お父さんのマリポタ日記。
マリノスのこと、ポタリングのこと。最近忘れっぽくなってきたので、書いておかないと・・・
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※辻村深月(1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年に「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。2011年「ツナグ」で第32回吉川英治文学新人賞、2012年「鍵のない夢を見る」で第147回直木賞、2018年「かがみの孤城」で第15回本屋大賞受賞)



●意表を突かれた展開に「やられた」

 39歳で独身だった西澤架(かける)は婚活で知り合った33歳の真美(まみ)と2年つき合い、ある事を契機に同棲。ようやく結婚を決断して式場も予約した、その矢先に彼女がこつ然と姿を消した。婚約者の居場所を探すことは彼女の過去と向き合うことでもあった。『週刊朝日』連載を単行本化。

 自分の結婚は32歳の時。20代だった昭和のうちにはできず、平成に少し入った年で、同級生の中では遅いほうだった。もちろん婚活なんて言葉は当時はなかったが、結婚、家族、進学、就職などそれぞれのエピソードは共感することばかりで、心に染み入ってくる。身につまされる思いで読み進んでいると、「えぇっ?!」と意表を突かれた展開となり、後半は一気読み。面白く、巧みに構成された物語で「あちゃー、やられた」という感じ。「あ、こういう人いるいる」という人物描写も絶妙で、自然と物語の世界に入っていけた。

 傲慢と善良は紙一重なのかな。ちょっと強引な部分もあるけどね。

 それにしても主人公の名前の「真美」はこんがらがるのでやめて欲しかった。どうしても「しんじつ」と読んでしまうからねぇ。

 第7回ブクログ大賞を受賞。発行部数は100万部を突破し2023年に最も売れた小説となった。藤ヶ谷太輔と奈緒のW主演で映画化され、2024年9月27日から公開されている。

 「知りたくなかった過去」は誰にでもあるよね。妻にもあったのかな。もう知るよしもないけど。

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※原田ひ香(1970年神奈川県生まれ。05年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。ほかに「三人屋」「ランチ酒」シリーズ、「東京ロンダリング」「母親ウエスタン」「一橋桐子(76)の犯罪日記」「三千円の使い方」「DRY」「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」など)



●勘違いした読者を引き込んだか

 いまは亡き天才建築家が設計した、通称「おっぱいマンション」に重大な問題が発覚。建て替えるべきか残すべきか、勃発した改修騒ぎは、住民たちの人生を、秘密を、理想を呑み込んで…。『小説新潮』掲載を大幅に加筆・修正。

 「おっぱいマンション」というタイトルに惹かれ(^_^;、思わず手に取った。もちろん、安易に連想するようなコトが起きたりはしないが、いろんな事が凝縮していてそれなり面白くほぼ一気読み。

 1960年代から70年代の高度経済成長時代に流行ったメタボリズム。メタボというと生活習慣病しか思いつかなかったが、さいころを積み重ねたようなデザインの建築をそう呼ぶそうだ。まるで細胞のようにメタボ(新陳代謝)を繰り返して有機的に成長するという意味。そういえば、昔、そんなマンションや建造物を見かけることがあったなぁ。「変だなぁ」としか思わなかったけど。

 代表的なものは黒川紀章さん設計の中銀カプセルタワー。銀座の繁華街に立つコンテナユニット型マンションで72年に竣工したが、2022年に解体された。この作品はこれをモデルにしているようだが、タイトルを「メタボマンション」としなかったことで、勘違いした読者を引き込むことに成功した…かな。

 老朽化したマンションの建て替え問題はこれから増えてくるんだろうね。人ごとじゃないし。タワマンとか将来はどうなるんだろう。

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※凪良ゆう(1973年滋賀県生まれ。京都市在住。2007年にBLジャンルの初著書を刊行しデビュー。ボーイズラブ(BL)作家として活躍し『美しい彼』シリーズ(2014年〜)は2021年にドラマ化され2023年4月には映画化。2017年には初の文芸小説『神さまのビオトープ』を刊行。2019年の『流浪の月』で本屋大賞を受賞し、2022年に実写映画化。2020年の『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補にもなった『汝、星のごとく』で恩田陸以来2人目の2度目の本屋大賞受賞)



