ギリシア人の物語 Ⅲ 新しき力 塩野七生 著 2017年12月 新潮社
ギリシア人の物語、1年1巻、Ⅰ民主政のはじまり、Ⅱ民主政の成熟と崩壊に続く本書で全3巻完結である。
これは前の二つとはちょっとちがって、ギリシア人の社会の歩みというよりは、ギリシア都市国家群が衰退しはじめたとき(前300年代)、ギリシアの北マケドニアから東方の世界を広げていったアレキサンドロス(アレクサンダー大王)の生涯を描いている。ローマ人の物語でもカエサルについては思い入れが強かったが、アレクサンドロスに対しても同様である。
本書の結論からすれば、ギリシア・ローマからはじまるその後の「世界」、西欧から見た世界であるが、それはアレクサンドロスによってエーゲ海からインドまで、カエサルによって西方はイギリスまでの世界が、出来上がったといえるだろう。
カエサルについてはそういう認識は、著者の多くの著述からも植えつけられてきたのだが、その東方となると、本書でようやく納得という感じである。またギリシア語がどうしてその後も公用語のような扱いを長く受けたのかなども当然であった。
前2巻の民主政と時に登場しまた結果として有効だった傑出した人物について読んできたものからすると、父フィリッポス王から念入りに教育されたというよりは、多くは生まれながらにして、あるいはその幸運な環境を背景に、32年の生涯で一気に東方世界を作ってしまった英雄には驚かざるを得ない。西洋史などで多少は学んだはずなのだが、こうして通読すると比較にならない。
この人の死後の世界、東方は今のエジプト、シリア、イラク、イラン、そしてインド・パキスタンという区分けにおよそなっていて、それは今に通じている。そして、これらと西欧のつながりは、東アジアと西欧の関係とは本質的に違うところがあるのだろう。それはこの時代、この若者の生涯からきているといっても大げさではない。
いくつかの重要な合戦の陣形、動きはあいかわらずとても面白い。またアレクサンドロスの少年時代、あのアリストテレスが3年間家庭教師だったというのは、エピソード以上の感じを受ける。
さて、著者はこれでこれまでの連作群は最期だそうだ。ギリシア、ローマからルネサンスまで、ほぼ網羅したということだろうか。彼女はこれらを歴史エッセイと読んでいるが、タイトルに歴史という単語は使っていない。どちらかというと人物に焦点をあて、かなり想像力も使って描いたからだろうか。
私は「歴史」という言葉が嫌いで、何かこう解釈しろという押しつけがましさを感じている。極端に言えば書かれた本の数だけの「歴史」があるわけで、いろんな議論のベースにするなら「年代記」とか「資料集」という方がいい。
ともあれ、あとがきにある彼女の著書の大系を見ると、大半を読んでいるわわけで、その結果、ギリシア、ローマはもちろん、ルネサンスに登場した芸術家、女性たち、法王、悪者(?)たちを知るところとなり、「ヴェネツィア」についてはそういうカテゴリの視点はなかったのだが、いくつかのオペラの背景などに肉付けを得ることもできた。感謝したい。
ギリシア人の物語、1年1巻、Ⅰ民主政のはじまり、Ⅱ民主政の成熟と崩壊に続く本書で全3巻完結である。
これは前の二つとはちょっとちがって、ギリシア人の社会の歩みというよりは、ギリシア都市国家群が衰退しはじめたとき(前300年代)、ギリシアの北マケドニアから東方の世界を広げていったアレキサンドロス(アレクサンダー大王)の生涯を描いている。ローマ人の物語でもカエサルについては思い入れが強かったが、アレクサンドロスに対しても同様である。
本書の結論からすれば、ギリシア・ローマからはじまるその後の「世界」、西欧から見た世界であるが、それはアレクサンドロスによってエーゲ海からインドまで、カエサルによって西方はイギリスまでの世界が、出来上がったといえるだろう。
カエサルについてはそういう認識は、著者の多くの著述からも植えつけられてきたのだが、その東方となると、本書でようやく納得という感じである。またギリシア語がどうしてその後も公用語のような扱いを長く受けたのかなども当然であった。
前2巻の民主政と時に登場しまた結果として有効だった傑出した人物について読んできたものからすると、父フィリッポス王から念入りに教育されたというよりは、多くは生まれながらにして、あるいはその幸運な環境を背景に、32年の生涯で一気に東方世界を作ってしまった英雄には驚かざるを得ない。西洋史などで多少は学んだはずなのだが、こうして通読すると比較にならない。
この人の死後の世界、東方は今のエジプト、シリア、イラク、イラン、そしてインド・パキスタンという区分けにおよそなっていて、それは今に通じている。そして、これらと西欧のつながりは、東アジアと西欧の関係とは本質的に違うところがあるのだろう。それはこの時代、この若者の生涯からきているといっても大げさではない。
いくつかの重要な合戦の陣形、動きはあいかわらずとても面白い。またアレクサンドロスの少年時代、あのアリストテレスが3年間家庭教師だったというのは、エピソード以上の感じを受ける。
さて、著者はこれでこれまでの連作群は最期だそうだ。ギリシア、ローマからルネサンスまで、ほぼ網羅したということだろうか。彼女はこれらを歴史エッセイと読んでいるが、タイトルに歴史という単語は使っていない。どちらかというと人物に焦点をあて、かなり想像力も使って描いたからだろうか。
私は「歴史」という言葉が嫌いで、何かこう解釈しろという押しつけがましさを感じている。極端に言えば書かれた本の数だけの「歴史」があるわけで、いろんな議論のベースにするなら「年代記」とか「資料集」という方がいい。
ともあれ、あとがきにある彼女の著書の大系を見ると、大半を読んでいるわわけで、その結果、ギリシア、ローマはもちろん、ルネサンスに登場した芸術家、女性たち、法王、悪者(?)たちを知るところとなり、「ヴェネツィア」についてはそういうカテゴリの視点はなかったのだが、いくつかのオペラの背景などに肉付けを得ることもできた。感謝したい。