93. 英語で話すヒント (小松達也著 2012年1月)
また英語に関する本ですので、読者の方々も、私のような今もって英語の劣等生に、英語について言われる筋合いはないと言うのではと思いますので、私がまた、なぜ英語なのかを、お話しします。
第一の理由は、英語の全体像を自分なりに捉えたい、自分は象の鼻を触って、これが象か、耳を触ってこれが象か、脚を触って、これが象かと思っているのではないか。
英語とは、十数個の基本動詞で成り立っているとか、英語は、語幹となるラテン語を数百語をマスターすれば、十分であるとか、英語は、a と the の使い方をマスターすれば、良いとか、英語は Be 動詞であるとか、英語は前置詞であるとか、英語は、主語と動詞を捉えれば十分であるとか。
英語の発音はフォニックス(Phonics)で、完璧とか、英語は自動詞と他動詞であるとか、英語は、that(関係代名詞)の使い方をマスターすれば、良いとか、英語は、NO をはっきり言えれば、いいとか、様々に言われますが、一体、全体像は、どのようなものなのでしょうか。
しかし、じゃあ日本語の全体像は、どのようなものかと聞かれると、心もとなく、さらに世界の言語の全体像となると、言語の数が6千とも3千ともいわれており、多くの言語が消滅しつつあり、全体像となると言語学者でも、心もとないものです。
第二の理由は、なぜ私の英語はいっこうに進歩しないのであろうか。私の努力も、頭も、不足していることは認めるけれども、学校での教え方と教科書や先生にも、何か納得できないものを感じます。
日本人が第二外国語として、英語を学ぶための幾通りかの、マイルドストーンを用意すべきではないか。(約半数の者がその道筋をたどれば、ある地点まで到達できるというような。)
第三の理由は、私の目標は、英語の名著を、ある程度の速度で、おおよその意味を捉えて、楽しく読めるレベルまで、行きたい。 このように感じているのは、私一人でしょうか? では、通訳者が教える上達法を一緒に学びましょう。
『 英語の学習法にはいろいろな方法があります。英文を読むことと文法の学習を中心とした「訳読法(Grammer-Translation Method)」、あるいは学ぶ対象である英語だけを使ってスピーキングに重点を置く「ディレクト・メソッド(Direct Method, 直接教授法)」などです。
本書で私がおすすめしようとするのは、通訳訓練法を活用した英語の学習法です。通訳はもちろん言葉と密接に結びついていますが、通訳の技術や通訳者を養成する方法を言葉の学習に応用しようというアプローチは、世界でも新しいものです。
そこで、なぜ通訳訓練法が英語学習に役に立つのか、特に日本人の学習者にとって、なぜこの方法が適切だと考えるかについて、お話ししたいと思います。
通訳の作業を簡単に要約すれば、「相手の言うことを正しく理解して、その内容を聞く人に分かりやすく表現する」ことです。これは通訳だけではなく、全てのコミュニケーション行為に共通する原理です。
英語の学習という見地からも、「理解する力」と「表現する力」を向上させることは学習の目的そのものでもある、ということができるでしょう。
この場合の「表現する」というのは、ある言葉を別の言葉に置き換えることではありません。理解した内容を自分の言葉で表現することです。
ことに単語を一つ一つ訳していたのでは、総合的な言語力の向上にはつながりません。私たちが話す時には、必ず考えや意味が先に頭にあります。そしてそれを言葉として表現するのです。
通訳も原則としてこれと同じ行為でなければなりません。通訳と言えども、人間の自然な言語活動の一環なのですから。ただ通訳の場合は、「他の言語で」が入ることです。
通常の言葉によるコミュニケーションでは、理解と表現は同じ言葉で行われますが、通訳ではこの2つが違う言葉で行われます。これが通訳という作業の特色であり、通訳が作り出す全ての言語的、技術的問題の根源でもあります。 』
『 詩の翻訳に関して、ロシアの詩人エフトゥシェンコ(Yevtushenko)が言ったとされる次のような句が知られています。
Translation is like a woman. If it is beautiful, it is not faithful. If it is fatithful, it is most certainly not beautiful. (翻訳は女性のようなものだ。美しければ忠実ではない。忠実なら、おそらく美しくない)
この通訳者の英語表現の工夫は、一般の人々にとっても役に立つと思います。コミュニケーションで大切なのは、何と言っても「意味」、言いかえれば伝えたいと思っているメッセージです。
