お父さんのマリポタ日記。
マリノスのこと、ポタリングのこと。最近忘れっぽくなってきたので、書いておかないと・・・
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※桜木紫乃(1965年北海道釧路市生まれ。高校卒業後、裁判所でタイピストとして勤めたが、24歳で結婚して退職し専業主婦に。2児を出産直後に小説を書き始め、42歳になる年に『氷平線』で単行本デビュー。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。「ホテルローヤル」で2013年直木賞受賞。趣味はストリップ鑑賞)



●ラストシーンが身にしみる

 謎の位牌を握りしめて、百合江は死の床についていた――。彼女の生涯はまさに波乱万丈だった。道東の開拓村で極貧の家に育ち、中学卒業と同時に奉公に出されるが、やがては旅芸人一座に飛び込んだ。一方、妹の里実は道東に残り、理容師の道を歩み始めた……。流転する百合江と堅実な妹の60年に及ぶ絆を軸にして、姉妹の母や娘たちを含む女三世代の凄絶な人生を描いた圧倒的長編小説。

 こんな不幸な展開をよく書けるなというくらい、不幸なお話が続く。まさに「愛がない」。幸せそうになっても長続きせず、結局、行きつくところは同じ。いや、もっと悪化する。なのに読み終わった後には満足感が漂う。ラストシーンが身にしみる。自分の人生は自分の人生。どこへ向かうも風まかせ。手前勝手に生きてりゃいいのさ。不幸だって幸福だって、なんでもかんでも考えようなんだよ。

 時間軸があちこちし、さらに名前がややこしく、誰と誰が親子だっけ? と相関図が頭に入らない。実際は逆なのだが、小百合の娘は小夜子、里実の娘は理恵の方がしっくりくる。一気読みしないと混乱すること間違いなし。

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※永井紗耶子(1977年神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。新聞記者を経てフリーランスライターとなり、新聞、雑誌などで幅広く活躍。2010年、「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。2020年に刊行した「商う狼 江戸商人杉本茂十郎」は細谷正充賞、本屋が選ぶ時代小説賞、新田次郎文学賞を受賞した。2022年、「女人入眼」が第167回直木賞の候補作に。2023年、「木挽町のあだ討ち」で第169回直木賞、第36回山本周五郎賞受賞。他に「大奥づとめ よろずおつとめ申し候」「福を届けよ 日本橋紙問屋商い心得」「横濱王」など。)



●たった1行に「やられた!」

 睦月晦日の戌の刻。雪の降る中、木挽町の芝居小屋裏手で赤い振袖をかずき、傘を差した一人の若衆が大柄な博徒を相手に「父の仇。尋常に勝負」と名乗りを上げ、見事仇討ちを成し遂げる。首級(しるし)を上げた若衆が宵闇に姿を消したその2年後、ある若侍がその顚末を聞きたいと木挽町を訪れる。芝居者たちの話からあぶり出される真相は…。『小説新潮』掲載を書籍化。

 見事な「起承転結」。「起」は「木挽町の仇討」を描いたたった1ページ。「承」は2年後に木挽町を訪れた若侍が木戸芸者、立師、女形、小道具、そして筋書らから「木挽町の仇討」の様子と、それぞれの来し方を聞いて回るシーンが延々と続く。「幇間」「御徒士(おかち)」「隠亡(おんぼう)」など興味深い話が出てくるが、これがどう結末につながっていくのかまったく想像できない。このまま終わっちゃうとちょっとだるいな。これが直木賞? と疑問に思いながら読み進む。ところが、終盤のたった1行に「やられた!」と腰を抜かすことになる。まさに「転」。表紙にあるタイトルをもう一度見直し「そういうことか!」。そこから「結」はもう一気。まるで映画の「スティング」のよう。面白過ぎる。

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※益田ミリ(1969年大阪府生まれ。イラストレーター、エッセイ、マンガを手掛けるほかに、ふとした日常のつぶやきを五七五にした「つぶやき川柳」でも知られる。夫なし男なし三十路半ばの「すーちゃん」の日常を淡々と描いた異色四コマ漫画「すーちゃん」「結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日」はじわじわ人気を呼び、ベストセラーとなっている。主な著書に「お母さんという女」「大阪人の胸の内」「女湯のできごと」「ピンク・レディー世代の女のコたちへ」「『妄想』はオンナの幸せ」など。朝日新聞朝刊土曜日付にエッセイ「オトナになった女子たちへ」を漫画家の伊藤理佐さんと隔週で連載中)