●最後は素直になっていくんだね

 1ヶ月後に小惑星が衝突し、地球は滅びる。SF映画のような設定だが、映画ではないのでそれを救ってくれるヒーローは現れず、アメリカも小惑星を爆破してくれず、死がすべての人に同じ瞬間に平等に訪れることになる。誰も逃れることはできない。学校でいじめを受ける友樹、人を殺したヤクザの信士、恋人から逃げ出した静香。そして…。「人生をうまく生きられなかった」4人が最期の時までをどう過ごすのか。

 現実的には小惑星が追突とすればもっと前から分かるだろう。しかし、それが1ヶ月前となると、残された時間でやることは限られてくる。自分だったどうするか。恐竜が絶滅したように、いやもっと壊滅的で人類の歴史も生きてきた痕跡も何もかも宇宙の塵と消えてしまうのだ。逃げ出すところもない。もう何をしても仕方ないと諦め、最後の瞬間まで普通に過ごすか。あるいは家族と過ごすか。そう思う中で、作品に出てくる4人の気合のある過ごし方に引き込まれた。「地球を爆発して人類を滅亡させて下さい」と祈り死にたいと思っていたのに、その通りになったら「もう少し生きてみたい」なんて…。最後は素直になっていくんだね。

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※スペンサー・ジョンソン 医学博士、心理学者。心臓のペースメーカー開発にも携わる。大学や研究機関の顧問を務め、シンクタンクに参加。著書に「1分間意思決定」など



●年相応に新しいチーズを探そう

 2匹のネズミと2人の小人が迷路の中でやっと見つけたチーズ。毎日ごちそうに舌鼓を打ち、生活は安泰だと思っていたが、ある朝、行ってみるとチーズがなくなっていた。まさに青天の霹靂。2匹のネズミと2人の小人がとった行動とは…。

 「チーズ」とは我々が人生で求めるもの、つまり仕事、家族、財産、健康、精神的な安定などの象徴。「迷路」とはチーズを求める場所、つまり会社、地域社会、家庭などの象徴で、時代や状況の急激な変化にいかに対応すべきかということが説かれている。世界のトップ企業が研修テキストに採用している寓話。

 今日と同じ明日が来るという保証は何もない。いや、もっとポジティブに今日と違う明日にしよう。定年退職した身だが、そう思って行動している。いや、しようと思っている。変化に備えたいし(主に体の衰えかな)、新しいことにも挑戦し、違う景色を見てみたい。でもこれがなかなか難しい。やはり変化のないほうが安心だもんねぇ。昔話も好きだし(^_^; ま、年相応の新しいチーズを見つけていくとしましょうかね。もっと若い時に読めば良かったなぁ。

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※稲垣えみ子(1965年、愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒。朝日新聞社で大阪本社社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員を務め、2016年に50歳で退社。以来、都内で夫なし、子なし、冷蔵庫なし、ガス契約なしのフリーランス生活を送る。「魂の退社」「もうレシピ本はいらない」(料理レシピ本大賞料理部門エッセイ賞受賞)「一人飲みで生きていく」「老後とピアノ」など)



●「老後を救う」よね。確かに

 「永遠の敵」「この世からなくなればいい」と思っていた「家事」。ところが「ラクしてお金の心配もせず生きていきたい」という夢みたいなことをかなえてくれたは、なんとその「家事」だった。朝日新聞社を思うところがあり50歳で退社。人生初の「給料をもらえない生活」になり、高級マンションから収納ゼロの老朽ワンルームへ。掃除機、炊飯器、電子レンジ、ついでに冷蔵庫も捨て、お風呂は銭湯。するとあのメンドクサイ家事が消えた!?