何を言いたいかをはっきりさせ、それを無理のない簡単なセンテンスで表現することが第一歩です。流暢で美しい表現はさらに腕を磨いてから、と考えた方が賢明でしょう。
通訳技術を応用した英語学習では、このように聞いたことのポイントを正確に捉えた上で、英語らしい自然な構文で分かりやすく表現することを目指します。
通訳の特徴は、「話し言葉」を対象としているということです。話し言葉は「一時的(temporary)」だということです。この特色は、通訳研究では「消失性(evanescence)」と呼ばれ、通訳の技術を考える上で重要な要素です。
もう一つの話し言葉の特徴は、「自発的(spontaneous)」だということです。自発的というのは話している人の考えが自然に言葉に表れるという意味です。
英語を聞いて理解しようとする場合、一般の学習者はどうしても一つ一つの単語にこだわります。長年通訳を教えていて、これは全ての初心者に共通する問題点です。
これを克服するためには、意味に集中するという意識的な努力を一定期間続けることが必要です。その過程では、この話言葉の「消失性」と「自発性」を意識することが役に立ちます。 』
『 英語の教育法から見ても、通訳技術の英語学習への応用はこれまでどちらかと言えば継子扱いでした。というのは通訳と英語学習というとどうしても伝統的な「訳読法」と結びつけて考えられてしまうからです。
訳読法は19世紀の終わり頃まで、ヨーロッパで支配的な外国語の教授法でした。この方法はギリシャ語やラテン語といった古典言語の学習から始まったと言われていますが、文法の知識と母国語による解釈を重視し、話言葉より書き言葉に重点が置かれてました。
この流れに対する反動として、19世紀の終わり頃、外国語教育についていわゆる「改革運動」が起こり、書き言葉ではなく話し言葉と話すこと(speaking)を中心とする新しいアプローチが提案されました。これが先ほども少し触れた「ディレクト・メソッド(Direct Method, 直接法)」です。
ディレクト・メソッドの特色として次の3つを挙げることができます。
① 読むこと、書くことより話すことを第一とし、特に発音を重視する。
② 学習は対象言語(例えば英語)のみによって行ない、母国語の使用は極力避ける。
③ 文法は実際のスピーチ例から帰納的に教える。
この方法は、特にアメリカを中心に採用されて、急速に主流となりました。その中で最もよく知られているのが、1878年に設立された「ベルリッツ・スクール」です。
アメリカに移民した多くの人たちやヨーロッパでビジネスをする人たちなど、短期間に英語やその国の主要言語を身につける必要に迫られていた人々に、この方法は歓迎されました。 』
『 通訳の英語学習への応用はこれまで効果的でない、むしろ弊害があると考えられてきました。これは通訳に関する誤解に基づいています。通訳というとどうしても「言葉を訳す」と考えられがちです。いわゆる「逐語訳(word-for-word translation)」です。
逐語訳とは、例えば日本語を英語に訳す場合、日本語の文章構造や使われた日本語の表現をそのまま英語に移そうとするやり方を指します。私が多くの通訳志望者を教えた経験でも、初心者にはこの傾向が強く見られます。
しかし、言葉を一つ一つ英語に訳そうとしていたのでは、とても自然ないい英語にはなりません。日本語と英語のように構造が大きく違う言語の場合は特にそうです。
これは通訳では最もやってはいけないことの一つなのです。通訳の訓練はこの傾向からいかに脱するか、ということに尽きると言ってもいいくらいです。
通訳では話し手が言わんとしたことの意味を捉えて、それを相手にわかりやすい形で表現します。分かりやすいように話すためには、自分の言葉では話さなければなりません。「自分の言葉で(in your own words)」ということが大切です。
私は訓練生に何度も「原文にこだわるな」と言います。「意味を捉えてそれを自分の言葉で話す」――これが通訳の要諦なのです。私たちが母国語で話す場合は、まず頭に話したいアイデアを浮かべ、それからそれを言葉にします。
そのアイデアがはっきりしていてまとまっているほど、話は明瞭になります。そんな時、どういう単語を使おうか、何を主語に何を目的語にしようかということはほとんど考えません。
このように頭にある考えを優先して自由に話すからこそ、分かりやすい表現になるのです、原文に捉われた「逐語訳」からは、いい通訳はうまれません。 』
『 もう一つの通訳の英語学習への応用に関する誤解は、通訳ではいちいち頭で考えるから時間がかかって自由に話せるようにならない、英語で話す時は英語で考えるべきだというものです。