●今回も共感しまくり、笑いまくり

 「おひや」「おもてなし」「今の子供は…」など、世間でよく耳にするけれど、気恥ずかしかったり抵抗があったりして、自分ではうまく使えないコトバについて綴ったほんわかコミックエッセイ集。描き下ろしを新たに収録して文庫化。

 これまで使っていた言葉が、いつの間にか別の言葉に変わり、あれ? どうなってる? 「チョッキ」や「トックリ」はもう使っちゃいけないの。「チェイサー」って単なる水やないけ。おあいそ? 会計? チェック? 締める? どう使い分けるんやねん。今回も共感しまくり、笑いまくりだった。漫画も面白すぎ。

 もちろん「言えないコトバ」だからといってけなしているだけではない。それぞれの言葉への解釈、エピソード、思いがきちんと真面目に書かれている。益田ミリさんの場合、その真面目さが余計に笑いをさそう。「祖父・祖母」なんて、なるほど、それだから自分も言いづらかったのかと大いに納得した。

 それにしても自分のこと、あっさりとさらけだすねぇ。さらっと彼氏と結婚はしてないけど同居してるって書いたりして(^_^; 

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※青山美智子(1970年愛知県生まれ。横浜市在住。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務の後、出版社で雑誌編集者をしながら執筆活動に入る。2017年「木曜日にはココアを」で小説家デビュー。同作は第1回未来屋小説大賞受賞、第1回宮崎本大賞受賞。21年「猫のお告げの中で」で第13回天竜文学賞受賞。同年「お探し物は図書館で」が本屋大賞第2位。22年「赤と青のエスキース」が本屋大賞第2位。23年「月の立つ林で」が本屋大賞第5位)



●誰でもええかっこしたいよねぇ

 小さな公園の隅っこにポツンとある、乗るだけのカバのアニマルライド。塗料は剥げまくり、大きな瞳の黒目もところどころ白くなって何だか涙目。なのに口はふにゃっと笑っていてなにやらけなげ。実はこのカバは人呼んで「リカバリー・カバヒコ」。自分の治したいところと同じところを触ると回復(リカバリー)するという。22年〜23年『小説宝石』掲載を書籍化。本屋大賞ノミネート。第7回未来屋小説大賞第2位。

 誰でもええかっこしたいよねぇ。そんな思いが逆にどんどん深みに入り、「病状」は悪化して抜け出せなくなる。でもそれを救ったのは人の温かい言葉。そして何でも聞いてくれる「カバヒコ」。

 登場人物が交差しながらの5つの物語。どれも魅力的ないい作品だけど、最終話が秀逸。涙がじんわり出た。

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※内舘牧子(1948年秋田市生まれ、東京育ち。13年半のOL生活を経て、88年脚本家としてデビュー。テレビドラマの脚本に「ひらり」「毛利元就」(1997年NHK大河ドラマ)など。武蔵野美術大学客員教授、ノースアジア大学客員教授、元横綱審議委員、東北大学相撲部総監督。著書に「終わった人」「今度生まれたら」など)



●老害というより老獪

 昔話に説教、趣味の講釈、病気自慢に孫自慢。そうかと思えば、無気力、そしてクレーマー。『終わった人』『すぐ死ぬんだから』『今度生まれたら』に続く著者「高齢者小説」第4弾!

