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※相場英雄(1967年新潟県生まれ。2005年「デフォルト(債務不履行)」で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。12年に刊行した「震える牛」が28万部を超えるヒットとなる。他の著書に「血の轍」「リバース」「御用船帰還せず」など)
●まったく飽きさせない600ページ
2年前に自殺と処理されていた行方不明者が、実は他殺だったことを捜査一課継続捜査班の田川信一が見抜く。地取り、鑑取りの鬼と言われた田川刑事がコツコツと再捜査を進めると、島国で独自の進化を遂げるガラパゴス化された日本の産業の衰退、部品扱いされ生き地獄のような生活を送るほかない非正規労働者の実態があらわになる。
行方不明者「903」の正体に意外とあっさりたどり着いたのは「あれ?」という感じだったが、そこからが俄然面白くなる。田川刑事がじわじわと真実に迫る一方で、何とか逃れようとする加害者側。衝撃的な非正規労働者の闇。まったく飽きさせない、上下巻600ページだった。
23年11月に織田裕二主演でNHKでドラマ化。強面の木幡祐司警部補は木幡祐香巡査部長に替わり、桜庭ななみが演じた。
一時代を築いたシャープの「世界の亀山モデル」だったけど、莫大な補助金を投入した工場もわずか6年で操業停止となったのか。
数年前に冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの家電をほぼ一斉に買い換えた。旧製品を捨てるときに思ったのは「一度も使わない機能があったよなぁ」ということ。それなのに新製品を買うときは「お、この機能いいじゃん」とか懲りずに思ったりする。で、やっぱり使わないだよねぇ。宝の持ち腐れ? いや、宝でもないかも知れないけどね。
ソフトやOSのバージョンアップにしてもそう。機能追加しても訳分からんし、使いもしない。今のままで十分やんけと常に思う。開発側としてはそうも行かないんだろうけどね。ちなみにこれまでで一番嬉しかった機能追加はアドビのフォトショップ、イラストレーターのレイヤー。それまではやり直すためには過程ごとに保存する必要があった。これができるようになって画期的に製作が楽になり、幅も広がった。歴史を変えた機能追加だった。これ以上のものはその後は生まれていないと思う。
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※有吉佐和子(1931年(昭和6年)和歌山県生まれ。昭和31年に「地唄」で文壇デビュー。紀州を舞台にした「紀ノ川」「有田川」「日高川」三部作、世界初の全身麻酔手術を成功させた医者の嫁姑問題を描く「華岡清秋の妻」(女流文学賞)、老人介護問題に先鞭をつけ当時の流行語にもなった「恍惚の人」、公害問題を取り上げた「複合汚染」など意欲作を次々に発表し人気作家の地位を確保する。「悪女について」「真砂屋お峰」「和宮様御宮」「出雲の阿国」「香華」など多彩かつ骨太、エンターテインメント性の高い傑作の数々を生み出した。昭和59年8月逝去)
●すべてがいい話だなぁ
無名の陶芸家が生み出した美しい青磁の壺。売られ盗まれ、十余年後に作者と再会するまで壺が映し出した数々の人生。定年退職後の虚無を味わう夫婦、戦前の上流社会を懐かしむ老婆、45年ぶりにスペインに帰郷する修道女、観察眼に自信を持つ美術評論家。人間の有為転変を鮮やかに描いた有吉文学の傑作。初出は昭和51年1月号〜52年2月号「文藝春秋」。2011年7月に新装版。
新聞広告で「シングルマザーの惑い 定年を迎えた夫の奇行 すれ違う夫婦、相続争い 壺が映し出すリアルな人間模様に思わずゾクリとする不朽の名作」「原田ひ香が『こんな小説を書くのが私の夢です』と推薦」と宣伝していたので読んでみた。
はっきりいって面白い。思い切り昭和な話で、昭和生まれとしては当然のごとく、ぐいぐい引き込まれていく。登場人物がほぼじーさんばーさんで、自分もその仲間入りしたばかりということもあり、自分事として共感が持てる。すべてがいい話だなぁ。昭和52年に書かれた作品だが、全く色あせていない。まさしく「不朽の名作」だ。