しかし日本語を英語に同時通訳する時、私たちは日本語を聞いてそれを直ちに英語で表現します。日本語をアイデアのレベルで捉え、時間をかけずに英語で表現するのです。英語で考えるという意識はありません。
同時通訳には確かにかなりの訓練が必要であり、誰もができることではありませんが、言葉の働きとしては同じだと考えられます。こうした同時通訳の過程は、通訳が外国語教育に役立つ一つの裏付けとして、応用言語学者の間でも最近注目されつつあります。
英語を話す時はできるだけ日本語を忘れ、英語で考えて英語で話すべきだとよく言われます。先に述べたディレクト・メソッドもこの考えに基づいています。
しかし私は英語を話そうとする時、母国語である日本語を意識することは避けられないことだし、決して悪いことではないと思います。むしろ日本語の中で暮らす私たちにとって、まず日本語が頭に浮かぶのは自然なことではないでしょうか。
不自由な英語で考え、それから英語で話そうとすると、かえって時間がかかるだけでなく思ったことが言えなくなります。これは初級者に英語のディスカッションをさせてみるとよく分かります。乏しい英語力が思考力そのものを縛ってしまうのです。
まず日本語で考え、その考えを整理してから英語にしようとした方がいい結果が出ます。私も英語のクラスでやってみましたが、まず日本語でディスカッションさせ、その後で同じテーマを英語でやらせます。
話す前に考えをまとめることが大切です。考えをまとめる過程は日本語の方が自然です。それから英語で表現しようとした方がスムーズに話せるのです。 』
『 また認知言語学では母国語と第2言語(あるいは外国語)の違いを意識することは、第2言語を習得する上でしばしば有効だと言われています。ボキャブラリーの習得においては特にそうです。
日本語との違いに注目することによって、対応する英語の表現を見つける過程により注意がむけられ、その結果として記憶力が高まり忘れにくくなるのです。
日本語に直ちに英語にしにくい表現が数多くあります。これらを英語にするには日本語と英語の表現の仕方の違いを知ることがいい結果をもたらします。そしてその上で覚えた英語表現はなかなかわすれません。
このことは言語習得では最も中心的な要素だと言われる文章構造(syntax)の習得にも当てはまります。通訳を応用した英語学習法では、英語と日本語の構文の違いに注目して、自然な英語のセンテンスを作ることを目指します。
主語がしばしば省略され、動詞や否定が後にくる日本語的な構文から、主語をはっきりさせ動詞、目的語へとつないでいく英語らしい文章の作り方です。
第2言語習得研究では1990年代の中頃から、「気づき(noticing あるいは attention)」の大切さが指摘されています。「意識」あるいは「注目」とも言われています。
特に文章構造に対する注目は「言語形式の焦点化(focus-on-from)」と呼ばれ、今や文法学習の中で最も効果的なアプローチとして注目されています。
このように通訳を応用した英語学習は近年の第2言語習得研究の進展に照らしても、学問的に矛盾しないものだと言うことができます。 』
『 通訳を応用した英語学習法が望ましい学習法であるもう1つの理由があります。それは世界で進行するグローバリゼーションとの関連です。グローバリゼーションは経済を中心に広まりつつありますが、それは決して自国の文化を軽視するものではありません。
EUでは、言語多元主義(plurilingualism)が提唱されています。これは自国の言語や文化を土台とした上で他国の言語・文化を理解し、お互いによりよくコミュニケーションできるようにしようという試みです。
アジアでもグローバリゼーションは自国の文化への意識を強める結果をもたらしています。確かに英語の使用は広まりつつありますが、それは自国の言語・文化を大切にする動きと共存しているのです。
私は国際的に活躍している日本のビジネスマンや、法律家、学者といった人たちを多く知っています。彼らは決していわゆる「英語屋」ではありません。英語はもちろん上手ですが、それ以上に正しい日本語を話し日本人として優れた教養を持った人たちです。
それぞれの専門分野での知識や能力はいうまでもありません。だからこそ彼らは世界で活躍できるのだと思います。これからの日本人に必要とされる英語力は、日本の文化に対する誇りと深い理解を伴ったものであることが望ましいのではないでしょうか。
ビジネスの場におけるコミュニケーションでも、自分の会社のことをよく知り、日本のマーケットのことをよく知っていることが必要でしょう。また日本語と英語の違いをよく知っていることは、その人の英語力をより幅の広い、より創造的なものにします。