 実体験をもとに、家事をすることで最低限のお金でラクに豊かに暮らす方法を紹介する。cakes連載に大幅に加筆修正し再構成。

 「老後を救う」よね。確かに。最後は一人だし、少しでも長く、自分のことは自分でやっていきたい。となれば、こういうミニマル生活になるのか。自分の今の年代だとここまでは無理だけど、徐々に近づけていきたいとは思うかな。でも冷蔵庫も電子レンジも、洗濯機も捨てられないなぁ。

 「江戸の貧乏長屋はミラクル物件」、「修道女は100歳を超えても頭が冴え渡っている」のくだりはなるほどと思ったねぇ。

 妻が亡くなって12年。冷蔵庫へビールを取りに行く時しかキッチンに入ったことがなかった自分が、今や毎日自炊するまでに成長した。後は断捨離かな。残す基準は「それがないと死ぬかどうか」だそうだが、思い出がね、捨てられないのよ。特に妻の分が。

 ところで、熱帯夜や極寒の冬はどうしてるんだろう?。江戸時代と気温は変わっていると思うのだが。あぁ、そういえば学生時代に過ごした下宿は洗面とトイレが共同、お風呂は銭湯。押し入れはあったけど万年床。もちろん冷房なんてなく、冬はコタツだけでしのいだんだっけ。

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※益田ミリ(1969年大阪府生まれ。イラストレーター、エッセイ、マンガを手掛けるほかに、ふとした日常のつぶやきを五七五にした「つぶやき川柳」でも知られる。夫なし男なし三十路半ばの「すーちゃん」の日常を淡々と描いた異色四コマ漫画「すーちゃん」「結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日」はじわじわ人気を呼び、ベストセラーとなっている。朝日新聞朝刊土曜日付にエッセイ「オトナになった女子たちへ」を漫画家の伊藤理佐さんと隔週で連載中)



●心にしみる言葉と共感できる思い

 がん末期という告知を受けた益田ミリさんのお父さんの亡くなる前、亡くなった時、そして亡くなった後の思いを綴った書き下ろしエッセイ。

 「何かを処分したところで思い出は失われないのだと思った」。「悲しみには強弱があった」。そんな心に染みるたくさんの言葉、そして両親と妻を亡くしている僕にとって共感できる思いの数々。父親の死をみつめた、一生に一度、最初で最後のシーンを、いつもの語り口で綴る。それが時に心を揺さぶる。「新境地」と言われるのもうなずける作品だ。

 サイクリングをしている時、ふと腕を見ると虫がくっついていて、そのまま離れないことがよくある。もしかして妻が虫に生まれ変わって心配して来てくれてるんだろうか。寄り添ってくれているのだろうか? もっと一緒に走りたかったよね。そんな思いがよぎり、追い払うこともなく走り続ける。「大切な人がこの世界から失われてしまったとしても、『いた』ことを私は知っている。知っているからいいのだ」。心の中で妻は永遠に生き続ける。まあ、虫が寄ってくるのは山の中が多いんだけどね(^_^; どう思おうと勝手だからね。

 「父が最後に買ってくれたのはセブンイレブンのおでんだった」。そう、帯に大々的に書かれているのだが、これが最後と思って買うわけではないからね。それが人生。ちなみに僕が妻と最後に一緒に食べたのは駅前のスーパーで買った「おこわ弁当」だった。

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※早見和真(1977年神奈川県生まれ。桐蔭学園高野球部出身。2学年上に高橋由伸がいた。2008年、その野球部時代の体験をもとに執筆した「ひゃくはち」でデビュー。同作は映画化、コミック化されベストセラーとなる。14年「僕たちの家族」が映画化、15年「イノセント・デイズ」が第68回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞、テレビドラマ化され大ベストセラーに。19年「店長がバカすぎて」が20年本屋大賞ノミネートされロングセラー。20年「ザ・ロイヤルファミリー」が第33回山本周五郎賞およびJRA賞馬事文化賞受賞。ほかに「小説王」「かなしきデブ猫ちゃん」(絵・かのうりん)など)



●一番おバカなのはやっぱり谷原京子さん?