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※原田ひ香(1970年神奈川県生まれ。05年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。ほかに「三人屋」「ランチ酒」シリーズ、「東京ロンダリング」「母親ウエスタン」「一橋桐子(76)の犯罪日記」「三千円の使い方」「DRY」「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」など)
●神保町に行きたくなった(^o^)
謎多き独身の次兄の急死で、突然神保町の古本屋を相続することになった妹の珊瑚(さんご)。独身のまま両親を介護し、看取った後はのんびり暮らしていたが、意を決して北海道から単身上京。次兄・滋郎の住んでいた高円寺のアパートにそのまま住んで、お店を再開させる。一方、東京の女子大の国文科に通う長兄・統一郎の孫の美希喜(みきき)は、大叔父・滋郎の生前にその古本屋に通い、進路も相談を受けており、本好きだったこともあってやがて珊瑚の手伝いをするようになる。『ランティエ』連載を改題、加筆修正し単行本化。
神保町の古本屋街に行ってみたいなぁ。「御伽草子」読んでみたいなぁ。古典も読まなくちゃなぁ。笹巻けぬきすし食べたいなぁ。ビーフカレーも食べたいなぁ。そんな思いが広がる、本好きグルメにはたまらない作品。
「古本食堂」というタイトル、そして各章のタイトル、たとえば第一話の「『お弁当作り ハッと驚く秘訣集』小林カツ代著と三百年前のお寿司」が読み始めはよく理解できなかったが、そのうちそういうことかと合点がいき、その世界に入り込め、やがて次は何かなと期待するようになった。登場人物もほんわかして優しく温かい。美希喜の母・芽衣子(めいこ)もいい味出してる。もっと読みたい。
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※桜木紫乃(1965年北海道釧路市生まれ。高校卒業後、裁判所でタイピストとして勤めたが、24歳で結婚して退職し専業主婦に。2児を出産直後に小説を書き始め、42歳になる年に『氷平線』で単行本デビュー。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。「ホテルローヤル」で2013年直木賞受賞。趣味はストリップ鑑賞)
●最後の順子の言葉が清々しい
年上の職人と駆け落ちし、東京の片隅で貧しい生活を送る順子。その彼女に吸い寄せられた高校の図書部の仲間、逃げられた職人の妻、順子の母親の苦悩を25年間に渡る連作で描く。「小説推理」掲載(12年3月号〜13年3月号)を単行本化。
人からどう見られても、幸せかどうかは自分で決めるもの。最後の順子の自信にあふれた言葉が清々しい。純粋に思いを貫いた姿が美しい。6つの短編に順子の章はないが、主人公は彼女。彼女との関わりを通して6人の登場人物が自分を見つめていくという構成や書き方は、意表を突かれたようで非常に面白い。「ホテルローヤル」と同じで読み終わった途端、もう一度読み返したくなる。桜木紫乃さんはこれで3作目だが、外れがない。巧いなぁ。
そして今回の性表現も秀逸。好きになっちゃったなぁ。
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※西加奈子(1977年、イラン・テヘラン市生まれ。大阪育ち。2004年に「あおい」でデビュー。「通天閣」で織田作之助賞受賞。「ふくわらい」で河合隼雄物語賞受賞。ほかに「さくら」「きいろいゾウ」「円卓」「舞台」など)
●極上のエンターテインメント
「僕はこの世界に、左足から登場した」。一瞬、何のことか分からないような一文から始まる。主人公の「僕」は、マイノリティ絶対主義で騒動を起こし続ける姉の影響で、自分から率先して中心になろうとせず自分の存在を消しながら生きていく。その「僕」の目を通じて家族たちや周囲の人々の生き様が淡々と綴られていく。デビュー10周年で描いた上下巻の大作。第152回直木賞受賞作で、2015年本屋大賞でも第2位を獲得した。
想像を超えた驚くべき出来事が次々と起こり、飽きることなく読み進められた。独特の語り口、真面目そうな中にユーモアを含んだ表現に魅せられ、大阪弁もなんだかしっくりきた。登場人物もそれぞれが強烈過ぎる個性の持ち主で、特に姉は秀逸過ぎ。後半は「家族崩壊」「残酷な未来」とマイナス方向へ突き進むが、悲壮感はなく逆に面白みが増してきた。「本当に、こんなにうまくいった小説はない」と本人自らが言うように、極上のエンターテインメントに仕上がっていると思う。ただ、最終盤は少しくどく、分かりづらかったのは否めない。その部分がなければ物語は終わらなかったのだろうが、その前でやめてもよかった気がする。
それにしても女性なのになんでこうも男の子の生態について詳しいのだろう。まるで自分のことのように思え、共感しまくった。インタビューでは「『キン肉マン』や『北斗の拳』、プロレスなど、いわゆる男の子のものがすごく好きだった」と言っているが…。
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※益田ミリ(1969年大阪府生まれ。イラストレーター、エッセイ、マンガを手掛けるほかに、ふとした日常のつぶやきを五七五にした「つぶやき川柳」でも知られる。夫なし男なし三十路半ばの「すーちゃん」の日常を淡々と描いた異色四コマ漫画「すーちゃん」「結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日」はじわじわ人気を呼び、ベストセラーとなっている。主な著書に「お母さんという女」「大阪人の胸の内」「女湯のできごと」「ピンク・レディー世代の女のコたちへ」「『妄想』はオンナの幸せ」など。朝日新聞朝刊土曜日付にエッセイ「オトナになった女子たちへ」を漫画家の伊藤理佐さんと隔週で連載中)
●なんて面倒な父親 でも憎めないなぁ
光文社「小説宝石」で2004年5月号から08年12月号まで連載された「『オトーさん』という男」を基にし、大幅に加筆、修正。
短気ですぐに怒鳴るオトーさん。言わなくていいことも大声で言ってしまうオトーさん。いいところもあり、好きなところもあるのだが、娘としては「こーゆー人が恋人だったら絶対にイヤ」。読みながらなんて面倒な父親なんだと思ったけど、でも、憎めない。ホントは愛してるのよ、オトーさん。そんな気持ちが伝わってくる。思わず微笑んでしまうエピソード満載のほんわかイラストエッセイ。しかし、オトーさんはこの本を読んでどう思うのだろうか。「おもろいな」と言って、でも何も変わらない気がするが(^_^; 「お母さんという女」も読まなくちゃね。
我が家も娘2人。なんて思われてるんだか…。
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※増田俊也(1965年生まれ。北海道大学中退。愛知県旭丘高校から七帝柔道に憧れて北大に入学。4年の夏の七帝戦を最後に引退し大学中退。北海タイムス社記者に。2年後に中日新聞に移る。中日在職中の2006年に「シャトゥーン ヒグマの森」で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞しデビュー。2012年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。2013年、北大時代の青春を描いた自伝的小説「七帝柔道記」で山田風太郎賞最終候補。2016年春、四半世紀務めた中日新聞社を早期退職し、本格的な作家生活に入った)
●史上初かも 新聞社整理部が舞台
全国紙の採用試験に落ち、北海道の地方紙・北海タイムスになんとか入社した早大教育学部卒の主人公。当然、出稿記者志望だったが、配属先はまさかの整理部。同期たちは「掃除やってる部署みたい」「整理整頓の係と思われちゃう」「カッコ悪いんだよな」とボロボロにけなし、新聞社の中では地味なセクションと嫌われていた。このまま整理部に据え置かれたくない主人公は毎日スーツを着て通い、社会部記者への異動をアピールするが…。出版社の謳い文句は「会社の愛し方、教えます――ダメ社員の奮闘を描く、共感度120%の熱血青春小説!」。
最近ファンになった益田ミリさんの本を図書館で探していると、「ま行」の棚に「北海タイムス物語」なんてタイトルの本を見つけた。作者は増田俊也さん。知らないなぁと略歴を確認すると北海タイムス、中日新聞に勤めていたらしい。何となく面白そうだなと読んでみたら大当たり。100年の歴史を持つ北海タイムスの1998年(平成10年)9月2日の休刊への道を描いたものではなく、自分が現役時代に長く所属した整理部のお話だった。
久しぶりに「倍尺」という言葉に出会ったよ。二十数年ぶり? 実在の新聞社が舞台だが、出稿部門ではなく整理部にスポットライトを当てた小説なんてこれまであったっけ? 史上初じゃね? 1段が15倍、2段は中段(なかだん)があるから31倍と教えられ、「じゃ3段は?」と聞かれ「46倍」と答えると「おまえ計算ができないのか」と怒られる。「あとで倍尺よくみて覚えとけ」。いや、懐かしい(^o^)
おまけに描かれている時代は平成2年(1990年)。自分もまさにこの時代に整理部にいた。鉛活字が完全に消え、各社とも完全CTS移行への途中段階だったが、全国紙にはすでにスーパーコンピュータで大組しているところもあった。朝日のネルソン! あったねぇ、これも懐かしい。しかし、この作品に出てくる北海タイムスはその前段階で、記事、写真、凸版を印画紙で出し、台紙に糊で貼り付けていく「切り貼り」での大組。記事は棒で出力され、大組担当の製作がカッターで切って流したり、たたんだりしていくやり方だった。「文字を斜めに流したり、見出しを斜めにしたり、いろんなことが簡単にできる。だからスポーツ新聞も見出しの部分はあえてこのシステムでやっているんだ」と編集局次長兼整理部長に言わせている(最後の部分はちょっと違うと思うが)。そして、整理の面担は倍尺に加え、ハサミとカッターを持って製作現場へ走っていくなんてあると、思わず笑ってしまう。なんでそんなに詳しいの? でも、自分にとってはこの時代が一番面白く、楽しかったねぇ。新聞を作っているという手応えがあった。
新聞整理の醍醐味がとってもよく分かる作品(^o^) バイブルとまでは言わないが、副読本にしてもいいかもね。組み版がすべてコンピュータになっても価値判断、見出し、レイアウトの基本は変わらない。
ちなみに表紙のイラストは、早刷りを持ってきたスーツ姿の主人公を、Gパンでサンダル履きの整理部先輩が倍尺を振り上げ「おせーぞ」と怒鳴る、昭和なシーンかな(^_^;
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※潮谷験(1978年京都府生まれ。2020年、デビュー作の「スイッチ」で第63回メフィスト賞受賞)
●面白いんだけど何となくモヤモヤ…
「純粋な悪」の存在を証明する心理コンサルタントの実験のアルバイトに参加した学生達のスマホには、幸せな家族が営むパン屋さんを破滅させるスイッチがインストールされる。押しても押さなくても毎日1万円が振り込まれ、1カ月後には100万円のボーナスも手に入る。押すメリットなど何もないはずなのに…。
設定が興味深く、二転三転の展開もあって365ページがほぼ一気に読めた。ただ、トリックでちょっと無理かなというか端折ってるような感じを受けたところがあったので、そこは残念。犯人探しは興味深く読み進められたけどね。でも「スイッチを押す押さない」の各人の心理劇をもっと読みたかったかな。宗教的な話も個人的にはちょっと。まあ、ここがポイントにはなるんだけど理解できない部分もあった。純粋なミステリーとして期待していただけに、面白いんだけど何となくモヤモヤ…。
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※奥田英朗(1959年岐阜生まれ。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て1997年「ウランバーナの森」でデビュー。2002年「邪魔」で第4回大藪春彦賞。04年「空中ブランコ」で第131回直木賞。07年「家日和」で柴田錬三郎賞、09年「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞を受賞)
●「え、これで終わり」はないよなぁ
渡良瀬川の河川敷で相次いで若い女性の死体が全裸の状態で発見される。10年前の未解決連続殺人事件と酷似した手口に群馬、栃木両県警は色めき立つ。同一犯か、模倣犯か? 人間の業と情を抉(えぐ)る群像劇×犯罪小説。「小説すばる」連載を単行本化。
推理小説だと思って読み始めたが、そうではなかった。強烈な個性を持った3人の被疑者、その周辺の人々、10年前の被害者の遺族、被疑者を追い詰めていく刑事たち、10年前に被疑者を逮捕できず再び戦いを挑む老元刑事、殺人事件を初めて取材することになった地元支局の新米女性記者。彼らが様々な思いを持って犯人に迫る様を描いた群像劇だ。なのでトリックめいたものはなく、犯人が語るシーンもないので動機も不明。なのに物語自体の人間ドラマの面白さにぐいぐい引き込まれ、650ページがあっという間に読めてしまった。エンターテインメントとしてはとてもいい作品だと思う。
ただね。読み終えてちょっと消化不良なのも事実。後日談を読みたいと思うのは自分だけではないはず。犯人の思いを知りたい。「え、これで終わり」はないよなぁ、っていうのが本音かな。でも、それでもいいのかも。結末は読者自身に委ねられたんだね。
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※益田ミリ(1969年大阪府生まれ。イラストレーター、エッセイ、マンガを手掛けるほかに、ふとした日常のつぶやきを五七五にした「つぶやき川柳」でも知られる。夫なし男なし三十路半ばの「すーちゃん」の日常を淡々と描いた異色四コマ漫画「すーちゃん」「結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日」はじわじわ人気を呼び、ベストセラーとなっている。朝日新聞朝刊土曜日付にエッセイ「オトナになった女子たちへ」を漫画家の伊藤理佐さんと隔週で連載中)
●いいなぁ、こういう適当な旅
2002年12月から06年10月までの約4年、32歳の終わりから37歳まで、毎月毎月出かけて行った47都道府県。何かを学ぶ、などにはこだわらない、「ただ行ってみるだけ」のゆる〜いひとり旅の記録。ウェブ連載を書籍化。
下調べしないから行ってみたらイベント終わってた、名物や有名観光地のうんちくもない、仙台は宮城県だったのか、内向的で気弱なので緊張してお店に入れない、バス停が分からず訪問を断念する、マンガを書いているのに「水島新司」を知らない。自意識過剰でふれあいは苦手。それなのに○○体験は大好きであれば速攻で参加、食事も意外と高価なものをしらっと食べ、マッサージも欠かさない。そんな女のひとり旅。ほんわかして、肩肘張らず気楽にあっという間に読めた。いいなぁ、こういう適当な旅。これもあれもと頑張って見なくていいし、名物だからといって嫌いだったら食べることもないんだよ。
使ったお金が書かれているので、原稿にない部分も想像できて面白い。トータルすると約220万円だそうな。
自身を振り返り、自転車で走ったことのない所はどこだろうと考えてみた。
北海道、岩手県、山形県、福井県、京都府、兵庫県、鳥取県、島根県、山口県、香川県、徳島県、高知県、福岡県、佐賀県、大分県、長崎県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県の20道府県だった。しかし、北海道と九州・沖縄は飛行機輪行だしハードルが高いなぁ。
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※桜木紫乃(1965年北海道釧路市生まれ。高校卒業後、裁判所でタイピストとして勤めたが、24歳で結婚して退職し専業主婦に。2児を出産直後に小説を書き始め、42歳になる年に『氷平線』で単行本デビュー。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。「ホテルローヤル」で2013年直木賞受賞。趣味はストリップ鑑賞)
●満足しました。あなたの勝ちです
舞台上の怪我で引退を決意した、元ストリッパーのノリカは故郷札幌に戻りショーパブの店を開くことに。ダンサーを募集すると、2人の若い女性が現れて…。踊り子たちの鮮烈な生き様を描く。『小説すばる』掲載を加筆・修正。直木賞受賞の「ホテルローヤル」が面白かったので違う作品も読んでみたくなった。
「下着を外せば自分にも、ソロで踊れる場所がある」「踊って下着を取るだけがストリップじゃない」「満足な踊りも見せずに脚を広げることなど出来やしない」。ストリッパー、いや踊り子としての矜持が強烈に伝わってきた。どんな世界にもプロはおり、プライドを持って仕事している。改めてそう思わされた作品。「趣味はストリップ鑑賞」と公言するだけあって、内容も具体的で臨場感があり表現力も豊か。さらに個性豊かな脇役が続々と登場し、飽きさせない展開が次々と巻き起こる。ほぼ一気読み。凄いね。もうこの一言しか出ない作品。
「こんな世界があるのかと。初めてストリップを見たとき、これは20分間で表現する短編小説だと思った。舞台も小説も一期一会の闘い。私の仕事と同じフィクションであり、お客さんを満足させなければ負け」(産経新聞インタビューより)。申し訳ないが、自分を含め男の大半はストリップをそんな視点では見ないだろう。「裸の華」を読んで満足しました。あなたの勝ちです。
浄土みのり主役で続編を読んでみたいな。その時「フジワラノリカ」はどこにいるのだろうか。
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※内舘牧子(1948年秋田市生まれ、東京育ち。13年半のOL生活を経て、88年脚本家としてデビュー。テレビドラマの脚本に「ひらり」「毛利元就」(1997年NHK大河ドラマ)など。武蔵野美術大学客員教授、ノースアジア大学客員教授、元横綱審議委員、東北大学相撲部総監督。著書に「終わった人」「今度生まれたら」など)
●すぐには死ねないねぇ(^_^;
10年前に実年齢より上に見られてショックを受けた忍(おし)ハナは「人は中身より外見を磨かねば。そこらのバアサンになりたくない」と一念発起。ナチュラルよりアンチエイジングと精を出した結果、78歳の10年後に60代に見られた上、シニア向け雑誌のグラビアに掲載されるまでになるのだが…。小気味いい語り口(というより毒舌)でテンポ良く進む、まさに痛快な「終活」小説。2018年8月講談社より刊行。21年8月の文庫化にあたり一部を加筆・修正。
「平均寿命まで生きたとしても先はない。せいぜい10年足らず。ならばあと10年を好きに生きて何が悪い。犯罪以外は何をやってもいい年齢だろう」とハナは幸せを感じていたが、夫が急逝してからは「いつ死んでもいい」と気が沈み始める。「夫に死なれ、生きる意味も先もないバアサンに、やる気がでないのは自然のことだろう」。ところが、とんでもない事実を知ることで物語は急展開していく。ここからが面白い。そこらのバアサンじゃないパワーがみなぎり始め復活していくのだが、心はなぜか年相応に穏やかになっていく。すぐには死ねないねぇ(^_^;
「年を取れば誰だって退化する。鈍くなる。緩くなる。くどくなる。(中略)身なりにかまわなくなる。なのに『若い』と言われたがる。孫自慢に、病気自慢に、元気自慢。これが世の爺サン、婆サンの現実だ」。あ〜、いったいいくつ当てはまるんだろう。近所のスーパーへはジャージーで行ってるし、まだ65歳なのにもう立派なそこらのジイサンじゃないか。
ハナの長女のブログでの人生相談の一節に面白いのがあったので紹介。。
「32歳の女性です。4つ年上の夫が生活費も入れず、趣味のロードバイクで一人で遊び回っています。2歳の子供がいるので、何度も言ったのですが直りません。でも別れたら暮らせません」
その回答。
「すぐ別れなさい。一生直りっこありません。そんなバカ男と人生、無駄にする気ですか。別れたら暮らせないって、今だって生活費入れてないなら同じです」
内館さん、ロードバイクにお金がかかることをよくご存じで(^_^;
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※山本文緒(1962年神奈川県生まれ。OL生活を経て作家デビュー。1999年「恋愛中毒」で吉川英治文学新人賞、2001年「プラナリア」で直木賞受賞。著作に「あなたには帰る家がある」「眠れるラプンツェル」「絶対泣かない」「群青の夜の羽毛布」「落花流水」「そして私は1人になった」「ファースト・プライオリティー」「再婚生活」「アカペラ」「なぎさ」など多数。20年「自転しながら公転する」で島清恋愛文学賞、中央公論文芸賞を受賞。この1年後の2021年10月13日、膵臓がんのため58歳で死去。)
●最後の1行に心が震えた
ひとり娘、32歳で独身の都(みやこ)。アパレルショップの正社員として東京で働いていたが、親の介護のため地元茨城に戻り、近所のモールのアウトレットで派遣社員として働く。そこで出会った中卒でヤンキー風の年下の寛一になぜか引かれ、恋愛のようなものが始まる。結婚、仕事、両親の問題……ぐるぐると思い惑う都。「私」で自転しながら「公」で公転し、幸せを求める姿を描く。『小説新潮』掲載に書き下ろしのプロローグとエピローグを加えて単行本化。
意表を突く豊かな表現力と、読みやすい文体。500ページ近いがすんなりと読めた。
最終章の最後の都の一言。いいなぁ。自転しながら公転し、すごいスピードで宇宙の果てまで向かっていたのが、ゆっくりとスローダウンし、ソフトランディングした感じ。そして最後の1行に心が震えた。
書き下ろしのプロローグ、エピローグがさらにこの物語を奥深くしている。とくにエピローグには驚かされた。たどりついた答えも洒落てる。「そんなに幸せになろうとしなくていいのよ。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ」。
山本文緒さんはこの作品を発表した1年後、58歳で永遠の眠りについた。
23年12月、都を松本穂香、寛一を藤原季節が演じたテレビドラマが読売テレビで3話完結で放映された。寛一のイメージがちょっと違ったかな。カッコ良すぎる(^_^;
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※桜木紫乃(1965年北海道釧路市生まれ。高校卒業後、裁判所でタイピストとして勤めたが、24歳で結婚して退職し専業主婦に。2児を出産直後に小説を書き始め、42歳になる年に『氷平線』で単行本デビュー。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。趣味はストリップ鑑賞)
●奥ゆかしく、上品な性表現
湿原を背に建つ北国のラブホテルを舞台に、客、経営者家族、従業員らの人間模様を描く7つの短編の連作集。『小説すばる』掲載に加筆・修正のうえ書き下ろしを加えて単行本化。第149回直木賞。
読みながらどこかで聞いたことのある話だなぁと思っていたら、映画化された作品を見ていた。20年11月公開。武正晴監督で、波瑠が主演を務め、松山ケンイチ、安田顕が共演。ただ、ストーリーは一部を除いてほぼ忘れていたが、予告編を見直すと蘇ってきた。映画はひとつの話として作られていたが、原作は時系列が逆転し、廃墟となったホテルから始まり、1作ごとに時間軸が戻っていき、最後はラブホテル誕生のエピソードで終わるという、なかなか斬新な展開。どうしても逆にもう一度読みたくなってしまう。
舞台がラブホテルなので性表現は避けて通れない。淡々と書かれているのだが、なんとも奥ゆかしく、上品で非常に魅惑的だ。男の女の性愛の切なさを巧みに表していると思う。泣けるというほどではないが、共感できることが多く、あっという間に読めた。「『新官能派』として性愛文学の代表作家」という評価もあるが、まさにその通りだろう。
モデルとなったのは実在のラブホテルで、桜木さんの父親がかつて経営していた施設の名前をとったという。ホテル内に住まいもあって、学校から帰ると毎日手伝いをしていただけあって、さすがにホテル内のことは詳しい。朝日新聞デジタルの「telling,」でのインタビューが面白過ぎて、他の作品も読みたくなった。「小説『ホテルローヤル』は虚構を描いた物語です。私が経験したことをそのまま書いているわけではありませんが、経験が書かせる一行もあったのではと思っています」。
まったく関係ないのだが、甲州街道の相模湖沿いに「ホテル・ローヤル」(相模湖ローヤル)があった。大昔(学生時代だったかな?)の深夜には東京12チャンネル(現テレビ東京)でテレビCMも流れていたが、いつの間にか廃業し、現在は廃墟となっている。ちょうど短いトンネルの迂回路にあり、以前は行けたような気がするのだが、いつの頃からか全く入れなくなっている。自転車で通るたび、なんとなく寂しい気持ちになる。
現在は廃墟となっている相模湖沿いの「ホテル・ローヤル」(相模湖ローヤル)。この作品とは全く関係ありません
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※柚月裕子(1968年岩手県生まれ。山形県在住。2008年「臨床真理」で「このミステリーがすごい!」大賞しデビュー。13年「検事の本懐」で大藪春彦賞、16年「孤狼の血」で日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。ほかに「最後の証人」「検事の死命」「あしたの君へ」「慈雨」など)
●こんなもの書ける人なんだねぇ
元弁護士で頭脳明晰、抜群のスタイルと美貌を持った女探偵・上水流涼子(かみずる・りょうこ)と、東大出でIQ140、劇団員だった過去を持つ貴山伸彦がタッグを組み、「あり得ない」依頼を鮮やかに解決に導く。「確率的にあり得ない」「合理的にあり得ない」「戦術的にあり得ない」「心情的にあり得ない」「心理的にあり得ない」の『メフィスト』掲載5作品を単行本化。
柚月裕子の作品をそんなに読んでるわけではないが、痛快なんだけど何となく軽いなぁ、このままの流れで終わっちゃうとちょっとつまらないなと思っていたが、助手の貴山がまるで主役のようになってくる中盤からは、がぜん面白くなってきた。コンビ誕生のエピソードには驚きも。こんなもの書ける人なんだねぇ。
23年春には天海祐希が上水流涼子、松下洸平が貴山伸彦を演じてテレビドラマ化もされた。僕はアンジェリーナ・ジョリーの顔しか浮かばなかったけどね(^_^;
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