この点でも日本人の英語力を高いレベルに上げ、より時代の要請に合ったものにするために、通訳技術を活用した英語学習法は有効なアプローチだと信じます。 』
『 実践的な英語力でおそらく一番大切なのは、相手が何を言っているかを理解することでしょう。話すことももちろん大切ですが、意志を表現することは例えばジェスチャーでも、あるいは”No!”とか”Water!”のように知っている単語を一つ言うだけでもある程度は通じさせることがせきます。
しかし相手の言っていることが分からなければ、コミュニケーションはそれ以上進みません。コミュニケーションは聞くことから始まります。英語の話を聞いて理解する過程は、2つに分けて考えることができます。
最初の過程は、英語による音声を聞いて、話し手が言ったことを聞き取ることです。一般によく「ヒアリング」と言われる過程です。ネイティブ・スピーカーの話す英語は慣れない耳にはとても速く聞こえ、”I am going to~” が ”I'm gonna~”のように縮まりますし、話し手の癖などもあって、生の英語を聞き取るのとは容易ではありません。
こうして英語の音声の中から、いくつかの単語を聞き取り、それによって話し手が伝えようとしていることが分かったら、一応「聞き取り」の作業は完了したとみなされます。
先ほど「ヒアリング(hearing)」という用語を使いました。これはもう日本語と言っていいでしょう。英語では「リスニング・コンプリヘンション(listening comprehension)」というのが普通です。
ここで「聞く」ということについて、hearing と listening という2つの単語が使われているのが分かります。この2つはどう違うのでしょう。
hear は「聞く」というか「聞こえてくる」というのが第一義で、必ずしも聞こうと思わなくても耳に入ってくることを指します。これに対して listen は「意識して聞く」というか「耳を傾ける」というのが近いでしょう。
したがってこの2つの違いは「意識」あるいは「注意力(attention)」の度合いの違いということになります。hear はあまり意識して聞こうとはしていない。listen は明らかに意識して聞き取ろうとしている、という違いです。
それでは、ここで耳に入ってくるかなり早い音の流れから、単語を聞き取る上でのヒントをいくつか挙げてみましょう。
① まず最初に注意すべきなのが、ストレス(stress、強勢)です。英語では「ストレスでリズムをとる言語(stresstimed language)」と言われ、ストレスによる強弱のリズムが意味を伝える上で重要な役目を果たします。
そして英語の単語の90%は最初のシラブルにストレスが置かれます。したがってストレスに注意していれば、それが多くの場合単語の始まりだということが分かります。
② もう一つはポーズ(pause、切れ目)です。英語のイントネーションをよく聞いていると、ところどころにポーズが置かれます。普通はフレーズ(phrase、句)やクローズ(clause、節)の切れ目にポーズが置かれ、これが息を継ぐポーズであるとともに意味の切れ目でもあります。
③ 次は単語の最初の子音(あるいは母音)です。例えば[g]で始まる単語はたくさんありますが、前後関係によっていくつかに絞られます。政治についての話ならgovernment、経済についてならeconomic growth など、話の中に登場しそうな意味を考えながら耳を傾けると、だんだん聞き取れるようになります。
このようにいくつかのヒントによって音声の流れの中から単語を識別することは、リスニングにおける理解の最初のステップとして大切な作業です。しかし、話し手が伝えようとした意味をつかむために、全ての単語を聞き取る必要はありません。
上に挙げたようにいくつか聞き取りにくい要素のある話し言葉では、耳に入る全ての単語を聞き分けることはネイティブ・スピーカーでも無理なのです。まして外国語話者の私たちには聞き落としがあって当然です。
事実、「全ての単語を聞き取ろうとする」というのが第2外国語での聞き取りにおける最大の問題点なのです。流れてくる音声の中から2つでも3つでも単語が聞き取れれば、話し手が発した音声以外のいろんな情報を活用してかなりのことを類推できるからです。
聞き取れない単語があったからといってがっかりすることなく、聞き取れた単語を中心に前後関係から何を言わんとしているかを類推する、という態度が大切です。 』
『 理解の後半では、「意味の把握」が課題だと申しました。この「意味」は通訳研究では、しばしば「センス」と呼ばれます。この「センス」はもともとはフランス語の”sens”で、英語では”meaning”(意味)に当たります。