 山本猛(やまもと・たける)元店長が、3年ぶりに吉祥寺本店に店長として復帰した。張り切る店長だが、相変わらず、人を苛立たせる天才だ。しかし谷原京子(たにはら・きょうこ)は、心の中で「お帰りなさい」とつぶやき…。『ランティエ』連載を加筆し書籍化。

 「店長がバカすぎて」の続編。帰って来た山本店長、小柳さん、磯田さん、石野恵奈子(大西賢也)さん、京子の親父さんらのおなじみメンバーに新キャラも加わった。ただ前作ほどの衝撃はなく、店長に前作ほどのキレ(馬鹿さ加減)もない気がした。笑わせるシーンも出てくるが、やはり前作の「つぐない」ほど腹を抱えるほどではないかな。作品中に「多くの小説の続編が蛇足と断じられ、成功した一作目に傷を負わせてしまう」という表現が出てくるが、自虐かと思ったほど。

 そのせいもあって中盤は少しだるい気がしたが、第五章で「あれ? どうなってんねん?」と驚かせた後は最終章まで息をつかせぬ展開が続く。で、結局、やっぱり面白かった(^o^) もしかしたら「谷原効果」だったかもね。「おもしろい」とハードルを上げすぎてしまうと「それほどでもない」ってことになり、「つまらない」とハードルを下げておくと「意外とおもしろかった」となる。図書館で予約してからだいぶ待ったので期待も大きかったからなぁ。

 それにしても一番おバカなのはやっぱり谷原京子さん? 「店バカ 3」が楽しみだ。

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※桜木紫乃(1965年北海道釧路市生まれ。高校卒業後、裁判所でタイピストとして勤めたが、24歳で結婚して退職し専業主婦に。2児を出産直後に小説を書き始め、42歳になる年に『氷平線』で単行本デビュー。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。「ホテルローヤル」で2013年直木賞受賞。趣味はストリップ鑑賞)



●ラストシーンが身にしみる

 謎の位牌を握りしめて、百合江は死の床についていた――。彼女の生涯はまさに波乱万丈だった。道東の開拓村で極貧の家に育ち、中学卒業と同時に奉公に出されるが、やがては旅芸人一座に飛び込んだ。一方、妹の里実は道東に残り、理容師の道を歩み始めた……。流転する百合江と堅実な妹の60年に及ぶ絆を軸にして、姉妹の母や娘たちを含む女三世代の凄絶な人生を描いた圧倒的長編小説。

 こんな不幸な展開をよく書けるなというくらい、不幸なお話が続く。まさに「愛がない」。幸せそうになっても長続きせず、結局、行きつくところは同じ。いや、もっと悪化する。なのに読み終わった後には満足感が漂う。ラストシーンが身にしみる。自分の人生は自分の人生。どこへ向かうも風まかせ。手前勝手に生きてりゃいいのさ。不幸だって幸福だって、なんでもかんでも考えようなんだよ。

 時間軸があちこちし、さらに名前がややこしく、誰と誰が親子だっけ? と相関図が頭に入らない。実際は逆なのだが、小百合の娘は小夜子、里実の娘は理恵の方がしっくりくる。一気読みしないと混乱すること間違いなし。

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※永井紗耶子(1977年神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。新聞記者を経てフリーランスライターとなり、新聞、雑誌などで幅広く活躍。2010年、「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。2020年に刊行した「商う狼 江戸商人杉本茂十郎」は細谷正充賞、本屋が選ぶ時代小説賞、新田次郎文学賞を受賞した。2022年、「女人入眼」が第167回直木賞の候補作に。2023年、「木挽町のあだ討ち」で第169回直木賞、第36回山本周五郎賞受賞。他に「大奥づとめ よろずおつとめ申し候」「福を届けよ 日本橋紙問屋商い心得」「横濱王」など。)



●たった1行に「やられた!」

 睦月晦日の戌の刻。雪の降る中、木挽町の芝居小屋裏手で赤い振袖をかずき、傘を差した一人の若衆が大柄な博徒を相手に「父の仇。尋常に勝負」と名乗りを上げ、見事仇討ちを成し遂げる。首級(しるし)を上げた若衆が宵闇に姿を消したその2年後、ある若侍がその顚末を聞きたいと木挽町を訪れる。芝居者たちの話からあぶり出される真相は…。『小説新潮』掲載を書籍化。

