メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

メグレと若い女の死

2023-11-02 09:18:38 | 映画
メグレと若い女の死(Maigret、2022仏・ベルギー、89分)
監督:パトリス・ルコント、原作:ジョルジュ・シムノン、音楽:ブリュノ・クーレ
ジェラール・ドパルデュー(メグレ警視)、ジャド・ラベスト(ベティ)、メラニー・ベルニエ(ジャニーヌ)、オーロル・クレマン(ヴァロア夫人)、クララ・アントゥーン(ルイーズ)
 
ひさしぶりのパトリス・ルコント、「仕立てやの恋」、「髪結いの亭主」からどれくらい経ったか。
 
メグレシリーズはその存在とよく売れたということは知っているが、まだ読んだことはない。
もう引退が近い歳のメグレ警視、あるとき若い女の死体が路上で発見される。着ているものを調べるときわめて高価でレアな白いドレス、しかしその線からそれを着ていたのは地方からパリに出てきた娘ルイーズで、ジャニーヌという娘とアパートで同居していたが、ジャニーヌは離れていて、下っ端の女優、婚約、結婚が近く、その相手家族はかなり上の階級らしい。
 
一方、捜査の途中でメグレはやはり地方から出てきたベティに出会う。メグレと彼女のからみをなかなかうまく見せていて彼女は終盤の行方の鍵になる。
 
警察捜査もの、犯罪、ミステリーといい切れない、むしろメグレのときには行きあたりばったりに見える動き、それが暗めの映像と画角、動き、せりふで、雰囲気がうまく出ていて、パリに出てきた女の子たち、それに対するメグレの思い、でもそれを明にはださない、といった進行で、最後まで飽きさせない。
 
さすがルコントといったらそれまでだが、こういう映画でみる楽しみを提供するのはさすがで、最近の全般の動向とは一味ちがうなという感じ。
これの原作、あるいはシムノンの何か、いずれ読んでみよう。

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オートクチュール

2023-03-14 16:36:59 | 映画
オートクチュール(Haute Couture、2021仏、100分)
監督:シルヴィ・オハヨン、音楽:パスカル・ランガニュ
ナタリー・バイ(エステル)、リナ・クードリ(ジャド)
 
ディオールのオートクチュール・ドレス部門で実際に仕立てる人たちのトップを長年続けてきたエステルが引退前の最後の製作段階に入ったところで、若者グループにバッグをひったくられるが、なぜかその一人の若い娘ジャドが盗んだものからエステルを知り訪ねてくる。

そしてこれがこの話のキーなのだが、やりとりの中でエステルはジャドの手が彼女たちの仕事すなわちお針子にきわめて向いていることを見抜き、やる気を見せなかったり反発するジャドと試行を重ねて引っ張り込んでいく。
 
この話、背景にいくつかの差別が配置されている。エステルもここの長とはいえディオールの客たちとは格差が大きく、他のお針子たちと同様、パリの壁の外の生まれ、居住である。ジャドもアラブ系で同様に郊外、衰えた母親をかかえ、交友関係もいろいろな人種、ゲイなど。
 
そういう中でもエステルはプロの仕事をそしてお針子たちとジャドは前記の差別を貫いて生きていくという軸で、この映画の展開、その細部の表現が見せるところとなっている。
 
最後にエステルの母親が実は、そしてエステルの娘との関係が、というところで結びとなっていて、そこはときどきある話かもしれない。
 
ただ、この映画、登場人物と主要なやりとりはほぼすべて女性、女性間の話で、特に母と娘の関係は難しいということは想像できるが、そこのところなかなか多層的な表現が納得させるものがある。
 
全体に地味ではあるが、振り返ると結構深いところがフランス的ともいえるだろう。

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007 / カジノ・ロワイヤル(1967)

2022-10-10 09:35:09 | 映画
007 / カジノ・ロワイヤル (1967) (Casino Royale、1967英米、131分)
製作:チャールズ・K・フェルドマン、監督:ジョン・ヒューストン他4名
音楽:バート・バカラック(作曲)、ハル・デヴィッド(作詞)、ハープ・アルバート&ティファナ・ブラス(演奏)、ダスティ・スプリングフィールド(歌)
ディヴィッド・ニーヴン(ボンド)、ピーター・セラーズ(トレンブル)、ウルスラ・アンドレス(ヴェスパー)、オーソン・ウェルズ(ルシッフル)、;デボラ・カー(ミミ)、ウィリアム・ホールデン、ピーター・オトゥール、ジョン・ヒューストン、ジャン・ポール・ベルモンド
  
