メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

エマニュエル・トッド「西洋の敗北」

2025-03-08 15:18:31 | 本と雑誌
西洋の敗北  日本と世界に何が起きるのか
 エマニュエル・トッド 著  大野 舞 訳   文藝春秋
 
トッドの著書はいくつか読んでいて、本書はロシア対ウクライナについて満を持して著わしたということだが、書かれたのがトランプの就任より前とはいえ、読んでしまうとすべてその流れで解釈してしまう、ということで少しためらっていたのだが、抗しきれず読んでしまった。後悔はしていない。
 
さて、そのもととなる膨大な資料、論説など普段新聞などで引用されているものよりも広いし、トッド特有の各国の家族構造、その時間的な変遷、米国などの人種構成、その年齢別の時代的変遷、学歴(理工系、文系)、職業(ハードとソフト(弁護士、コンサルタント、金融投資など)の見取り図とその時間的な変化、それが彼の得意な乳幼児死亡率、GDPにどう結び付くかが、語られる。
 
それはわかりやすいとはいえないし、政治的な動きの解説、予測には必ずしもむすびつかないのはいつもと同じだが、結果をマクロに解釈すればおよそあたっているといえよう。
 
特にアメリカやイギリスにおいて、指導的な立場の人たちについて、あの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」(1904、マックス・ヴェーバー)に記されたものが消滅してしまった、特にここ20年、ということ、これは昨今ワシントン村の政治家どものふるまいを見ているとなるほどと思う。
 
よくいわれる国の所得の大半をごく少数の富裕層が所有しているというが、彼らの大半は生産的な職業ではなく、ソフトつまり弁護士、証券、金融などであり、ものづくりに従事している層の学歴は低く、工学系は少ない。まだロシア、ドイツ、フランスの指導者をが民族的・国民的気質を所持しているが。
特に米国はWASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント)の国ではない、、いまのの政権の主要層もそうである。高学歴層の比率で行けば、インド系、中国系、日本系だそうである。

敗北というのはいろいろだが、特にといえばアメリカはロシアに敗けたということだろう。これは知らなかったが兵器でいっても砲弾もろくに作れず、ロシアの超音速ミサイルもない。資源に不足がなく、力をコントロールしながら継続的に戦っているロシアに対しむしろ疲弊し我慢できなくなっている米国。一方ロシアは地政学的に多くの重要国と国境を接し、「制裁」もアメリカの言うとおりにはならなかった。
 
日本にいるとほとんど初めから「正義」だけでしばらく解釈されてきたが、ウクライナとロシア、そんなに単純ではない。
さて、というわけで、これからはいろいろな角度から見ていきたい。
パレスチナについては最後に少し触れているだけだが、つぎの著書ではそれとイランについても是非書いてほしい。

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