 見事な「起承転結」。「起」は「木挽町の仇討」を描いたたった1ページ。「承」は2年後に木挽町を訪れた若侍が木戸芸者、立師、女形、小道具、そして筋書らから「木挽町の仇討」の様子と、それぞれの来し方を聞いて回るシーンが延々と続く。「幇間」「御徒士(おかち)」「隠亡(おんぼう)」など興味深い話が出てくるが、これがどう結末につながっていくのかまったく想像できない。このまま終わっちゃうとちょっとだるいな。これが直木賞? と疑問に思いながら読み進む。ところが、終盤のたった1行に「やられた!」と腰を抜かすことになる。まさに「転」。表紙にあるタイトルをもう一度見直し「そういうことか!」。そこから「結」はもう一気。まるで映画の「スティング」のよう。面白過ぎる。

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※益田ミリ(1969年大阪府生まれ。イラストレーター、エッセイ、マンガを手掛けるほかに、ふとした日常のつぶやきを五七五にした「つぶやき川柳」でも知られる。夫なし男なし三十路半ばの「すーちゃん」の日常を淡々と描いた異色四コマ漫画「すーちゃん」「結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日」はじわじわ人気を呼び、ベストセラーとなっている。主な著書に「お母さんという女」「大阪人の胸の内」「女湯のできごと」「ピンク・レディー世代の女のコたちへ」「『妄想』はオンナの幸せ」など。朝日新聞朝刊土曜日付にエッセイ「オトナになった女子たちへ」を漫画家の伊藤理佐さんと隔週で連載中)



●今回も共感しまくり、笑いまくり

 「おひや」「おもてなし」「今の子供は…」など、世間でよく耳にするけれど、気恥ずかしかったり抵抗があったりして、自分ではうまく使えないコトバについて綴ったほんわかコミックエッセイ集。描き下ろしを新たに収録して文庫化。

 これまで使っていた言葉が、いつの間にか別の言葉に変わり、あれ? どうなってる? 「チョッキ」や「トックリ」はもう使っちゃいけないの。「チェイサー」って単なる水やないけ。おあいそ? 会計? チェック? 締める? どう使い分けるんやねん。今回も共感しまくり、笑いまくりだった。漫画も面白すぎ。

 もちろん「言えないコトバ」だからといってけなしているだけではない。それぞれの言葉への解釈、エピソード、思いがきちんと真面目に書かれている。益田ミリさんの場合、その真面目さが余計に笑いをさそう。「祖父・祖母」なんて、なるほど、それだから自分も言いづらかったのかと大いに納得した。

 それにしても自分のこと、あっさりとさらけだすねぇ。さらっと彼氏と結婚はしてないけど同居してるって書いたりして(^_^; 

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※青山美智子(1970年愛知県生まれ。横浜市在住。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務の後、出版社で雑誌編集者をしながら執筆活動に入る。2017年「木曜日にはココアを」で小説家デビュー。同作は第1回未来屋小説大賞受賞、第1回宮崎本大賞受賞。21年「猫のお告げの中で」で第13回天竜文学賞受賞。同年「お探し物は図書館で」が本屋大賞第2位。22年「赤と青のエスキース」が本屋大賞第2位。23年「月の立つ林で」が本屋大賞第5位)



●誰でもええかっこしたいよねぇ

 小さな公園の隅っこにポツンとある、乗るだけのカバのアニマルライド。塗料は剥げまくり、大きな瞳の黒目もところどころ白くなって何だか涙目。なのに口はふにゃっと笑っていてなにやらけなげ。実はこのカバは人呼んで「リカバリー・カバヒコ」。自分の治したいところと同じところを触ると回復(リカバリー)するという。22年〜23年『小説宝石』掲載を書籍化。本屋大賞ノミネート。第7回未来屋小説大賞第2位。