先にアップしたダニエル・クレイグ主演の同名作品の時にも書いたが、あれに先立つこの1967年版、20年近く前におそらくレンタルビデオで見てその後も機会を探していたのだが、ようやくDVDで見ることができた。
 
1962年「殺しの番号」のあと同じくショーン・コネリーで映画化されようとしたのだが、諸事情で実現せず、そのかわりと言ってはなんだが、こういうとんでもない形で実現(?)した。
 
豪華キャストで作られたパロディで、まじめに批評してもしょうがないのだが、面白さhいろいろある。製作、監督に多くの人がかかわっているけれど、想像するにこの時はウディ・アレンがいろいろアイデアを出していたのではないか。
  
各国情報部のメンバが次々とやられ、引退していた初代ボンドにお出まし願いたいという依頼が来る。初老にはいろうかというこの役にニ―ヴンがよくあっている。そのあと何人もの偽ボンドなるもの(男女)を登場させ、色仕掛けやドタバタが続いていく。
 
クレイグ版で相手となったヴェスパーはここでは初代ボンド・ガールのウルスラ・アンドレスで、前者よりさらに積極的な役割になっている。存在感もありうまい。
 
対抗する相手、カードの達人ルシッフルはなんとオーソン・ウェルズで、でっぷりした体躯とひょうひょうとした演技で見せる。ただカードはクレイグ版がポーカーだったのに対しここではバカラで、それだけ勝負は単純、ここで盛り上げるという感じではない。
 
盛りだくさんの有名俳優の多くはカメオ出演に近いが、その中でよくこんな役をやったなと思ったのはデボラ・カー、彼女もこういうの一度はやりたかったか。
 
パロディだからもうすこし進行がスムーズで尺も短い方がよかったと思う。特に前半はちょっとくどくて眠くなることもあった。
 
それでもコネリーのシリーズがそんなにでていなかったこの時期に、カーチェイスとそれに使うギミックというかとんでもない装置、宇宙船、(当時のイメージで未来的な)迷宮、迷路、CIAの登場は西部劇の騎兵隊(!)とか、ふざけるにもほどがあるが、これが後のオースティン・パワーズシリーズなどに影響を与えたという説もあり、時間がたつにつれなんらかの評価も出てきたようだ。
 
とはいえ、この映画が史上燦然と輝く不滅のものとなったのはなんといってもバート・バカラックの音楽で、しっとりしたもの、ふざけたもの、そのほか見事というしかない。サウンドトラックのアルバムを聴く価値、買う価値があるものは少ないが、これはその一つ。


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OK牧場の決斗

2022-09-20 10:11:27 | 映画
OK牧場の決斗:( Gunfight at the O.K.Corral、1957米、122分)
監督:ジョン・スタージェス、音楽:ディミトリ・ティオムキン
バート・ランカスター(ワイアット・アープ)、カーク・ダグラス(ドク・ホリデイ)、ロンダ・フレミング(ローラ)、ジョー・ヴァン・フリート(ケイト)、デニス・ホッパー(ビリー)
主題歌:フランキー・レイン
 
史実としてあったことをもとに、いろんなかたちで多く映画化、ドラマされた。受け取られ方はずいぶん違うだろう。
この映画、観たと思っていたが、いつ頃とかよくわからない。渋谷にあった東急文化会館の名画座だったかもしれない。
 
始まってからあれこんなだったけと思った。たしかに西部の街、保安官、賭博師、流れてきた女性と、西部劇の要素はそろっているのだが、なかなか大活劇が始まるという風でもない。半分すぎてもそうである。相手のクラントン一家の乱暴というものも画面ではそれほどで。
 
もう保安官はやりたくないらしいワイアット、生まれはいい歯科医でカード(いかさまもやるようだ)にナイフ、拳銃の達人のドク、この二人の意地の張り合い、貸し借りが実は友情からと観るものに多少は想像させつつも、ドライなタッチで続いていく。それぞれローラ、ケイトという女性と惹かれあいつつ、そう簡単には結びつかない。
 
