あめはこわれたピアノさぁ
と、歌いだしている。"バチェラーガール"は大滝さんのもよいが、ぼくは稲垣潤一風に歌う。それにしてもである。"Mr.ファルセット"と呼ばれ、多くの女性を虜にした裏声に冴えがない。声帯が弱ったのか。
磯部町下之郷にある「清崎博文楽アトリエ」を訪れた。 「清崎博油彩画個展」が開催中である。玄関脇のフェンスに「マジックの館」の看板を発見する。
個展会場に入るやご挨拶もそこそこにのっけから新ネタを披露してもらった。先生が弾くバイオリンに反応して踊る人形がある。それはそれで唸るのだが、その前段、楽譜をパラパラめくると、
「ほら、雨のせいでしょうかねぇ」
と、すべてのページが白紙である。
「これでは演奏できませんよねぇ」
おもむろにページを開くと、今度はきちんと五線譜が現れた。
「?」
でも、音符は入ってない。
「困りましたねぇ…」
と、もう一度パラパラめくり始めた。何と今度はぎっしり音符が埋まったページばかりなのである。
「???!」
そして、音楽に合わせてお人形が回りだす。これですっかり清崎ワールドにのめり込んでしまった。
「アッハ~!!」
会場の雰囲気は写真でご紹介しよう。パリで、バルセロナで、安乗文楽人形が舞う不思議さ。ブロンドのクールビューティと居並んでも、我らのでこさんは負けていない。固有の文化も突き抜ければボーダーレスなのだ、と実感する。
絵画にも文楽にも素人だから書けるが、特に「くどき」の人形に魅せられた。くどきとは
女主人公が、思慕の念や恨みといった心情を綿々切々とかきくどく場面であり、哀切を帯びた女心を“浄瑠璃”にのせて演じる、いわゆるさわりの場面である。客席からは、すかさず、
「どうするどうする」
と声がかかる聞かせどころ、見せどころである。
「どうするどうする」のかけ声については、ぼくが落語の「寝床」から得た知識だから当てにならない。さしづめ
「待ってましたぁ!」
が適切だろう。
先生が描く、くどきの人形は、まさにその所作の前後を連続して見せる。ここが今回の見どころではないかなぁ。