足給付を支給し、その負担を軽減しています。これに該当するか否かは、あくまでも本人あるいは世帯の所得だけで判定されていましたが、この判定基準に新たに預貯金などを加えようというのです。
その基準は、単身で1000万円を超える、夫婦世帯では2000万円を超える程度の金額が想定されていますが、低所得世帯でもこれだけの預貯金があると補足給付を受けることができなくなるというのです。加えてこれまでは非課税となっている遺族年金や障害年金は判定の対象になっていませんでしたが、これも考慮に入れることが検討されています。
預貯金の範囲は、
普通預金、定期預金、
有価証券、
金や銀、
投資信託、
現金(いわゆるタンス預金)、
負債(借入金や住宅ローンですが、これがどう判定に作用するのかは、すみません、分かっていません)
とされています。
こうした介護保険制度の見直しの方向と、アベノミクスで大企業が肥え太り、家計がやせ細っている現状が、特に地方では顕著と思われる中で、負担あって介護なし、の制度が着々と作られていくのではないか、という懸念が浮かび上がってきます。
いわき市は、2015年度、16年度と準備をすすめ、2017年4月から1年間かけて新しい総合事業への移行を順次すすめることにしています。総合事業には、訪問介護や通所介護が介護予防給付から外されて「事業」に移行されたという問題があります。しかし同時に、ベースに流れる思想は国の予算をどう削減するかにあるわけで、大丈夫かという懸念はそこから生まれてくるわけです。
さらに一方で、負担は確実に増えていきます。利用者負担の見直しも補足給付の見直しも2015年8月、つまり今年の8月からスタートします。そして利用者負担の判定に考慮される一定以上の所得も、また補足給付で考慮される預貯金等も現在の水準でとどまると確約できる人はいません。大きく生んで小さく育てろとなりかねない危うさが、ここには存在しています。介護保険の財源確保を名目に引き下げられていく恐れが大いにあるわけです。
国が負担せよの声を大きく
いわき市は、本年4月からの1号被保険者の保険料を、基準額で約24%、1,117円値上げしました。これを決めた2月定例会の審議では、このままでは市民の負担が大きくなりすぎるとの懸念から、市執行部は、介護に対する国の負担を増やすことを全国市長会を通して要望していると答えています。
介護保険制度を、利用者・国民の側に立って改善するためには、そこに力を入れなければならないと思います。国の負担を増やせ。この声をしっかり国に届けることが大切になっているように感じます。
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