多元的全体食のすすめ(十五) 食べ物研究家 五十嵐玲二 談
15. 世界の子供たちが水と食べ物を得るために
世界の子供たちが安全な水と食べ物を十分に確保することは、現在でも十分ではありませんが、未来はもっと厳しいという予測の信憑性は高いと考えます。世界の子供たちの体と心の健康を保つためには、安全な水と食べ物は不可欠です。
(1) 世界の人口の伸び率を緩やかなものにする。方法は難しいですが、衛生面の確保と教育で生活を向上させることによって、可能だと考えます。
(2) 地球の肺である熱帯雨林とサンゴ礁とマングローブの森を守る。生物多様性の宝庫であり、炭酸ガスを酸素に変え、木の葉が水を蒸発させて、自動車のラジエーターの役割も果たして、地球を冷却してます。
(3) 地球の血管である河(川)を守る。川は単なる排水管ではありません。河は、魚類、両生類、鳥類、爬虫類、哺乳類が生息し、彼らは、河を移動してます。(多くの魚類は、ある時期には、川を遡ります)。
ダムは、川を分断するため、本来好ましくはありません。川が森と海を繋いで、魚と鳥でミネラル分を森に運びます。豊かな川が、豊かな森と豊かな海をつくっているのです。灌漑農業は塩害に陥る危険が大きい。
(4) 砂漠化を避ける。砂漠化を避けるには、過放牧を避け、森林を所々につくって、放牧地と森林が混在していることが望ましい。農地も森林と農地が混在していることが望ましい。
森林は、水源涵養林としての機能も果たします。水源涵養林は、子どもたちの未来のへ水を届ける唯一の方法である。
(5) モンサント社の除草剤ラウンドアップとその耐性遺伝子組み換え種子は、二三十年後には枯葉剤なので、何も生えないばかりか、枯葉剤の後遺症に苦しむことになります。少なくとも遺伝子組換え穀物には、その表示は最低限必要です。
(6) 地下水は有限な資源なので、百年先を考えて計画的に使用する。地下水の汲み上げによって、地下水位が下がり、更には塩害が発生し、紀元前3千年前のメソポタミア文明の轍を踏むことになります。世界の食料の40%は灌漑農業で生産されてます。
(7) アグロフォレストリーの推進 (南米トメアスのアグロフォレストリーの父 坂口陞(のぼる))
トメアスのアグロフォレストリーはコショウの栽培からはじまります。 コショウは病気に弱いので、 10年以内に枯れることを見越して間に野菜や果樹や樹木の苗を植えていきます。(一年目)
コショウが枯れ、果樹が実をつけます。最も作物の種類が多く生産量が多い時期で、また最も二酸化炭素の吸収量が多いときとされています。(5~10年目)
高木は葉を生い茂らせ、低木は高木の下で育ち、共存した自然な生態系が完成します。 『森』ができあがると果樹の生産量は落ち、後は材木として価値を得るまで育てられます。(20年以降)
(8) 深海水を利用して、魚の養殖
深海水をくみ上げて、ミネラル分の豊富な海水に太陽があたり、プランクトンが大発生する、人造湖をつくる。淡水と海水が混じり合う人造湖で養殖を行う。ただし採算の計算を厳密に行う必要がある。(膨大な初期投資が必要で、様々な試験が必要です)
(9) 砂漠で太陽光の集光発電を行って、海水の淡水化を行う。これは膨大な初期投資を必要としますが、例えば、サハラ砂漠で、発電を行い、海岸近くで海水の淡水化を行って、農業と植林を行う。(これも、様々な試験が必要です)(サハラでの発電事業は様々なプロジェクトがある)
(10) キノコは、菌糸が木材を食べ物に変えるすばらしい技術です。森と食料を同時に手に入れる方法でもあります。シメジやナメコのみそ汁を世界に普及させる。
(11) 蜂の子、イナゴなどの昆虫食の素材を拡大する。昆虫は栄養バランスに優れ、鳥類の主要な食糧である。その種類も多く多くの可能性は存在する。