 誰でもええかっこしたいよねぇ。そんな思いが逆にどんどん深みに入り、「病状」は悪化して抜け出せなくなる。でもそれを救ったのは人の温かい言葉。そして何でも聞いてくれる「カバヒコ」。

 登場人物が交差しながらの5つの物語。どれも魅力的ないい作品だけど、最終話が秀逸。涙がじんわり出た。

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※内舘牧子(1948年秋田市生まれ、東京育ち。13年半のOL生活を経て、88年脚本家としてデビュー。テレビドラマの脚本に「ひらり」「毛利元就」(1997年NHK大河ドラマ)など。武蔵野美術大学客員教授、ノースアジア大学客員教授、元横綱審議委員、東北大学相撲部総監督。著書に「終わった人」「今度生まれたら」など)



●老害というより老獪

 昔話に説教、趣味の講釈、病気自慢に孫自慢。そうかと思えば、無気力、そしてクレーマー。『終わった人』『すぐ死ぬんだから』『今度生まれたら』に続く著者「高齢者小説」第4弾!

 双六やカルタの製作販売会社・雀躍堂の前社長・戸山福太郎は、娘婿に社長を譲ってからも現役に固執して出勤し、誰彼かまわず捕まえては同じ手柄話をくり返す。彼の仲間も老害の人ばかり。素人俳句に下手な絵をそえた句集を配る吉田夫妻に、「死にたい死にたい」と言い続ける春子など、老害五重奏(クインテット)は絶好調。「もうやめてよッ」福太郎の娘・明代はある日、たまりかねて腹の中をぶちまけた。

 前半はちょっと「う〜ん」と首をひねるような感じだったけど、中盤からはどんどん引き込まれ、最後は涙ぐんだ。さすが内舘牧子さん。うまいね。

 「遊びをせんとや生まれけむ。戯れせんとや生まれけむ」。「残された日が少ないからこそ、人間は遊ばないとダメなんです」。その通り!(^o^) しかし、戸山福太郎は老害というより老獪(ろうかい)だね。それでいて憎めない。

 24年5月5日から伊東四朗さん主演でNHKでテレビドラマ化。序盤は原作に忠実だったけど、途中から違う方向へ。

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※筒井康隆(1934年大阪府生まれ。兵庫県神戸市垂水区在住。ホリプロ所属の俳優でもあるらしい。ナンセンス、ブラックユーモアから始まり、実験的な作品も発表。92年「朝のガスパール」で日本SF大賞。「東海道戦争」「48億の妄想」「時をかける少女」「ベトナム観光公社」「アフリカの爆弾」「にぎやかな未来」「家族八景」「虚人たち」(第9回泉鏡花文学賞)「文学部唯野教授」「夢の木坂分岐点」(第23回谷崎潤一郎賞)「ヨッパ谷への降下」(第16回川端康成文学賞)ほか多数。93年に断筆宣言し、96年に執筆再開)



●すべては夢なのか

 精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者でサイコセラピスト。だが、彼女にはもうひとつの秘密の顔があった。他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢探偵パプリカ。人格の破壊も可能なほど強力な最新型精神治療テクノロジー「DCミニ」をめぐる争奪戦が刻一刻とテンションを増し、現実と夢が極限まで交錯したその瞬間、物語世界は驚愕の未体験ゾーンに突入する!

 どこまでが夢でどこまでが現実か。いや、すべては夢なのか。いつのまにか引きずり込まれ、最後はハチャメチャになるという筒井康隆ワールド全開のSF作品。今ごろ読んだことを後悔(^_^; 面白すぎる。

 パプリカは何となく火田七瀬(七瀬三部作『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』の主人公)に重なるような気がするかな。

 06年にアニメ映画化(今敏監督)されたが、ストーリーは大胆に脚色されているようだ。キャッチコピーは「私の夢が、犯されている―」「夢が犯されていく―」。まあ、アニメじゃ難しいか^_^;