ワイアットのバート・ランカスター、後のヴィスコンティ作品のイメージが私には強いので、ここではずいぶんスマートでノーブルな感じ、それでいて後から出すところは出す。
 
ドクのカーク・ダグラスはまさにこれこそ俳優冥利につきるというポジション、演技で、他の人がやるともっと荒々しく飲んだくれになりそうなところ、最後まで見せる。

決斗場面は意外に時間も短いが、ここはさすがに見た記憶があった。最後、大丈夫かというところの1~2秒前、ドクが多分とこっちも想像出来て、そのとおりになるが、それはこういう映画の満足感で、意外性はこのくらいでいい。
 
ジョン・スタージェス、バランスよく撮っていて、この二人の間の詩情もあり、うまい。見直した。同じ話からかなりちがう方に派生した「荒野の決闘」(ジョン・フォード、ヘンリー・フォンダ)が詩情際立つ傑作と言われていて、それは認めるけれど、今観るとスタージェスの方が感じるものがある。
 
ティオムキン作曲の主題歌、フランキー・レインが歌って大ヒットしたこともよく覚えている。
 

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007/カジノ・ロワイヤル

2022-09-09 09:02:14 | 映画
007/カジノ・ロワイヤル ( Casino Royale、2006英米、144分)
監督:マーティン・キャンベル
ダニエル・クレイグ(ジェームズ・ボンド)、エヴァ・グリーン(ヴェスパー)、マッツ・ミケルセン(ル・シッフル)、ジュデイ・デンチ(M)、ジャン・カルロ・ジャンニーニ(マティス)、ジェフリー・ライト(フィリックス)
 
007シリーズはショーン・コネリーのころから見ているが、まめではなく数は多くない。これはダニエル・クレイグがボンド役に起用された第一作。
 
テロ組織を資金面で支えているル・シッフル一味を打倒すべく起用されたボンド、ギャンブルも得意とあって、シッフルとカジノで対決する。駆け引きについてはよくわからないが、ゲームはポーカーなので、なんとかついていける。ここのところが時間も使い、いろいろ事件の要素もからめてこの映画の見どころといえるだろう。
 
その反面、幕開けのアフリカのよどんだ地域と建設重機が立ち並んだ場面での乱闘、終盤のヴェネツィアでの古い;建物を壊すまでの戦闘は、ショーン・コネリー時代のシリーズには無かったもので、ロケ技術、CGなど技術でここまで出来るのだろうが、現実味ということは別としても、どうなっているのかわからない。なにしろ先にも書いたようにもっと以前の西部劇でも銀行泥棒の集団襲撃とその防衛の様がよくはわからないわけだから、もうただ眺めているだけである。
英財務省から派遣された女性ヴェスパーは初め存在感がないけれど、最後あっといわせる。
 
ダニエル・クレイグは風貌、体躯、動きなどぴったりだが、コネリーがたまに見せた弱みもすこしあるといいのだが。ヴェスパーのグリーンは冷たい魅力といった感じ、もう少し色気があったほうがよりフィットするのでは。
 
シッフル役のミケルセンはシリーズにぴったりのクール、冷酷、ジャンニーニはイタリア映画でいくつか見たような気がするが、よくわからないポジションをうまく演じている。
 
そしてなんといってもここで英情報部のⅯとしてジュデイ・デンチが出てきたのがうれしかった。最初のシリーズでもロッテ・レーニャという大女優が出てくるし、ボンドシリーズはなかなか魅力があるのだろう。
 
このシリーズ、イアン・フレミングの原作はまったく読んでいない。もっと前の時代を背景に味があるのではないかとも思う。そういえば先日NHKのドキュメンタリー番組で、第2次世界大戦時、ある女性の二重スパイがジブラルタルで活動していて、その後彼女を尋問したのが当時英情報部にいたイアン・フレミングだったということである。やはりイギリスのこの種のものには広く深い背景があるわけだ。
 
ところでカジノ・ロワイヤルが最初に映画化されたのは1967年で、たしかウッディ・アレンが全体をプロデュース、もう列挙できないくらい数の大スターたちが(レジェンドクラスも)でていて、しかもつくりはおふざけ一杯のパロディー的なもの、「オースティン・パワーズ」シリーズの元になったとも言われている。でもこれ原作者側の許可は得ているらしい。
 
また観てなんといっても残るのは音楽で、ハル・デヴィッド作詞、バート・バカラック作曲、「恋の面影」などヒット曲、名曲ぞろいである。
レンタルでVHSは観たことがあるが、その後DVDは廃盤になってしまった。また観る機会がないかなと思っている。サウンド・トラック盤CDは持っているからまだしもだが。



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