117. 英語で味わう名言集Ⅱ (ロジャー・パルバース著 2011年3月)
本書のすでに紹介しましたが、さらに25篇ほど紹介したくて、英語で味わう名言集Ⅱとして紹介します。紹介する名言は、日本語だけを読んでも、英語だけを読んでも、さらには、両方読んで、暗記しても決して損することはないものです。
先に30篇ほど紹介しましたので、併せて55篇を紹介することになります。さらには、名言の作者に関する著作を読むこともおすすめします。
『 I have no special talents. I have only passionatly curious.
私には特別な才能があるわけではありません。 ただ好奇心が激しく強いだけです。 アルベルト・アインシュタイン(物理学者)
curious (好奇心が強い)に passionately (情熱的に)をつけるのは、少々変わった使い方です。でも生命や宇宙に対するアインシュタインのあくなき好奇心を表現するには、まさにぴったりと言えるでしょう。
Invention is the same as love. It does involve suffering.
But it also can be so much fun if you let it be. 〔PR〕
発明は恋愛と同じです。苦しいと思えば苦しい。
楽しいと思えばこれほど楽しいことはありません。 (本田宗一郎 ホンダの創業者)
この名言の真髄は、苦しみ(英語では suffering や pain など)と楽しさ(fun, pleasure, enjoymentなど)の対比に表現されます。
確かに、恋愛もそうでしょうね。
〔PR〕: 著者(ジャー・パルバース)の訳の印です。 (本田宗一郎については、本ブログ98.「得手に帆をあげて」で紹介してます。)
Man is but a reed, the most feeble thing in nature; but he is a thinking reed.
人間とは葦にすぎない。自然界で最も弱いものだ。だが、人間は考える葦である。 ブレーズ・パスカル(フランスの数学者・哲学者)
原文では、「考える葦」は un roseau pensant という美しいフランス語です。これはまちがいなく、パスカルのいちばん有名な言葉でしょう。
人間は自然界で最も弱い、とパスカルは言い、いとも簡単に折れたり曲がったりする葦にたとえています。しかし、人間には考える力があります。
パスカルの時代から約400年たった現代、人類が直面している自然破壊から、その考える力は私たちを救ってくれるでしょうか?
Those who say they have no time to learn could not learn even if they had the time. 〔PR〕
学ぶに暇(いとま)あらずと謂(い)ふ者は、暇ありと雖(いえど)も亦(ま)学ぶ能(あた)ざらん。 劉安(前漢の学者)(淮南子(えなんじ)より)
「…のために時間をつくる」というフレーズは、英語にもあります。make time for …です。この名言は、If you can't find the time to learn, make time for it.
(学ぶ時間がないなら、自分で時間を作ろう。)と言いかえることもできるでしょう。いい言葉ですね。時間は本当に作ることができるものです。
It should be an obligation of older, more experienced people to make the young realize what they want out of life. 〔PR〕
「それが私のやりたいことだったんだ」と悟れせる義務が、人生の先輩にはあるはずだ。 (堀場雅夫 堀場製作所創業者)
セリフの形で書かれた内容を地の文で表現し、「先輩」にあたる語句が英語にはなく、どうしても説明的になりました。
ここでの「義務」という言葉の使い方が私は気に入っています。こういう義務感こそ、教育を前進させ続ける原動力ではないでしょうか。
obligation (義務)の形容詞形は obligatory (義務的な)。例えばこんなふうに使います。
It's obligatory to wear seat belts in both the front and back seats of a car.
(車内では、前の座席でも後ろの座席でもシートベルト着用が義務づけられている。) 』
『 Teaching is learning twice over. 〔PR〕
教えることは、2度学ぶことである。 ジョセフ・ジュベール(フランスの思想家)
これは全く真実ですね。私自身、自分が学生たちに教える以上のことを、学生たちから学んでいる気がします。もともとのフランス語にあった deux fois を、私は twice over という英語で表現しています。
単に twice (2度、2倍)としただけでは、意味が十分に伝わらず、中途半端で終ってしまう印象になるため、over で強調しているのです。
My geatest challenge has been to change the mindset of people. Mindsets play strange tricks on us.
We see things the way our minds have instructed our eyes to see.