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※凪良ゆう(1973年滋賀県生まれ。京都市在住。2007年にBLジャンルの初著書を刊行しデビュー。ボーイズラブ(BL)作家として活躍し『美しい彼』シリーズ(2014年〜)は2021年にドラマ化され2023年4月には映画化。2017年には初の文芸小説『神さまのビオトープ』を刊行。2019年の『流浪の月』で本屋大賞を受賞し、2022年に実写映画化。2020年の『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補にもなった『汝、星のごとく』で恩田陸以来2人目の2度目の本屋大賞受賞)



●心に刺さる言葉がちりばめられた傑作

 瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)。父は恋人のところから帰って来なくなった。一方で男好きの母の恋愛に振り回される櫂(かい)。惚れた男を追った母に連れられ、京都から島に転校してきた。そんなともに心に孤独と欠落を抱えた二人が出会い、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していき…。『小説現代』掲載を加筆改稿し単行本化。

 人とは、人生とは。遠距離恋愛、ジェンダー、ヤングケアラー、SNS炎上、不倫、浮気、がん闘病、女性差別などいろんなものを詰め込みながらも、すんなりと読み進められる。すさまじい展開の割には読後感は悪くなく、最後は清々しささえ感じられた。「正しさなど誰にも分からない。だから捨ててしまいなさい。もしくは選びなさい」「自分のしたいことをやる」。心に刺さる言葉がちりばめられた傑作。

 実は凪良ゆうさんの経歴もすさまじい。読売新聞のインタビュー記事によると、母子家庭で育ち、その母親は小学校6年生のときに出て行く。親戚の家を転々とした後、児童養護施設で暮らす。高校へ進学したが1年で自主退学し、就職。しかし「中卒」「施設出身」と足元を見られ、月給は7万円ほど。生活ができず、半年で退社。その後はアルバイトを掛け持ちしてその日暮らしの生活を続けながらも、その頃連絡が取れるようになった母親に仕送りを続けていたという。「お金で買えないものもある。でもお金があるから自由でいられるころもある。たとえば誰かに依存しなくていい。いやいや誰かに従わなくていい。それはすごく大事なことだと思う」。作中のこの言葉には実感が込められている。

 「他の誰かと比較しなくていい。自分にとっての幸せを見つけて自分の人生を生きてほしい」という、全ての作品の根底にある凪良ゆうさんの願いが、この作品にもしっかり込められている。凪良ゆうさん会心の作ではないだろうか。

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※益田ミリ(1969年大阪府生まれ。イラストレーター、エッセイ、マンガを手掛けるほかに、ふとした日常のつぶやきを五七五にした「つぶやき川柳」でも知られる。夫なし男なし三十路半ばの「すーちゃん」の日常を淡々と描いた異色四コマ漫画「すーちゃん」「結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日」はじわじわ人気を呼び、ベストセラーとなっている。朝日新聞朝刊土曜日付にエッセイ「オトナになった女子たちへ」を漫画家の伊藤理佐さんと隔週で連載中)



●ちょっとエッチ…でもこういうのも書ける人だったんだね

 友人の結婚式の帰りに偶然再会した元上司。バーでのエロティックな会話の応酬のあと、終電を逃し…。表題作を含む全10篇と描き下ろし漫画を収録した、30代の女性たちを描く短篇集。

 はじめての小説集である。読んでいてドキドキした。だって、作中の登場人物に言わせてるけど『ちょっとエッチだし』(「五年前の忘れ物」)『下ネタって、なんか、ちょっと違う、みたいな…』(「とびら」)内容を、いつものタッチで書くんだもん。エッセイじゃないよね。自分のことじゃないよねと何度も確認したよ。でも益田ミリさんらしく穏やかで真面目な描写の中に、「そうくるか」という突拍子もない驚きもある。「セックス日和」なんて感心しきりである。こういうのも書ける人だったんだね。改めて引き出しの多さと奥深さを感じた。図書館で何気なく手に取り借りた一冊だが、楽しい時間が過ごせた。

 どの作品も微笑ましさを感じたが、最後の「ニリンソウ」だけはちょっと泣けてきたね。
 

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