(12) 肉を減らして、穀物(精製の度合いを低くする)を多く食べる。牛肉1kgを得るためには、穀物を11~14kg必要です。豚肉を1kgを得るためには、穀物を7~9kg必要です。鶏肉1kgを得るためには、穀物4~5kg必要です。
(13) 地球温暖化を抑え、海面上昇を押さる。海面上昇すると、河口のデルタ地域の農地が失われ、海洋大循環も止まる可能性があります。私たちは、使用するエネルギーを少し節約し、地球のラジエーターでもある熱帯雨林を守り、私たちのまわりに一本でも(小さくても)木を植えましょう。
(14) 発酵食品は、食料を消化しやすく、栄養価を高め、食べ物を美味しくします。この発酵食品をさらに発展させると同時に、世界に普及させることも、重要です。
発酵食品とは、お酒類、紅茶等、酢、醤油、味噌、納豆、魚醤、塩辛、かつお節、飯寿司、ぬか漬け、キムチ、チーズ、ヨーグルトなどを指します。
(15) キチン・ガーデン型農業の進め。
キッチン(kitchen : 台所)、ガーデン(garden : 庭)のことで、裏庭菜園で、台所で必要なものを裏庭に植えて置くと、何も手を掛けずに毎年、収穫できるかたちです。手間のかからない、小樹木の果樹や多年草の野菜や山菜です。
南の国では、バナナ、サトウキビ、ヤムイモ、パンノキ、タロイモなど様々に構成され、小さな裏庭でも、流通経路をすべて省いて、直接胃袋ですので、極めて省エネで、子供たちがどのように植物が成長し、どこが食べ物になるか、収穫の歓びと感謝することを学びます。
さらには、全体食の大切さを学び、健全な体と健やかな心をかたちづくります。
(16) 農地のサステイナビリティ(sustainability : 持続できること)を考える。
農地は、意外に持続性のないものです。特に単一作物を毎年収穫すると、様々な問題が発生します。ここで言う持続性とは、少なくても数百年の単位です。東南アジアの水田による稲作農業は、数百年の時を経てもびくともしません。
ナイル川河口のエジプトのデルタ地帯の農業は、ナイルの豊かな洪水によって、スフインクスの時代から、クレオパトラの時代を経ても数千年の間、豊かな収穫を保持してました。
現代では、アスワン・ハイ・ダムが建設され、1970年代から、灌漑による洪水のない農業になりましたが、現在では、アラブの春どころか、深刻な塩害に悩まされています。この場合の塩害の主成分は、地中に存在した炭酸ナトリウムが、地表に析出する現象です。
さらには、土壌の使い捨て農業、除草薬、殺虫剤の集積など、現代科学技術がさらに問題を深刻にしてます。
(17) 農業と料理と医療と運動と仕事と学問を関連させながら、相乗効果を引き出します。これらは家庭に於いても個人に於いても、それぞれが別々に存在しているものでは、ありません。相互に関係しながら、家庭や人を形成してます。
(18) 桃源郷となるモデルを造る。蜜源植物と蜜蜂と学校と植物園と食品加工場とレストラン、里山、農場、水源涵養林などからなる村をつくる。この桃源郷のプランに必要とする資金を株券として、出資してもらい、出資者は、季節ごとに、一泊二日で招待される。 (第15回)
もう一度、目次を記載します。
多元的全体食のすすめ
1. 多元的全体食の動機
2. 食べ物と栽培作物
3. 人類の雑食性の獲得と地理的拡散
4. 食べるということ
5. 食べることの精神的意味
6. 魚と貝と海藻と全体食について
7. 日本人としての食事の基本形とは
8. 食べること、学ぶこと
9. 好き嫌いと味覚の偏向
10. 人はどのように形成されるか
11. 植物分類による野菜、果物、穀物について
12. 調理器具と調味料について
13. 食物の危険性について
14. 理想の食べ物
15. 世界の子供たちが水と食べ物を得るために 以上です。