 双六やカルタの製作販売会社・雀躍堂の前社長・戸山福太郎は、娘婿に社長を譲ってからも現役に固執して出勤し、誰彼かまわず捕まえては同じ手柄話をくり返す。彼の仲間も老害の人ばかり。素人俳句に下手な絵をそえた句集を配る吉田夫妻に、「死にたい死にたい」と言い続ける春子など、老害五重奏(クインテット)は絶好調。「もうやめてよッ」福太郎の娘・明代はある日、たまりかねて腹の中をぶちまけた。

 前半はちょっと「う〜ん」と首をひねるような感じだったけど、中盤からはどんどん引き込まれ、最後は涙ぐんだ。さすが内舘牧子さん。うまいね。

 「遊びをせんとや生まれけむ。戯れせんとや生まれけむ」。「残された日が少ないからこそ、人間は遊ばないとダメなんです」。その通り!(^o^) しかし、戸山福太郎は老害というより老獪(ろうかい)だね。それでいて憎めない。

 24年5月5日から伊東四朗さん主演でNHKでテレビドラマ化。序盤は原作に忠実だったけど、途中から違う方向へ。

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※筒井康隆(1934年大阪府生まれ。兵庫県神戸市垂水区在住。ホリプロ所属の俳優でもあるらしい。ナンセンス、ブラックユーモアから始まり、実験的な作品も発表。92年「朝のガスパール」で日本SF大賞。「東海道戦争」「48億の妄想」「時をかける少女」「ベトナム観光公社」「アフリカの爆弾」「にぎやかな未来」「家族八景」「虚人たち」(第9回泉鏡花文学賞)「文学部唯野教授」「夢の木坂分岐点」(第23回谷崎潤一郎賞)「ヨッパ谷への降下」(第16回川端康成文学賞)ほか多数。93年に断筆宣言し、96年に執筆再開)



●すべては夢なのか

 精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者でサイコセラピスト。だが、彼女にはもうひとつの秘密の顔があった。他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢探偵パプリカ。人格の破壊も可能なほど強力な最新型精神治療テクノロジー「DCミニ」をめぐる争奪戦が刻一刻とテンションを増し、現実と夢が極限まで交錯したその瞬間、物語世界は驚愕の未体験ゾーンに突入する!

 どこまでが夢でどこまでが現実か。いや、すべては夢なのか。いつのまにか引きずり込まれ、最後はハチャメチャになるという筒井康隆ワールド全開のSF作品。今ごろ読んだことを後悔(^_^; 面白すぎる。

 パプリカは何となく火田七瀬(七瀬三部作『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』の主人公)に重なるような気がするかな。

 06年にアニメ映画化(今敏監督)されたが、ストーリーは大胆に脚色されているようだ。キャッチコピーは「私の夢が、犯されている―」「夢が犯されていく―」。まあ、アニメじゃ難しいか^_^;

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※凪良ゆう(1973年滋賀県生まれ。京都市在住。2007年にBLジャンルの初著書を刊行しデビュー。ボーイズラブ(BL)作家として活躍し『美しい彼』シリーズ(2014年〜)は2021年にドラマ化され2023年4月には映画化。2017年には初の文芸小説『神さまのビオトープ』を刊行。2019年の『流浪の月』で本屋大賞を受賞し、2022年に実写映画化。2020年の『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補にもなった『汝、星のごとく』で恩田陸以来2人目の2度目の本屋大賞受賞)



●心に刺さる言葉がちりばめられた傑作

 瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)。父は恋人のところから帰って来なくなった。一方で男好きの母の恋愛に振り回される櫂(かい)。惚れた男を追った母に連れられ、京都から島に転校してきた。そんなともに心に孤独と欠落を抱えた二人が出会い、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していき…。『小説現代』掲載を加筆改稿し単行本化。

 人とは、人生とは。遠距離恋愛、ジェンダー、ヤングケアラー、SNS炎上、不倫、浮気、がん闘病、女性差別などいろんなものを詰め込みながらも、すんなりと読み進められる。すさまじい展開の割には読後感は悪くなく、最後は清々しささえ感じられた。「正しさなど誰にも分からない。だから捨ててしまいなさい。もしくは選びなさい」「自分のしたいことをやる」。心に刺さる言葉がちりばめられた傑作。

 実は凪良ゆうさんの経歴もすさまじい。読売新聞のインタビュー記事によると、母子家庭で育ち、その母親は小学校6年生のときに出て行く。親戚の家を転々とした後、児童養護施設で暮らす。高校へ進学したが1年で自主退学し、就職。しかし「中卒」「施設出身」と足元を見られ、月給は7万円ほど。生活ができず、半年で退社。その後はアルバイトを掛け持ちしてその日暮らしの生活を続けながらも、その頃連絡が取れるようになった母親に仕送りを続けていたという。「お金で買えないものもある。でもお金があるから自由でいられるころもある。たとえば誰かに依存しなくていい。いやいや誰かに従わなくていい。それはすごく大事なことだと思う」。作中のこの言葉には実感が込められている。