最も難しいのは、人々の固定概念を変えること。 固定概念は、私たちに錯覚を起こさせる。
自分の頭が命じたようにしか、物事を見られなくなるのだ。 ムハマド・ユヌス(バングラデシュの経済学者)
challenge という言葉が、この名言に力強さを与えています。 be up to the challenge は、何かをする能力がある、という意味です。
動詞 challenge には、「対決する」というニュアンスもあります。 ユヌスは、難題は人々の mindset (固定概念)だと言っています。mindset には、変化を望まない、というネガティブなニュアンスがあります。
ムハマド・ユヌスは、飢きんに苦しむ農村救済のため、少額無担保融資(マイクロクレジット)事業を立上げ、1983年には事業を組織化してグラミン銀行を創設。貧困層の自立に多大な貢献をしたとして、2006年、ノーベル平和賞受賞。
One must not forget that in creating wealth one should feel motivated at all times to replay a debt of gartitude to society and to do one's best for it as a moral obligation. 〔PR〕
富を造るという一面には、常に社会的恩誼(おんぎ)あるを思い、道徳上の義務として社会に尽くすことを忘れてはならぬ。(渋沢栄一)
まず、repay (報いる)に注目してみましょう。ここでは、お金という具体的な借りに対するお返しではなく、感謝の気持ちという抽象的なものです。
次に obligation (義務)の例を見てみましょう。
In Australia, volting is compulsoly. It's the obligation of all citizens to volte. オーストラリアでは、投票は法律で義務化されています。投票はすべての人の義務なのです。 vote : 投票、compulsoly : 義務的な
日本の資本主義の父として知られている渋沢栄一が、自分の得た富に関して社会に返礼することが義務だと考えたのは、すばらしいことですね。
There is no class so pitiably wretched as that which possesses money and nothing else.
金しか持たない階級ほど、情けなく惨めなものはない。 アンドリュー・カーネギー(アメリカの実業家)
これは真実ですね! お金しか持たない人は、確かにお金持ちではありますが、他者とお金を分かち合うのでないかぎり、喜びのない、空っぽの人生を送るのだということに、いつか気づくでしょう。
カーネギーは、工場労働者から世界でも指折りの富豪となり、大金を寄付して、病院や学校など、人々のための施設を建設した人でした。 posses は「所有する、持つ」。物質的なものだけでなく、抽象的なものに対して使います。
pitiably : 哀れに、wretched : 惨めな、class : 階級
In politics if you want anything said, ask a man. If you want anything done, ask a woman.
政治の世界では、言ってほしいことがあれば男性に、実行してほしいことがあれば女性に頼みなさい。 マーガレット・サッチャー(イギリスの元首相)
英国史上ただひとりの女性首相による名言です。男性は言葉を操るのが得意で、女性は実践を得意としている、と言っています。最初の文の said と man が、2番目の文では done と woman になっている以外、まったく同じ構成になっているところに、この名言の妙味があります。 』
『 A woman's guess is much more accurate then a man's certainty.
女性の推測のほうが、男性の確信よりもはるかに正確である。 ラドヤード・キプリング(イギリスの作家)
この名言の真髄は、guess と certainty という2語の対比にあります。 guess (推測)とは、「何かが~ではないか」という仮定のうえにつくられるもの。
一方、 certainty (確信)は、「何かが~だと知っていること」を示します。 woman's intuition (女の勘)とはよく言いますが、 men's intuition という言葉はありません。キプリングはこのことを、味な言い方で強調してみせているのです。
Half the world knows not how the other half lives.
世界の半分は、残りの半分がどんな生活をしているのか知らない。 ジョージ・ハーバード(イギリスの詩人)
この名言によって、 the other half というフレーズは、とても便利な英語の決まり文句になりました。特に、このように動詞の lives とともに使われます。
直訳すると「反対側(の人々)」ですが、自分とは違う階層や経済状況の人々、という意味です。裕福な人にとっては貧しい人、貧しい人にとっては裕福な人、というわけです。
A desk is a dangerous place from which to watch the world.
机というのは、そこから世界を見るには危険な場所である。 ジョン・ル・カレ(イギリスの作家) 〔本ブログの79.推理作家の家を参照ください〕
世界を理解したいなら、書斎の外へ出て世界を見なさい、ということです。文章の技巧にたけたル・カレは、この名言に詩的な雰囲気を与えています。
desk と dangerous は d という音で、which、watch、world は w という音で、それぞれ頭韻になっています。
Even if cultuers, religions and beliefs are different, what's important is saving the lives of people who are sufferring.
Peace that exists solely in your contry is no peace, because every nation's fate is bound up in that of others. [RP]
文化、宗教、信念が異なろうと、大切なのは苦しむ人々の命を救うこと。自分の国だけの平和はありえない。世界はつながっているのだから。 緒方貞子(元国連難民高等弁務官)
緒方貞子さんは、世界中の人々のために力を尽くし、彼らを助けることに人生をささげてきた女性。そんな彼女が語った美しい言葉です。
まずは religion (宗教)という語に注目しましょう。日本人が海外へ行けば、よくこんな質問をされます。 What's your religion? あなたの宗教は何ですか? Are you religious? 信仰心は厚いですか?
もしそれほど宗教を信じていない場合は、 I'm not particularly religious. と言えばいいでしょう。また、もとの日本語にある「つながる」は、この場合、私たちはお互いに結びついている、という意味。私はこれを bound up in と表現してみました。
I did not think; I investigated.
私は考えなかった。ただ事実を研究した。 (ヴィルレルム・レントゲン ドイツの物理学者)
レントゲン写真を発見したとき、本当にレントゲンは何も考えなかったのでしょうか……。それは怪しいところですが、ここでは、科学における investigation (調査、探求)の重要性を強調するために、そう言っています。 』
『 Only two things are infinite, the universe and human stupidity, and I'm not sure about the former.
