ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」(ニーベルングの指輪第三夜)
【指揮】:ファビオ・ルイージ/【演出】:ロベール・ルパージュ
【出演】ブリュンヒルデ:デボラ・ヴォイト/ ジークフリート:ジェイ・ハンター・モリス/ ハーゲン:ハンス=ペーター・ケーニヒ/ ワルトラウテ:ヴァルトラウト・マイヤー/ グンター:イアン・パターソン/ グートルーネ:ウェンディ・ブリン・ハーマー/ アルベリヒ:エリック・オーウェンズ
2012年2月11日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2013年1月WOWOW放送録画
メトロポリタンで3年がかりで上演されてきた「指輪」四部作、いよいよ最終回である。序夜と第一夜がレヴァインの指揮、彼の体調不良で代ったルイ―ジがあとの二つ、そしてルイ―ジはこのあと四つの連続公演も担当するらしい。
さて、映像でもそして実演でも何度か見ている第二夜「ワルキューレ」を除くと、他のものは実演はおろか、映像でもあまり見ていない。もうかなり昔のブーレーズ指揮、パトリス・シェロー演出のバイロイトと何をみたか?、、、
そのバイロイトもそう快適な映像で見たわけではないから、今回の黄昏も実際の舞台はどうなのか、ということではありがたかった。音だけでは何度も聴いているから、音楽で驚くというほどではないけれど。
とはいえ、この話はどうも気持ち悪く、あまり追っていきたいものではない。ジークフリートの、ブリュンヒルデの、またグンター、グートルーネの、欲と弱さがドラマになるとはいえ、すべてハーゲンの奸計でジークフリートが媚薬を飲まされて展開するわけだから、そうなっていくことをこれまでの神々の話の始まりから、だからこうなる、こうなったと理解しろということなんだろうが、共感できないというか、腹立たしい。
今回はもう人間界で主要な話が展開するので、何か理不尽な感じは人間の世界に固有のものと言っていると、いえなくもない。
ルパージュの例の縦に長い板が並んでいるものを、物理的にまた照明のスクリーンに使うやり方は、「ジークフリート」よりは効果的である。「ワルキューレ」の最後も火、この最後もジークフリートの遺体を焼く火が全体を包み込んで神々の黄昏となる。
ただその一方で、最後は指輪もそれに執着したハーゲンも、ラインの乙女たちとライン河が呑み込んでいくから、火の赤から水の青に変わるのがかなり早い。聴いている方としては、もう少し火の方に浸っていたかったが。
まあラインの乙女たちというのはこの長い物語の始まりと終末なわけで、こうなっているのが救いでもある。
全体に配役の人たちはよくやっている。ケーニヒは、ここではハーゲンとして、憎らしく圧倒的な強さを演じている。ブリュンヒルデのヴォイトはワルキューレからずっと「指輪」では一番たいへんだとおもうけれど、この最後に全体を締める歌唱はごほうびともいえ、気持ちいいはずだ。
あとワルトラウテのヴァルトラウト・マイヤーは、幕間のインタビューで本人が語っていたように、こうして聴くとあのブリュンヒルデとの長いやり取りは、物語の、神々の背景を聴くものによみがえらせながら、今回の話に味をつけていく。彼女のような実力者を起用した甲斐はあった。
ファビオ・ルイージの指揮は「ジークフリート」よりは手慣れた、というかこっちの方が作品としては彼にあっているのだろう。