 「他の誰かと比較しなくていい。自分にとっての幸せを見つけて自分の人生を生きてほしい」という、全ての作品の根底にある凪良ゆうさんの願いが、この作品にもしっかり込められている。凪良ゆうさん会心の作ではないだろうか。

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※益田ミリ(1969年大阪府生まれ。イラストレーター、エッセイ、マンガを手掛けるほかに、ふとした日常のつぶやきを五七五にした「つぶやき川柳」でも知られる。夫なし男なし三十路半ばの「すーちゃん」の日常を淡々と描いた異色四コマ漫画「すーちゃん」「結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日」はじわじわ人気を呼び、ベストセラーとなっている。朝日新聞朝刊土曜日付にエッセイ「オトナになった女子たちへ」を漫画家の伊藤理佐さんと隔週で連載中)



●ちょっとエッチ…でもこういうのも書ける人だったんだね

 友人の結婚式の帰りに偶然再会した元上司。バーでのエロティックな会話の応酬のあと、終電を逃し…。表題作を含む全10篇と描き下ろし漫画を収録した、30代の女性たちを描く短篇集。

 はじめての小説集である。読んでいてドキドキした。だって、作中の登場人物に言わせてるけど『ちょっとエッチだし』(「五年前の忘れ物」)『下ネタって、なんか、ちょっと違う、みたいな…』(「とびら」)内容を、いつものタッチで書くんだもん。エッセイじゃないよね。自分のことじゃないよねと何度も確認したよ。でも益田ミリさんらしく穏やかで真面目な描写の中に、「そうくるか」という突拍子もない驚きもある。「セックス日和」なんて感心しきりである。こういうのも書ける人だったんだね。改めて引き出しの多さと奥深さを感じた。図書館で何気なく手に取り借りた一冊だが、楽しい時間が過ごせた。

 どの作品も微笑ましさを感じたが、最後の「ニリンソウ」だけはちょっと泣けてきたね。
 

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※相場英雄(1967年新潟県生まれ。2005年「デフォルト(債務不履行)」で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。12年に刊行した「震える牛」が28万部を超えるヒットとなる。他の著書に「血の轍」「リバース」「御用船帰還せず」など)



●まったく飽きさせない600ページ

 2年前に自殺と処理されていた行方不明者が、実は他殺だったことを捜査一課継続捜査班の田川信一が見抜く。地取り、鑑取りの鬼と言われた田川刑事がコツコツと再捜査を進めると、島国で独自の進化を遂げるガラパゴス化された日本の産業の衰退、部品扱いされ生き地獄のような生活を送るほかない非正規労働者の実態があらわになる。

 行方不明者「903」の正体に意外とあっさりたどり着いたのは「あれ?」という感じだったが、そこからが俄然面白くなる。田川刑事がじわじわと真実に迫る一方で、何とか逃れようとする加害者側。衝撃的な非正規労働者の闇。まったく飽きさせない、上下巻600ページだった。

 23年11月に織田裕二主演でNHKでドラマ化。強面の木幡祐司警部補は木幡祐香巡査部長に替わり、桜庭ななみが演じた。

 一時代を築いたシャープの「世界の亀山モデル」だったけど、莫大な補助金を投入した工場もわずか6年で操業停止となったのか。

 数年前に冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの家電をほぼ一斉に買い換えた。旧製品を捨てるときに思ったのは「一度も使わない機能があったよなぁ」ということ。それなのに新製品を買うときは「お、この機能いいじゃん」とか懲りずに思ったりする。で、やっぱり使わないだよねぇ。宝の持ち腐れ? いや、宝でもないかも知れないけどね。

 ソフトやOSのバージョンアップにしてもそう。機能追加しても訳分からんし、使いもしない。今のままで十分やんけと常に思う。開発側としてはそうも行かないんだろうけどね。ちなみにこれまでで一番嬉しかった機能追加はアドビのフォトショップ、イラストレーターのレイヤー。それまではやり直すためには過程ごとに保存する必要があった。これができるようになって画期的に製作が楽になり、幅も広がった。歴史を変えた機能追加だった。これ以上のものはその後は生まれていないと思う。