無限なものはふたつしかない。宇宙と人間の愚かさだ。そのうち、宇宙については、私はわからない。 (アルベルト・アインシュタイン)
ウイットにもノーベル賞があればいいのに! そしたら、アインシュタインは文句なく受賞していたでしょうね。アインシュタインはまじめな文章においても、戦争を繰り返す人間の stupidity (愚かさ)について何度も書いています。
相対性理論を編み出したアインシュタインにとって、この世で絶対的なものは人間の愚かさだけだったようですね。
I walk slowly, but I never walk backward.
私の歩みは遅いが、歩んだ道を引き返すことはない。 (エイブラハム・リンカーン アメリカ16代大統領)
つまり、政治とはゆっくりと前進していくものだ、ということです。政治にはたくさんの人や組織の利益が絡み合います。誰かを踏みつけたり、置き去りにしたりすることなく、前進し続けることがリンカーンの目標でした。
backward に含まれる -ward は、「~のほうへ」という時間または空間的な動きを表します。toword (~に向かって)、forward (前方へ)、upward (上へ)、downward (下へ)、afterward (あとで)など、さまざまです。
You will never find time for anything. If you want time, you must make it.
何をするにも、時間は見つけるものではない。必要なら作るものだ。 (チャールズ・バクストン イギリスの政治家)
find (見つける)と make (作る)の対比が効いています。 find time と make time は、どちらもよく使われるフレーズです。
Things that pass …. A sailboat in the wind. A person's time on earth. Spring, summer, autumn, winter. [PR]
ただ過ぎに過ぐるもの帆かけたる舟。 人の齢。 春、夏、秋、冬。 (清少納言 枕草子より)
この上なく美しい名言ですね。根底にある仏教的な感覚が強く感じられる言葉です。私は、もとの名言にはないフレーズを少し足しています。
in the wind (風の中の)は、海を渡る帆船の動きを表すため。また、「齢」は「歳月」、つまり、この世で人が過ごしてきた時間のことでしょう。その「この世で」という感覚を表現するために、on earth (地上で)というフレーズを加えています。
The right road for preparing food is found in the bringing out of natural flavors. [RP]
料理の本道は天然の味を生かすところにある。 (獅子文六 小説家・劇作家)
なかなか英訳しにくい名言です。この場合の「料理」は food (食べ物)ではなく、食事を作る過程のことでしょうから、preparing food としました。
「生かす」は英語ではたくさんの方法で表現できますが、ここでは bring out というフレーズを選んでいます、これは「引き出す、発揮させる」と言う意味で、bring to life と似たニュアンスです。 』
『 Not to display, but to suggest, is the secret of infinity.
あらわに見せるのではなく、ほのめかす、それが、無限なるものの秘訣である。 (岡倉天心 美術評論家)
芸術においては示唆に富んだ(suggestive)ニュアンスこそが大切だ、というのがこの名言の趣旨です。岡倉天心はアメリカに渡り、かの地に日本文化の奥深いメッセージを伝えた人でした。
The main thing is to be moved, to love, to hope, to tremble, to live,
to be a human being before you are an artist. [RP]
肝心なのは感動すること、愛すること、希望を持つこと、打ち震えること、生きること。 芸術家である以前に、人間であることだ。
オーギュスト・ロダン(フランスの彫刻家)
フランスで最も偉大な彫刻家、ロダンの名言です。これは深淵な言葉ですね。
Style is the physiognomy of the mind. It is more accurate than the physiognomy of the body. [RP]
文体とは、人の心が外に現れたものである。その人の外見よりも正確にその人を映し出している。 ショーペンハウエル(ドイツの哲学者)
作家は己の精神を映し出す独自の文体(style)を持つべきだ、ということ。 physiogomy : 人相、外観、accurate : 間違いのない、正確な
If you want others to be happy, practice compassion. if you want to be happy, practice compassion.
もし他者を幸せにしたいのなら、慈悲の心を持ちなさい。もし自分が幸せになりたいのなら、慈悲の心を持ちなさい。 (ダライ・ラマ14世)
この美しい名言のキーワードは compassion (慈悲、あわれみ、思いやり)です。この単語は2つの要素から成り立っています。com- はラテン語で with (~と共に)の意味。
passion はラテン語で suffering (苦しみ)を意味する語から来た言葉です。つまり compssion とは、不幸な境遇にいる人々に同情心を持つだけでなく、彼らと「苦しみを共にする」という行為も表しているのです。
Believe, when you are most unhappy, that there is something for you to do in the world.
So long as you can sweeten another's pain, life is not in vain.
不幸のどん底にいるときこそ、信じてほしい。世の中にはあなたにできることがある、ということを。他人の苦痛を和らげることができるならば、人生は無駄ではないのです。 (ヘレン・ケラー)
ヘレン・ケラーは、とても深い真実を教えてくれています。自分の人生を意味あるものにしなくてはならない、無駄に生きてはならないのだと。 in vain は「無駄に、かいなく」といった意味で、何かをしても有意義な成果が出せなかった、という場合に使います。 』 (第116回)