セレスコヴィッチは通訳とは理解そのものであり、言葉を捨てて「センス」を抽出することだと強調し、「数百、数千の単語(word)の中から意味を抽出しようとする時、言葉は助けになるよりむしろ障害だ」と言ってます。
言葉に迷わされることなく思いきって、意味というか話し手が伝えようとしているメッセージは何かに集中するのです。そのためには話し手が、どういう立場の人か、話のテーマは何か、誰に向かって話しているのか、などの知識は必要です。
セレスコヴィッチと並ぶ通訳研究の第一人者でパリ大学教授のダニエル・ジル(Daniel Gile)が来日した時、通訳について次のように言ってます。
There is one point I'd like to stress, namely that interpretation is intellectual work, and from the intellectual point of view, I think that an interpreter should be a rocket-driven Sherllock Holmes.
(強調したいことが1つあります。それは、通訳は知的な仕事だということです。そして知的という面から言えば、通訳者はロケットのように回転の速いシャーロック・ホームズでなければなりません)
話の中身をよりよく理解するための次のポイントは、話の中で重要な点とそれほど重要でない点を聞き分けることです。英語の場合、単語の次の意味の単位がセンテンス、そしてセンテンスの次に長い単位がパラグラフ(paragraph)です。
センテンスをいくつかつないでパラグラフを作る。そしてパラグラフを重ねて1つのスピーチ(speech)になる、というのが英語での論理的な話の進め方です。
事前のスピーカーとの打ち合わせの際、どのくらいの長さで切ったらいいか、と聞かれることがあります。その時は、”A thought unit, about a paragraph length.”と答えます。
a thought unit というのは1つの考えを表す長さで、これがだいたいパラグラフに相当します。それでは英語のパラグラフの例として、アメリカ人の英語教育専門家、故バーナード・チョシード(Bernaed Choseed)との対話で、「日本人はシャイで話すのが苦手だけど、どうしたらいいか」と聞いたことに対する答えです。
I know that they are not really shy in Japanese. Obviously Japanese talk a lot. They express themselves. Japanese are not affraid to get up on a stage and sing; they are not afraid to get up at a bar and pick up a microphone and sing.
I mean there's a lot of talk going on. I sit in the subway every day and I listen to it. But when the foreign language comes in, then suddenly they freeze.
(日本人は日本語では必ずしもシャイではありません。明らかに日本人はよく話します。自己表現します。日本人はステージに上がって歌うことを恐れません。臆さずにバーで立ち上がりマイクをとって歌います。
ともかくよく話すのです。私は毎日地下鉄で座って日本人が話すのを聞いています。ところが外国語になると、突然彼らは固まってしまうのです)
このパラグラフで彼が伝えようとしているポイントは「日本人はシャイでない。ただ外国語を話すとなると何も言えなくなってしまうのだ」ということです。
メイン・アイデアは普通センテンスの形で表されます。このセンテンスを「マスター・センテンス(master sentence)」と言います。上の例では、”they (Japanese) are not really shy in Japanese”がそれに当たります。
英語ではマスター・センテンスは通常(約80%)パラグラフの冒頭にきます。英文を読むあるいは聞く際にはパラグラフの最初の部分に気をつけろ、というのはこのためです。
英語の速読法のテクニックの1つに、パラグラフの最初のセンテンスだけ読んで、後はとばすとというのがあります。それでも本や論文の大意はわかるのです。速読の達人と言われたケネディ大統領はこの方法で本を読んでいたそうです。 』 (第92回)