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※有吉佐和子(1931年(昭和6年)和歌山県生まれ。昭和31年に「地唄」で文壇デビュー。紀州を舞台にした「紀ノ川」「有田川」「日高川」三部作、世界初の全身麻酔手術を成功させた医者の嫁姑問題を描く「華岡清秋の妻」(女流文学賞)、老人介護問題に先鞭をつけ当時の流行語にもなった「恍惚の人」、公害問題を取り上げた「複合汚染」など意欲作を次々に発表し人気作家の地位を確保する。「悪女について」「真砂屋お峰」「和宮様御宮」「出雲の阿国」「香華」など多彩かつ骨太、エンターテインメント性の高い傑作の数々を生み出した。昭和59年8月逝去)



●すべてがいい話だなぁ

 無名の陶芸家が生み出した美しい青磁の壺。売られ盗まれ、十余年後に作者と再会するまで壺が映し出した数々の人生。定年退職後の虚無を味わう夫婦、戦前の上流社会を懐かしむ老婆、45年ぶりにスペインに帰郷する修道女、観察眼に自信を持つ美術評論家。人間の有為転変を鮮やかに描いた有吉文学の傑作。初出は昭和51年1月号〜52年2月号「文藝春秋」。2011年7月に新装版。

 新聞広告で「シングルマザーの惑い 定年を迎えた夫の奇行 すれ違う夫婦、相続争い 壺が映し出すリアルな人間模様に思わずゾクリとする不朽の名作」「原田ひ香が『こんな小説を書くのが私の夢です』と推薦」と宣伝していたので読んでみた。

 はっきりいって面白い。思い切り昭和な話で、昭和生まれとしては当然のごとく、ぐいぐい引き込まれていく。登場人物がほぼじーさんばーさんで、自分もその仲間入りしたばかりということもあり、自分事として共感が持てる。すべてがいい話だなぁ。昭和52年に書かれた作品だが、全く色あせていない。まさしく「不朽の名作」だ。

 

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※原田ひ香(1970年神奈川県生まれ。05年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。ほかに「三人屋」「ランチ酒」シリーズ、「東京ロンダリング」「母親ウエスタン」「一橋桐子(76)の犯罪日記」「三千円の使い方」「DRY」「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」など)



●神保町に行きたくなった(^o^)

 謎多き独身の次兄の急死で、突然神保町の古本屋を相続することになった妹の珊瑚(さんご)。独身のまま両親を介護し、看取った後はのんびり暮らしていたが、意を決して北海道から単身上京。次兄・滋郎の住んでいた高円寺のアパートにそのまま住んで、お店を再開させる。一方、東京の女子大の国文科に通う長兄・統一郎の孫の美希喜(みきき)は、大叔父・滋郎の生前にその古本屋に通い、進路も相談を受けており、本好きだったこともあってやがて珊瑚の手伝いをするようになる。『ランティエ』連載を改題、加筆修正し単行本化。

 神保町の古本屋街に行ってみたいなぁ。「御伽草子」読んでみたいなぁ。古典も読まなくちゃなぁ。笹巻けぬきすし食べたいなぁ。ビーフカレーも食べたいなぁ。そんな思いが広がる、本好きグルメにはたまらない作品。

 「古本食堂」というタイトル、そして各章のタイトル、たとえば第一話の「『お弁当作り ハッと驚く秘訣集』小林カツ代著と三百年前のお寿司」が読み始めはよく理解できなかったが、そのうちそういうことかと合点がいき、その世界に入り込め、やがて次は何かなと期待するようになった。登場人物もほんわかして優しく温かい。美希喜の母・芽衣子(めいこ)もいい味出してる。もっと読みたい。

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※桜木紫乃(1965年北海道釧路市生まれ。高校卒業後、裁判所でタイピストとして勤めたが、24歳で結婚して退職し専業主婦に。2児を出産直後に小説を書き始め、42歳になる年に『氷平線』で単行本デビュー。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。「ホテルローヤル」で2013年直木賞受賞。趣味はストリップ鑑賞)



●最後の順子の言葉が清々しい

 年上の職人と駆け落ちし、東京の片隅で貧しい生活を送る順子。その彼女に吸い寄せられた高校の図書部の仲間、逃げられた職人の妻、順子の母親の苦悩を25年間に渡る連作で描く。「小説推理」掲載(12年3月号〜13年3月号)を単行本化。

 人からどう見られても、幸せかどうかは自分で決めるもの。最後の順子の自信にあふれた言葉が清々しい。純粋に思いを貫いた姿が美しい。6つの短編に順子の章はないが、主人公は彼女。彼女との関わりを通して6人の登場人物が自分を見つめていくという構成や書き方は、意表を突かれたようで非常に面白い。「ホテルローヤル」と同じで読み終わった途端、もう一度読み返したくなる。桜木紫乃さんはこれで3作目だが、外れがない。巧いなぁ。

 そして今回の性表現も秀逸。好きになっちゃったなぁ。

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※西加奈子(1977年、イラン・テヘラン市生まれ。大阪育ち。2004年に「あおい」でデビュー。「通天閣」で織田作之助賞受賞。「ふくわらい」で河合隼雄物語賞受賞。ほかに「さくら」「きいろいゾウ」「円卓」「舞台」など)



●極上のエンターテインメント

 「僕はこの世界に、左足から登場した」。一瞬、何のことか分からないような一文から始まる。主人公の「僕」は、マイノリティ絶対主義で騒動を起こし続ける姉の影響で、自分から率先して中心になろうとせず自分の存在を消しながら生きていく。その「僕」の目を通じて家族たちや周囲の人々の生き様が淡々と綴られていく。デビュー10周年で描いた上下巻の大作。第152回直木賞受賞作で、2015年本屋大賞でも第2位を獲得した。

 想像を超えた驚くべき出来事が次々と起こり、飽きることなく読み進められた。独特の語り口、真面目そうな中にユーモアを含んだ表現に魅せられ、大阪弁もなんだかしっくりきた。登場人物もそれぞれが強烈過ぎる個性の持ち主で、特に姉は秀逸過ぎ。後半は「家族崩壊」「残酷な未来」とマイナス方向へ突き進むが、悲壮感はなく逆に面白みが増してきた。「本当に、こんなにうまくいった小説はない」と本人自らが言うように、極上のエンターテインメントに仕上がっていると思う。ただ、最終盤は少しくどく、分かりづらかったのは否めない。その部分がなければ物語は終わらなかったのだろうが、その前でやめてもよかった気がする。

 それにしても女性なのになんでこうも男の子の生態について詳しいのだろう。まるで自分のことのように思え、共感しまくった。インタビューでは「『キン肉マン』や『北斗の拳』、プロレスなど、いわゆる男の子のものがすごく好きだった」と言っているが…。

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※益田ミリ(1969年大阪府生まれ。イラストレーター、エッセイ、マンガを手掛けるほかに、ふとした日常のつぶやきを五七五にした「つぶやき川柳」でも知られる。夫なし男なし三十路半ばの「すーちゃん」の日常を淡々と描いた異色四コマ漫画「すーちゃん」「結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日」はじわじわ人気を呼び、ベストセラーとなっている。主な著書に「お母さんという女」「大阪人の胸の内」「女湯のできごと」「ピンク・レディー世代の女のコたちへ」「『妄想』はオンナの幸せ」など。朝日新聞朝刊土曜日付にエッセイ「オトナになった女子たちへ」を漫画家の伊藤理佐さんと隔週で連載中)



●なんて面倒な父親 でも憎めないなぁ

 光文社「小説宝石」で2004年5月号から08年12月号まで連載された「『オトーさん』という男」を基にし、大幅に加筆、修正。

 短気ですぐに怒鳴るオトーさん。言わなくていいことも大声で言ってしまうオトーさん。いいところもあり、好きなところもあるのだが、娘としては「こーゆー人が恋人だったら絶対にイヤ」。読みながらなんて面倒な父親なんだと思ったけど、でも、憎めない。ホントは愛してるのよ、オトーさん。そんな気持ちが伝わってくる。思わず微笑んでしまうエピソード満載のほんわかイラストエッセイ。しかし、オトーさんはこの本を読んでどう思うのだろうか。「おもろいな」と言って、でも何も変わらない気がするが(^_^; 「お母さんという女」も読まなくちゃね。

