メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

催眠(ラーシュ・ケプレル )

2011-11-07 09:39:12 | インポート
「催眠」上下、ラーシュ・ケプレル 著、ヘレンハルメ美穂 訳、ハヤカワ文庫
 
スウェーデン・ミステリは先の「ミレニアム」をはじめとして好調のようなので、評判の作品を読んでみた。
が、今回は不満が募った。途中からあと、結末は知りたかったから最後まで行ったが、結末というよりはその過程、背景、多くの登場人物に、こちらが入っていけないものを感じた。
 
ミレニアムのように、登場人物の内面、家庭、男女関係は詳細に描かれ、それが現代社会を反映しているのは、他の国のものとは違っていて、特徴的ではあるけれど。
 
精神科医が主人公で、過去に患者グループに施した催眠治療で問題が生じ、二度とやらないと宣言したのだが、ある少年が起こした異常犯罪で、警察から頼まれ関係者を守るべく少年に催眠術をかける。
しかし、それがきっかけで様々な奇怪な事件がおこり、それは主人公の家族におよぶ。
 
主人公の描き方に特に不満はないが、展開が精神を病んだ未成年の、それもゲームの世界がからんだもので、過去の治療風景が延々と続く描写も気分が悪いし、異常な暴力もこんなに描写する必要があるのか。終盤のアクション描写は無理がある。
  
それから主人公の妻について随分いろいろ書かれているのだが、まったく魅力が感じられず、感情移入していけない。
 
唯一の救いは、捜査の中心となっている警部で、この作者のシリーズでは今後主人公になっていくらしいから、期待できるかもしれない。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終着駅 トルストイ最後の旅

2011-11-06 11:16:28 | 映画
「終着駅 トルストイ最後の旅」 (THE LAST STATION、2009独・露、112分)
監督・脚本:マイケル・ホフマン、原作ジェイ・バリーニ
クリストファー・プラマー(レフ・トルストイ)、ヘレン・ミレン(ソフィア・トルストイ)、ジェームズ・マカヴォイ(ワレンチン)、ポール・ジアマッティ(チェルトコフ)、ケリー・コンドン(マーシャ)
(WOWOW)
 
いわゆるトルストイ(1828-1910)の家出、それも死の直前、家出の途中死んでしまう、その話である。
成功したトルストイは、村に住み大家族と農民たちとともに、一見理想郷のようなものを作っていた。おそらく武者小路実篤らの「新しき村」もその影響らしい。
 
しかし、最後に自らの作品の著作権を放棄すると言い出し、妻の猛反対にあう。それが大きな原因の一つになり、夫婦の不仲になって、家出に至ったものと想像されている。 
 
この話については、2010年12月にNHKで特集番組があり、田中泯・余貴美子というすごいメンバーが夫婦の手紙を朗読していた。
トルストイの思想に共鳴した協会の中心である秘書チェルトコフ、彼がうまく取り入ったとソフィアは思っている。そこに新しい秘書として若いワレンチンが来る。TV番組と比べるとこっちは普通に映画としても楽しめるように作ってあるから、いくつかの問題が拡散気味になっている。
 
実は、この世界的大作家の作品を一つも読んでいない。ドストエフスキーの主要作品は若いころ一通り読んだのだが。
したがってというのもおかしいが、興味は一つ「著作権放棄」である。このようなことを言い出した過去の有名作家(画家などもふくめ)は記憶にない。
協会のチェルトコフはそれを進め、当然ながらソフィアは半狂乱になる。そしてトルストイは家出し、まもなく肺炎で倒れ、留まった駅舎で息を引き取る。ソフィアは娘とともに駆けつけるが、息を引き取る直前まで会わせてもらえない。
 
ヘレン・ミレン、ポール・ジアマッティなどうまい役者はそろっている。ただヘレン・ミレンのソフィアはもう少し悪い人の印象を残してもよかったのではないか。
 
さて、映画の最後、クレジットのところで、後に著作権は妻に継承されたとある。なぜかはこの映画を見てもわからない。私も仕事で著作権関連の事例を集めているから、詳しい事情を知りたいところだ。
ひょっとして、死後のロシア革命情勢が何か影響したのか。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トゥルーズ=ロートレック展

2011-11-03 22:04:16 | 美術
三菱一号館美術館 2011年10月13日(木)~12月25日(日)
 
トゥルーズ=ロートレック (Toulouse-Lautrec  1864-1901) のまとまった展覧会で、画家の親友で画商のモーリス・ジョワイヤンのコレクションをこの美術館が手に入れ、所蔵コレクション展として開催したものである。 
 
有名なポスター、雑誌の表紙になったりしたリトグラフ、その下書き、また油彩も含めて、おそらくロートレックのほぼ全貌がうかがえるものらしい。
 
ロートレックの真骨頂は、脂粉と猥雑な雰囲気も漂う華やかなパリのキャバレーの世界なのだろうが、NHKの日曜美術館でも指摘されていたように、主人公の女たちは、必ずしも本人がこう描いてほしいという美しい姿ではなく、この世界で生きていく本音が正直に出てしまっているものになっている。
ただそれがむしろ強いインパクトをあたえるものとなっていて、浮世絵の影響が指摘される平面と色で構成された瞬間的に見取ることを要求されている絵として、高度なものとなっているともいえる。 
普通に飾っておくには、男優アリステッド・ブリュアンなどを描いたものがこれまでも人気あるようだが。
 
美術館のあるブリック・スクエアは、丸の内新開発の中でも楽しめるところで、今回も昼過ぎに見終わってから、ジョエル・ロブションのカジュアルな形も店でこれも定番のガレット・ランチを食べ、エシレの直販店でここのバターを使っているフィナンシェとマドレーヌを買った。ロートレックを見た後にはちょうど合う気分。
 
そして有楽町方面に歩き、マリオンで最近開店したルミネ(旧西武)、男物に特化した阪急をのぞいてみる。ルミネが回転して一週間ということもあり、大変な人出である。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャズ・ヴォーカル(続き)

2011-11-01 09:03:28 | 音楽一般
ジャズ演奏の会でWIVES AND LOVERS (バート・バカラック)を歌ったことを、高校同期のメーリングリスト(かなり活発なところ)に書いたら、早速2人からコメントが来て、しかもそれが入ったディオンヌ・ワーウィックなどのLPを持っているとのことだった。
 
バカラックが書いた多くの名曲のなかで、この曲は最近、そして多分日本では、それほどポピュラーではないが、それでもこういう反応があったのは意外であり、またうれしいことだった。
 
前回言い足りなかったことで一つ。ジャズでもヴォーカルの場合、ビッグバンドジャズの中なら自然にそのメンバーとしてすわりがいいけれども、小編成のコンボなどでやるときは、ヴォーカルも楽器の一つとしていろいろやらないとセッションという感じにはならない。それはうまくいけば効果的だが、ポピュラー・ヴォーカルの世界からそこに到達するのは相当困難で、また才能が必要だ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする