193. 利食いと損切りのテクニック アレキサンダー・エルダー著 木水康介訳
2012年6月発行
The New Sell & Sell Short (How To Take Profits, Cut Losses, And Benefit From
Price Declines) by Dr.Alexander Elder Copyright©2011
本書は株式投資の本です。 コロナウイルスによる株価が暴落している時に、何で株式投資なんだと思いますが、何かを選択して決断する時、その決断をするときの心理とその決断をするための事前の分析と準備について、書かれています。
内容に入る前に、著者は、ニューヨークで、精神科医で、現役のトレーダーです。何も、株などをやらなくても、精神科医だけで十分ではないかと私は考えますが、投資と心理学の新しい分野を開拓した第一人者です。
著者の経歴について、見ていきましょう。
『 医学博士であり、プロのトレーダーであり、またトレード講師である。これまで10冊の本を上梓しており、特に「投資苑」 「投資苑がわかる203問」は、トレードの古典的名著として、世界中のトレーダーに支持されている。
レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれのエストニア育ち。 16歳でエストニアの医学学校に入学し、船医としてソビエトの船に乗っていた23歳のときに、アフリカで船を飛び下りて米国に政治亡命。ニューヨークで精神科医として働きながら、コロンビア大学で教鞭をとる。
精神科医としての経験から、トレード心理学に独自の視点を投げかけるなど、著書、寄稿、書評が高い評価を受けるようになり、トレードの専門家として世界的に知られるようになった。 現役のトレーダーであり、本書でも自身のトレードが数多く掲載されている。
1週間のトレーダー向け合宿研修会「トレーダーズキャンプ」の発起人であり、またプロとセミプロのトレーダー集団「スパイクトレード」の創設者でもある。同会では、各メンバーが最良の選択銘柄を持ち寄り、入賞を目指すコンテストが開かれている。
ウェブ上でトレーダー向けのセミナーを運営するかたわら、セミナーの講師として世界各国を飛び回っており、来日セミナーの経験もある。 』
『 成功するトレーダーというものは、3つのMから成り立っている。 それは心理(mind)、手法(method)、資金(money)である。 それぞれが心理学、分析、リスク管理に対応している。 』
『 私のツールボックスは、移動平均線、エンベローブ、MACD,勢力指数の4つでうまくいっている。
( エンベローブ : (envelope)(包む)で、ポリジャーバンドやパラボリックSARを指す。 )
( MACD : Moving Average Convergence(集合) and Divergence(分岐・発散) マックデと読む )
( 勢力指数 : Force Index で Roc (Rate of Change)など ) 』
『 トレードには、自信が必要だ。 しかし、逆説的だが謙虚さもまた必要である。 マーケットは巨大すぎて、すべてに通じることはできない。 完全に知り尽すことは不可能だ。
したがって、トレーダーは自分の「調査とトレード」の分野を選び、そこに特化する必要がある。金融マーケットと医学を比較してみよう。
現代では、ひとりの医師が外科、精神科、小児科の専門家になることは不可能だ。そのような全網羅的な専門知識は数世紀前なら可能だったかもしれない。だが、現代医学の医師は何かの専門家になる必要がある。 』
『 テクニカル分析とファンダメンタル分析
ファンダメンタル派は、株式なら上場企業の価値を調べる。商品ならその需給関係を調査する。 対照的にテクニカル派は、あらゆる株式や商品に関するあらゆる知識が、すでに価格に織り込まれていると考える。 チャートパターンと指数を調べ、トレードという戦場で強気派と弱気派のどちらが勝ちつつあるかを見極める。
いうまでもなく、この二つの手法には重なっている部分もある。真剣なファンダメンタル派ならチャートもみるし、真剣なテクニカル派なら自分が売買をしているマーケットのファンダメンタルズに関する考えを喜んで受け入れる。 』
『 トレードツールとしての心理
感情、希望、恐怖は、直接かつ即座にトレードに影響する。テクノロジーに左右されるわけではない。頭のなかで起こっていることが成功や失敗を左右するのだ。意思決定のプロセスは明確でなければならず、また先入観を持ってはならない。そうすることで経験から学び、より優れたトレーダーになれる。 トレード心理学のキーポイントを軽く紹介しておこう。
孤独は不可欠
人はストレスを感じると萎縮して、人のまねをするようになる。 しかし、トレーダーとして成功している人は、自分で決断をしている。 トレード計画をつくったり、トレードを実行したり、トレードを実行したりするときは、ひとりにならなければならない。
これは隠遁しろという意味ではない。ほかのトレーダーとつながりを持つのはいい。 ただ、トレード中は自分のトレード計画について、人と話すべきではないのだ。
自分のトレードと向き合い、できるだけ多く学び、自分で決断し、計画を書き出し、だまって実行する。 信頼のおける人たちと自分のトレードについて話し合うのは、トレードが終わってからである。 ポジションに集中するには孤独が必要なのだ。
自分を大切に
心理がトレーダの一部なら、心を大切にしなければならない。 衝動的なトレーダーが楽しそうでも、そういうふうに見えるだけだ。 敗戦は自分自身に対してきわめて凶暴になり、驚くほど手厳しくなる。 ルールを破って自分を責めることを繰り返す。
自分を責めても優れたトレーダーになれるわけではない。 部分的にでもうまくいったり、冷静に自分の欠点を評価したりしたら、褒めてやってもいいくらいだ。 私自身も、うまくいったトレードをたたえる報酬システムを持っている。 だが、損失を責めて自分を罰してはいけない。
失敗する宿命にあるトレーダーたち
マーケットに限りなく誘惑があるため、衝動をうまくコントロールできない人はトレードでうまくいかない傾向である。 酒飲みや薬物常習者が成功する可能性は低い。 短期的に多少の幸運に恵まれることはあっても、長期的には厳しい。
アルコールの問題や摂食障害など何か制御がきかないという問題を抱えているなら、その依存症が解決するまでトレードを控えてほうがいい。
強迫的に細部にこだわったり、病的なまでに強欲にとらわれたりしている人は、小さな損失を見過できず、トレードでもうまくいかない傾向にある。
トレード成功者は利益よりもゲーム性を愛している
毎週日曜日には、週末の宿題も終え、翌週の計画も仕上がっている。 こうした状態で月曜日に場が開くのを待つのは悪くない。 翌朝ビーチに繰り出す予定のサーファーも、前の晩はきっとこんな気分なのだろう。 この感覚は、準備ができているからこそ得られるものだ。
記録をつけること——夢をみるより実際の行動を
マーケットが開いてない週末に規律について語るのは簡単なことだ。 しかし、実際にコンプータの画面の前に坐って開場の鐘が鳴った5分後には、どうなっているだろうか。
トレード計画を紙に書き出し、厳格に遂行しなければならない。 記録をつける能力をみれば、その人が今後成功できるかすぐに分かる。
記録をしっかりつけられる人は、トレードで成功する可能性が高い。 記録をしっかりつけられない人は、トレードで成功する可能性がほぼゼロだ。 』
『 トレード日誌――成功し続けるための鍵
間違いを犯そう。 学ぼうとする者なら必ず間違いを犯す。 私が人を雇うときは常に「間違いを期待している」と告げるようにしている。
間違いを犯すのは、学習と探求の兆候なのだ。 ただし、間違いを繰り返すのは、不注意もしくは心理的な問題の兆候である。
間違いから学ぶ最良の方法は、トレード日誌をつけ続けることだ。それによって、成功の喜びと敗北の苦しみは蓄積可能な黄金の経験へと変わる。
トレード日誌では、図を用いてトレードを記録する。 仕掛けたときと手仕舞ったときのチャートを記録し、矢印、補助線、コメントをつける。 』
『 買い候補を選んだら、いくつか考えなければならないことがある。
① 利益目標はどこか。 この銘柄はどの程度上がりそうか。
② どこまで下がれば、買いの判断が間違っていたこと、損切りしなければならないと確信できるか。
③ その銘柄のリスク・リワード・レシオ、つまり潜在的な収益(リワード)とリスクの比率はいくらか。
プロのトレーダーは、この3つの問を常に考えている。 ひとつも考えないようではギャンブラーと同じだ。 最初の問題から始めよう。 利益目標はいくらか。
スイングトレードの目標設定には、移動平均もしくはチャネルを使うとよい。 長期トレードの利益目標を見積もるとき、長期の支持線や抵抗線を検討すると役立つ。
トレードを仕掛けるのは、流れの速い川に飛び込むようなものだ。 ただし、飛び込む場所を探すのに、川岸を上下に動けばよい。 川岸には、仮想売買に終始して一生を終える人もいるくらいだ。
川岸にいれば安全だ。 水に濡れることもない。MMF口座で現金が金利を稼いでくれる。
トレードで完全に自分でコントロールできるのは、飛び込むタイミングくらいだ。 落ち着かない、不安にかられたからといって、適切な場所を見つける前に飛び込んではならない。
飛び込む位置を探すとき、もうひとつ調べなければならない重要な場所がある。
下流を見なければならないのだ。
水が白く濁っているのは、岩があるところだ。流れが急なところは危険なので、そこに至るに、川から出なければならない。 そのために向こう岸をよく見回して適当な場所を探す必要がある。 』
『 ストップなしの売買システムは、売買システムではない。 ただのジョークだ。 そういうシステムでトレードをするのは、シートベルトなしで自動車レースに臨むようなものだ、 勝こともあるだろう。 だが最初の事故で死ぬこともある。
ストップがあることで、あなたは現実と繋がっている。 収益に関して人は都合のいい考えを持ってしまう。
しかし、ストップをどこに置くかを決めることで、どこまでなら下がり得るかを考えるようになる。 そこでは本質的な問が強いられる。
「潜在的な収益は、リスクに見合っているか?」 保護的ストップは、いかなるトレードにも必要だ。 次の簡単なルールを守ってほしい。
「ストップをどこに置くかはっきりさせずに、トレードをはじめないこと」
これはトレードに入る前に決めなければならない。 リスク・リワード・レシオを測るためには、ストップと利益目標を決める必要がある。 目標のないトレードは、ギャンブルのようなものだ。 』 (第192回)