 我が家も娘2人。なんて思われてるんだか…。

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※増田俊也(1965年生まれ。北海道大学中退。愛知県旭丘高校から七帝柔道に憧れて北大に入学。4年の夏の七帝戦を最後に引退し大学中退。北海タイムス社記者に。2年後に中日新聞に移る。中日在職中の2006年に「シャトゥーン ヒグマの森」で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞しデビュー。2012年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。2013年、北大時代の青春を描いた自伝的小説「七帝柔道記」で山田風太郎賞最終候補。2016年春、四半世紀務めた中日新聞社を早期退職し、本格的な作家生活に入った)



●史上初かも 新聞社整理部が舞台

 全国紙の採用試験に落ち、北海道の地方紙・北海タイムスになんとか入社した早大教育学部卒の主人公。当然、出稿記者志望だったが、配属先はまさかの整理部。同期たちは「掃除やってる部署みたい」「整理整頓の係と思われちゃう」「カッコ悪いんだよな」とボロボロにけなし、新聞社の中では地味なセクションと嫌われていた。このまま整理部に据え置かれたくない主人公は毎日スーツを着て通い、社会部記者への異動をアピールするが…。出版社の謳い文句は「会社の愛し方、教えます――ダメ社員の奮闘を描く、共感度120%の熱血青春小説!」。

 最近ファンになった益田ミリさんの本を図書館で探していると、「ま行」の棚に「北海タイムス物語」なんてタイトルの本を見つけた。作者は増田俊也さん。知らないなぁと略歴を確認すると北海タイムス、中日新聞に勤めていたらしい。何となく面白そうだなと読んでみたら大当たり。100年の歴史を持つ北海タイムスの1998年(平成10年)9月2日の休刊への道を描いたものではなく、自分が現役時代に長く所属した整理部のお話だった。

 久しぶりに「倍尺」という言葉に出会ったよ。二十数年ぶり? 実在の新聞社が舞台だが、出稿部門ではなく整理部にスポットライトを当てた小説なんてこれまであったっけ? 史上初じゃね? 1段が15倍、2段は中段(なかだん)があるから31倍と教えられ、「じゃ3段は?」と聞かれ「46倍」と答えると「おまえ計算ができないのか」と怒られる。「あとで倍尺よくみて覚えとけ」。いや、懐かしい(^o^)

 おまけに描かれている時代は平成2年(1990年)。自分もまさにこの時代に整理部にいた。鉛活字が完全に消え、各社とも完全CTS移行への途中段階だったが、全国紙にはすでにスーパーコンピュータで大組しているところもあった。朝日のネルソン! あったねぇ、これも懐かしい。しかし、この作品に出てくる北海タイムスはその前段階で、記事、写真、凸版を印画紙で出し、台紙に糊で貼り付けていく「切り貼り」での大組。記事は棒で出力され、大組担当の製作がカッターで切って流したり、たたんだりしていくやり方だった。「文字を斜めに流したり、見出しを斜めにしたり、いろんなことが簡単にできる。だからスポーツ新聞も見出しの部分はあえてこのシステムでやっているんだ」と編集局次長兼整理部長に言わせている(最後の部分はちょっと違うと思うが)。そして、整理の面担は倍尺に加え、ハサミとカッターを持って製作現場へ走っていくなんてあると、思わず笑ってしまう。なんでそんなに詳しいの? でも、自分にとってはこの時代が一番面白く、楽しかったねぇ。新聞を作っているという手応えがあった。

 新聞整理の醍醐味がとってもよく分かる作品(^o^) バイブルとまでは言わないが、副読本にしてもいいかもね。組み版がすべてコンピュータになっても価値判断、見出し、レイアウトの基本は変わらない。

 ちなみに表紙のイラストは、早刷りを持ってきたスーツ姿の主人公を、Gパンでサンダル履きの整理部先輩が倍尺を振り上げ「おせーぞ」と怒鳴る、昭和なシーンかな(^_^;

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