ディック・ロクティの「眠れる犬」、「笑う犬」と、立て続けに読破した。およそ二昔前の作品であるが、ぼくにとって時々読み返したくなる不思議な本である。
物語は、中年私立探偵と14才の少女が図らずも巻き込まれた事件の謎を解き明すべく…と、展開していくのだが、特にセレンディビティ・ダールクィストという長い名前の女の子のキャラがたっていて、目が離せない。小説の面白さの重要なポイントである。有名なテレビ女優を祖母に持ち、ややエキセントリックながら聡明で、ナイーブな魅力はなかなかである。いつもローラスケートを履いていて、また、それが実際よく似合う子でもある。
例えば「チャングムの誓い」の、あのチャングムが、実際にぼくの周りにいるとしたら、それはもうはた迷惑な存在であり、脅威であろう。どなたも同感なさるはずだ。それと同じく、この物語のセーラが実際にいるとしたら、小煩(うるさ)くて、鬱陶しくて、きっと敬遠したくなるはずだが、幸いチャングムも、セーラも、虚構の世界の人で、ハラハラしながら見守るだけでいい。
今日の教室が快適なのには訳がある。実は、昨日、女子高生のM姫が流しをきっちり綺麗に片付けてってくれたから。定刻より随分(どころではないのであるが…)早く教室に入ってくるなり、
「さあ、やるぞぉ!」
と、腕まくりして掃除を始めるではないか。
「パソコンの授業は?」
ぼくの声なんぞ聞いていない。一緒に授業を受ける母親の方は、
「言い出したらキカンわさ」
と涼しい顔をしている。小説の世界だけにセーラは存在するのではないということか。
清潔になったキッチンで、コーヒーを点て、持参して来た手作りのケーキを供してくれるばかりか、きっちりPCの課題の方もこなしてしまう。恐るべし。
教室の住人であるぼくはといえば、相も変わらず、ものぐさで、万事にだらしない。でも、訪れてくれる方はどなたも有能で、何事に対してもアグレッシヴだ。密かに改造計画に取り組まなければ、と決意する3月最終日である。